平壌南北首脳会談がもたらす「朝鮮半島新時代」

19日午後、「平壌共同宣言」の署名式に臨む南北両首脳。写真は平壌写真共同取材団。

19日、南北は続けざまに二つの文書に署名した。南北首脳がまず「9月平壌共同宣言」に、次いで南北の国防部トップが「歴史的な板門店宣言履行のための軍事分野合意書(以下、軍事合意書)」に署名した。

まずはそれぞれの読み方をまとめる。

「9月平壌共同宣言」の読み方

平壌共同宣言。両首脳のサインがある。写真は平壌写真共同取材団。
平壌共同宣言。両首脳のサインがある。写真は平壌写真共同取材団。

[全訳] 9月平壌共同宣言(2018年9月19日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180919-00097442/

6項目で構成された平壌共同宣言の内容はざっくりと3つに分けられる。

(1)「実質的な終戦宣言」

まずは軍事的緊張関係の解消だ。南北を分ける「軍事境界線」の南北2キロに設定された「非武装地帯(DMZ)」が重武装化されている現実を踏まえ、この地域を真の非武装地帯にするとした。詳細は「軍事合意書」で細かく規定されている。

韓国青瓦台(大統領府)の尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通主席秘書官(次官級)は19日の記者会見で「両首脳は今回の宣言を通じ、1953年から今まで65年間続いてきた朝鮮半島の停戦状態を越えて、実質的な終戦を宣言し、それを通じ作られる平和を土台に、共同繁栄に向かう具体的な実践方案を提示したと考える」と明かした。

これを受け、韓国メディアには「実質的な終戦宣言」という言葉が踊ることになった。だがこれは元来、南北米のあいだで(中国との交渉の実態は明らかになっていない)議論されている「終戦宣言」と異なる点は注意したい。

1950年から始まった朝鮮戦争が53年7月に停戦した際の当事者は、国連軍と北朝鮮・中国であるため、終戦宣言には韓国を含む南北米中4者が必要と見られている。なお当時、署名を拒否した韓国が「当事国でない」という議論は既に解決したものなので、ここでは省略する。

「実質的な終戦宣言」というのは、後述する「軍事合意書」に「南北が陸海空で相手に対する一切の敵対行為をやめる」ことが含まれることから、「南北間に限り、終戦したと解釈できる」ということを指す。

「終戦宣言」に準じるものであったり、終戦宣言の代用となるものではない。

(2)南北交流・経済協力の強化

宣言では東西での南北鉄道の連結をはじめ、「条件が整い次第」16年2月に閉鎖された開城(ケソン)工業団地ややはり08年から中断されたままの金剛山観光事業を再開する一方、西側(黄海側)には経済特区を、東側(日本海側)には観光特区を作るなど経済協力の青写真が明かされている。

「朝鮮半島の新経済共同体」における「三大経済ベルト」を示した図。「H型」となる。韓国政府発行の冊子より引用。
「朝鮮半島の新経済共同体」における「三大経済ベルト」を示した図。「H型」となる。韓国政府発行の冊子より引用。

また、環境や医療・保健分野での協力も進める一方、人道的問題である離散家族再会の常時実施、20年東京五輪への南北合同参加などスポーツイベントでの南北協力、芸術交流などソフト面での交流強化も明かした。

さらに見逃してならないのは宣言の第2項目にある「民族経済を均衡的に発展」というキーワードだ。

李明博・朴槿恵政権(08年~17年)の時にも非核化の対価としての経済協力を韓国側が提案したが、これは北朝鮮の体制の不安定さ、将来的な吸収を前提とした「上から」のものだった。

だが、このキーワードを通じ南北の一方のみが大きな利益を得るものでなないことを明記した。特に40倍以上の経済力を持つ韓国が行う経済協力が攻撃的・吸収的なものでないことを、北朝鮮側に保障するものだ。

(3)非核化への韓国参加を明記

最後に、朝鮮半島非核化についてだ。今回の南北会談を「非核化への進展がない」点で酷評する向きがあるが、注意が必要な議論だ。

1992年1月に南北が非核化合意書を交わす以前の91年までに、韓国に配備されていた米国の戦術核は全て撤去された。韓国は核兵器を持っていないためそれ以降、「北朝鮮の非核化、朝鮮半島の非核化」は米朝間の交渉となった。

[資料][全訳]朝鮮半島の非核化に関する共同宣言(1992年2月19日発効)

