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「必要だが不可能」…唯一の調査から見るリアルな北朝鮮住民の統一意識

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
今年10月朝鮮労働党創建75周年行事に参加した住民。朝鮮中央テレビをキャプチャ。

南北統一の必要性について、北朝鮮住民の認識が年々下がっている傾向が明らかになった。韓国の市民も同様の傾向を見せており、朝鮮半島の将来像への影響が注目される。

●韓国で唯一の体系的な北朝鮮住民意識調査

国立ソウル大学の統一平和研究院では、2008年から朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の人々を対象にした統一意識調査を実施している。

2011年からは、より北朝鮮での居住経験の実感を生かすために、調査年度の1年以内に北朝鮮を離れた人(いわゆる脱北者)に限り調査をしてきた。

比較的新しい経験を対象にすると同時に、毎年100人以上に話を聞くことで、衣食住などを含め時間軸による北朝鮮社会の変化も追えるのが特徴だ。北朝鮮で世論調査をするのは不可能なこともあり、韓国では非常に価値ある調査として認識されている。

今年の調査は7月25日から9月13日にかけて、2019年に北朝鮮を離れた108人を対象に対面形式で行われた。年齢別の内訳は20代が44人、30代が18人、40代が14人、50代が30人、60代以上が7人であり、男性34.3%、女性は65.7%だった。

学歴は高等中学校卒業(日本の高校卒業にあたる)が67%、専門学校・大学卒が25.7%だった。職業は労働者26.6%、商売人18.3%、主婦13.8%などだった。また、平均して脱北から3か月で韓国入りしていた。

●統一への期待と現実

(1)統一の必要性:あなたは北韓(北朝鮮)に住んでいた時、統一がどれほど必要だと考えましたか?

統一の必要性。右側のグラフの赤線が「とても必要」という回答だ。左は過去の調査の平均。「とても必要」が際立って高い。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
統一の必要性。右側のグラフの赤線が「とても必要」という回答だ。左は過去の調査の平均。「とても必要」が際立って高い。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

2020年の調査で「とても必要」との回答は80.7%。前年度よりも6.4%ポイント下がっている。95%近かった2010年代前半と比べると少しずつ下がっているのが分かる。「若干必要だ」は12.8%だった。

実はソウル大統一平和研究院は北朝鮮出身者を対象にしたものとは別に、韓国の国民を対象にした統一意識調査も行っている。

2020年の正式な報告書はまだ発表されていないが、10月中旬に暫定的に発表された資料を見ると、南北統一について「とても必要」と「若干必要」と答えた人々の合計は52.8%であった。一方、北朝鮮住民は93.5%にのぼる。南北の意識の差は歴然だ。

(2)統一の意思:あなたは北韓の住民が南韓(韓国)と北韓が統一することを、どれだけ願っていると思いますか?

北朝鮮住民の統一意思。右側のグラフの赤線が「とても願っている」だ。左のグラフは過去の調査の平均。ここでも「とても願っている」が際立つ。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
北朝鮮住民の統一意思。右側のグラフの赤線が「とても願っている」だ。左のグラフは過去の調査の平均。ここでも「とても願っている」が際立つ。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

2020年の調査では「とても願っている」との回答が78.9%だった。前年度よりも5.6%ポイント下がっている。

2011年から18年まで90%近かったことを考えると、落ち込みが分かる。調査開始以降、最も低い数値でここ2年間の落ち込みが目立つ。「若干のぞむ」は18.3%だった。

(3)統一の理由:あなたは北韓に住んでいた時、統一すべき最も大きな理由を次のうちどれだと思っていましたか?

統一の理由。右側のグラフの赤線が「同じ民族だから」で、水色の線が「北韓住民が良く暮らせるようにするため」だ。入れ替わりが激しい。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
統一の理由。右側のグラフの赤線が「同じ民族だから」で、水色の線が「北韓住民が良く暮らせるようにするため」だ。入れ替わりが激しい。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

これについて、2020年の調査結果は以下の通りとなった。

・同じ民族だから:45.0%

・離散家族の苦痛を解決してあげるため:不明

・南北間の戦争の危険を無くすため:不明

・北韓の住民が良く暮らせるようにするため:24.8%

・北韓がより先進国になるため:11.0%

なお昨年は、「同じ民族だから」が27.6%、「北韓の住民が良く暮らせるようにするため」46.6%であった。

数値がほぼ入れ替わっていることになるが、これについて北韓大学院大学のオム・ヒョンスク研究教授は「『北韓の住民が良く暮らせるようにするため』という項目には北朝鮮当局に対する否定的な見解が、『同じ民族だから』という項目には(韓国と)共に良く暮らせるという肯定的な見解が込められている」と解説している。

(4)統一の時期:あなたは北韓に住んでいた時、統一がいつ頃可能であると考えていましたか?

