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「金正恩氏は非核化する」「安倍首相がどうやってもダメ」…韓国のベテラン議員が解説する朝鮮半島の今

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
過去、金大中大統領の右腕として活躍した朴智元(パク・チウォン)議員。筆者撮影。

朝鮮半島の南北に現在の両政府ができたのは1948年のこと。2年後の1950年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が韓国に攻撃を仕掛け朝鮮戦争が起きる。国連軍と中国軍を交えた血で血を洗う激戦は、開戦から3年を経てようやく停戦にこぎつけるも、南北の分断は決定的となった。

それから約50年。2000年6月に平壌で韓国の金大中(キム・デジュン)大統領と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正日国防委員長が史上初の首脳会談を行った。この場で発表された「6.15南北共同宣言」は現在に至るまで、南北関係の基本となっている。

[全訳] 6.15南北共同宣言(2000年6月15日)

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=206

当時、南北首脳会談を裏で支えた一人が朴智元(パク・チウォン、76)議員だ。金大中大統領の右腕として、北朝鮮側と事前にシンガポール・中国で交渉を重ね、会談を実現させた。金大統領と共に訪朝団にも加わった。

その後も政界の第一線で活動を続ける同氏は、09年の金大中大統領死去時に北側の弔問文の受取人になるなど北朝鮮にとって特別な存在だ。今年4月27日の南北首脳会談を前に韓国政府の諮問団に任命され、当日は北朝鮮の金正恩委員長とも晩餐会を共にした。

このように韓国の国会議員の中でも南北関係に明るい朴議員は、現在の朝鮮半島情勢をどう見ているのか。16日、筆者は汝矣島(ヨイド)の国会議員会館を訪ねインタビューを行った。今回のインタビューは、韓国のベテラン政治家が北朝鮮情勢の今をどう捉えているのかを日本の読者に知ってもらうため、ほぼノーカットでお送りする。

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朴智元(パク・チウォン)議員:1942年、全羅南道珍島郡出身。韓国の大学卒業後、商社に務めるめも若くして米国に渡り事業家として成功を納め、朴正煕(パク・チョンヒ)政権の弾圧を避け米国に亡命していた金大中氏を支えた。その後、韓国に戻った同氏の右腕として政治活動を始める。1992年に国会議員初当選。98年の金大中大統領就任後には文化観光部長官、大統領秘書室長などを歴任し政権運営に深く関わった。2008年から現在まで3期連続で議員。現役議員最高齢という政界での長いキャリアと鋭い政局への読みから韓国で「政治九段」の異名を持つ。テレビ・ラジオへの出演も多い。

―今、文在寅大統領が行っている北朝鮮政策と過去の「太陽政策」は同じなのか?

“根本的には全く同じと見てもよい。南北の交流協力を通じ平和を守り、互いに繁栄しようというものだ。特に15日に文大統領が提案した「東アジア鉄道共同体」これだけ見ても金大中大統領の「鉄のシルクロード」構想と同じだというのが分かる”

※東アジア鉄道共同体:東北アジア6か国(南北日中露モンゴル)と米国が共にするネットワーク。18年8月15日に文大統領が光復節の演説で言及した。「東北アジアの相生繁栄の大動脈、東アジアエネルギー共同体と経済共同体につながるもの」とし、「東北アジアの多者平和安保体制に向かう出発点となる」と位置づけた。

―北朝鮮は「核武力の完成」を昨年11月末に宣言した。北朝鮮が「核開発」を行っていた時期と「核完成」の今では状況が異なると思うが、太陽政策を同じように適用できるのか?

