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Q. リクルートの「リボンモデル」に次ぐ新たなビジネスモデルとは?

A. 個人ユーザーと企業クライアントがそれぞれ両側にいることは変わらないが、これまでのマッチングプラットフォームに加えて、SaaSの提供により、顧客の業務・経営支援を行うモデルに進化している。

この記事はゆべしさんとの共同制作です。

本日は、リクルートの「リボンモデル」に次ぐ、新たなビジネスモデルについて解説します。

リクルートは、日本の代表的な企業の1つであり、リクナビやリクナビNEXT(人材領域)、SUUMO(住宅)、ゼクシィ(結婚)、じゃらん(旅行)、ホットペッパービューティー(美容)など、多くの業界で有名なサービスを多数展開しています。

リクルートと言えば、上記のようなメディアを通してリボンモデルと呼ばれる企業と個人をつなぐプラットフォームを展開し、その手数料で莫大な収益を上げてきたことで知られています。

そんなリクルートが、ビジネスモデルの転換を進めていることはご存知でしょうか?

この記事では、リクルートのビジネスの根幹にあるリボンモデルの紹介と、新たなビジネスモデルを採用するに至った経緯、新たなビジネスモデルの内容について紹介しています。

リクルートと言えば「リボンモデル」

Recruit Holdings 2022年3月期 通期決算説明会(2022年5月16日)

Recruit Holdings 経営戦略説明会 Help Businesses Work Smarter(2022年7月12日)

2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2022年5月16日)

https://recruit-holdings.com/files/ir/ir_news/upload/20220712_ps_jp.pdf
https://recruit-holdings.com/files/ir/ir_news/upload/20220712_ps_jp.pdf

リクルートのビジネスの根幹にあるのは、「リボンモデル」です。

リボンモデルは、簡単に言うと、「必要な情報を求める個人ユーザー」と「企業クライアント」がマッチングする場(プラットフォーム)を提供する、いわゆるマッチングビジネスです。このマッチングの仕組みをリボン結びの形になぞらえて図式化したことでリボンモデルと言われています。

リクルートは、このリボンモデルを通じて事業運営することで、最適なマッチングを実現し、個人ユーザーと企業クライアントの満足度を高め、より多くの個人ユーザー及び企業クライアントを獲得し、プラットフォームの価値を高めて成長してきました。

リクルートが感じたリボンモデルの限界

https://recruit-holdings.com/files/ir/ir_news/upload/20220712_ps_jp.pdf
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ここで、リクルートホールディングスの常務執行役員及び事業会社であるリクルートの代表取締役社長である北村氏のインタビュー記事を一部引用します。

この数年のデータで、各メディアサービスの顧客数が伸びていないまま、売り上げだけが上がっていたことが分かったのです。

我々が提供するメディア(じゃらん、ゼクシィ、ホットペッパーグルメなど)が獲得できる顧客数は、すでに限界に達しているのではないか。ひょっとして成熟の始まりではないか。

引用:リクルート社長が感じた「恐怖」。メディアからSaaS強化への真意

リボンモデルは、基本的に「個人ユーザー数や企業クライアント数を増やすこと」が成長ドライバーです。

そのため、リボンモデルをビジネスの軸として成長してきたリクルートにとって、各メディアサービスの顧客数が伸びていないという状況は、今後のより一層の成長を目指す上で非常に重要な課題であることが分かります。

SaaS型のAirシリーズの台頭

一方で、その中でもリクルートのメディア&ソリューション事業の中で圧倒的な成長を遂げているのが「Airレジ」に代表されるSaaS型の「Airシリーズ」です。

https://recruit-holdings.com/files/ir/library/upload/report_202203Q4_ps_jp.pdf
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Airシリーズのラインナップは、POSレジサービスであるAirレジに始まり、キャッシュレス決済サービスの「Airペイ」、簡単に求人募集ができる採用管理サービス「Airワーク」など、多くのサービスを展開しており、TVCMなどで見たことがある方も多いのではないでしょうか?

https://recruit-holdings.com/files/ir/library/upload/report_202203Q4_ps_jp.pdf
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このSaaSソリューションである「Airビジネスツールズ」はアカウント獲得が好調で、2022年3月時点でAirペイは約28.1万件(YoY+33.6%)、Airワークは約38.0万件(YoY+100%)と好調に推移しています。

Airレジなどの総称「Airビジネスツールズ」を中心とした、SaaS(Software as a Service)ソリューションの登録アカウント数は、リクルート7事業社の全メディアの顧客数を抜いたのです。そのほとんどが既存の顧客ではなかった。

引用:リクルート社長が感じた「恐怖」。メディアからSaaS強化への真意

SaaSを組み込んだ新たなビジネスモデル

ここで、リボンモデルと、Airビジネスツールズを含めたビジネスモデルを比較してみましょう。

https://recruit-holdings.com/files/ir/ir_news/upload/20220712_ps_jp.pdf
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前述した通り、必要な情報を求める個人ユーザーと、企業クライアントがマッチングする場(プラットフォーム)を提供する、いわゆるマッチングビジネスです。

https://recruit-holdings.com/files/ir/ir_news/upload/20220712_ps_jp.pdf
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次に、Airビジネスツールズを含めたビジネスモデルを見ると、個人ユーザーと企業クライアントがそれぞれ両側にいることは変わらないのですが、これまでのマッチングプラットフォームに加えて、SaaSの提供により、業務・経営支援を行うモデルに進化しています。

