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韓国で広まる「住民自治会」制度...外国人も参加対象に

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
韓国・行政安全部のホームページ。同ページをキャプチャ。

●議題を決め投票

韓国で「住民自治会」制度のテスト運用が広がっている。

これまでアドバイス機関として邑・面・洞(町や村に相当する韓国の行政単位)に置かれていた「住民自治委員会」の権限を強めるもので、事業計画の立案から予算運用までを含め、行政に直接関わる範囲を大幅に増やす制度だ。

韓国の行政安全部による公式の位置づけは、「草の根自治の活性化と、民主的な参与意識の高揚のために邑・面・洞単位で設置・運営される住民参与機構」というものだ。

今月3日、韓国日刊紙『東亜日報』が伝えたところによると、行政安全部は1988年に制定された「地方自治法」を32年ぶりに改定する動きを見せている。住民自治の強化は、改定の目玉の一つとされる。

同紙は「住民自治会」運用の例としてソウル市衿川(クムチョン)区の始興(シフン)3洞の例を挙げている。

子どもの日のお祭りや夏に幼児用のプールを設置するなどの事業について、住民が直接投票し、その優先順位を決めるというものだ。結果は予算の配分などに活用されるという。

投票は15歳以上ならば誰でも可能で、該当地域に住んでいなくとも、職場や学校がこの地域にあれば誰でも参加できるとのことだ。住民の目線で議題を探しだし、その実行を監視することにもつながる。

同紙はまた、韓国では昨年11月の段階で全国86の市郡区、408の邑・面・洞で住民自治会が運用されていると紹介した。なお、住民自治会の試験運用は13年に始まっている。

評判もよいとのことだ。韓国地方行政研究院の調査を引用し、住民自治会を施行している地域では73%の市民が「住民自治会の活動に参加している」とし、78%が「自治会のおかげで町が発展した」と評価していると伝えた。

●試験運用地域は1.5倍に増加

今年4月、行政安全部は各自治体に「住民自治会」に関する案内所を配布した。

その中で提示した住民自治会に関する標準条例案の中では「青少年と外国人住民の参加の機会を保障する」と明記し、さらに同会委員の参加年齢を「選挙権に合わせこれまでの19歳から18歳に引き下げる」とした。

さらに、住民自治会を「代表的な(行政への)参加制度」とするため、「オンラインシステムの整備や活動空間を提供する義務がある」ことを各自治体に知らせた。既存の条例をしっかりと変えよ、ということだ。

韓国政府はこうした制度を今後の拡散していく構えだ。

行政安全部は先月29日、全国50の市郡区、218の邑・面・洞を住民自治会の試験実施地域に含めることを決めた。これまでの408から、1.5倍に増える大幅な拡大だ。

これを受け京畿道では5日に報道資料を配付し、道内の住民自治会の広がりについて説明した。京畿道は1365万人という、地方自治体としては最大の人口を抱える。

資料によると、これまでの47の地域で試験運用されていたものと今回追加された57の地域を含めると、道内の19.2%にあたる104の自治体で住民自治会への転換が行われるというものだ。

道ではまた、住民自治についての教育課程(6時間義務)を用意し、広報の拡大などサポートをしていくという。

今後、地方自治法が改定される場合、住民自治会は法的な地位を認められることになる。

これにより、外国人を含む地域住民が行政に直接参加する「草の根民主主義」の拡散に拍車がかかるものと見られる。筆者も今後、全国の事例を関心を持って集めていきたい。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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