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VRでよみがえった3D首里城でみる、沖縄の地形と地質

芝原暁彦古生物学者/福井県立大学 客員教授
VR映像として復元された首里城(西から東へ見下ろした様子)

首里城の復元

首里城は、沖縄県那覇市の首里と呼ばれる地域にある城趾です。かつて琉球王朝によって建造された同県で最大規模の城で、大きさは東西に約400m、南北に約270mあります。また2000年には首里城跡および琉球王朝の史跡群がユネスコの世界遺産に登録されました。

2019年10月31日の未明に、首里城の正殿から出火し、正殿と北殿、南殿などが全焼してしまい、世間に大きな衝撃を与えました。

しかしその後、朝日新聞社が、飛行機から撮影した首里城の写真データを大量に保管していたことが分かりました。そこで私の研究室では同社と提携し、この写真データを分析して首里城のVR映像を復元しました。

VR映像だけでなく、昔の首里城の写真や、復元に使われた航空写真なども同時に閲覧できる。
VR映像だけでなく、昔の首里城の写真や、復元に使われた航空写真なども同時に閲覧できる。

このデータは首里城と周辺の地形を360度から自由に閲覧できるだけでなく、20世紀初頭の写真や、復元に使われた航空写真などの豊富な歴史的資料も見ることが可能です。

復元に使われたのは、多数の写真から立体物を3Dで復元する「フォトグラメトリ」という技術です。フォトグラメトリはいまやスマホのアプリとしても普及している技術ですが、私が2016年に設立した「地球科学可視化技術研究所」(以下、地球技研)ではこの技術を博物館展示や地球科学に応用するための研究を行っており、今回はそのノウハウを首里城の復元に使いました。具体的には、発見された数百枚におよぶ首里城の写真の中からフォトグラメトリに適したものを選び出し、写真の復元や画質調整を行ったのち、高精度なフォトグラメトリを行って首里城を復元しています。このデータはVR専用のゴーグルやディスプレイを使って観察することも可能です。

VRディスプレイに出力し、裸眼で立体映像を観察できる(筆者作成/撮影)
VRディスプレイに出力し、裸眼で立体映像を観察できる(筆者作成/撮影)

3D映像で見る首里城

ではさっそく復元されたデータを使って、首里城の全体像を見ていきましょう。

首里城のVR映像(西から東へ見下ろした様子)
首里城のVR映像(西から東へ見下ろした様子)

上の画像は、復元した首里城の画像を西から東へ見下ろした状態です。

(1)が北殿

(2)が正殿

(3)が南殿

(4)が奉神殿

と呼ばれる施設です。首里城は二重の城壁に囲まれており、これら4つの施設は内側の城壁にあたる内郭に囲まれたエリアに立っています(下図の(5)が内郭)。

首里城のVR映像(北西から南東へ見下ろした様子)
首里城のVR映像(北西から南東へ見下ろした様子)

次に、首里城および城壁が立てられている周辺の地形を見てみましょう。

左:沖縄県の地形図(スーパー地形セット)、右:地質図(シームレス地質図)
左:沖縄県の地形図(スーパー地形セット)、右:地質図(シームレス地質図)

この図は、沖縄本島周辺の地形図と地質図です。左の地形図は地面の凸凹を表したもの、右の地質図は地面の下にある岩石や地層の分布を色分けで表したものです。首里城は、赤丸で示した沖縄本島の南部に位置しています。地質図を見ると、本島の南部は黄色と水色で塗られています。黄色は島尻層群と呼ばれる泥岩を主とした地層、そして水色は琉球石灰岩と呼ばれる岩石です。これらは中国大陸からやってきた大量の砂や泥が海底に堆積してできた地層と、その上にできたサンゴ礁が作った石灰岩の層で、全体的に500万年前よりも若い地層です。

ちなみに、沖縄本島の北部は黄色や緑色で分類された岩石が帯状に分布しています。これは約3億年前から5000万年前に堆積した古い地層で、プレートが大陸の下に沈み込む時に、海底にたまっていた堆積物が剥ぎ取られ、陸側に押し付けられた「付加体(ふかたい)」と呼ばれるものです。

では首里城周辺の地形をクローズアップしてみましょう。下の図の右側に赤丸で示したエリアが首里城です。

左:那覇周辺の地形図、右:首里城周辺の地形図
左:那覇周辺の地形図、右:首里城周辺の地形図

首里城は那覇市の北西側にある標高約100m~130mの台地の上に建てられており、那覇市を見下ろせる場所に位置しています。さきほどの琉球石灰岩はこの地域にも分布しており、首里城の土台になっているとともに、白の城壁や石垣もこの琉球石灰岩で作られています。この石灰岩はかつてのサンゴ礁が固まったもので、およそ100万~50万年前のものと考えられています。

