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左派政党・正義党代表、同党女性議員へのセクシャルハラスメントで解任

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
セクシャルハラスメントを行い解任となった、正義党の金鐘哲前代表。正義党提供。

韓国の左派政党・正義党の代表を務める人物が、同党所属の女性議員にセクシャルハラスメントを犯した事が明らかになり、韓国社会に衝撃を与えている。被害者の議員は心境を明らかにする文章を発表した。

●「同意のない身体接触」

韓国の左派政党・正義党は25日午前、国会で会見を開き、金鐘哲(キム・ジョンチョル、50)代表が同党所属の女性議員、張惠英(チャン・ヘヨン、33)氏にセクシャルハラスメントを行ったと発表し、同代表の職位を解除したことを明かした。

同党によると、事件が起きたのは1月15日。金代表と張議員は国会議事堂がある汝矣島(ヨイド)で面談を兼ねた夕食を取っていたが、別れる際に金代表が「被害者が望まず、全く同意のない身体接触を行う」セクシャルハラスメントに及んだという。

張委員は1月18日にこの事実を党のジェンダー人権本部長である、党副代表に報告したという。その後、党は当事者たちに対する何度かの調査を重ねた後、この日の発表となった。

なお、加害者である金代表は、事件後に「全ての事実を認めた」上で張議員に謝罪し、辞任を申し出たとのことだ。それでも党は改めて25日に中央党紀委員会を開き、金代表の職位を解除した。職位解除とは、文字通り代表職を解除するというもので、事実上の解任となる。

25日、このニュースが韓国社会に伝わるや、SNSには同党を支持してきた市民たちによる「ショックを受けた」との書き込みが相次いだ。

正義党とは、議席数はわずか6議席(定数300)に過ぎないものの、韓国のジェンダー平等をけん引してきた政党であり、重大災害法の制定など弱者に寄り添う政党として確たる存在感を持っている代表的な左派政党だからだ。

さらに、金前代表は同党の前身の民主労働党時代からの言わば「生え抜き」である点、昨年10月の党代表選で勝利しそれまで同党の「顔」だった沈相奵(シム・サンジョン、61)氏からの世代交代をけん引する役割を求められていた点などもあり、同党に与える影響は大きい。

正義党は今後の取り組みについて、「原則的そして断固とした立場でこの事案を解決していく」と明かし、「被害者の意思を最大限に尊重しながら日常の回復を最優先課題とする」と述べた。告訴することは考えていないという。

さらに「加害者には無寛容(不寛容)の原則で、最も高い水準の厳重な処理指針をもって解決に臨む」とし、「被害者責任論や加害者同情論」といった「二次被害が起きないように最大限努力する」と強調した。

その上で、「性平等の実現のため先頭に立ってきた政党の代表による行われたセクシャルハラスメント事件である」として、「党員と国民の皆さんに致命的な傷を与えた」と深く謝罪した。

なお、金鐘哲前代表も同日にコメントを発表した。

その中で「許されないセクシャルハラスメント加害行為により、被害者には余りにも大きな傷を負わせました。特に被害者は平素、私に対する政治的な信頼を寄せてくれたのに、私はその信頼を裏切り背信で答えました。重ねて申し訳ありません」とし、「正義党と党員、国民の皆さんにも決してぬぐえない衝撃を与えてしまいました。心から謝罪いたします」とした。

セクシャルハラスメントの被害を受けた正義党の張惠英議員。同議員広報資料より引用。
セクシャルハラスメントの被害を受けた正義党の張惠英議員。同議員広報資料より引用。

●被害者の張議員「大きな衝撃と苦痛」

張議員は25日午前、自身のFacebookページを通じ「私が今回の事件の被害者であることを明らかにする」とし、今回の事件に対する立場を説明した。

張議員は、昨年4月の総選挙で比例当選した初当選議員。名門大学を中退後、発達障害を持つ妹を施設から連れ出し、17年ぶりに共に暮らす過程をドキュメンタリーとして公開するなど、社会的弱者への共感が非常に高い評価を受けている人物だ。韓国の進歩派を代表し、テレビ討論番組への出演も多い。

