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「カルト的人気」「愛すべきクソゲー」は本当か? 疑問だらけのレトロゲーム記事

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
※写真はイメージ(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

ゲームメディア界隈で長年働いている筆者は、ゲーム系のニュースサイトに片っ端からアクセスし、気になった記事をチェックすることを久しく日課としている。

最近は、「巣ごもり需要」でメーカーの業績が好調、あるいは年末に新ハードが発売されるといった明るい話題をよく目にする一方で、筆者がとりわけ気になっていることがある。それは、ゲームの歴史や作品内容の解説が間違いだらけの記事が目立つことだ。なかには失礼ながら、よくこれで商業メディアに載せられたものだと、思わず目を覆いたくなるような記事も散見される。

以下、いくつか例を挙げて説明する。

おかしな記事が立て続けに公開される不思議

ここ最近、最も目に付くようになったのが「今日は名作レトロゲーム『●●』の発売30周年」とか、「今日は『●●』シリーズの生誕25周年」といった、レトロゲームの記念日をネタにした記事だ。Yahoo!ニュースのエンタメコーナーを見ると、いくつもの提携サイトが「今日は何の日ネタ」をひんぱんに発信しているが、いざ読んでみると間違い、あるいは疑問に思う点があちこちに見受けられる。

例えば、「名作の皮をかぶった鬼畜ゲー!? ファミコン版『ドルアーガの塔』に白旗を上げた夏」(「ふたまん+」:8月5日掲載)の記事では、「宝箱自体が存在しないフロアや、宝箱の中身が主人公に悪影響を及ぼすモノまである始末」と書いてあるのに、その直後には「攻略本には全60階分の宝箱の出現条件が書いてありました」という矛盾した説明が出てくる。

いったいどっちが正しい情報なのか、これではわからない(※実際は「宝箱自体が存在しないフロアがある」という記述のほうが正しい)。また、ライター(※署名は「ふたまん編集部」名義)は全面クリアに成功しているのに、タイトルに「白旗を上げた」、つまり「降参した」と書いてあるのもおかしいように思う。

「ふたまん+」の記事(Yahoo!ニュース配信記事の画面キャプチャ。以下同)
「ふたまん+」の記事(Yahoo!ニュース配信記事の画面キャプチャ。以下同)

読者参加型の企画記事でも、その意図や内容に疑問符が付くものを立て続けに目にした。「愛すべきクソゲーを決めよう! クソゲーグランプリ『ファミコン編』【解説付き】」(「ねとらぼ」:7月26日掲載)がそのひとつだ。

本記事には、「それでは、ファミコンのクソゲーだと評判のゲームを紹介していきます」とサラッと書いているが、幾多のゲームのなかからどんな基準で「愛すべきクソゲー」と認定したのだろうか。「ねとらぼ調査隊」という署名は入っているが、いったい誰が、どのような意図を持ってタイトルをセレクトしたのか、読んでも全然わからない。

各タイトルの内容解説よりも、まず最初に「愛すべきクソゲー」の定義や選定基準を明記すべきだろう。しかも、一部のタイトルの解説文が、ただ茶化しているだけとしか思えないものもあり、これのどこが「愛すべき」ものを投票する企画なのか、理解に苦しむ。今から30年以上も前に発売された、古いゲームの汚点をわざわざ掘り起こすだけの企画を実施するのは、正直いかがなものか。

同じく、「ゲーム音楽作曲家、あなたのイチオシは?」(「ねとらぼ」:7月31日掲載)という企画記事でも、編集部がセレクトした作曲家の選出基準がまるで示されていない。しかも、スクウェア・エニックスなどが発売した有名RPGの作曲者ばかりが選ばれており、同社の作品ファンのスタッフが、自分のお気に入りの作曲者が上位にランクインするよう意図したようにも感じられ、公平性がまるでない。

このような企画を実施するのであれば、例えば元ナムコの大野木宜幸氏や、セガの川口博史氏を加えるなど、メーカーごとにバランスよく選出するとか、あるいは歴代のゲームミュージックサントラのセールス順に選ぶなどの方法で、はっきり選考基準を示すべきではないだろうか。

「愛すべきクソゲー」を募る「ねとらぼ」の記事だが、「愛」がまるで感じられない解説文が目立つ
「愛すべきクソゲー」を募る「ねとらぼ」の記事だが、「愛」がまるで感じられない解説文が目立つ

まるで歴史をねつ造するかのような記事も……

きちんと歴史、あるいは事実関係を調べて書いたのか、非常に疑問に思える記事も目立つ。

一例を挙げると、「移植版で『星をみるひと』を初プレイ カルト的人気の『理不尽さ』を垣間見た」(「マグミクス」:8月16日掲載)という記事だ。

本作のファミコン版が発売された当時、筆者はゲーム雑誌に特集記事が大々的に載っているのを見た記憶がなく、しかもソフトを持っている知人は誰もおらず、ゲーム仲間同士で話題になることもまったくなかった。本記事のライターは、もしかしたら90年代後半~2000年代にかけて登場した、一部のレトロゲーム専門誌で「クソゲー」などと紹介されたのがきっかけで、「カルト的人気になった」のではないかと主張したかったのかもしれない。しかし、本記事の内容だけでは、過去に人気があったという理由がよくわからない。