“そうだ。もし、盧武鉉(ノ・ムヒョン、在任03年2月〜08年2月)大統領が政権発足初期に「10.4南北首脳宣言」を成し遂げていたならば、その内容の多くが施行されたと思う。しかし、首脳会談は次期大統領選挙の2か月前(07年10月)に行われ、さらに2か月後には大統領を退任した。

[全訳] 10.4南北首脳宣言(2007年10月4日)

https://www.thekoreanpolitics.com/news/articleView.html?idxno=216

その後、李明博(イ・ミョンバク、在任08年2月〜13年2月)、朴槿恵(パク・クネ、在任13年2月〜17年3月弾劾罷免)の「失われた10年」があり、それまで積み重ねてきた南北関係が崩れ落ちた。幸いにも文在寅大統領が政権発足初期に「4.27南北首脳会談」を通じ南北関係を復元させた。この歴史的な意味は大きい。

しかし今、目の前の問題として、米国による北朝鮮への圧力に優先順位がある。このため、いくら南北関係を改善しようとしても、国連安保理制裁・米国独自制裁・韓国の独自制裁などのために実効性がない。今は米朝の非核化問題が最も大きく台頭している。トランプ大統領がよくやっているから、文在寅大統領はその後ろで自身が明かしたように「道案内」の役割をし、必ず米朝間の非核化が実現するようにしなければならない。そこが解決してはじめて南北問題が解けると私は見る”

―2008年に李明博大統領が就任して以降、北朝鮮政策が「非核化なくして南北関係の改善なし」という方向に変わった。これはさらに朴槿恵政権にも受け継がれた。「対話すらしない」といった保守派の立場は今後も変わることはないのか。

“昨日(15日)、(第一野党、旧与党)自由韓国党の金秉準(キム・ビョンジュン)非常対策委員長が「一時、対話と妥協を後にし、制裁だけに力点を置いた点は反省する」と語った。とはいえ金委員長が自由韓国党の保守層からどの程度リーダーとして認められているのかは未知数だ。

保守層の言う通りにするならば結局「戦争しよう」ということにしかならない。戦争したら保守層は生き延びるのか?日本も生き延びる?みな死にます。だから戦争を抑制する方向に進まなければならない。その道が非核化だ。北朝鮮はすでに核保有国だ。6回の核実験を通じ爆発力の高度化を成し遂げ、ミサイルは米国本土を狙うICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発したとしている。だからこそ、この実体を認めながら問題を解くべきあって、他に道がない”

―最近、韓国の一部の北朝鮮専門家が、今おこなわれている米朝の非核化交渉がうまくいかない場合に備え「プランBが必要だ」とし、「核を持った北朝鮮との共存を考えるべき」としている。どう思うか。

“私は非核化を「モラトリアム→凍結→非核化」の三段階で考えている。現状は北側がミサイル発射実験と核実験を止め、こちらは米韓軍事訓練をしないという低い段階のモラトリアムだ。次は凍結だ。北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)に加入しIAEA(国際原子力機関)による核査察を受ける。この場合米国としては米本土への核脅威が除去され、最も大きな懸念である核拡散が禁止される。こうして米朝の信頼が回復されてこそ(三段階目の)非核化が実現される。

こうした視点から、私はプランBを「凍結」と見る。米国もそれに応じた措置をしてあげる必要がある。経済制裁の緩和と平和協定がそれだ。トランプ大統領一期目の時に、完全な修交までではなくともワシントン―平壌間の代表部設置は可能ではないか。そんな信頼が必要だ。トランプ大統領は非核化への保障を口約束と紙でしているが、それを破棄するのには10秒もかからない。しかし核廃棄に向かう金正恩委員長はトランプ大統領が約束を履行しない場合、核の復旧には時間がかかる。

2014年に今は亡くなった金養建(キム・ヤンゴン、当時、北朝鮮の外交政策を統括)書記に会って4、5時間話をした際に同氏は「どんな場合にも非核化はない」と言っていた。「非核化をしないと死んでしまうぞ」と話すと、カダフィとフセインの話を持ち出してきた。「リビアは我々のように核保有をできなかった」、「イラクは大量殺傷兵器を無くせというので無くしたらフセインも死んだ。だからもし核兵器を無くす場合に、米国が入ってくることになり我々もそうなる」と語っていた。だから私は、核を凍結した状態で米国が信頼を回復するならば(非核化は)実現可能ではないかとし、プランBは凍結であると考える”

インタビューはソウル市内の汝矣島(ヨイド)にある議員会館で行われた。壁には金大中、盧武鉉両大統領の写真が掲げられていた。「行動する良心」という金大統領の言葉も。16日撮影。
インタビューはソウル市内の汝矣島(ヨイド)にある議員会館で行われた。壁には金大中、盧武鉉両大統領の写真が掲げられていた。「行動する良心」という金大統領の言葉も。16日撮影。

―信頼の醸成は南北関係、米朝関係の核心と言ってもよい。過去、南北間の信頼が最も高まっていた時期はいつか。

“金大中政権の時だ。盧武鉉政権の時はそんな期間がなかった。「10.4南北首脳会談」の4か月後に政権交代となってしまった。さらに今年になって(2月の)平昌五輪から最近までは、信頼関係がとても良かった”

―米朝の信頼関係は?

