数十の韓国地方自治体が「災難基本所得」を支給…背景に新型コロナ経済難

「災難基本所得」を推進する京畿道の李在明(イ・ジェミョン)知事。京畿道提供。

確診者の数が1万人に肉薄し(4月2日0時現在、9,976人)、今なお新型コロナウイルスの拡散が続く韓国。人々が外出を控えることやグローバル景気の悪化により、経済への影響も深刻視されている。これを緩和するために多くの地方自治体が「災難基本所得」の導入に乗り出している。

●京畿道が口火を

「低成長時代、技術革命により所得と富の過度な集中と大量の失業を心配しなければならない第4次産業革命時代において、基本所得は福祉政策を越え、世界の経済機構が主唱する包容政策における革新的な手段であり、持続可能な成長をもたらす唯一の経済政策だ」

3月24日、京畿道の李在明(イ・ジェミョン)知事は、記者会見の席でこうぶち上げた。

この日、李知事は京畿道に住む1326万人全員(外国人を除く)に、一律10万ウォン(約8,700円)の「災難基本所得」を支給することを発表した。

背景には、新型コロナウイルス感染症拡大における経済難がある。韓国で初の確診者が見つかった1月20日から、すでに2か月が経過する中、「人と会わない」ことを政府が対策として強調している以上、経済への影響は避けがたいものになっている。

韓国では、貿易が経済で大きな位置を占めているが、実は3月の輸出入の実績は輸出が前年比マイナス0.2%、輸入が前年比マイナス0.3%と善戦している。だが、KOSPI(韓国総合株価指数)は1月20日の2,262から4月1日には1,685と、大幅に下落した。

街に出ると不景気は一目瞭然だ。ソウルの明洞など繁華街の人出は最盛期の10%もおらず、韓国を訪れる外国人も93%減少となった。こうした影響からタクシーの運転手などは「収入はコロナ前の半分以下」と嘆く。

また、3月下旬から政府が小商工人(従業員5人以下の企業。建設・製造・運輸は10人以下)への運転資金の貸し出しを開始したが、どこも数千人の列となっている姿が連日ニュースで報じられている。

京畿道が導入を決めた災難基本所得は、新生児を含むすべての京畿道民(繰り返すが外国人は対象ではない)に10万ウォンを、地域商品券カードとして支給するものだ。

この商品券は年間売り上げ10億ウォン(約8700万円)以下の店でしか使えず、3か月で消滅することから、庶民の生活費の底上げと地域経済の活性化という「二兎」を手に入れるねらいがある。

だがこれは厳密な意味で、冒頭に引用した李知事の発言にある「基本所得」とは異なる。

「基本所得(ベーシック・インカム)」とは一般的に、▲すべての人々に、▲無条件的に、▲個別に、▲定期的に支給する所得を指す。今回の「災難基本所得」は一度きりであるため、これに合致しない。

ただ、李知事の発言の底意には、これを機に韓国での基本所得導入の議論に火をつけたい気持ちが透けて見える。同氏は現在、次期大統領人気投票で上位につけている。

●全国で数十の自治体が参加

李知事の会見と前後して、韓国の地方自治体が続々と「災難基本所得」の導入に名乗りをあげている。4月2日時点で、京畿道31の市・郡のうち24の自治体が導入を決めている。

下は5万ウォン(約4,350円、広州クァンジュ市)から40万ウォン(約3万5,000円、抱川ポチョン市)まで金額は様々だが(いずれも一人あたり)、内容はどこも京畿道のものと同じ方式だ。全員に支給され地域で消費することが基本となる。

京畿道が一律で支給を決めた上に、各自治体がさらに「災難基本所得」を導入したことで、二重での受け取りが可能となる。つまり、一人あたり広州市は15万ウォン、抱川市は50万ウォンを受け取る。

京畿道でこうした動きが盛んな背景には、李知事が「災難基本所得」を導入する地方自治体に1人あたり最大で1万ウォンのインセンティブを約束した点がある。支給を一度に行うことで、その効果を増やそうとするものだ。

他の地域でも広がっている。江原道(カンウォンド)では、麟蹄(インジェ)郡で20万ウォン(約1万7,400円)、鉄原(チョロン)郡で10万ウォン、洪川(ホンチョン)郡で30万ウォン(約2万6,000円)といった具合だ。

