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腹筋崩壊太郎が怪人化、モチーフの生物は? 仮面ライダーゼロワン登場の古生物を解説

芝原暁彦古生物学者/福井県立大学 客員教授
ゼツメライズキーのモチーフとなった古生物たち(イラスト提供:ツク之助)

令和初の仮面ライダー、テーマは人工知能と古生物

 皆さま、仮面ライダーはご覧になっていますか?

 毎年、凝ったシナリオと先進的なライダーたちのデザインが目を引き、大人も子供も楽しめる作品が誕生していますね。

 最新作は、2019年9月1日より、テレビ朝日系列で毎週日曜9:00- 9:30に放送されている「仮面ライダーゼロワン」。令和になってからスタートした最初の仮面ライダーで、新時代の到来にふさわしいものとして人工知能(AI)がテーマとなっており、国立情報学研究所という実在の研究所が監修に加わっている事でも話題となっています。

 そして本作に隠されたもう一つの大きなテーマとして「古生物」があります。最新科学と古生物という新旧の組み合わせは、とても魅力的ですね。

古生物がモチーフ?「ゼツメライズキー」とは

 さて、作中で登場する変身アイテム「ゼツメライズキー」は、テロリスト集団である「滅亡迅雷.net」が保有しており、これを人工知能搭載人型ロボ「ヒューマギア」が装着してしまうと、「マギア」と呼ばれる怪人に変身すると言う恐ろしげな描写がなされています。

 この「ゼツメライズキー」ですが、地球上から絶滅してしまった古生物をモチーフにしています。

 どういった古生物がラインナップされているかを見てみましょう。

 公式サイトに掲載されている12種類のゼツメライズキーを順番に書き出してみると、

1. べローサ(昆虫)

2. クエネオ(爬虫類)

3. エカル(哺乳類)

4. ネオヒ(頭足類)

5. オニコ(哺乳類)

6. ビカリア(腹足類)

7. ガエル(両生類)

8. マンモス(哺乳類)

9. ドードー(鳥類)

10. アルシノ(哺乳類)

11. アウェイキングアルシノ(哺乳類)

12. ジャパニーズウルフ(哺乳類)

となります。

元ネタとなった古生物たち

 これらのゼツメライズキーの元ネタになったと考えられるそれぞれの古生物について見ていきます。

 1のべローサは、第1話でなかやまきんに君が演じたお笑い芸人型ヒューマギア「腹筋崩壊太郎」が装備していたゼツメライズキーです。腹筋崩壊太郎は人を笑わせることが仕事で、サスペンダー付き短パンを履き、上半身裸で首に蝶ネクタイと名前に劣らず外見も個性的。持ちネタ「腹筋パワー」を披露した際に腹筋部分の装甲を吹き飛ばしたりと、なかやまきんに君の持ち味を余すところなく引き出しています。

 そのキャラクターの濃さからTwitterやYahoo!リアルタイム検索では「なかやまきんに君」だけでなく「腹筋崩壊太郎」「腹筋崩壊太郎ロス」までがトレンド入りする事態に発展しました。

 モチーフとなった昆虫はKujiberotha teruyukii(クイベロータ・テルユキイ)。これは約8600万年前の後期白亜紀の地層から見つかった琥珀の中に入っていた昆虫の化石で、2006年に発見されました。「テルユキイ」とは、昆虫好きで知られ認知度拡大に貢献している俳優の香川照之(かがわてるゆき)さんにちなんだ学名です。カマキリに似た鎌状の脚を持っていますが、アミメカゲロウ目トガマムシ科に属する新種の昆虫です。岩手県久慈市の「久慈琥珀博物館」に収蔵されています。仮面ライダーの作中でも鎌を使って戦っていたのは、こうした絶滅動物の情報が元になっていたためと思われます。

 2のクエネオは、後期三畳紀に生息していた「クエネオスクス」という翼を持った小型の爬虫類「クエネオスクス」がモチーフと思われます[1]。配達員型ヒューマギア「オクレル」が装備させられていました。やはり翼のような物体を生やしています。

 3のエカルはオーストラリアに生息していた「エカルタデタ」という哺乳類が元ネタ。カンガルーに近い種類だったと考えられています。警備員型ヒューマギア「マモル」が装備していました。

 4のネオヒは「ネオヒボリテス」というべレムナイトの仲間。べレムナイトは恐竜時代の最後である白亜紀末期に絶滅した頭足類で、現在のイカに近い生物だったと考えられており、身体の中に矢じり状の殻を持っていました。この殻が化石化したものを矢石(やいし)と呼びます。劇中でイカのような触手を使っていたのは、こうした生物をモチーフにしているからでしょう。美容師ヒューマギア「シザーメンズ」が装着しました。

矢石の化石。引用元:産業技術総合研究所 地質情報データベース(政府標準利用規約2.0にもとづく)。
矢石の化石。引用元:産業技術総合研究所 地質情報データベース(政府標準利用規約2.0にもとづく)。

 5のオニコは、「オニコニクテリス」と呼ばれるコウモリの仲間。恐竜が絶滅したあとの新生代初期に生息していました。劇中でも、コウモリのような翼で飛行していました。タクシー運転手型ヒューマギア「バース」が装備。

