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5月29日の再開を発表したサッカーポーランド1部リーグ。再開を決められた要因、そしてその対策とは

柴村直弥プロサッカー選手
マンチェスター・ユナイテッドでもスカウトを務めたラドスワフ・クチャルスキ氏

 4月25日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中断しているポーランドのプロサッカーリーグ、エクストラクラサ(ポーランド1部リーグ)は、5月29日に再開し、7月19日までに終了する予定だと発表した。

 リーグ再開については、政府、ポーランドサッカー協会、エクストラクラサ、各リーグのクラブオーナーや代表者が、医者や弁護士や広報を含めて協議を続けていた中で、最終的にはマテウシュ・モラヴィエツキ首相がリーグ再開について許可を出したという形である。

 ポーランドはまだ国内で欧州諸国に比べてそれほど多くの感染者が出ていない状況であった3月15日からロックダウンを行い、感染者増加を抑えてきた。4月29日現在のポーランド国内の感染者数は12,218人であり、日本の13,852人とも大きくは違わない上、感染者数の推移も政府発表の数字上では現在似たような状況が続いている。

国別感染者数の推移(累積)【外務省海外安全ホームページより】
国別感染者数の推移(累積)【外務省海外安全ホームページより】

 そうした中で、5月29日のリーグ再開を決めたことにはどんな要因があるのか。

 エクストラクラサ優勝13回を誇り、直近7シーズンでは5回優勝、今シーズンも現在首位につけているレギア・ワルシャワのスポーツダイレクターを務める、ラドスワフ・クチャルスキ氏に話を聞いた。

「この難しい決定を下すには、多くの『小さな』理由がありました。メインはスポーツの理由でした。クラブにとって、リーグ中断の状況で順位を決定することを避けるために、シーズンを終えることは重要でした。私たちは、クラブが管理上の決定ではなく、スポーツの結果によってその地位を達成することを望んでいます。これは、リーグでの存続や上位リーグへの昇格を目指して戦っているクラブにとって特に重要です。そして2番目の重要な理由は財政でした。リーグへの放映権の支払いは約1,500万ユーロ(およそ17億円)です。これはすべてのクラブの予算の非常に重要な部分です。」

ー再開の決断は適切だと思いますか?それとも早すぎると思いますか?

「私たちはこの決定について長い間議論し、考えました。ポーランドサッカー協会及びエクストラクラサとも話し合いました。先週(4月19日からの週)もその会議を行いました。クラブのオーナーと理事、マーケティングスタッフ、弁護士、医者も含まれるグループの会議です。会議中に、サッカーをできるだけ安全に戻すための多くのシステムを作成しました。マテウシュ・モラヴィエツキ首相の決定により、5月4日にスタジアムとサッカーピッチのトレーニングに戻ることができます。もちろん、私たちはすべての安全制限(分離、個別トレーニング、距離など)を考慮する必要があります。サッカーの試合に向けて段階的に準備し、これらの新しい条件に適応する必要があります。それはサッカーに関わるすべての人々にとって新しい経験であり、政府の決定に適応するために創造的でなければなりません。」

ーどのような段階を踏んでいくのですか?

「4月20日から選手たち(スタッフ含む)はスポーツ隔離(同居家族以外の人との接触を避ける)状態になっています。そして、そのすべての選手たちは定期的に医療スタッフによって体調を管理されています。選手たちは携帯電話に特別なアプリケーションをダウンロードし、その中の質問に毎日回答します(このアプリでは、その日の体調、朝と夕方の体温をチェック)。危険な症状(咳など)がある場合は、すぐに医師からチェックされます。5月2日と3日に、すべての選手たちがCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のチェックを受けます。5月4日からスタジアムでのグループトレーニングを行いますが、最初は小グループでトレーニングを行います。選手たちのクラブへのすべての入口は隔離され、すべての入口で体温のチェックが行われます。さらに、トレーニング中にすべての安全ポイントを作成します。ロッカールームは消毒しますが、トレーニングの最初のフェーズでは選手たちはスポーツウェアでクラブに到着し、クラブのロッカールームを使用しません。最初のグループは6人の選手たちになります。キッチンは特別に準備され、ウイルスもチェックされます。」

