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コレクションは何と10万点! 有志の熱意と技術を結集したゲーム保存協会の取り組み【ゲームアーカイブ】

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
ゲーム保存協会のオフィスにて、PC用ゲームのデータを作成する理事長(筆者撮影)

3月に掲載した拙稿、「日本が世界に誇るゲームを後世に 国もバックアップを始めた保存活動【ゲームアーカイブ】」では、産学官を挙げてのゲームおよびその文化の保存、すなわちゲームアーカイブの取り組みについて、主に学(大学)と官(文化庁、国立国会図書館)の活動状況についてご紹介した。

では、産(民間)のほうでは、具体的にどのような活動が行われているのだろうか? 今回は、ゲームアーカイブ活動を行う民間の有志のなかでは、おそらく国内で最もゲーム関連のコレクションや保存技術を有しているであろう、特定非営利活動(NPO)法人ゲーム保存協会のリーダーにお話を伺ってみた。

フランスからやって来た、ゲームアーカイブの旗手

筆者を快く出迎えてくれたのは、ゲーム保存協会の理事長を務めるルドン・ジョセフ氏。ルドン氏はフランス出身だが、なぜ異国の地までわざわざやって来てゲームの保存活動に携わるようになったのだろうか?

「NPOを設立したのは2011年の9月ですが、元々日本のゲームだけでなく、料理などのゲーム以外の文化や日本語にもハマっていたんです。1992年に、東京を2週間旅行したときに一番衝撃を受けたのは、中古ショップで人気のないソフトがすごく安く売っていたことでした。150本だったか、200本くらいまとめて買っちゃいましたね」(ルドン氏)

実は来日前から、筋金入りの日本ゲーム好きだったのだ。

理事長のルドン・ジョセフ氏(筆者撮影)
理事長のルドン・ジョセフ氏(筆者撮影)

「1994年頃から、PCエンジンですとかスーパーファミコンですとか、日本でしかリリースされていないゲームを勉強するサークルみたいなものがあったんです。最初は保存活動をしていなかったのですが、徐々にコレクションをするだけではなくて、資料を作ろう、リスト化しようと考えるようになりました。実は、フランスでも雑誌の「PCエンジンFAN」とか「サターンFAN」が売っていましたので、毎月買ってリストを作っていました。それがデータベース作りの始まりです」(同氏)

やがてルドン氏は、2000年の冬に日本への移住を決断することになるが、その経緯がこれまたすごい。

「大学を出て就職してからは忙しくなり、しばらくの間ゲーム関連の活動からは離れていました。ですが、あるときセガサターン版の『サウンドノベル 街-machi-』にすごくハマって、仕事を休んで1週間くらいずっとやり込みました。大学で日本語を勉強していましたので、ある程度日本語のセリフも読めましたし、ゲームの舞台が渋谷とかで、しかもリアルなグラフィックだったので、自分もそこにいるかのような気持ちになったんですね。それで日本に行きたい、住みたいという気持ちが急に強くなって、次の日にはもう仕事を辞めちゃいました(笑)。すぐに日本大使館に行ってビザを申し込み、3週間でアパートを片付けて、最低限の荷物だけを持って東京に引っ越しました」(同氏)

では、日本に住むようになって、本格的に保存活動を始めることになったきっかけは何だったのだろうか。

「最初は保存活動ではなくて、まず日本で物を集めて資料を作り、それを海外、特にフランスの人たちと共有したいと思ってやっていました。2004年頃から、買ったゲームのなかには動かないものがあったり、最初は動いていたけど途中から動かなくなってしまったものが増えてきたんです。せっかく日本にいるのに何だか悔しい、目の前で物がなくなろうとしているのは寂しいなと思ったので、じゃあゲームをずっと残すにはどうしたらいいかと考えるようになりました」(同氏)

NPO法人を立ち上げたのは、突然の思いつきなどではなく、フランス時代から日本のゲームのコレクションや資料作りなどの活動に、熱心に励んでいたことが背景にあったのだ。

