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「お、これいいな」無邪気にコピペする若手ゲームライターが量産され続けた理由

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「コピペ文化」が招いた、ライターの倫理観の欠如問題を考える(※画像はイメージ)(写真:アフロ)

 今から6、7年ほど前、スマホ用アプリゲームの人気が急上昇すると、ゲームの攻略サイトも雨後の筍のように登場した。その中には、明らかに著作権法に違反したり、SEOや広告の仕組みを悪用して儲けた悪質なまとめ・パクリサイトが次々と現れ、ここで仕事をして収入を得るライターも急増した。

(※パクリサイトの悪質さについては拙稿、「駆逐されたゲーム攻略サイト 激減に追い込んだまとめ・パクリサイトの手口」でご紹介しているので、興味のある方はこちらもご一読を。)

 そこで、素朴な疑問がわく。悪質なパクリサイトで仕事をして金を稼ごうなどと思ってしまうライターが、次から次へと出現するようになったのは、いったいなぜなのだろうか? その謎を明らかにすべく、上記の記事に引き続き「SQOOL.NETゲーム研究室」を運営する、株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏にお話を伺ってみた。

株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏(筆者撮影)
株式会社SQOOL代表取締役の加藤賢治氏(筆者撮影)

パクリライターが現れる理由

「コピペをして記事を書くライターは、悪意を持たずにやってしまう人が圧倒的に多いのですが、最初から悪意を持ってコピペをする人も少数ですがいました。『これくらいパクってもいいだろう』『どうせパクってもバレないだろう』と、さも自分で書いたように装って、編集者に内緒でコピペをしてまうんです」(加藤氏)

また、「紙と違ってweb媒体であれば、簡単にコピペができてパクリやすいですからね」(加藤氏)と指摘するように、容易にパクれる環境が整っていることも、間接的な要因となっているのは確かだろう。ならば、原稿を受け取った編集者が、掲載前にパクリの有無をきちんとチェックし、もし発見した場合は厳重に注意したうえでリライトを命じるのが筋ではないか。

だが加藤氏によれば、「コピペしたそのままの文章であれば、検索をすればパクったかどうかがすぐにわかりますが、言葉尻をいろいろ書き換えたりした原稿は、パクったことをなかなか見抜けないんです」という。その結果、編集者がパクリを見破れずに、そのまま掲載されてしまったケースが過去にあったそうだ。

「以前に大手のメディアが、個人サイトからゲーム攻略記事をパクって問題になったこともありました。問題が起きた理由のひとつに、攻略記事の場合は答えがほぼ一緒になるということがあります。例えば、『このボスは炎に弱い』という設定があると、プレイしなくても何となくコツを書けてしまいますし、ちょっと書き換えただけでもパクったかどうかを見抜くのは難しいんです。

 これに味を占めたライターは、『画像もパクれるじゃん』という誘惑に駆られやすいんです。食レポとかであれば、誰が書いても同じ内容の記事になるわけがありませんが、攻略記事の場合は内容がある程度似通ってしまうというのも悩ましいところです」(加藤氏)

加藤氏の運営する「SQOOL.NETゲーム研究室」ではパクリ行為を一切禁止しており、各ライターはこれに同意したうえで記事を執筆している。しかし、それでもコピペが発覚したケースが過去にあったという。そのライターがコピペをした理由も、これまた驚くべきものだった。

「以前に別のサイトで仕事をしていた時に、編集者から『コピペをして作れ』と指示をされながら書いていたので、それが当然だと思っていたわけですね。かつてはクラウド求人サイトで、検索で上位に表示されるサイトの記事をコピペして、継ぎ接ぎをして記事を書くような仕事の求人がたくさん出ていました」(加藤氏)

さらにひどいケースになると、文章をパクるだけでなく、自分でゲームをプレイせずに画面写真も丸ごとコピペするケースもあったという。「そうやってコピペをして作った記事であっても、自分のオリジナル記事だと思ってしまうんです」(加藤氏)という、信じがたい状況が起きていたのだ。

「パクって記事を書くのは、万引きをするようなものですから」(加藤氏)と指摘するまでもなく、法律で認められた引用の範ちゅうを超えた無断転載や剽窃は、れっきとした犯罪である。そんな自覚がまったくなくても、クラウド求人サイトなどを通じて仕事が始められる環境が出来上がった結果、平気でパクリ記事を書くライターが次々と出現することにつながってしまった。

加藤氏の運営する「SQOOL.NET研究室」(筆者撮影)
加藤氏の運営する「SQOOL.NET研究室」(筆者撮影)

SNSネイティブ世代ならではの問題も

冒頭で加藤氏が指摘した、「悪意を持たずにコピペをしてしまう」ライターが出現したというのも、にわかには信じがたい話だ。その理由として、こと若手に関しては、ソーシャルメディアが当たり前にある環境で育った世代特有の事情があるという。

「ソーシャルメディアは引用のかたまりみたいなところがあって、例えばTwitterはネット上で拾った画像を貼り付けて、普通にツイートしても盗用とかにはならない世界ですよね? ですから、例えば記事中で『パズドラ』の画像を使いたい時に、検索して見付けた画像をダウンロードして、そのまま使ってしまうライターが若い人には多いです。あるいは、誰かのツイートを見て『お、これいいな』と思った文章をコピペすることも、無邪気にやってしまうんです。