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=598

思い出して欲しいシーンがある。今年1月9日に板門店で行われた、15年12月以降、約2年ぶりの南北高官級会談でのことだ。

冒頭発言で韓国側の趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官が「早期に朝鮮半島の非核化など平和定着のための諸般の問題を議論するための対話を再開する必要がある」としたところ、これに北朝鮮側代表の李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員会委員長は「全ての最尖端戦略兵器は、徹頭徹尾、米国を狙ったもので、同族を狙ったものではない」と強い拒否反応を見せた。

さらに会談終了後、この日の南北会談に同席していた千海成(チョン・ヘソン)統一部次官は「非核化に言及したのにもかかわらず、北朝鮮側が席を立たずに座っていたのは初めて」と明かしたのだった。それほどまでに南北で「タブー」となっている話題だった。

今年1月9日、南北高官級会談で握手する南北代表。李善権(リ・ソングォン、左)祖国平和統一委員会委員長と、趙明均(チョ・ミョンギュン、右)統一部長官。写真は統一部提供。
今年1月9日、南北高官級会談で握手する南北代表。李善権(リ・ソングォン、左)祖国平和統一委員会委員長と、趙明均(チョ・ミョンギュン、右)統一部長官。写真は統一部提供。

現政権が積極的に受け継ぐ00年の「6.15南北共同宣言」には「非核化」という言葉はおろか、核に関する内容が出てこない。また、07年の「10.4南北首脳宣言」では「朝鮮半島の核問題の解決」と婉曲に表現されるだけだった。

それが今年4月の「板門店宣言」ではじめて「南と北は、完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」と明記され、「今後、各々が自己の責任と役割を果たすことにした」と合意した。

その後、史上初の米朝会談と7月以降の米朝交渉の停滞、さらに先日のトランプ大統領が文大統領を「チーフ・ネゴシエイター」に「任命」したことにより、歴史上はじめて米朝非核化交渉に正式に韓国が参加することになった。

今年6月、シンガポールで行われた米朝首脳会談での一コマ。写真は共同取材団提供。
今年6月、シンガポールで行われた米朝首脳会談での一コマ。写真は共同取材団提供。

韓国は今回の宣言を通じ、北朝鮮の虎の子と言える「寧辺核施設」廃棄を引き出し米国に提示することになった。条件は米側への譲歩となっているが、文大統領は24日(米国時間)、トランプ大統領との間に明らかにされていない条件内容まで含め、交渉することになる。

整理すると、非核化の実質的な進展は依然として米朝の行動によるが、その方法、プロセスにおいては韓国が参加することで、より破綻の可能性が低下するという進展があった。その上で、南北で合意した新しい提案があったということだ。

「軍事合意書」の読み方

これは4月の「板門店宣言」で両首脳が合意した「軍事的緊張緩和」を現実化するもので、専門家によっては、今回の南北首脳会談の最大の成果とする向きもある合意だ。

[全訳] 歴史的な「板門店宣言」履行のための軍事分野合意書(2018年9月19日平壌)

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=2683

やはり6項目で構成されている。内容は大きく3つにまとめられる。

(1)南北双方は一切の敵対行為を全面中止

南北は「南北が軍事的衝突を引き起こす全ての問題を平和的な方法で協議・解決」するという原則を定めた。

その上で、陸海空でそれぞれ敵対行為を禁止する区域を定めた。これらの地域ごとに大規模軍事訓練や、各種軍事演習、実弾射撃訓練の停止などが決められ、「何がどう合意に違反したのか」という点で揉めないよう、その基準を南北で統一し、明確化された。

また、不慮の事態にも軍事的措置を最大限避けられるよう、警告系統もやはり南北で統一することになった。このように、漠然とした軍事的緊張緩和でない上に、具体的な措置を挙げた点は画期的だ。

さらに各種区域は軍事境界線を中心に設定されているため「軍事力が対峙する最前線が下がる」役割を果たす。

(2)非武装地帯を非武装、さらに平和地帯に

南北対峙の最前線である非武装地帯(軍事境界線から南北2キロずつ)で南北は、停戦協定の規定を無視して重武装を行っている。この解消を目指し、さらに平和地帯にすることを目指す。

まず、非武装地帯にある監視哨所(GP)の撤収を目指す。筆者も昨年、非武装地帯をほぼ踏破した際に説明を受けたが、南北で最も近い江原道鉄原(チョルウォン)郡の哨所はわずか620メートル離れているに過ぎない。将来的に非武装地帯でGPを完全撤収するため、試験的な撤収を始める。

さらに板門店のある共同警備区域を非武装化する。去年10月に北朝鮮兵士が韓国に逃れた際に、北朝鮮兵士が完全武装していたことから分かる通り、眼の前で対峙する板門店には常に緊張感が漂う。これを段階的に完全非武装化し、将来的には観光客に開放するとする。

