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Mori Calliope、星街すいせい……VTuberのメジャーデビューが音楽シーンにもたらすもの

柴那典音楽ジャーナリスト
Photo By Ayo Kajino (C) 2016 COVER Corp.

「これはVTuberとしてだけではなく、アーティストとしてのキャリアの始まり。みんなのことは裏切らないから、ついてきて!」

ステージ上から呼びかけた声に、オーディエンスがピンク色のペンライトの光を揺らして応える。7月21日、東京・豊洲PITにてMori Calliopeが初のソロライブ《Mori Calliope Major Debut Concert 「New Underworld Order」》を開催した。

ラッパーでありVTuberであるMori Calliopeは、ライブではステージ上の透明スクリーンに登場。得意の高速ラップや迫力ある歌声を聴かせ、英語と日本語を交えたスタイルで集まったファンと言葉を交わし交流する。スマホやPCの画面ではなくリアルなライブハウスで繰り広げられるVTuberのパフォーマンスを前に、独特の熱狂が生まれていた。

Photo By Ayo Kajino (C) 2016 COVER Corp.
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■VTuberに音楽業界から熱視線

今、VTuberのメジャーデビューが相次いでいる。VTuber事務所「ホロライブプロダクション」の英語圏向けグループ「ホロライブEnglish」に所属するMori Calliopeは2022年4月にユニバーサルミュージック・EMI Recordsからメジャーデビューし、7月20日にメジャー1stEP『SHINIGAMI NOTE』をリリース。Mori Calliopeと同じく「ホロライブプロダクション」に所属する星街すいせいは、サウンドプロデューサーTAKU INOUEとのユニットMidnight Grand Orchestraとしてトイズファクトリー・VIAから今年3月にメジャーデビューし、7月27日に1stミニアルバム『Overture』をリリースした。

なぜ音楽業界からVTuberへの熱い視線が集まっているのか。その一つの理由は人気と影響力の大きさにある。Mori CalliopeのYouTubeチャンネル登録者数は200万人を超え、星街すいせいは150万人超え。他にもホロライブには数多くの人気VTuberが所属している。ゲーム実況や雑談などを中心にライブ配信で確固たるファンベースを築き上げる一方で、「歌ってみた」動画の投稿やオリジナル曲の発表など音楽活動に力を入れるVTuberも増えてきた。

そしてもう一つの理由は、高い歌唱力やアーティストとしての表現力にある。Mori CalliopeはVTuberとしての活動開始からまもなく「失礼しますが、RIP」などのオリジナルソングを立て続けに発表。切れ味鋭いラップのスキルだけでなく、自ら作詞や作曲を手掛ける楽曲のクオリティも高い評価を集めてきた。

■ボカロPなどクリエイターの新たな活躍の場に

VTuber同士のコラボも活発だ。

Mori Calliopeのライブには、ゲストとして同じ「ホロライブEnglish」に所属するがうる・ぐらが登場。ダークなトラックに乗せて2人が掛け合いのラップを聴かせる「Q」は大きな盛り上がりとなった。

Photo By Ayo Kajino (C) 2016 COVER Corp.
Photo By Ayo Kajino (C) 2016 COVER Corp.

ライブには、星街すいせいや角巻わためもゲストに登場。『SHINIGAMI NOTE』に収録された星街すいせいとのコラボ曲「CapSule」や、星街すいせいのソロ楽曲にMori Calliopeがフィーチャリングで参加した「Wicked feat. Mori Calliope」を披露。角巻わためとは「曇天羊 feat. Mori Calliope」をデュエットで披露した。

見逃せないのは、こうしたVTuberの音楽活動が、ボカロPなどネットカルチャーから活動領域を広げるクリエイターたちにとっての新たな活躍の場となっていることだろう。「Q」や「CapSule」は人気ボカロPのDECO*27が作曲を担当。「Wicked feat. Mori Calliope」はGigaが作編曲を担当している。

Midnight Grand Orchestraにおいても、TAKU INOUEと星街すいせいがクリエイティブな結託を果たし、SF的な世界観を持ったコンセプチュアルな作品を作り上げている。

他にも、2019年のメジャーデビューから3周年を迎えたときのそら、オリジナル曲「#あくあ色ぱれっと」がTikTok2022上半期トレンドにノミネートされ、じんが作詞作曲を手掛けた「未だ、青い」を8月8日に発表した湊あくあなど、注目の存在は数多い。VTuberがヒットチャートを席巻する日も近そうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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