ゲーム保存協会の活動内容

ルドン氏によると、ゲーム保存協会の事業は大きく分けると「ゲームの保存方法の開発および確立」「研究成果の共有」「他の法人などとの連携、プロジェクト支援」の3種類があるという。現在、協会およびそのメンバーが持っているゲームソフト類は、重複分も含めると実に10万点、関連書籍・雑誌も3万冊ほどあるというのだからすごい。

ゲームソフトや関連書籍のコレクションについては、ルドン氏本人の所有物以外にも、外部から寄贈されたものや、個々のメンバーが自分自身で保有・管理している物もリストに加えた形で、「NPOとしてコレクションを持っているというよりも、コレクションを持っているメンバーを集めたというような考え方ですね」(ルドン氏)とのことだった。

PC用ゲームの保管スペース。室内は扇風機や除湿器を24時間動かし続け、一年中保存に適した環境を整えている(筆者撮影)
PC用ゲームの保管スペース。室内は扇風機や除湿器を24時間動かし続け、一年中保存に適した環境を整えている(筆者撮影)
保存環境を良くするため、紙のマニュアルはフロッピーディスクとは分けた状態で保管している(筆者撮影)
保存環境を良くするため、紙のマニュアルはフロッピーディスクとは分けた状態で保管している(筆者撮影)
古いゲーム関連雑誌もズラリとそろう。PC雑誌だけでも約4000冊あるそうだ(筆者撮影)
古いゲーム関連雑誌もズラリとそろう。PC雑誌だけでも約4000冊あるそうだ(筆者撮影)

また、ゲーム保存協会では、古いゲームソフトの長期保存を実現するための研究もずっと行っており、そのために独自に開発したエミュレーター、すなわちフロッピーディスクやROMなどに保存されたソフトのデータを取り出し、現代のPC上でも動くようにするためのデバイスなども持っている。

では、これらの活動をするうえで必要となる技術や資産、人材は、いったいどうやって得たのだろうか?

「私は技術のことがわかりませんので、ひとりで活動するのは無理ですから、まずは私と同じことを考えている協力者を探しました。特に、レトロPCゲームが好きな人を探すのがたいへんでしたが、以前にICQで知り合った人たちがいましたので、そこから少しずつネットワークができました」(ルドン氏)

ところが、最初は当の日本人よりも、海外の人のほうがルドン氏の考えに協力的だったという。

「日本人のなかで、ゲームを文化と考える人はあまりいなかったんです。それからコレクションをしていても、その情報を共有してくれる人が少なかったので、最初はそこが大きな壁になりましたね。自分でも、フロッピーディスクの保存方法とかの技術を勉強し始めたのですが、一番協力的だったのは海外の方でした。SPS(Software Preservation Society)という、ヨーロッパで熱心にゲームの保存活動をしている所がありまして、そこに私が資金を提供して、どんなPCのフロッピーディスクのゲームソフトでも動くデバイスを作ってもらったんですよ。確か、2009年頃ですね」(同氏)

なんと、NPOを作る以前から、自腹でエミュレーション環境を整えていたのだ。

「それから当時、ある人がヤフオクに出品していた中古ソフトのほとんどを私が買っていたら、あるときに『コレクターの方ですか?』と連絡が来たんです。実はその方が、今は理事になっている小林正国さんだったんです。私がゲームのアーカイブ活動をしていることをお話したら、『それ面白いね』と興味を持っていただき、ちょうど小林さんが中古ソフトのビジネスを新しく始めるときだったので、「店のホームページを盛り上げるために、記事を書いてほしい」という依頼を受けたんです。そこで、ゲームアーカイブの必要性や技術のことを書いて載せてみたら、かなり反応があったのでネットワークが一気に広がりました」(同氏)

