ゲームは日本が世界に誇れる「メディア芸術」 国がアーカイブ化を目指す理由

「メディア芸術データベース(開発版)」のトップページより(筆者撮影)

日本でも産学官を挙げての本格的な取り組みが始まった、ゲーム(デジタルゲーム)、および関連資料の収集・整理・保存・活用を目的としたアーカイブ活動。今回は「官」にあたる、文化庁の活動状況をお伝えする。

文化庁では、平成27(2015)年度からゲーム、アニメ、マンガ、メディアアートの4分野を対象とした、「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」を行っている。

同庁のホームページを見ると、「この事業は、マンガ、アニメーション、ゲーム及びメディアアートにわたるメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出,調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することにより、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図り、新たな創造の促進と専門人材の継続・発展的な協力関係の構築を目的としています」と書かれている。

(参考リンク:文化庁「平成30年度メディア芸術連携促進事業 連携共同事業の募集」

では、文化庁がなぜゲームの事業支援をするに至ったのか? そして、今後はどのようにゲームを位置付け、各種研究や文化の保護などに貢献しようとしているのだろうか? 文化庁の参事官(芸術文化担当)付参事官補佐である、伊野哲也氏にお話を伺った。

東京・霞が関の旧文部省庁舎。ここに文化庁がある(筆者撮影)
東京・霞が関の旧文部省庁舎。ここに文化庁がある(筆者撮影)

「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」の成果

そもそも、文化庁がゲームを上記事業の1分野として選んだ理由は何だったのか? その答えは、2001年に文化芸術に関する基本法として、文化芸術基本法が制定され、国がゲームも含めたコンピューター電子機器などを利用した、メディア芸術に関する文化的な位置付けが行われたことによる。

法律が制定される以前は、文化庁が1997年から開催している、「文化庁メディア芸術祭」のエンターテインメント部門においてゲームが対象となっており、ゲーム作品がこれまで顕彰の対象となってきた経緯がある。なお、本芸術祭が始まる以前は、ゲームに関する事業支援などは特に実施していなかったそうだ。

「『文化庁メディア芸術祭』を継続して実施してきたことにより、ゲームやマンガ、アニメーションといったポップカルチャーや、メディアアートの作品をアーカイブすることで、次代に伝えていくことを目的として、ゲーム作品の整理・保存・活用について産学官で一緒に考えようということで始まった事業が、『メディア芸術連携促進事業 連携共同事業』ですね」(伊野氏)というわけだ。

(文化芸術基本法 第三章 文化芸術に関する基本的施策)

第九条 国は、映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術(以下「メディア芸術」という。)の振興を図るため、メディア芸術の制作、上映、展示等への支援、メディア芸術の制作等に係る物品の保存への支援、メディア芸術に係る知識及び技能の継承への支援、芸術祭等の開催その他の必要な施策を講ずるものとする。

(※文化庁のホームページより引用)

これまでに上記事業によって、国内外でゲームのアーカイブ活動・常設展示を行っている研究機関・施設との情報共有や、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリー(口述歴史)の収集などが行われきた。ほかにも、「メディア芸術所蔵情報等整理事業」によって、現在までに国内で発売された、あらゆるゲームの情報をまとめた「文化庁メディア芸術データベース」の作成が実現したことも、大きな成果のひとつだろう。今のところはまだ「開発版」ではあるが、すでに公開されて誰でも無料で使えるようになっている。

「メディア芸術データベース」のゲームのページで、「パックマン」と入力して検索したところ。関連タイトルも含め、32件の情報がヒットする(筆者撮影)
「メディア芸術データベース」のゲームのページで、「パックマン」と入力して検索したところ。関連タイトルも含め、32件の情報がヒットする(筆者撮影)
さらに、ヒットした各タイトルのリンクをクリックすると、より詳しい情報が表示されるようになっている(筆者撮影)
さらに、ヒットした各タイトルのリンクをクリックすると、より詳しい情報が表示されるようになっている(筆者撮影)

また、文化庁では「メディア芸術の『今』も、しっかりと情報発信していくことを目的としています」(伊野氏)ということから、メディア芸術の総合情報サイト「メディア芸術カレントコンテンツ」を2011年から公開している。本サイトは、産学官での連携による研究活動、およびその成果に関する情報や、メディア芸術の「今」にフォーカスした記事を豊富に掲載しているのが特徴だ。

なお本サイトでは、「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」において年度末に行われる報告会のレポート記事、および各事業の実施報告書も掲載されているので、興味のある方はこちらもぜひご覧いただきたい。

「メディア芸術カレントコンテンツ」のゲームのトップページ(7月3日に筆者撮影)
「メディア芸術カレントコンテンツ」のゲームのトップページ(7月3日に筆者撮影)

ゲーム分野における、文化庁の今後の目標と課題

今後、文化庁ではメディア芸術としてのゲームをどう位置付け、具体的にどのようなアクションを起こそうと考えているのだろうか?