 6のビカリアは、そのまま「ビカリア」と呼ばれる巻貝で、棘が並んだ殻を持っていました。温暖な環境で生息していたと考えられており、日本やインドネシアなどで化石が数多く発見されています。劇中では棘のついたドリル状の武器で戦っていましたが、これもこの殻のデザインを元にしていると思われます[2]。漫画家アシスタント型ヒューマギア「森筆ジーペン」と、弁護士型ヒューマギア「弁護士ビンゴ」が装備しました。

ビカリアの化石標本。富山県産。 引用元:産業技術総合研究所 地質情報データベース(政府標準利用規約2.0にもとづく)。
ビカリアの化石標本。富山県産。 引用元:産業技術総合研究所 地質情報データベース(政府標準利用規約2.0にもとづく)。

 7のガエルは「イブクロコモリガエル」と呼ばれる両生類。オーストラリアで1980年代まで生息していたと考えられています。声優型ヒューマギア「香菜澤セイネ」が装着。

 8のマンモスは有名ですね。全身が長い毛で覆われたゾウ類で、地球の気候がとても寒かった時代に、ロシアやアメリカなど北半球の北部に広く生息していました。日本でも北海道などから化石が発見されています[2]。体育教師型ヒューマギア「坂本コービー」と、消防士型ヒューマギア「119之助」が装着。

マンモス(イラスト提供:ツク之助)
マンモス(イラスト提供:ツク之助)

 9のドードーは、マダガスカルの東側にあるモーリシャス島に生息していた鳥類です。こちらは1680年代までに絶滅したとされています。空は飛べなかったと考えられていますが、その愛らしい外見からか映画や小説のキャラクターとして登場することも多く、2020年に発売された「あつまれ どうぶつの森」でも、作中の航空会社「ドードー・エアラインズ」のモチーフになっています。滅亡迅雷.netが送り込んだ「暗殺ちゃん」と呼ばれる敵のヒューマギアが装備します。また仮面ライダー雷(いかづち)の変身にも使われます。

ドードー(イラスト提供:ツク之助)
ドードー(イラスト提供:ツク之助)

 10, 11のアルシノは「アルシノイテリウム」が元となっています。アフリカなどに生息していた全長3メートルの大型哺乳類で、二股に分かれた巨大な角を持っていました。上野にある国立科学博物館の地球館で、全身骨格を見ることができます。劇中で頭に大きな角を持っていたのはこうした理由です。俳優型ヒューマギア「松田エンジ」装備、また発展型の「アウェイキングアルシノ」はZAIAエンタープライズ 社長の天津垓が装備し、仮面ライダーサウザーへと変身します。

アルシノイテリウム(イラスト提供:ツク之助)
アルシノイテリウム(イラスト提供:ツク之助)

 そして12のジャパニーズウルフは「ニホンオオカミ」です。かつては日本中に広く生息していたと考えられますが、20世紀の頭には絶滅したとされます。滅亡迅雷.netに所属するヒューマギア、「亡(ナキ)」が装備し、仮面ライダー亡へと変身します。

ニホンオオカミ(イラスト提供:ツク之助)
ニホンオオカミ(イラスト提供:ツク之助)

まだまだある、古生物が登場する作品たち

 なぜ絶滅生物の情報を使って敵が変身しているのか?その理由はまだ完全に明かされたわけではありませんが、過去の生物が持っている情報は、それぞれの時代や環境を記録したものとも言えます。そうした情報をうまく利用しているのかも知れませんね。

 このように古生物がフィクションに登場する例は、過去にもいくつかあります。例えば2009年放送の「仮面ライダーW」では、やはり敵側が古生物の情報を使っている描写があります。また2019年までテレビアニメが放送されていた「新幹線変形ロボ シンカリオン」でも、恐竜や三葉虫などをイメージした敵がいくつか登場しました。

 もう現在では目にすることの出来ない古生物たちのデザインは、いつの時代も人々を魅了する力を秘めているのかも知れません。

追記(2020年7月27日午後15時09分)

「ドードーゼツメライズキー」部分の加筆、及びドードーの絶滅時期を修正しました。

参考文献

[1] リアルサイズ古生物図鑑 古生物のサイズが実感できる! 中生代編. 土屋健

(著), 群馬県立自然史博物館(監修), 株式会社技術評論社.

[2]  ああ、愛しき古生物たち- 無念にも滅びてしまった彼ら.土屋 健(著), 芝原暁彦(監修), ActoW(イラスト), 笠倉出版社.

化石写真出展元

産業技術総合研究所地質調査総合センター地質標本データベース

(政府標準利用規約第2.0版にもとづき引用)

https://gbank.gsj.jp/musee/

古生物学者/福井県立大学 客員教授

古生物学者。専門は地球科学と3Dモデリング・VR。筑波大学で博士号を取得後、つくば市にある産業技術総合研究所、および地質標本館を経て、2016年に地球科学可視化技術研究所を設立。2019年に福井県立大学 恐竜学研究所の客員教授に就任、2020年に同研究所と「恐竜技術研究ラボ」を始動。日本地図学会、東京地学協会の各委員を務める。主な著書に「特撮の地球科学」(イースト・プレス)、「化石観察入門」(誠文堂新光社)、「恐竜と化石が教えてくれる世界の成り立ち」(実業之日本社)ほか多数。Eテレ「ビットワールド」出演。「ウルトラマンブレイザー」地学監修、「日本沈没 -希望の人-」地図監修。

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