さらに、この記事がきっかけで、優れた技術を持つ強力な賛同者も現れた。

「その記事を読んだなかのひとりに、実は個人で同じようなエミュレーターを作ろうとしていた人がいたんです。その人が、同じく理事の福田卓也さんです。福田さんはプロテクトの技術に興味があって、ゲームにはあまり興味がない方なのですが、私がこれからアンダーグラウンドではなく、真面目にアーカイブをやりたいんだと話をしたら、『じゃあNPOを作ろうよ』って言ってくれたんです。それで、Twitterとかでも関心がある人たちを集めて、NPOの申請をしたんです」(同氏)

古いカセットテープでも再生できるデッキや、フロッピーディスクドライブも常備している(筆者撮影)
古いカセットテープでも再生できるデッキや、フロッピーディスクドライブも常備している(筆者撮影)
こちらはフロッピーディスクからサンプリングしたデータをリマスタリングして、現在のPCなどの異なる環境でも動かせるようにするためのデバイス(筆者撮影)
こちらはフロッピーディスクからサンプリングしたデータをリマスタリングして、現在のPCなどの異なる環境でも動かせるようにするためのデバイス(筆者撮影)

こうして2011年に立ち上がったゲーム保存協会は、10人のメンバーで活動がスタート。現在は29人のメンバーと、およそ250人のサポーター(会員)が全国各地にいて、日々の活動は助成金と、サポーターから集めた会費によって賄われている。

また、協会の3つの事業のうち、「プロジェクト支援」については、現在では文化庁のアーカイブ事業にも協力しているそうだ。

ちなみに、協会が持っているゲームや資料を部外者でも閲覧できるのか尋ねたところ、「商用でも同人活動でも、閲覧はどなたでもできますが、研究など何かの目的があるプロジェクトがあって、最終的に我々と共有できることが条件になります」(ルドン氏)とのことだった。

将来の目的は、ゲームのデジタル保存

最後に、今後の保存協会の活動予定、および将来の目標について尋ねてみた。

「今年の8月に、有名なゲームの開発者をお招きした講演を開催する予定です。リリースを5月に出しますので、詳しくはそちらをご覧ください。ゲームの保存については、PC用ソフトのほうが家庭用よりも劣化が早いので、その磁気媒体の保存研究、アーカイブ活動を優先してやっていきたいと考えています」(ルドン氏)

さらにルドン氏は、壮大な構想があることも話してくれた。

「PCゲーム系の雑誌には、国会図書館でも持っていないものがありますので、そういう本を集めた図書館的な場所も、ここに作ろうかと思っています。いずれは本だけではなくて、あらゆるゲームがある図書館を作りたいですね。フィジカル(現物)の保存がある程度できたら、将来はゲームのデジタル保存、アーカイブ化を実現させるのが一番の目的です」(同氏)

また、ほかにもサブプロジェクトのひとつとして、アーケードゲームのプレイ動画などを残す活動が始まっているそうだ。しかも、ただ動画を収録するだけでなく、トップレベルの上手なプレイヤーにプレイしてもらい、なおかつプレイ時の入力信号も記録するのだという。つまり、ゲーム自体の保存に加えて、プレイヤーの「腕」も後世に残そうというのだ。筆者もゲームアーカイブ活動の末席に加えさせていただいているが、まさかここまで考えて活動をしていたとは、本当に驚かされるばかりであった。

もし機会があれば、今後もゲーム保存協会のさらなる活動、活躍ぶりをこの場を通じてお伝えしていきたい。

特定非営利活動法人ゲーム保存協会

https://www.gamepres.org/

オフィスにはアーケード用ビデオゲーム筐体も完備(筆者撮影)
オフィスにはアーケード用ビデオゲーム筐体も完備(筆者撮影)
古いゲームの基板を安定的に動作させたり、入力信号を記録するための独自デバイスもすでに用意している(筆者撮影)
古いゲームの基板を安定的に動作させたり、入力信号を記録するための独自デバイスもすでに用意している(筆者撮影)
ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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