板門店にある南北軍事境界線。自由にまたげる日が来る見通しだ。今年2月、筆者撮影。
板門店にある南北軍事境界線。自由にまたげる日が来る見通しだ。今年2月、筆者撮影。

また、朝鮮戦争中に最大の激戦地帯の一つであった鉄原郡で犠牲兵士の遺骸発掘を始める。冬が来るまでに地雷除去を先行して行う。255キロにわたる非武装地帯の遺骸発掘は53年以降、放置されたままだが、この第一歩となる。

次に、過去3度(99年、02年、09年)南北の艦船が砲を交え、10年3月には韓国軍の哨戒艦「天安」が北朝鮮により「爆沈」された西海(黄海)北方限界線(NLL)付近の平和水域化だ。

2010年11月23日、北朝鮮は韓国の延坪島に砲撃を加えた。韓国軍の兵士2人と民間人2人が死亡し、島のあちこちで火の手が上がった。写真は当時の住宅をそのまま残した安保教育館の一角。7月、筆者撮影。
2010年11月23日、北朝鮮は韓国の延坪島に砲撃を加えた。韓国軍の兵士2人と民間人2人が死亡し、島のあちこちで火の手が上がった。写真は当時の住宅をそのまま残した安保教育館の一角。7月、筆者撮影。

この地域はワタリガニをはじめとする良質な漁場としても知られており、春と秋には南北さらに中国の漁船まで入り乱れ混乱が起きている。平和水域化と共に共同漁撈区域を設定するとする。

なお現在、この部分では具体的な水域が決まっていない。北朝鮮側が主張する黄海上の境界線と、韓国側が主張する境界線(北方限界線NLL)が異なっているためだが、この点はNLLを基本とする線で合意に近づいているようだ。軍事合意文には北方限界線という単語が明記されている。

そして最後に、漢江河口の共同利用だ。陸には軍事境界線があるが、水上の境界線では南北がその資源と環境を有効利用していこうということだ。前述したように、朝鮮半島の西側は経済特区を作ることで南北は合意している。水域共同管理と経済特区を結びつけ、その経済的価値を極大化する目論見だ。

軍事合意書の意義

軍事合意書の準備に深く関わった青瓦台(韓国大統領府)の崔鐘建(チェ・ジョンゴン)平和軍備統制秘書官は19日、訪問先の平壌で行った会見で「軍事合意書は、事実上の不可侵合意書と規定したい」と説明した。

さらに「(軍事合意書は)韓国政府が推進している南北関係の制度化が、軍事領域まで拡大されたもの」と位置づけた。

最も印象的だった部分は次のものだ。少し長いが引用したい。

「もし終戦となる場合、軍事的に南北がどんな姿になるのか考えてみた。終戦宣言をしたとしても南北が西海で艦砲射撃と海岸砲射撃訓練をするのか、飛行をするのか、GP1キロ以内に朝鮮半島の在来式(武器による)紛争の発火点を維持するのか…不可侵合意書としたのは、南北双方が非核化の過程で互いに銃を向けないという部分に合意したものだ。

南北関係の持続的な発展のための安全ピンだと見る。今後、南北関係が発展し人々の往来が増えるほど『安全なのか』と考えることになるが、これからは軍事的な安全保障措置を通じ安全に南北関係を牽引できる」

すなわち年内に希望する「終戦宣言」に先駆けて、「終戦宣言から非核化(平和協定=米朝国交正常化)」に向かうとされる、今後2年間の朝鮮半島秩序を前倒しで実現したものと見てよい。

文在寅大統領も19日の署名式で「戦争の無い朝鮮半島が始まりました。南と北は今日、朝鮮半島の全地域で戦争が起こし得る全ての危険を無くすことに合意しました」と言及した。

今回の合意について「過去にも似たようなものがあったのではないのか」と指摘する声もある。例えば07年の「10.4南北首脳宣言」の第3項には「南と北は軍事的な敵対関係を終息させ、朝鮮半島で緊張緩和と平和を保障するため緊密に協力することにした」とある。

10.4南北首脳宣言に署名する韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(左)と、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長(右)。盧武鉉財団HPより引用。
10.4南北首脳宣言に署名する韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(左)と、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長(右)。盧武鉉財団HPより引用。

だが当時は、これを実践する段階まで進めることができなかった。2か月後の大統領選挙で進歩派候補が敗れ、翌年2月に就任した李明博大統領は就任当初「10.4合意」を引き継ぐ意志を見せなかった。

