星野源、LiSA、YOASOBI――無観客の『紅白』であらわになった歌の力

(番組ホームページから)

『第71回NHK紅白歌合戦』が、初の無観客で開催された。

今回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策のため、演出や構成も一変。例年はNHKホールから中継が行われていたが、「NHKホール」「101スタジオ」「オーケストラスタジオ」をステージとして活用し、審査員ルームも別に設置。NHK放送センター全体を舞台にした生放送となった。

そのことによって何が変わったか。

お祭り騒ぎの賑やかしから、歌を聴かせることに徹した演出へ

まず気付いたのは、お祭り騒ぎ的なコラボ演出が目に見えて減っていたことだ。近年の『紅白』では、演歌歌手の背後でアイドルグループが踊ったり、芸人やキャラクターが「応援ゲスト」として登場したりするような、賑やかしの企画が定番となっていた。特に前半から中盤にかけては、会場の観客を巻き込んだ盛り上がりも目立っていた。しかし今年は、密集を避けるという意図もあり、こうした企画はほぼ行われなかった。

その一方で増えていたのは、歌を聴かせることに徹した演出だった。

特に印象的だったのは、「愛をこめて花束を」で迫力ある歌声を聴かせたSuperflyや、ベートーヴェンの交響曲「田園」のフレーズを散りばめたアレンジで「田園」を歌い上げた玉置浩二など、オーケストラスタジオで東京フィルハーモニー交響楽団と共に圧倒的な歌唱力を見せた歌手たちのパフォーマンスだった。

今年「香水」で大ブレイクを果たし初出場を果たした瑛人も、相棒であるギタリストの小野寺淳之介と2人きりのステージ。シンプルな演出で歌を真っ直ぐに届けるパフォーマンスを見せた。

全編を通して、話題性やエンタメ性よりも歌の力が記憶に残った『紅白』だった。無観客ということこそ異例だったが、実は原点回帰とも言える番組構成だったのではないだろうか。

「小説を音楽にする」コンセプトを体現したYOASOBIの空間演出

ここからは、特に印象的だったパフォーマンスについて触れていきたい。

まずは、この『紅白』がテレビ初歌唱の場となったYOASOBI「夜に駆ける」。Billboard JAPANの総合ソング・チャート「JAPAN HOT 100」で年間1位を獲得、ストリーミング再生回数は累計3億回を突破した、2020年最大のヒットソングだ。

NHKでの演奏ではなく中継でのパフォーマンスで、舞台に選ばれたのは埼玉県所沢市の「角川武蔵野ミュージアム」にある「本棚劇場」。高さ約8メートルの巨大本棚にびっしりと並べられた本を背景に、プロジェクションマッピングの映像をまじえ、バンド編成の演奏と共に歌を披露した。

「小説を音楽にする」ことをコンセプトに活動しているYOASOBIにとって、本棚劇場はそのコンセプトを体現するうってつけの場所と言えるだろう。そして、司会の内村光良が「やっと生の歌を聴けるんですよね」と紹介したように、多くの人にとって、この『紅白』がYOASOBIの姿を観た初めてのタイミングとなる。そこで見せたikuraの歌唱力、壮大な空間演出は、2021年のさらなる活躍を予期させるものだった。

「2020年の顔」としての存在感を見せたLiSA

「アニメ『鬼滅の刃』紅白SPメドレー」として「紅蓮華」と「炎」の主題歌2曲を続けて披露したLiSAのパフォーマンスも大きな注目を集めた。

紅白最後の出場となった嵐に続いてLiSAが出演した時間帯は、2020年の『紅白』のハイライトの一つだったと言える。映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が興行収入歴代1位となり、レコード大賞も受賞と、まさに1年の顔とも言うべき活躍だ。

『紅白』では、今回のために特別編集された『鬼滅の刃』のアニメーション映像を背景にしたパフォーマンス。話題性もさることながら、力強く情感あふれた歌声が鮮烈だった。

社会の分極化が進む2020年を象徴する「うちで踊ろう(大晦日)」

そして、最も印象に残ったのは、星野源による「うちで踊ろう(大晦日)」だった。

新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛期間中に自身のSNSで公開され、様々なコラボを巻き起こし社会現象化した同曲。『紅白』では原曲に2番の歌詞と構成を加えた新しいバージョンを初披露した。