「『メディア芸術連携促進事業 連携共同事業』は、今年度で5年目となります。継続する事業は、だいたい5年をひとつの区切りとして実施しますので、今年度は各分野ともまとめの年になると考えております。昨年度は、『国際デジタルゲーム保存会議』を立命館大学ゲーム研究センターと文化庁の主催により開催することができましたが、これまでの活動があったからこそ、このような国際カンファレンスの開催の実現につながったものと理解しております。このような場を作ることが、まさに我々が目指すものでありますので、今後もこのような活動が実現できるよう、いろいろとサポートをしてまいります」(伊野氏)

では、もし上記事業が今年度で終了となった場合は、来年度以降も文化庁はこれまでとは違った形で、ゲーム分野の事業支援などを継続してくれるのだろうか? うれしいことに、伊野氏のお答えは「イエス」であった。

「ゲームは主に産業面で発展を遂げてきた分野であり、会社ごとにそれぞれ文化や風土が違うのではないかと思われますが、アーカイブ活動などを推進するうえで、その基盤となるデータベースなどができましたので、今後はより多くのゲーム会社さんにも加わっていただけるようにしていきたいですね」(伊野氏)

さらに伊野氏は、著作権の権利保有者や、アーカイブ資料の所在情報を集めることの重要性も指摘した。

「例えば出版社において、『この作品の関連資料はどこにあって、どんなものが残っているのか』といった情報がわかるようになれば、すごく役に立ちますよね。どのゲーム会社さんでも、資料の所在情報はきちんと整理しているのかと思っていたのですが、実は調べてみたら必ずしもそうではなかったという事情がありました。ですから、今後は『あの作品はここにあるから、そこに行って聞けばいい』という情報が、すぐにわかるようなものが必要ではないかと思っています。情報を表に出すか、出さないかを決めるのは権利者ではありますが、できるだけ早いうちに、所在情報を抑えておくことが重要であると考えております」(伊野氏)

オーラル・ヒストリーの収集についても、「ゲーム産業の黎明期に開発をしていた世代がどんどん高齢化していますし、開発したご本人しか知らない情報や物がまだあることがだんだんわかってきましたので、若い方向けにお話をしていただく機会を設けてもいいのではないでしょうか」(伊野氏)との見解だった。「CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)などの関連団体とも連携して、ゲームがどうやって作られたのか、どうやって残していけるのかを考え、『ゲームは、こういうふうにしてできてきたんですよ』と見せられるようにすることで、後進の育成につなげていくことを目指すべきではないかと思います」(伊野氏)

ゲームアーカイブにおいては、どうやって動態保存を実現させるのかも大きな課題だ。「時代とともに、ゲームのハードがどんどん変わっていくなかで、過去の作品をどのようにして残すのかも重要な課題です。例えば、スマホ用のゲームアプリやオンラインゲームは、OSが変わるたびに中身が変わったり、あるいは遊べなくなったりしますので、すでに残すのが非常に難しい状況になっています。そもそも、これらを残すべきなのかということも含め、これからどうすべきか考えていきたいですね」(伊野氏)

なお、前述の「メディア芸術データベース」は、今秋にベータ版が公開される予定となっている。こちらについては、「学術的なデータベースというところから始まったものですが、今後はどうやって一般の方にも見ていただけるような開けたものにしていくかが、ひとつの課題になるのではないかと考えております」(伊野氏)という。

ただゲームのファンが見て楽しむだけなく、なぜゲームが面白くなるのかという「遊び」の研究や、新たなビジネスを考案する際の資料として利用できるようにするなど、文化庁の支援によるゲームアーカイブ活動の成果を、ありとあらゆる人が活用できる環境が出来上がることを願ってやまない。