「コリア・パッシング」は間違い?文大統領の「決意と自信」を読み解く

27日夕刻、大阪で中韓首脳会談を行った両首脳。写真は青瓦台提供。

朝鮮半島情勢が速いペースで動く中、韓国が取り残される「コリア・パッシング」が起きているという見方が韓国内外に広まっている。だが「韓国は積極的に参加している」とする専門家の見方を紹介する。

●記者たちの落胆

27日の北朝鮮外交官による強烈な「南北関係全否定」発言は、韓国社会では大きなショックをもたらした。特に長年、南北関係を追ってきた記者であるほど、ダメージが大きいようだ。著名記者のSNSには「完全な恥辱だ」、「北側に見事に頬を張られた」といった言葉が並んだ。

さらに、「首を突っ込むな」といった北朝鮮の強い言葉に対してだけではなく、今日のこの状況を招いたことを疑問視する声もあった。「大統領を補佐する外交安保機能に深刻な内容がある」といった表現だ。

「南北関係には何もない」…北朝鮮の「全否定」にも冷静な韓国

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190627-00131875/

筆者もやはり、昨日の記事(上記リンク)に書いたように大きなショックを受けたが、いわゆる専門家・学者の見方は一味違うようだ。韓国側の「ミス」を認めつつも、米朝非核化交渉を中心とする朝鮮半島情勢は、まだまだ可能性があると見る向きがある。

●焦点1:寧辺核施設に「存在感」

「26日の文在寅大統領の発言のうち2つの部分に注目するべきだ」

27日晩、筆者にこう説明してくれたのは、崇実大政治外交学科の李貞チョル(イ・ジョンチョル)教授だ。過去、国会や統一部で諮問委員を務め、朝鮮半島情勢に関わる著書も多い。

まずは、李教授が注目した26日の発言を振り返ってみよう。一つ目は「寧辺核施設」に関してだ。この日、青瓦台(韓国大統領府)は文大統領が共同通信やAP、AFPなど世界の主要通信社6社との間で行った書面インタビューの内容を明かした。

質問:昨年10月にヨーロッパ歴訪の際に「北朝鮮の非核化が、後戻りできない段階に到達したという判断できる場合、非核化を促進させるため、制裁緩和が必要だ」と発言した。大統領の考える「後戻りできない段階」とはどの程度なのか、また、その措置が行われた時のお制裁の水準はどの程度のものなのか。

:ハノイ会談で寧辺核施設の完全な廃棄が議論されたことがある。寧辺は北朝鮮核施設の根幹だ。プルトニウム再処理施設とウラニウム濃縮施設を含んだ、寧辺のすべての核施設が検証の下で完全に廃棄されるならば、北朝鮮の非核化は後お戻りできない段階に入ったと評価できる。(後略)

実はこの発言は、韓国で波紋を呼んだ。「完全な非核化イコール寧辺の廃棄なのか」という疑問が寄せられたのだ。これに対し青瓦台は「完全な非核化を指すものではない」としながら、「どの段階が後戻りできない時点なのかを決めることが交渉の核心になる」と答えている。

これを読み解くには、韓国政府の文正仁(ムン・ジョンイン)大統領外交安保特別補佐などが公言している、「寧辺は北朝鮮の核兵器生産の6~7割を占める」という主張を援用できる。つまり、寧辺核施設を北朝鮮が完全に廃棄する場合、大きな前進となるという見方だ。

李教授はこうした内容について、「米国に対し『寧辺核施設の放棄から始めること』を受け入れるよう強く求めているに等しい。韓国としては覚悟の発言だ」と解釈する。昨年のシンガポールで行った合意を活かしつつ、まずは一歩を踏み出してみようという意見だ。

崇実大政治外交学科の李貞チョル(イ・ジョンチョル)教授だ。過去、国会や統一部で諮問委員を務め、朝鮮半島情勢に関わる著書も多い。27日、筆者撮影。
崇実大政治外交学科の李貞チョル(イ・ジョンチョル)教授だ。過去、国会や統一部で諮問委員を務め、朝鮮半島情勢に関わる著書も多い。27日、筆者撮影。

●焦点2:中韓の関係回復

李教授は2点目に「中国との関係」を挙げた。やはり26日の文大統領による書面インタビューのうち、該当部分を引用してみる。

質問:習近平国家主席が訪朝しながら、膠着状態に陥っていた非核化対話が再び動き始めるという肯定的な解釈がある。一方で、中国が北朝鮮核問題を米中間の葛藤の「レバレッジ」として活用することで、中朝の結束が加速化し、韓国の立場がより狭くなるという分析もある。(中略)習主席の訪朝などを通じ、中国に期待する役割について説明してほしい。