張議員が発表した文章には発表から二時間あまりが経つ現在、150を超える応援のコメントがついている他に、TwitterをはじめとするSNSで大きくシェアされ話題を呼んでいる。全訳は以下の通り。

金鍾哲代表セクシャルハラスメント事件に関する張惠英議員の立場文

愛する市民の皆さま、そして党員の皆さま。正義党国会議員の張惠英(チャン・ヘヨン)です。

先ほど、正義党の指導部は金鐘哲(キム・ジョンチョル)正義党代表が犯したセクシャルハラスメントに対し、性暴力への不寛容原則に基づき、懲戒手続きである中央党紀委員会に提訴し職位解除をしました。

加害者はすべての加害事実を認めて謝罪し、すべての政治的責任を受け入れました。そして私は今日、この文章を通じて私が今回の事件の被害者であることを明らかにします。

共にジェンダー暴力の根絶を訴えてきた政治的同志であり、心から信頼していたわが党の代表から、私の平等な人間としての尊厳を毀損された衝撃と苦痛は実に大きいものでした。

また、毀損された人間的尊厳を回復するために問題提起する過程で、私は他の様々な恐怖と不安に向き合わなければなりませんでした。

それにもかかわらず、このように問題を提起し公に責任を問うことを決めたのは、これが私の人間としての尊厳を回復し日常に戻るための道であり、私が深く愛し身を寄せている正義党と私たちの社会のための道だと信じたからです。

また、例え加害者が党の代表だとしても、いやむしろ党の代表だからこそ、正義党が断固とした不寛容の態度で事件を処理するだろうという信頼があったからです。

私は大韓民国の第21代国会議員です。私の日常は政治の最前線です。性暴力に断固として立ち向かい、ジェンダー平等を声高に訴えるのは、私の政治的な使命です。

政治とは自分の真実の経験に照らし合わせ、市民と価値を疎通するものです。被害の事実を公開することで、私に押し寄せてくる不当な二次被害がとても怖いです。しかしそれよりも怖いのは、自分自身を失ってしまうことです。

万一、被害者である私と国会議員である私を分離して、被害者を保護するという理由で永遠に被害事実を隠して生きていくなら、私は逆にこの事件に永遠に閉じ込められてしまうでしょう。

だからこそ私は、自分が経験した苦痛について話し、この問題から本当に自由になろうと思います。そうして、政治という私の日常に戻ろうと思います。

今度の事件を経験しながら深く悟ったことがあります。すでに知っていることと思っていた事ですが、もう一度深く分かったことを皆さんにお話ししたいと思います。

最も重要なことは、「被害者らしさ」というものは決して存在しないということです。どんな女性でも性暴力の被害者になる可能性があります。

私が現職の国会議員であるという事実は、決して私が被害者になれないという意味ではありませんでした。性暴力を犯す加害者がどこにでも存在する限り、誰でも性暴力の被害者になり得ます。

そして被害者はどんな姿であっても存在し得ます。私は事件発生当時から今まで、まるで「何事もなかった人」のように振舞うために最善を尽くしました。心の中ではどんなに苦しくても決まった日程を消化して討論会に出席し、会議を主宰しました。

人々は私の被害に気が付きませんでした。被害者の決まった姿はありません。ただ、数多くの「被害」があるだけです。被害者は皆さんのそばに平凡に存在する、すべての女性かもしれません。

日常を取り戻す方法にも「被害者らしさ」はありません。数多くの被害者はそれぞれのやり方で日常を回復します。ある人は自分をさらけ出すことで、他の人は自分をさらけ出さないことで日常を取り戻します。これらのすべての過程で、どんな「被害者らしさ」も強要されてはなりません。

これに劣らず重要な事実があります。それは「加害者らしさ」も存在しないということです。性暴力を犯す人が特に決まっている訳ではありません。

ただ私たちが知っているのは、現在起きている性犯罪の98%が男性によるものであり、その被害者の93%は女性だという事実です。誰でも同僚である市民を、同等な尊厳を持つ存在として接することに失敗する瞬間、性暴力の加害者になり得ます。その人物がどんなに以前まで立派な人生を送ってきたり、多くの人から尊敬される人だとしても、例外ではありません。