ここで、それぞれのビジネスモデルの矢印の位置に注目してみましょう。

リボンモデルでは、マッチングプラットフォームの上下左右に矢印が伸びています。これは、プラットフォームの横展開(人材から結婚へ、結婚から住宅へ等の業種の拡大)と、個人ユーザー・企業クライアント数の拡大を意味しています。

一方、Airビジネスツールズを含めたビジネスモデルでは、「予約・注文/申込・決済」と書かれた領域から上下に矢印が伸びています。これは、業務プロセスのバーティカル化(決済からシフト管理へ、シフト管理から採用管理へ等の業務プロセスの拡大)を意味しています。

また、Airビジネスツールズを含めたビジネスモデルでは、青の点線で囲まれているリクルートの事業領域が拡大していることから、より一層影響力を強めるというメッセージとも受け取れます。

このように、リクルートは、単純なSaaS企業として事業モデルの転換を図っているのではなく、メディア事業と併せてSaaSによる業務支援を行うことで、バーティカルに価値提供を行い、顧客とより一層強固な関係を構築するビジネスモデルに変換しています。

マッチングメディアからSaaSを展開するメリット

ここで、リクルートのように、既存事業であるマッチングメディアから、新規事業であるSaaSを展開することのメリットについて考えてみましょう。

(1) 顧客との接点がすでにあること(集客観点)

(2) 顧客のビジネスを理解できていること(プロダクト開発観点)

1つ目は、既に顧客接点があることで、ビジネスを立ち上げた際に、大きなマーケティング費用や営業リソースをかけずとも、既存の顧客接点を効率よく活用することで集客できたり、テストマーケティングも行いやすいというメリットがあります。

2つ目は、顧客ビジネスの解像度が高いことで、顧客の本質的な課題を正確に捉えやすくなるというメリットです。顧客の課題やニーズを正確に捉えることはプロダクト開発の根幹なので、これは非常に大きなメリットと言えるでしょう。

冒頭でも紹介した通り、リクルートは多くの業界で多様なサービスを展開していることから、SaaSのような新規事業を立ち上げる上で、上記のメリットを存分に享受することができる最高の環境であることが伺えます。

メディアからのSaaS展開#1 GA Technologies

最後に、リクルートの他にも、メディア事業からSaaSへの事業展開を行った事例は複数あります。本日はその事例の中から2社を紹介します。

株式会社GA Technologies FY2022.10 2Q 決算説明資料(2022年6月14日)

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3491/tdnet/2143180/00.pdf
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3491/tdnet/2143180/00.pdf

1つ目の事例はGA Technologiesです。同社は、不動産取引における、仲介会社・管理会社とエンドユーザーを結ぶプラットフォームサービス「RENOSY(リノシー)」等を提供している不動産テック企業です。

そんなGA Technologiesは、2018年10月に不動産仲介会社や管理会社向けに業務効率化のためのSaaSを提供するイタンジの完全子会社化を発表しました。同じ事業領域で活躍する両社が、これまで蓄積した各種データやテクノロジー、ノウハウ等を相互に補完することがこの買収の目的です。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3491/tdnet/2143180/00.pdf
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3491/tdnet/2143180/00.pdf

両事業の業績を見てみると、FY2022Q2時点で両事業ともに高い成長率を実現しています。

メディアからのSaaS展開#2 エネチェンジ

ENECHANGE株式会社 2022年12月期 第1四半期(2022年5月13日)

https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/2122803/00.pdf
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/2122803/00.pdf

2つ目の事例はエネチェンジです。エネチェンジは「エネチェンジ」という電気とガスの比較メディアを祖業としており、次のステップとして電力・ガス会社へのSaaSの提供を進めています。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/2122803/00.pdf
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/2122803/00.pdf

エネチェンジの場合は、メディアについてもフロー型の収益ではなくストック型収益を得られる仕組みを構築しており、SaaSと同じサブスクリプション(継続課金型)の考え方で事業運営している点が非常にユニークです。

エネチェンジについては、過去にこちらの記事で紹介していますので、是非ご覧ください。

Q. 新規上場の電力比較メディア「エネチェンジ」がARRを重要KPIとする理由とは?

まとめ

本日は、リクルートの「リボンモデル」に次ぐ、新たなビジネスモデルであるSaaSビジネスについて整理してきました。

・リクルートの根幹にあるリボンモデルは、必要な情報を求める個人ユーザーと、企業クライアントがマッチングする場(プラットフォーム)を提供する、いわゆるマッチングビジネス

・リクルートの提供するメディアの顧客数は伸びておらず、売上だけが成長している状況であるが、SaaSモデルであるAirレジ等の「Airビジネスツールズ」は好調に成長している

・リクルートのビジネスモデルは、既存のメディア事業と併せて、SaaSによる業務支援を行うことで、バーティカルに顧客に価値提供するビジネスモデルに変わっている

・メディア事業からSaaSサービスを立ち上げるのは集客視点やプロダクト開発の視点で非常にメリットが大きい

日本の代表的な企業の1つであるリクルートの更なる成長に、引き続き注目していきたいと思います。

企業や社会の次の動きはすべて「数字」が物語っている――。アメリカ・日本のネット企業(上場企業)を中心に、企業の決算情報から「次の一手」を読み解くコラム。経営者だけでなく、決算を基礎から学びたいビジネスパーソンや学生にも役立つ情報を届けます。

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