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妊娠中や産後の「うつ」、コロナ禍で増加か 産婦人科医が予防法を解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

毎年、9月10日から16日の1週間は「自殺予防週間」に定められています。

自殺に強く関連している疾患の代表が「うつ病」です。

本記事では、新型コロナウイルスのパンデミック下における女性、特に孤独や不安を抱えている妊産婦さんやそのご家族、周囲の方へ向けて、「周産期うつ病」(妊娠期〜産後の時期に発症するうつ病)に注目し、以下の点について産婦人科医の視点で解説いたします。

・昨今の女性の自殺について(女性をめぐる社会背景や要因など概況)

・周産期うつ病について(兆候、症状、リスクの高い時期や傾向など)

・周産期うつ病への対策(予防や早期発見など)

新型コロナウイルス流行下における女性の自殺の現況

まず、昨年から今年にかけて新型コロナウイルスのパンデミックが世界的に継続していることは無視できないため、パンデミックと自殺の関連、そして女性への影響を科学的なエビデンスに基づいて確認しましょう。

今年2月のThe Japan Timesの記事では、日本では昨年(2020年)に約7,000人の女性が命を絶ち、これは2019年に比べて15%ほど多く、10年以上ぶりの前年比増加だったと書かれています。(文献1)

加えて、最近の研究から以下のことが報告されています。(文献2)

・日本では、男性も女性も2019年までと比較して自殺者が有意に増加していましたが、男性では2020年のうち2ヶ月間(10、11月)での増加が認められた一方で、女性では5ヶ月間(7-11月)と長期にわたって増加していました

・また、男性では30歳未満での増加が顕著でしたが、女性では49歳以下と広い年齢幅での増加が顕著でした

自殺に至った詳細な原因まではまだ十分な情報がありませんが、今後もコロナの感染が広がる中で、自ら命を落としてしまう人をいかに減らすかは、非常に重要なテーマと言えるでしょう。

新型コロナウイルス流行下で周産期うつ病は増えている?

それでは、妊産婦さんへのメンタルヘルスへの影響はどうでしょうか。

最近の国内外の研究では、以下のように妊娠中や産後のうつ病が増えている可能性が指摘されています。(文献3、4)

・2020年1月から9月の間に出産した日本の妊産婦において、うつ状態にあるかどうかのスクリーニング目的で使用される「EPDSスコア」が高い値だった妊産婦は30%前後と平常時の割合より高い結果だった

・妊娠中の女性のメンタルヘルスに負の影響が出やすい要因として、年齢が若い、家庭の経済状態が悪い、社会的支援が乏しい、身体活動が少ないことなどが影響していた

以上から、新型コロナウイルス流行下で周産期うつ病を抱える女性が増えている可能性は高く、これは海外だけでなく日本でも大きな問題と捉えるべきだと考えられます。

また、経済的に余裕がない、社会的支援が乏しい、などの状況にある家庭では特に注意が必要かもしれません。

*なお、多くの研究では「医師によるうつ病の診断」ではなく「うつ病のハイリスクである状態」を分析しているため、真にうつ病が増えているかどうかはまだ断言できません。

全ての男女に知ってほしい「周産期うつ病」

ここまで、パンデミック下で日本における自殺者が増えており女性でその影響がより大きい可能性や、周産期うつ病が増加している可能性について説明しました。

それでは、周産期うつ病について詳しく解説します。

これは妊娠中や産後の女性だけの問題ではありません

今後妊娠の可能性がある、または妊娠を希望している女性はもちろん、近しい関係にある男性や家族にもぜひ知っておいていただきたい内容です。

日本の母体死亡で最多の原因は「自殺」

2016年以降、妊産婦における自殺が想定以上に多く発生していることがわかってきており、母体死亡の原因の第一位は自殺であることが明らかになっています。

これらには、産後うつをはじめとした精神疾患が強く関連していることも報告されています。(文献5)

周産期うつ病は7〜10人に1人が抱える

周産期うつ病は決して珍しい疾患ではありません。

これまでのデータから、妊娠中では約10〜12%、産後では約10〜15%の女性が有していることがわかっています。(文献6)

7〜10人に1人と考えれば、決して他人事ではないことがお分かりいただけると思います。

産後の危険な時期

産後うつ病は、産後3ヶ月以内に発症しやすいとされていますが、産後1年間のいつでも起こる可能性があります。

なお、うつ状態になると「自分はおかしな状態だ」ということが認識しづらくなってしまうため、周囲からのケアやサポートが不可欠です。

周囲がサインに気付くには

本人は異常に気付きにくかったり、周囲に気持ちを打ち明けたりしなかったりすることも少なくないので、ご家族や近しい人が「危険なサイン」に気付いてあげることが重要となります。

