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スポーツ女子や女性アスリートは要注意! 気をつけたい3つの症状を解説

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

運動やスポーツをする上で女性に知っておいてほしいこと

スポーツは、身体的なスキルを学びながら、カラダにとって必要な運動をするのに役立ちます。そして、カラダだけでなくココロにもたくさんのメリットがあります。

また、友達を作ったり、趣味として楽しんだり、競争によって切磋琢磨することも大きなメリットと言えるでしょう。

一方で、特に女性の場合、本格的に部活動をしたり、身体に大きな負担がかかるアスリートでは、健康上の注意点があることを知っておく必要があります。なぜなら、今の健康だけでなく将来の妊娠や骨折などにも影響してしまうためです。(文献1)

女性が運動やスポーツをする場合の注意点は?

(1)ケガ

特に成長期や思春期にあたる女性の場合、身体が成長し変化していく時期に大きな負荷がかかることになります。身体の成長がまだ途中であり、頭の中のイメージと身体の動きにギャップがあるかもしれません。

このため、捻挫や骨折などのケガには常に注意しましょう。

(2)ホルモンの変化

激しい運動は、ホルモンレベルに影響を与えます。

ホルモンとは、体内の化学伝達物質のことです。女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロンなど)は、月経を調節する役目を持っています。また、エストロゲンは骨を丈夫に保つためにも必要です。

激しい運動によってエストロゲンなどの分泌に変化が起こると、カラダ全体の発達や月経、骨密度などに影響が出る場合があります。

(3)食生活や体重の変化

スポーツをしている特に若い女の子では、自分の体重を強く意識する人も少なくないでしょう。つまり、「もっと痩せたい」という気持ちです。

また、スポーツをしていると、コーチや保護者などから「成功へのプレッシャー」を受けることもよくあります。チームメイトに対する責任感を持つ場合もあるでしょう。「完璧でなきゃダメだ」と思うこともあるでしょう。

このような考え方は、ときに食生活を変化させ、体重を過度に落とし、健康への様々なデメリットを引き起こす危険性があります。

危険な食生活や習慣とは?摂食障害にも要注意

体重を減らそうと考えてしまい、多くの女性が陥ってしまう誤った食生活や習慣の例として以下のようなものがあります。

・断食

・頻繁に食事を抜く

・極端なダイエット

・わざと嘔吐する

・利尿剤や下剤などの不適切な利用

このように乱れた食生活や習慣は、「神経性食欲不振症」や「神経性過食症」などの摂食障害とは異なりますが、心身に深刻な問題を引き起こすことがあります。

そして、最終的に摂食障害の診断に繋がってしまう危険性もあるのです。

摂食障害は、10代から20代の若者がかかることが多く、女性がなりやすい疾患です。

日本で治療を受けている患者さんは21万人/年間とも言われています。(文献2)

摂食障害にかかると、心身の成長・発達と健康、人との関係、日常生活や、学業、職業などの社会生活に深刻な影響をあたえます。

また、やせや栄養障害、嘔吐などの症状が悪化すると、中には亡くなってしまう人もいます。決して軽視できない疾患だということを忘れないでください。

女性アスリートが気をつけたい3つの症状

スポーツをしている女性に注意してほしい3つの症状(女性アスリートの三主徴)があります。

(1) 体重の減少や極端な痩せ

(2) 生理不順や無月経

(3) 骨量の低下(骨が弱くなる)

女性の体重、エストロゲン、骨量(骨密度)はすべてお互いに関連しあっています。

体重とともに脂肪が減りすぎると、身体はエネルギーを節約しようと筋肉を減らし、エストロゲンの分泌量も減少します。

そしてエストロゲンが減ると、月経不順となったり、骨が弱くなって疲労骨折などのリスクが上がります。

また、ウイルスや菌からカラダを守る免疫系統にも悪影響が出て、感染症にかかりやすくなってしまいます。

それでは、このような3つの症状を早めに察知するにはどうしたらいいのでしょうか。

以下のサインは、早期発見に役立つと考えられています。

もし気づいた場合には、現在の生活環境や食習慣、スポーツや部活動への取り組み方を見直してみましょう。

・月経サイクルの乱れ

・急激な体重減少

・自分自身でエネルギーが不足しているように感じる

・自分の体重を過度に気にしてしまう

・運動やスポーツをしていないと罪悪感を感じる

・食事量の制限や断食

・人に隠れてものを食べる

・運動負荷による骨折

月経の乱れ、どんなときに注意が必要?

特に10代の場合には、月経周期が必ずしも規則的ではありません。このため、月経周期の変化が正常範囲なのか異常なのかを判断するのは難しいものです。

しかし、月経周期に以下のような変化があった場合は、早めに医療機関で相談しましょう。放っておくと、エストロゲンや骨密度に悪影響を与えてしまう危険性があります。

・月経が21日以内に来てしまう

・月経の間隔が45日以上空いてしまう

・月経が7日以上続く

・月経が定期的に来ていたのに不順になった

・3ヶ月以上、月経が来ていない

なお、特に痩せ体型の女性では、月経が初めて来る時期が遅れてしまうこともあります。もし15歳になっても一度も月経が来ていない場合、必ず産婦人科医に相談してください。

自分の身体を大切にすることは将来の健康にもつながります

上記のようなスポーツに伴う女性のカラダへの負担は、将来の健康にも影響を与えてしまうことがわかっています。

エストロゲンの分泌が低下したままでいると、将来の妊娠に影響する、つまり妊娠しにくくなってしまう可能性があります。

また、エストロゲンの低下によって骨密度が低いままだと、骨粗しょう症に発展してしまう可能性があります。若いにもかかわらず何度も骨折してしまうことにもなりかねません。

注意すべきサインに気づいた場合は、保護者やコーチに相談しましょう。

また、できれば医療機関にも受診して相談しましょう。

予防や改善のために大事なポイントは以下の通りです。

・自分にとっての健康的な体重を医師から教えてもらい、その体重を下回らないようにする

・必要十分なカロリーを健康的な食品から摂取する

・乱れた食生活を知り、もし無意識に始めてしまったら周囲に助けを求める

・月経サイクルに注意して、変化があれば受診して医師に相談する

保護者やコーチ、医師はあなたの味方です

なお、保護者やコーチに相談したくないな、と思うことがあるかもしれません。

彼らを失望させてしまう、スポーツを続けられなくなるんじゃないか、大会に出られないのではないか、チームメイトに迷惑をかけてしまうんじゃないか、そのようなことを考えると、無理してでも続けたいと考えてしまっても無理はないでしょう。

その気持ちは前向きでとても良いものですが、自分自身のカラダや健康を犠牲にすることはお勧めできません

ぜひ、自分自身、保護者、コーチ、かかりつけの医師、栄養士などみんなで協力して、健康的にスポーツを続けられるよう作戦を練ってみて下さいね。

参考文献:

1. ACOG. FAQ. The Healthy Female Athlete.

2. 厚生労働省. 摂食障害.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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