“(少し間をおいて大きな声で)今じゃありませんか?

―クリントン政権(93年〜2001年)の時よりも?

“そうだ。トランプ大統領は現代の米国民から尊敬されたクリントン、オバマができなかったことを実現できる。すべてが損得勘定と言えるトランプ大統領のビジネスライクな気質は、非核化を達成させることにとってプラスとなる。

―太陽政策の話に戻したい。太陽政策は「関与(engagement)」を行うというものではないか。北朝鮮は韓国の文化・制度に対する強い警戒心を抱いている。関与を進める場合、いつか限界にぶつかる日が来ると思うが、どう解決していくのか。

“ミャンマー(ビルマ)を見ても、いくらアウンサン・スーチー女史が民主化運動をしても、国民が立ち上がらなければ難しい。北朝鮮も同じことだ。ソ連がヘルシンキ宣言(1975年にソ連と西側諸国が合意。東西の緊張緩和をもたらした)に基づき改革開放をしたところ、ソ連の人たちはこれまで自分たちが天国に住み、西側世界は地獄だと思っていたのが、反対であったことが分かってロシアが誕生した。北朝鮮も今、閉鎖社会だから比較ができない。

(2000年の)6.15以降、私たちにとって北朝鮮の改革開放はとても微々たるものに見えるが、北朝鮮内部を見るととてつもない改革開放が行われたし、資本主義市場経済の概念が浸透した。今は情報が北朝鮮社会に流れている。過去、韓国では人々が市場で情報に接した。井戸端に女性たちが集まり情報の流れができた。

今、北朝鮮では800から900の市場(チャンマダン)があり、ここで情報がやり取りされている。さらに携帯電話を人口の5分の1にあたる500万人が使っている。いくら取り締まっても情報が流れるしかない。私は金正恩委員長が人民を過去のように抑圧統治する手段を無くしたと見る。その証拠の一つとしてメディアがある。過去、南北首脳会談や西側との接触を公開しなかったが、今は次の日に生中継するかのように報じる。

私たちの経験によると、朴正煕(パクチョンヒ、クーデターで政権を握り1961〜79年まで大統領)・全斗煥(チョン・ドゥファン、朴大統領の死後クーデターで政権を握り1980〜87年まで大統領)時代にメディアを弾圧した結果、流言飛語が広がり逆に民主化が進んだことがある。だから情報を公開せざるを得ない。私たちが交流と協力をしつこく行い、市場経済の長所を見せて、経済的な潤いによって彼らの生活の質を向上させることで自然と改革開放がなされ、北朝鮮の住民により情報が流れるようになればよいと思う“

―北朝鮮はそれを嫌がるのでは?

“統治者たちは嫌がるだろう。それでも(北朝鮮にとって)他に方法はない。なぜなら既に集団農場(協同農場)制度も緩んでいるし、以前、チャンマダンを閉鎖した時には住民の反発にもあった。韓国の「馬に乗ると馬夫が欲しくなる(欲が出てくる意)」という言葉の通りになる。「米国がコーラを輸出すると必ずデモも輸出される」というジョークもある。人権問題についての意識などが入ることになる”

2000年6月、北朝鮮の平壌で史上初となる南北首脳会談を行った、韓国の金大中大統領(左)と北朝鮮の金正日国防委員長(右)。写真は当時の共同取材団によるもの。
2000年6月、北朝鮮の平壌で史上初となる南北首脳会談を行った、韓国の金大中大統領(左)と北朝鮮の金正日国防委員長(右)。写真は当時の共同取材団によるもの。