「今、この時間を生きている皆さんに向けて、生活している皆さんに向けて、一緒に心のうちで踊りたい、そういう気持ちを込めて新しい歌詞を書きました。ぜひよろしくお願いします」

そう告げて、ギターの弾き語りから演奏をスタート。「年を越せれば明日が生まれるなら 歌おう一緒に」と年末にあわせて変えた歌い出しを経て、円形に向かい合い軽快な演奏を響かせるバンドメンバーのもとへ向かう。そして、サックスのソロを経て披露した2番の歌詞には、新型コロナウイルスの感染拡大だけでなく、世界中で分断があらわになった2020年を示唆するような言葉が綴られていた。

出演後に更新された星野源のツイッター公式アカウントには、この曲の歌詞が掲載されている。

2番は、こんな歌い出しから始まる。

常に嘲り合うよな 僕ら

“それが人”でも うんざりださよなら

変わろう一緒に

――「うちで踊ろう(大晦日)」(星野源作)より引用・以下同

「今こそ歌おうみんなでエール」をテーマに掲げた第71回紅白歌合戦。困難な時代を乗り越えるべく「みんな」や「共に」といったキャッチフレーズが番組のあちこちで叫ばれるなか、星野源がこだわったのは「ひとり」という表現だった。

2番の歌詞には《飯を作ろう ひとり作ろう》《風呂を磨いて ただ浸かろう》と、ひとりで過ごす生活を描写する言葉が続く。後半ではこんな歌詞も歌われる。

愛が足りない

こんな馬鹿な世界になっても

まだ動く まだ生きている

あなたの胸のうちで踊ろう ひとり踊ろう

変わらぬ鼓動 弾ませろよ

生きて踊ろう 僕らずっと独りだと

諦め進もう

「みんな」という言葉が象徴する安易な一体感への反発と、それぞれが別々の「ひとり」だからこそ重なり合うことができるという繋がりへの願い。こうした意図は、最初に「うちで踊ろう」という楽曲を発表したときから星野源の中にあったものだった。

2020年4月に行われた『Rolling Stone Japan』のインタビューで星野源はこう語っている。

昔から「みんなでひとつになろう」的な言い方が好きじゃないんです。人と人はひとつにはなれない。死ぬまで1人だと思う。でも、手を取り合ったり、想いを重ね合うことはできる。そこに一つの大事なものが生まれるんだと思うんです。

Rolling Stone Japan「星野源が自宅から語る、「うちで踊ろう」の真意とこれからの過ごし方」

https://rollingstonejapan.com/articles/detail/33652

上記のインタビューで語っているとおり、こうした彼の価値観は以前から歌の中に表れている。2010年にリリースされたソロデビューアルバム『ばかのうた』の1曲目に収録された「ばらばら」では、このように歌われる。

世界は ひとつじゃない

ああ そのまま ばらばらのまま

世界は ひとつになれない

そのまま どこかにいこう

(中略)

あの世界とこの世界

重なり合ったところに

たったひとつのものが

あるんだ

「そもそもみんなは『ひとつ』になれない、だからこそ重なり合う部分を尊重しよう」というこの曲に込められたメッセージは、社会の分極化が進む10年後の今になって、よりアクチュアリティが増していると言えるだろう。

そういう意味でも、「うちで踊ろう(大晦日)」は、2020年という「特別な1年」を最も象徴する1曲だったように思える。

他にも記憶に残るパフォーマンスは沢山あった。「ステイホーム」の年末、久しぶりに『紅白』を観たという人も多いだろう。そして、NHKプラスでの見逃し配信やYouTubeのNHK公式チャンネルでの動画公開など、インターネットへの積極的な展開も今回の『紅白』からの特筆すべき取り組みと言える。

お祭り騒ぎの賑やかしに頼ったエンタメ路線ではなく、歌と演奏にフォーカスをあて、ヒット曲を通して1年を振り返る『紅白』は、コロナ禍が収束した後も是非続けていってほしいと思う。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】