これこそが、metoo以後の世の中を生きていく私たちの前に横たわる質問です。

あれほどもっともらしい人生を生きている多くの男性さえ、なぜいつも目の前の女性を自分と同等に尊厳を持つ存在として接することに、これほど悲惨に失敗するのだろうか。

性暴力を犯す男性は、一体どうすれば女性が自分と同等に尊重されて当然の存在だという点を学習できるのだろうか。私たちはこの質問を直視しなければなりません。そして必ず答えを見つけなければなりません。

最後に申し上げたいのは、被害者が日常に戻るためには加害者の事実認定と真実性のある謝罪、そして責任を負う手続きが必要だということです。加害者みずからがこれを拒否するならば、社会が積極的にそうするようにしなければなりません。

しかし、これまで私たちが知っている数多くの加害者たちは、被害者の尊厳を深刻に傷つけながら、過ちを悔やみその回復を助けるよりも、被害者と事実をもって争うか、真実が明らかになった後もただ自己の安為を守ることに汲々としたり、責任をもって自分の誤った行動を謝罪する代わりに死ぬことにまで逃避して、被害者をより大きな苦痛に追いやっていきました。

私の場合、加害者が見せてくれた姿は少し違いました。加害者は私に被害を与える過程で私を同等な人間として尊重しませんでしたが、私が尊厳を回復し日常に戻る過程でやっと自分の過ちを認め謝罪し、私を人間として尊重するために最善を尽くしました。そのため私は怒りよりも、回復することに焦点を合わせることができました。

すべての人間には自分の過ちに直面し、責任を負う道徳的な能力があります。責任を持つ態度は人間らしさの最も重要な尺度です。過ちを犯した後に自分の過ちを認め、積極的に責任を負う態度は、これからすべての加害者が持つべき基本的な態度でなければなりません。

しかし、加害者たちが最後まで他人と自らの尊厳を損なう道をたどるなら、私たちの社会の法と制度は、共同体を破壊するようなそんな暴力を決して容認しないでしょう。

私は青少年時代から今まで、韓国社会で女性として生きてきて、無数の性暴力を経験してきました。しかしその度に、きちんと問題を提起することはできませんでした。問題を提起できると考えられず、問題を提起したとしても受け入れられないと思っていました。

「お前が傷つくだけだ」

数多くの被害者たちの口をつぐむようにするその言葉を、私もうんざりするほど聞きました。しかし今こうして私の被害事実について問題提起して話せるのは、勇気を出して語ってきた女性たちのおかげです。今も尊厳の最前線で戦っている同僚の市民に対する信頼があるからです。

勇気を出して正義に向かって一歩ずつ進んでいらっしゃる全ての方に心から感謝いたします。そして最後まで皆さんと共に戦います。どんな暴力の前でも声を出して立ち向かうことに躊躇しません。執拗に続いてきた性暴力の束縛を断ち切り、次の人は今よりも良い未来を迎えられるようにします。

今この瞬間も数多くの被害者は、依然として自分の尊厳を回復するため凄絶に戦っています。全ての被害者たちに心から連帯の気持ちを伝えます。私たちは必ず一緒に日常に戻ることでしょう。

市民の皆さん、そして党員の皆さんにも切実にお願いします。すべての被害者たちが日常に戻るその道を最後まで共にしてください。私たち自身の尊厳を守るためにも、同僚の市民たちの傷ついた尊厳を守る道を、共に歩んでいきましょう。

ありがとうございます。

2021年1月25日

正義党国会議員 張惠英

なお、正義党は同日正午過ぎに再度会見を開き、党規に従い副代表のキム・ユンギ氏を代表職務代行に決定したと明かした。

それと同時に「党の組織文化を改善し、性平等な組織文化のための対策を講じる」とし、「正義党にはセクシャルハラスメント事件に対し例外と寛容は無い」と改めて強調した。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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