 ソーシャルメディア上で、それをやること自体をけしからんとまでは言いませんが、ライターの仕事も同じ感覚でやってしまうのは問題ですよね。で、『ツイートをコピペしちゃダメだよ』と注意すると、やっぱり『知らなかった』と言われちゃうんです」(加藤氏)

コピペに走るライターは無論褒められたものではないが、そもそもパクリサイトではコピペを止める編集者は存在しないし、だからと言って義務教育で著作権法やメディアリテラシーを詳しく習う機会もない以上、若いライターに責任を一方的に負わせるのは酷な話だ。個々のライターの資質というよりは、むしろやってはいけないことを無自覚のままにやってしまう若手が育ってしまう、ビジネス・社会構造上の問題と言えるだろう。

「今はメディア自体が減ったのでパクリ記事も減っていると思いますが、ゲーム攻略サイトにたくさん広告が入っていた時代は、メディア側でも記事中のパクリの有無を精査しないまま、ずっと放置していたと思います。そういう間違った行為が是正されないままでも儲かる構造でしたから、問題が起きるまでの間はある程度許容されたまま、ズルズルと続けられていたように思います」(加藤氏)

筆者がライターを始めた当時は紙媒体しかなかったので、何度も編集部に出掛けては、編集者と相談をしながら記事を書くのが当たり前だった。だが、ネット上で連絡が完結できる現在では、昔に比べて編集者に直接会ってアドバイスを受ける機会が減っているのも一因であろう。

「そこはうちも課題でして、今はそのような関係性が薄くなっていますよね。ライターに教育やノウハウを継承する機会が減少した結果、十分に育たないままライターとして仕事をしてしまうんです」(加藤氏)

若手が育たなかったことで思わぬ弊害も発生

スマホ用ゲームの攻略サイトが増えたのを機に、新米ライターが急増した。だが加藤氏によれば、「パクリ行為はNG」という注意を受けてから改心し、経験を積んで今でも活躍する若手は非常に少ないそうだ。

「あくまで私自身の感覚ですが、無邪気にコピペをしていたタイプのライターは、コピペはダメだと説明すると『私には難しい』ということで、8割近くが辞めてしまいました。残った2割のうち、今でもうちのサイトで記事を書いているライターは、ほんの数人です」(加藤氏)

若手ライターの記事の一例。スマホ用アプリゲームのブーム期から生き残ったライターは非常に少ないという(「SQOOL.NETゲーム研究室」より。筆者撮影)
若手ライターの記事の一例。スマホ用アプリゲームのブーム期から生き残ったライターは非常に少ないという(「SQOOL.NETゲーム研究室」より。筆者撮影)

若手ライターがあまり育たなかった結果、実は思わぬところで弊害が生じている。これは筆者も日々実感しているのだが、現在のゲーム業界における大きなトレンドのひとつである、eスポーツ界隈で活躍する若手が非常に少ないのだ。

「若いライターが減ったことが今でも尾を引いていて、eスポーツを取材してきちんと書けるライターが圧倒的に足りないという問題が起きています。もっとも、これはeスポーツの市場規模が、日本ではまだそれほど大きくなっていないのが、そもそもの原因としてあるのですが。

 ゲームメディアの場合は、若くてデジタルメディアのネイティブ世代がライターをやったほうがいいと思いますが、eスポーツでもベテランのほうが貢献度は高いですよね。本来なら、ユーザーに近い年齢層のライターが必要ですが、まだまだ不十分な気がします。

 攻略サイトが隆盛だった頃に業界が健全であれば、今頃は若手がもっと育っていたはずですし、eスポーツのライターももっと多かったでしょう。若い人が共感できる、熱狂を伝えられる若手ライターが少ないのは、業界にとっても大きな損失だと思います」(加藤氏)

ライターの倫理問題を解決するには、健全なメディア運営が必要不可欠

攻略サイトが急増したのを機に、若手ライターがせっかくたくさん集まったのに、育つ環境に恵まれなかったのは本当に残念なことだ。では、悪意がなくてもコピペをしてしまう、ソーシャルメディアネイティブ世代の若手が、パクってはいけないという基本中の基本常識を、誰でも学べるようにする方法はないものだろうか?

「やはりサイト側がパクリをしない、健全な運営方針を強く打ち出すことしかないでしょう。それから、広告会社がパクリサイトには広告を出さないようにして、彼らがパクっても儲からなくすることも大事だと思います。」(加藤氏)

今のままでは、若手ライターが「コピペをするのは当たり前」と思ってしまう流れは止まらないだろう。若者が日々の生活のなかで、パクリはいけないことだと学ぶ機会になかなか恵まれない以上、ゲーム攻略サイトに限った話ではないが、まずは健全な市場・ネット環境を作り上げることが肝要ではないだろうか。

若手ライターによるeスポーツの記事の一例(「SQOOL.NETゲーム研究室」より。筆者撮影)
若手ライターによるeスポーツの記事の一例(「SQOOL.NETゲーム研究室」より。筆者撮影)
ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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