釜山市でも西区など8つの区で一律5万ウォンの「災難基本所得」を支給することを決めた。同じ釜山市の機張(キジャン)郡は3月27日から全国で初めての支給(10万ウォン)を始めた。

また、これとは別に小商工人を対象に緊急運営資金を支給する自治体もある。抱川市(50万ウォン)や鉄原郡(60万ウォン)が行っている。

一方、京畿道始興(シフン)市は他に臨時職(日雇いなど)や代行運転手など2万5,000人に、100万ウォン(約8万7,000円)ずつ「緊急生活安定資金」を支給するとしている。

●社会の雰囲気は「歓迎」

問題は財源であるが、緊急時ということで他の財源を引っ張ってくる自治体もあれば、抱川市など無借金の自治体は積み立ててきた512億ウォン(約44億7,000万円)の予備費などを充てる。

地方自治体の動きを、危機感を共有する政府も後押しする。

3月31日、行政安全部は「災難および安全管理基本法施行令」に特例条項を作り改定した。これにより、地方自治体が保有する災難管理基金3兆8,000億ウォン(約3,320億円)の使用用途が、新型コロナ拡散により困難な状況に陥っている社会的弱者と小商工人の支援に投入できるよう拡大された。

これにより災難管理基金を災難基本所得や災難緊急生活費支援として使えるようになった。この条項を3月31日より遡及して適用され、財源確保を容易にする効果が見込まれている。

地方自治体が導入する「災害基本所得」と別途に、韓国政府は全世帯の7割、約1,400万世帯に「緊急災難支援金」を支給することを決めている。4人家族で100万ウォン(約87,000円)が支給されることと、地方自治体からの支給を合わせると、抱川市などは4人家族が、280万ウォン(約24万5,000円)を手にすることになる。

こうした支給を韓国の世論は歓迎する雰囲気だ。3月16日に発表された『聯合ニュース』の世論調査では、48.6%が「災難基本所得」に賛成と答えた(反対34.3%)。3月3日の『オーマイニュース』による世論調査では反対が上回ったこと(賛成42.6%、反対47.3%)とは対照的だ。その間の経済的なダメージがいかに大きかったかがうかがえる。

●問題点山積も見切り発車

3月24日の京畿道・李知事の「災難基本所得」は反発も呼んだ。

同じ京畿道・富川(プチョン)市のチャン・ドクチョン市長は発表直後、自身のフェイスブックに「基本所得を支給する理由は、消費を増やし小商工人たちの売り上げを伸ばすというものだが、新型コロナが続く限り、消費パターンは変わらない」とし、「富川の人口87万人に10万ウォンずつ支給すると870億ウォンがかかるが、それよりも困難な小商工人2万人に400万ウォン(約35万円)ずつ支給した方がよい」と書き込んだ。

これに李知事は「反対する自治体には『災難基本所得』を支給しない」と反発、これを受けチャン市長は「富川議会で支援案は満場一致で通過」したと一歩引いたが、チャン市長に対する市民や議会からの批判の声は大変なものがあった。

このように、目先のお金に対する認識は人によって異なるため、意見をとりまとめることが難しい。元は税金であるし、市民にはいかなる場合でも声を上げる権利があるにもかかわらずだ。ポピュリズム政策と見ることもできる。

さらに元は別の場所に使われるはずの財源を流用するため、しわ寄せも予想される。例えば京畿道では、小商工人に貸すはずだった500億ウォン(約44億7,000万円)の予算が災難基本所得に回されている。経済難が長期化する場合の影響が心配だ。

さらに、前述したように外国人が除外されている。これまで、京畿道安山アンサン市だけが、外国人への災難基本所得支給を決めた。満額10万ウォンのうち、外国人には7万ウォンが支給される。同市の人口65万1121人のうち、8万812人が外国人だ。自治体ごとの差額も大きい。

一方、韓国で広まる一方の所得格差への代案として、これまで基本所得の導入を訴えてきた市民からは歓迎されている。

いずれにせよ今後、実際に「災難基本所得」が各自治体で支給され、どんな効果があったかなどは検証が必要だろう。ポピュリズムという批判と新型コロナによる事態の深刻さとの間で、韓国社会は見切り発車で新しいチャレンジを始めた。