 現状ではエクストラクラサ(ポーランド1部リーグ)は5月29日再開、2部リーグと3部リーグは6月8日から再開、4部リーグ以下においては各地域の判断に委ねる形となっているが、基本的にはすべてのリーグの試合は当面の間無観客で行う予定であるとのこと。

ポーランド国内では国内制限措置の段階的制限解除を実施中

 ポーランド国内では日常生活及び経済活動への国内制限措置の段階的な解除行程案が行われており、すでに段階的に制限を解除している。

 4月25日のマテウシュ・モラヴィエツキ首相の記者会見では、5月4日からのスポーツ施設の利用制限が緩和され、サッカーや陸上競技などのスタジアム、学校の校庭、モータースポーツや航空のためのインフラ施設、ゴルフ場、乗馬クラブ、射撃場、アーチェリー場、ゴーカートサーキット、インラインスケートやローラースケート用のトラックは最大6名まで、ウォータースポーツ施設は最大2名まで、テニスコートは屋外のみの使用で最大4名まで可能と、スポーツの種類や場所によって人数制限を変えていく対策が発表された。

 施設を利用する際に2mのソーシャルディスタンスの確保、プレー中を除くスポーツ施設への移動の際の口と鼻を覆う義務、施設への使用者の通知、トイレ以外の衛生施設(更衣室、シャワールームなど)の使用禁止、施設使用前の手指消毒、用具のレンタル禁止、施設使用後の施設の用具等の消毒を行うことを前提としたものである。

 

 また、面積15平方メートルあたり1人の入場制限を設け、施設内での飲食を禁止した上での大規模商業施設の営業も5月4日から再開可能とし(フィットネスクラブや子供用遊戯スペースは引き続き閉鎖)、保育園及び幼稚園についても、5月6日より、両親が働いている家庭の子供たちを対象に、十分な衛生上の対策を講じた上での小規模な保育サービスの再開を可能としている(地方自治体の判断で閉鎖措置を取ることも可能)。

 

 世界が未曾有の危機に直面している中、新型コロナウイルスに感染して苦しめられている方々や大きなリスクを背負い奮闘されている医療従事者の方々、経済活動を止めることによって直接的に生活が困窮している方々や、子供がまだ幼く両親が共働きの家庭の方々、リモートワークが困難な業種の方々など、各国政府は様々なことを考慮して決断しなければならない難しい局面にある。そうした中で、他国政府の対策からその経過を見ていくことも、より適切な判断を行うことに繋がるだろう。

 もちろん産業や人口密度など様々な違いはあるが、勤勉で比較的日本人に似た国民性であり、感染者数及び推移状況が似通っているポーランドの事例と今後の推移は日本にとっても参考になるかもしれない。

 日本はG.W.に突入し、政府発表の1日の感染者数は減少傾向にはあるが、わずかな油断が即また感染者増加に繋がる予断を許さない状況でもある。政府の決断に加え、我々一人一人が不要不急の外出を避け、衛生管理を徹底し、自分が感染しているかもしれないという意識で日々過ごしていくことの積み重ねも、新型コロナウイルス感染拡大を防いでいくことへの極めて重要な要素である。

プロサッカー選手

1982年広島市生まれ。中央大学卒業。アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でプレーした後、徳島ヴォルティスでは主将を務め、2011年ラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。同年のUEFAELでは2回戦、3回戦の全4試合にフル出場した。日本人初となるラトビアリーグ及びラトビアカップ優勝を成し遂げ、2冠を達成。翌年のUEFACL出場権を獲得した。リーグ最多優勝並びにアジアで唯一ACL全大会に出場していたウズベキスタンの名門パフタコールへ移籍し、ACLにも出場。FKブハラでも主力として2シーズンに渡り公式戦全試合に出場。ポーランドのストミールを経て当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍した

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