統一の時期。右側のグラフの赤線が「不可能だ」という回答だ。過去の平均(左側のグラフ)でも47.9%にのぼる。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
統一の時期。右側のグラフの赤線が「不可能だ」という回答だ。過去の平均(左側のグラフ)でも47.9%にのぼる。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

2020年の調査結果では「不可能だ」が55.0%と最も多かった。昨年よりも12.2%ポイント下がっているが、グラフにある通り(赤線で表記)「不可能だ」という回答は増加傾向にある。なお、「10年以内」という回答が15.6%で二番目に多かった。

オム研究教授は「北朝鮮の住民が『金正恩政権が安定している』と見るときに『不可能だ』という回答が増え、『不安定』と見るときには回答が減る」と分析している。

(5)統一の方式:あなたは北韓に住んでいた時、統一がどんな方式で行われるべきと考えていましたか?

統一の方式。右側のグラフの赤線が「どんな体制でも構わない」で、水色の線が「韓国の体制」だ。今年の調査で逆転したことが分かる。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
統一の方式。右側のグラフの赤線が「どんな体制でも構わない」で、水色の線が「韓国の体制」だ。今年の調査で逆転したことが分かる。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

最も多かった回答は「統一が実現するならばどんな体制でも関係ない」で35.8%だった。次は「南韓(韓国)の今の体制で」で29.4%だった。

なお、過去の調査結果を平均したもの(左のグラフ)は以下のようになる。

・北韓の今の体制で:5.5%

・南北韓の体制を折衷:19.3%

・二つの体制をそれぞれ維持:8.7%

・南韓の今の体制で:38.4%

・どんな体制でも関係ない:27.9%

北朝鮮の現体制に対する否定的な見解が見て取れるものの、韓国の体制でベタ塗りする一方的な吸収統一を望むものでもないという気持ちも垣間見える。

(6)統一についての感情:あなたが北韓に住んでいた時、統一を考えるとどんな気分になりましたか?

統一についての感情。右側のグラフの赤が「喜び」、オレンジ色が「希望」だ。ソウル大平和統一研究院資料より引用。
統一についての感情。右側のグラフの赤が「喜び」、オレンジ色が「希望」だ。ソウル大平和統一研究院資料より引用。

2020年に初めて追加された項目とのことだ。以下のような回答になった。回答方法は、それぞれの感情をどの程度感じるのかを5段階で評価するものだ。数値はそれぞれの感情について「とてもそうだ」と答えた割合だ。

・喜び:63.3%

・希望:54.1%

・悲しみ:14.7%

・怒り:8.3%

・目障り:7.3%

・不安:6.4%

オム研究教授はこの結果について、「肯定的な感情が多数」と評価しつつも、「否定的な感情は、統一により起きる南北韓の葛藤がすべて北側の住民にのしかかってくるのではないかという不安ではないか」と分析している。

●「不可能」というリアリティ

ソウル大平和統一研究院の調査には、記事で紹介した統一意識以外にも興味深い設問が多い。全てを紹介すると膨大になってしまうので、また別の機会に言及したい。

今回、記事を書く中で、統一の必要性への意識は下がりつつあるとはいえ、北朝鮮の人々が統一に今なお肯定的なイメージを抱いている点が印象に残った。筆者が過去に何度か紹介したドライな韓国市民の統一観とは対照的と言える。

それだけに「統一は不可能だ」という回答の多さが持つ重みが際立っていた。あまりのリアリティに思わず記事を書く手が止まったほどだ。

韓国では現在、過去30年以上にわたって維持してきた統一方案である「民族共同体統一方案」を、時代と人々の意識に合わせて再考しようと気運が少しずつ高まっている。

このように「南北は完全に別の国」という認識が進む中、無視されがちな北朝鮮の人々の世論にも継続して気を配る必要があるだろう。

●参考記事

約75%が「金正恩政権に反感」、文政権の北朝鮮政策への反対も50%超…韓国最新統一世論調査

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200817-00193710/

かすむ民族主義、北朝鮮は「信用ならない共存対象」…韓国市民のリアルな統一観

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20200629-00185704/

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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