Yahoo!ニュース

BE:FIRSTがヒットチャートを席巻。7人が、そして“挑戦者”SKY-HIが目指す未来

柴那典音楽ジャーナリスト
BE:FIRST(写真提供:BMSG)

7人組ボーイズグループ、BE:FIRSTがヒットチャートを席巻している。

BE:FIRSTとは、SKY-HI(日高光啓)が主催するオーディション「THE FIRST」から誕生したグループ。8月16日に配信リリースされたプレデビュー曲「Shining One」は、8月25日発表のBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で総合2位を記録。ダウンロード1位、ストリーミング2位、動画再生1位とデジタル指標の強さが際立っている。

一方、8月25日発表のオリコンチャートでは「週間デジタルシングル(単曲)ランキング」「週間ストリーミングランキング」の2部門で1位を記録。2冠を達成した。

YouTubeに公開されたミュージックビデオも公開から1日で再生回数250万回を突破し、急上昇ランキング1位。8月29日現在で950万回を突破するなど、大きな反響を集めている。

《BE:FIRST / Shining One -Music Video-》

BE:FIRSTは、なぜここまで大きな注目を集めているのか?

まず一つ目の大きな理由には、オーディション「THE FIRST」の話題性がある。約半年にわたるオーディションの模様は情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)が密着し、Huluでもドキュメンタリー番組を配信してきた。

こうした番組を通してデビューを目指す参加者メンバーの成長や葛藤、仲間同士の友情を見せてきたストーリーへの共感が広まった。「ザスト民」と呼ばれる熱心な視聴者はツイッターなどで番組にリアルタイムで反応し盛り上がりを見せてきた。

ただ、過去にもこうしたオーディションは多く行われてきた。ここ数年は韓国を中心に内容も多様化し参加者もレベルアップ。テレビ番組が長期にわたる審査の模様をサバイバル型のリアリティーショーとして放送することも通例となり、視聴者がデビュー前の練習生から自分の「推し」を見つけその道程を応援することがグループのブレイクにつながる例も増えた。

こうした先行企画と違う「THE FIRST」の特徴は、参加者だけでなく主催者のSKY-HIもいわば“挑戦者”の立場であるということだ。AAA(トリプルエー)のメンバーとして2005年にデビューし、一方でソロ名義のSKY-HIでラッパーとして地道なキャリアを重ねてきた彼は、2020年9月に「才能を殺さない為に。」をモットーに掲げたマネジメントとレーベルの運営会社「BMSG」を設立。社長/プロデューサーとしての初の試みである「THE FIRST」を約1億円の私財を投じて実現させた。

パフォーマンスの基礎能力としての「クオリティファースト」、音楽を考えて生み出す力である「クリエイティブファースト」、ステージ上で自身のあり方を証明できるかという「アーティシズムファースト」をスローガンに掲げ、審査基準にもこの「3つのファースト」を徹底したSKY-HIは、オーディションの最中でも応募者たちとたびたび一緒に歌い踊り、1ヶ月にわたる富士山合宿審査では生活を共にするなど、近い目線で応募者との関係を結んできた。また、単に選抜対象として応募者を審査するだけでなく、作詞、作曲、振り付けなどのクリエイティブの課題を与えて成長を促したり、自らの壁を越えられずに苦しみ悩むメンバーに寄り添ったり、育成を重視し一人ひとりに向き合ってきた。

印象的だったのは脱落者への接し方だ。合宿審査の第2ステージで脱落者となったテンには、自分がどういうアーティストであるかを自覚し、どういう道を進むかというビジョンを示す「アーティシズム」という価値観を重視しているがゆえの判断であったことを一対一で丹念に伝えた。

合宿審査の第3ステージで脱落者となった最年少13歳(参加時)のルイには身体の成長と学業面でのサポートをすべく育成契約を打診。最終選考で落選したショウタにはアーティスト契約を、そしてランとレイコの2人には育成契約の道を提示した。

メンバーの個性や長所、改善点を的確に伝え、真正面から向き合ってきたSKY-HIの人間としての魅力が伝わったことが「THE FIRST」の支持が広がった最大の理由だろう。

そして、「THE FIRST」のクリエイティブ審査を通じて、参加メンバーたちの音楽表現への情熱と伸びやかな才能も視聴者たちに伝わってきた。与えられた課題をクリアするだけでなく、自らの個性を発揮し、作詞作曲や振り付けも自ら手掛けることのできる創造性も大きなポイントとなってきた。

8月13日に発表された7名のメンバーは、ソウタ、シュント、マナト、リュウヘイ、ジュノン、リョウキ、レオ。最終審査を通過したBE:FIRSTのメンバーには、単なる「推し」の対象としての人気だけでなく、それぞれのアーティスト性への支持も広がっていた。そのことが「Shining One」のチャートアクションにつながったとも言える。

プロジェクトの目標は世界で活躍する日本発のボーイズグループを作ること。BE:FIRSTは日本のダンス&ボーカルシーンにとって一つの光明となるかもしれない。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事