琉球石灰岩(地質標本データベース)
琉球石灰岩(地質標本データベース)

この琉球石灰岩は、地質学的にはまだ新しい時代の岩石であるためしっかり固まっておらず、小さな穴がたくさん空いていて、水を通しやすい構造になっています。その琉球石灰岩の下には、さきほどの島尻層群に含まれる硬い泥岩が分布しています。こちらは緻密で水を通しにくい岩石です。両者とも、かつて海の中で堆積したものです。琉球石灰岩の元となったサンゴ礁は水深の浅い海で作られますが、海面の高さは地球の環境によって何十メートルも変動するため、そのたびに様々な場所でサンゴ礁が形成されます。それに地殻変動による隆起・沈降などの影響も加わり、現在は段丘状になった琉球石灰岩があちこちに残っています。首里城も、そうした場所の一つに建てられました。これまで紹介した地形データと、復元した首里城のVR映像を組み合わせると、その様子がよく分かります。

復元した首里城のVR映像を、上の地形図にはめ込んだ様子((1)北殿(2)正殿(3)南殿(4)奉神殿)
復元した首里城のVR映像を、上の地形図にはめ込んだ様子((1)北殿(2)正殿(3)南殿(4)奉神殿)

この泥岩と石灰岩の境目は、標高100~120m付近にあると考えられています。水を通しやすい石灰岩の表面に雨がしみこんでいくと、その下にある水を通しづらい泥岩との境界で地下水の流れができます。それが地層の外へ流れだし、湧水として首里城の周辺に点在しています。もっとも有名な湧水は首里城の北西側にある龍樋(りゅうひ)で、500年前から枯れたことがないと言われており、石灰岩で濾過された地下水の水質が良好だったことから、琉球王朝時代にも大いに利用されたようです。水の確保が容易で、なおかつ高台から周囲を見渡せるこの場所は、城の建設地として最適だったと言えるでしょう。

地層と湧水のイメージ図(筆者作成)
地層と湧水のイメージ図(筆者作成)

VR首里城の今後

このように、沖縄の地層と地形は、首里城の歴史と深く関わっています。今回、首里城は不幸にも火災という災禍に見舞われてしまいましたが、この火災の影響で、世界遺産からの登録が抹消されることはないそうです。

首里城、世界遺産抹消せず ユネスコ

そして首里城は最新の技術によって着実に復元が進んでいます。今もまた、新たに首里城の写真資料が続々と発見されており、これを利用してさらに高精度な復元データをつくるべく私たちは日々研究を重ねています。この記事で紹介したようなバーチャル首里城ツアーも可能となりますし、3Dデータを使った実際の建造物の復元作業などにも利用できます。そして今回の経験をもとに、世界中の様々な遺跡を、この技術を使って復元していきたいと考えています。

また10月28日現在、国内外から首里城再建の寄付が50億円以上集まっています。これも復元に向けた大きな力となるでしょう。

首里城再建の寄付が50億円突破、海外からも

失われた文化遺産や自然環境を失われたままにせず、デジタルで復元して未来へと繋ぐ。それがわれわれ自然科学や博物館学の研究者に課せられた、新しいミッションの一つだと考えています。今後の進展にぜひご期待ください。

奉神殿の拡大画像
奉神殿の拡大画像

[データ引用元]

・地形図:カシミール3Dスーパー地形セット(杉本智彦氏, https://www.kashmir3d.com/)

・地質図:20万分の1日本シームレス地質図(産総研地質調査総合センター, https://gbank.gsj.jp/seamless/)

・岩石標本写真:地質標本データベース(産総研地質標本館, https://www.gsj.jp/Muse/hyohon/rock/r38596.html)

・首里城復元データ:地球技研/朝日新聞フォトアーカイブ

[参考文献]

・新城竜一(2014)琉球弧の地質と岩石 沖縄島を例として, 土木学会論文集 A2(応用力学),70(2),I_3-I_11.

  • 2020.10.31 誤字・脱字修正しました。
  • 2020.11.3 動画を追加しました。
古生物学者/福井県立大学 客員教授

古生物学者。専門は地球科学と3Dモデリング・VR。筑波大学で博士号を取得後、つくば市にある産業技術総合研究所、および地質標本館を経て、2016年に地球科学可視化技術研究所を設立。2019年に福井県立大学 恐竜学研究所の客員教授に就任、2020年に同研究所と「恐竜技術研究ラボ」を始動。日本地図学会、東京地学協会の各委員を務める。主な著書に「特撮の地球科学」(イースト・プレス)、「化石観察入門」(誠文堂新光社)、「恐竜と化石が教えてくれる世界の成り立ち」(実業之日本社)ほか多数。Eテレ「ビットワールド」出演。「ウルトラマンブレイザー」地学監修、「日本沈没 -希望の人-」地図監修。

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