特に、「なにか様子がおかしいかも?」と思った瞬間が、サインに気付くチャンスとなります。

例えば、

「赤ちゃんの寝顔をみているときは幸せそうな様子だったのに、最近は無表情なことが多い」

「好きだったお菓子やケーキを持ち帰っても喜んでくれない」

などは、要注意です。

これらは、

・気分の落ち込みや憂うつな気分が続く/頻繁に起こる

・物事への興味が失せてきている

などの表れである可能性があり、これこそが「うつ病」のサインなのです。

他にも、実際にオンライン相談で寄せられる妊産婦さんからの声では、以下のようなものもありました。(よくある声を事例紹介として記載しています)

「初めての妊娠で体調がすぐれず、仕事を休みたいが休めない。毎日朝と夜に泣いてしまいます。」(妊娠15週)

「育児がうまくいかないことが重なり、自分は母親失格なんじゃないか、いなくなれば家族も大切さをわかってくれるんじゃないかという考えが頭をよぎります。子どもにイライラする自分にまたイライラします。」(産後1ヶ月)

「離乳食をあげるときに毎回ギャン泣きされます。その時間がとても憂うつで、他のことにも手がつかず夜もあまり眠れません。」(産後8ヶ月)

心配のある場合には、通院中または出産した医療機関やお住まいの保健センターへ、ぜひ早めに相談してください。

周産期うつ病を予防するには?

妊娠中や産後の女性は、以下のような状況になりやすく、これらは精神的負担を重くさせ、うつ病発症のリスクを高めると考えられます。

よって、これらのリスクを少しでも減らしてあげることが重要となります。

・周囲からのサポートが乏しい

・様々な不安を常時抱えている

・慢性的な睡眠不足

・自分1人の時間がほとんど取れないストレス

・乳幼児の健康を守らなければならないという精神的不安と負担

・自分一人の判断ではどうにもできないことの連続

・自分自身のアイデンティティの揺らぎ(母親としての存在への移行)

まずはご家族ができることを。

そして、かかりつけの病院にもぜひ相談してください。

お住まいの自治体にも保健センターなど支援をしてくれる場所があります。

産後であれば産後ケア施設で「一人のゆっくりした時間」を取ることもいいでしょう。

最近では、スマホからオンラインで専門家に相談できるサービスも増えてきていますので、そういったものを活用することも有効でしょう。(地域住民へのサポートとして自治体が導入する事例も増えてきています)

「世界で自分だけがなぜこんなに不安で辛いのか」という気持ちを女性が抱かないようにすることが、全ての予防策に共通しているかと思います。

なお、妊娠前から精神疾患(不安症やパニック障害、うつ病など)を持っている場合には、専門家による適切な判断と治療が不可欠です。

必ず、継続的な相談のもとで妊娠〜出産〜産後を過ごすようにしてください。

*なお、周産期うつ病に関しては昨年9月に公開した以下の記事もぜひご覧ください。

ぜひ全ての男女に知ってほしい、周産期うつについて。

感染拡大の終わりが見えない中で妊産婦と子どもを守るために

本記事では、コロナウイルスによるパンデミック下における女性の自殺や周産期うつ病について、最新の知見を交えて解説しました。

もちろん、人の命の重さに差はなく、大事なのは女性だけ、妊産婦だけではありません。

ただ、やはり「妊産婦と子どもは社会の宝であり、みんな笑顔で元気に過ごし育ってほしい」とみんなが当たり前のように支え、応援する社会は本当に素敵だと思いますし、日本もそうであってほしいなと切に願います。

一人一人が大変な状況ですが、この苦難を協力して乗り越えていきましょう。

そして、悲しい選択をして自ら命を絶ってしまう人が少しでも減りますように。

参考文献:

1. The Japan Times. As pandemic took hold, suicide rose among Japanese women.

2. Sakamoto H, et al. JAMA Netw Open. 2021;4(2):e2037378.

3. Obata S, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2021;47(9):2990-3000.

4. Fan S, et al. Asian J Psychiatr. 2021;56:102533.

5. 竹田 省:妊産婦死亡“ゼロ”への挑戦,日産婦誌 2016;68(9):1815-1822.

6. Tokumitsu K, et al. Ann Gen Psychiatry. 2020;19:41.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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