また、ライターは「リアルタイム世代ではない」とのことだが、当時の事情を知らずに、自身のプレイ体験だけで人気の理由を推測したのは正直どうだったか。実際にプレイしたうえで、さらにメーカーがなぜこのタイミングで移植版を発売したのか、編集者と協力して取材も実施していれば、過去に人気があったとされる理由が明らかになったように思う。

このようなあいまいな書き方をすることで、記事あるいはサイトの価値を損ねていることになぜ気付かないのか。もっと大げさに言えば、読者から「今どきのゲーム・エンタメサイトはレベルが低いな」と業界全体を評価されても、一切反論ができない状況に自ら貶めているという自覚はないのだろうか。

「マグミクス」の「星をみるひと」の記事より
「マグミクス」の「星をみるひと」の記事より

さらに、「当時斬新だった“記憶ゲー”、電子ゲーム『ハンバーガーショップ』の驚くべき完成度!発売から約40年経っても色褪せない輝きを再評価したい」(「インサイド」:6月17日掲載)という記事では、「この『ハンバーガーショップ』は単にアクションとしてではなく、『記憶』というそれまで電子ゲームになかった要素を取り入れている名作なのでございます」と書かれている。

だが、「記憶」をテーマにした電子ゲームには、ほかにも任天堂の「ゲーム&ウオッチ」シリーズの「フラッグマン」(※1980年発売)があることを、ライターも編集者も見落としてはいないだろうか。当時は任天堂が「ゲーム&ウオッチ」シリーズで電子ゲームブームに火を付けてから、「ハンバーガーショップ」の発売元であるバンダイなどが市場に参入した経緯があるので、「フラッグマン」のほうが先に世に出ている可能性がある。この事実関係をきちんと調べたうえで、「それまでなかった要素」と言い切っているのだろうか。

・参考サイト:任天堂の(ニンテンドーDS版)「ゲーム&ウオッチ」の紹介ページ

「インサイド」の記事より。「それまでなかった要素」となぜ断定できたのだろうか
「インサイド」の記事より。「それまでなかった要素」となぜ断定できたのだろうか

記事のクオリティ向上へ、編集・ビジネスモデルの改善を

なぜ、これほどまでにおかしな記事が日々アップされるのだろうか?

筆者のあるライター仲間からは、「今のwebメディアの編集者は30代、すなわちファミコンブーム期どころか90年代半ば頃の、いわゆる次世代機ブームも体験していない世代が多いですね」との話を聞いた。なので、レトロゲーム系の記事の編集を任されても、昔の状況がわからないがゆえに、内容を十分にチェックし切れない事情があるという。

また、某アニメ・ゲームライターは「ギャラが安くて、資料をそろえるお金も時間も掛けられません……」とこぼしていた。つまり、一部のサイトでは予算に乏しいため、本当は相応のコストを掛ければきちんとした記事が書けるライターがいるのに、手抜きをされてしまう状況を作り出しているのも要因のひとつなのだ。

クラウド系の求人サイトでは、数千文字の原稿を1本書いても数百円レベルという、ボランティア同然のひどい案件が相変わらず見受けられる。昨年に拙稿「『低価格ライター』の起用は搾取なのか? ゲーム攻略サイトの労働条件を考える」では、かつて攻略サイトで原稿料が低価格化した問題をご紹介したが、当時の状況とあまり変わらず、ゲームメディアの業界全体で進歩の跡が見られないのは、本当に悲しいことだ。

編集スタッフの人手がどうしても足りず、校正まで手が回らないゲームメディアがいくつかあるとの情報も耳にしている。とはいえ、予算の多寡にかかわらず、世の中に真偽のあやしい情報をバラまくような記事を常態的に発信するようでは、メディアとしては当然失格だ。だが、今は幸いにもゲーム業界に「巣ごもり需要」があるので、広告出稿をたくさん取り付ける絶好のチャンスではないかと思われる。

需要のあるうちに、サイト運営者はどんどん営業して広告収入を稼ぎ、ライターにきちんと対価を支払う、あるいは編集スタッフを新たに雇って、自らの売り物である記事のクオリティ向上を図ってはどうか。あるいは編プロなどに外注する形で、古い時代の事情に詳しいベテランの編集・校正者に、原稿チェックを依頼するラインを構築する手もあるだろう。

ゲームメディアも社会の公器であることを、けっして忘れないでいただきたいと切に思う。

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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