:韓中両国は随時、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的な平和定着のための方案を協議している。中国政府は朝鮮半島平和プロセスに関するわが政府の考えを十分に理解しており、わが政府と緊密に協調している。この脈絡からわが政府は、習近平主席が韓中会談の前に北朝鮮を先に訪問する方がよいという意見を提示していた。ハノイ会談以降、小康状態にあった局面に新たな転機を作り出すためだ。(後略)

李教授は、ここから「韓国は南北米という既存の枠組みから、南北米中の枠組みを受け入れる方針を示している」というメッセージを読み取ったという。

そしてその背景に「『THAAD(高高度防衛ミサイル)設置問題で冷却化した中韓関係がここまで回復した』という文大統領の自信が垣間見える」というのだ。

なお余談になるが、李教授は、本記事の冒頭で言及した韓国を痛烈に非難する北朝鮮側の談話が出てきた理由が、この文大統領の質疑応答にあるとする。「一生懸命、北側が演出した中朝首脳会談を『韓国のおかげ』としたら怒るに決まっている。韓国側のメッセージ管理のミス」と語った。

話を戻す。一般的に、非核化に関するプレイヤーが南北米3か国から南北米中4か国に増えることは、韓国にとって相対的な位置の低下を招くことから、マイナスになると見られている。

6月20日から21日にかけて平壌を訪れた習近平主席。中朝の「血盟」を強く印象づける訪問だった。写真は朝鮮中央通信より。
6月20日から21日にかけて平壌を訪れた習近平主席。中朝の「血盟」を強く印象づける訪問だった。写真は朝鮮中央通信より。

●中韓首脳会談の結果を読む

だが、李教授は27日夕刻に大阪で行われた中韓首脳会談の結果に注目し、こうした解釈にも疑問を投げかけた。

会談終了後、韓国青瓦台関係者は「3度目の米朝対話を支持する。また、特に米朝両国が柔軟性を発揮することにより対話が実現することを期待する」という習近平主席の発言を伝えた。

この発言を李教授は、「中国はあくまで『自分たちは対話の促進だけして、非核化交渉では抜けるから、後はトランプに任せる』という立場」と受け止めたのだった。非核化と平和協定の交渉が中国の参加により絡まる「混線」は起こらないという視点だ。

なお、この日の中韓首脳会談で習近平主席は文大統領に対し、以下のような金正恩委員長による「4つの立場」を明かしている。

▲非核化に対する意志に変わりはない

▲新たな戦略的路線による経済発展と民生改善のために努力しており、外部状況が改善されることを望む

▲対話を通じこの問題を解きたい。忍耐心を維持しながら早くに合理的な方案が模索されることを望む

▲韓国と和解協力を進める用意があり、朝鮮半島での対話の趨勢(すうせい)は変わらない。

前回の中朝首脳会談は20~21日であったため、4つ目の内容が27日の北朝鮮の「暴言」を打ち消すかものに値するのか、疑問に思う向きがあるかもしれない。だが、一介の外交官の談話と最高指導者の発言のどちらを優先するべきか、比べるまでもないというのが筆者の考えだ。

また、習主席は「THAADに関する解決方案が検討されることを願う」とし、文大統領はこれに「だからこそ非核化の問題が解決されるべき」と答えたとのことだ。

27日に大阪で行われた中韓首脳会談の様子。写真は青瓦台提供。
27日に大阪で行われた中韓首脳会談の様子。写真は青瓦台提供。

●トランプ氏の「メッセージ」に注目

李教授はこうした点を踏まえ、「朝鮮半島情勢は今も『on going(進行中)』だ」と診断する。その上で「トランプ大統領訪韓時のメッセージですべてが分かる」と筆者に説いた。

29日午後から30日にかけて韓国を訪れるトランプ大統領は、南北軍事境界線を抱く分断の最前線・板門店を訪れる予定とされる。「金正恩委員長とは会わない」とトランプ大統領みずからが明かしているが、何かしらのアクションがあることは間違いない。

状況を肯定的に捉える場合、非核化と平和協定に向かうプロセスに停滞が続いた2019年上半期の最後に、トランプ大統領が見せる「締め」の内容にがぜん注目が集まる。「イベントは依然として残っている」と李教授は力を込めた。