00年から08年1月まで南北軍事実務会談は35度、将官級会談は7度行われたが、李明博大統領就任後の08年2月から文大統領が就任する17年5月まで実務会談はわずか3度、将官級会談は一度も開かれなかった。

そのため、今回の「軍事合意書」は約20年あまりの時間をかけて作られた文書と言える。さらに「11月1日から」といった具体的な期日もそれぞれ定められている。南北は今後の関係発展の礎となる、南北間限定ではあるが「終戦」の入り口に立った。

なお、野党は「非核化が行われていない中、韓国だけ一方的に武装解除した」と反発している。だが崔秘書官によると「軍事合意書」は国務会議で議決すればよいだけで、国会での批准が必要ない。このため、必要な手続きが終わり次第、すぐに発効するものと見られる。

今後の見通しは終戦宣言を軸に

今後の見通しについては、既にたくさんのメディアが言及しているため、短くまとめる。

焦点は「板門店宣言」でも明記された「年内の終戦宣言」が可能であるかだ。

今回、南北は平壌共同宣言を通じ米国に「相応する措置」を求め、それが得られる場合、北朝鮮の核施設の象徴であり中心の「寧辺核施設」を永久廃棄するとした。

「相応する措置」は終戦宣言を指すと見られており、今後はこれを米国が受け入れるのかになる。

24日(米東部時間)に米韓首脳会談を行う際に、まだ明らかになっていない非核化措置をも含め、文大統領がトランプ大統領を説得できるかが次のポイントになる。

その後、やはり平壌共同宣言で言及のあった米国を含む関係各国専門家の立ち会いの下で東倉里ミサイル実験場の廃棄が行われ、2度目の米朝首脳会談が行われる。日程は10月が濃厚だ。

今年6月の米朝首脳会談。2度目の首脳会談に向け米国側は「準備中」としている。写真は共同取材団提供。
今年6月の米朝首脳会談。2度目の首脳会談に向け米国側は「準備中」としている。写真は共同取材団提供。

韓国政府としてはその上で、今年のフィナーレとして金正恩氏がソウルを訪問し、そこにトランプ大統領や習近平主席が合流し、終戦宣言となる絵を描いているだろう。

だが、中国が入るのか(入るべきという声は強いが)、宣言が現実的に可能なのかは、もう少し時間が経ってみないと分からないというのが正直な所だ。

なお、文大統領は20日夕方にソウル市内で行った帰国報告の中で、年内の終戦宣言について前向きに述べた。

今回の首脳会談を見てもよく分かるように、南北関係発展と朝鮮半島の非核化の結びつきは強まる一方だ。韓国がどこまで欲張りすぎないかも焦点となる。

「終戦」という新しい時代

筆者は昨晩(19日)にあるラジオ番組に出演した際に「新しい時代が来たと認めざるを得ない」と連呼(?)したが、そのせいで「興奮気味だな」という指摘を今日になって何度か聞くことになった。

だがこれまで、韓国の大統領が北朝鮮の最高指導者と並んで「戦争の無い朝鮮半島が始まりました。南と北は今日、朝鮮半島の全地域で戦争が起こし得る全ての危険を無くすことに合意した」と宣言したことは無かった。

そしてそれを明確に規定する「軍事合意書」があり、南北が24時間365日膝を突き合わせて議論できる「南北連絡事務所」が14日、史上初めて開所したことで合意書を管理する「南北軍事共同委員会」の設置も現実的となった。

19日、「平壌共同宣言」に署名した南北両首脳。写真は平壌写真共同取材団。
19日、「平壌共同宣言」に署名した南北両首脳。写真は平壌写真共同取材団。

こうしたリアリティはこれまでに無かったことだ。だからこそ筆者は19日の「戦争は終わった」という一言に涙がこぼれた。南北首脳が握手する際にも、ついぞ流したことにない涙だ。

朝鮮戦争の悲惨さ、停戦後にも亡くなった人々、離散家族の現実…これまで当たり前のようにそびえていた「分断の壁」が、ポロポロとだが崩れる音が聞こえた気がした。

もちろん、現実はそう簡単ではない。そして筆者が望み、成し遂げたい朝鮮半島の姿はその遥か先にある。だが、いつか終わるべきものが終わりつつあるという認識を今回、筆者ははっきりと持ったことを記録しておきたい。変化を恐れてはいけない。

そしておそらく、筆者と同じ思いを抱いた韓国の市民は多いはずだ。南北首脳のどちらかがこの期待を裏切る時には、とんでもない逆風にさらされることになるだろう。