―以前、金大中大統領は「生活に余裕のある兄が苦しい弟を助けてあげなければならない」という形で、韓国の立場を表現したことがある。太陽政策の根底には韓国が北朝鮮との体制競争に勝ったという認識がある。この点を北朝鮮はどう受け入れてきたのか。

“米朝首脳会談を準備する過程で、米国の高官に問われてこう答えた。「東洋人は体面を重視し、西洋人は実利を重視する。金正恩委員長を東洋の『ならず者国家』の若いチンピラ指導者と考えるのではなく、堂々とした国家の指導者として体面を立てなければならない」。北朝鮮の人々は自尊心がとても強い。それらを踏まえて丁重に対し、誠実に話をしてこそ成功する。トランプ大統領はシンガポールでまったく「らしさ」を見せずに金正恩委員長に丁重に接した。それが成功を導いた。

例えば、李明博大統領が「非核・開放3000ドル(非核化する場合、10年以内に一人あたりの国内総生産3000ドルを達成できるように韓国が支援するという政策)」を実行したが、北朝鮮の反応は「我々を何だと思っているのだ。自分たちは4万、5万ドルだと言いながら我々はなぜ3000ドルなのか」というものだった。だからこそ、わざと刺激する必要はない。いったん、流れが入れば付いてくるようになっている。

人々は「金大中政府はバラマキをした」と指摘するが、私は「そうだ。バラマキをした」と言い切る。目に見えるコメと肥料と医薬品をバラ撒いた。その代わりに私たちは彼らの希望と心をもらってきた。6.15首脳会談以前には「米帝の手先である南朝鮮を倒そう」と北側が主張していたが、6.15会談以降はどこに行ってもそうした声はなくなった。「金持ちの韓国のおかげで我々の生活もよくなる」ということだった。

今、4.27南北首脳会談や、6.12米朝首脳会談を通じて北朝鮮の住民がいかに多くの希望を抱いているのか。敵対感が無くなった。北朝鮮は生きるために核を開発したが、同じ理由から核廃棄を決めたのだ“

―北朝鮮の核は米国との交渉用ではなく、内部の結束を図るためや実際に使うためのものという指摘もある。

“なぜ日本は核を開発できないのか?韓国は?そう、米国との同盟のためだ。私たちは貿易を通じ食べていく国だから、世界の規範に従わなければならない。それを破る場合には経済制裁を受ける。作ってはいけない。しかし北朝鮮は米国と関係が無いので国際規範から自由に行動する。しかし彼らもこれからは、非核化を通じ米国と経済発展をしなければならない。核と経済の並進路線から経済に旋回した(※)。今後はこの関係を進めていけばよい。正常な国家としてデビューさせ、正常な応対をしてあげればよい。米国がそうしたことでベトコンがベトナムになり、中共が中国になったではないか。キューバも変わっている。その程度でできればよい”

※北朝鮮の朝鮮労働党は18年4月20日、党中央委員会第7期第3回総会で「経済建設と核武力建設並進路線の偉大な勝利」を宣布し、今後は「社会主義経済建設に総力を集中すること」を明かした。

―9月に文在寅政権3度目となる南北首脳会談を控え「韓国がもっと積極的に状況を引っ張っていかなければならない」という声もある。

“米朝の間が微温的な場合、韓国が引っ張っていくこともあるかもしれないが、今は私たちよりも米朝が非核化のために努力している。こういう時は後ろに下がるべきだ。今、文在寅大統領も米朝関係の改善がなされない状態の中で、北朝鮮との合意事項は何も推進できていない。とにかく、トランプ大統領が「もうダメだ」という時になって、リスクを取ってでも私たちがやるべきだ。私は膠着状態に陥っていた8月初頭に「南北首脳会談をして米朝関係を解きほぐすべき」と提案したが、結局9月に首脳会談をやることが決まった”

2000年8月、文化観光部の長官として韓国のメディア代表団46人を率い北朝鮮を訪問した朴智元氏(中央)。写真は当時の共同取材団提供。
2000年8月、文化観光部の長官として韓国のメディア代表団46人を率い北朝鮮を訪問した朴智元氏(中央)。写真は当時の共同取材団提供。

―今後の見通しは?

“具体的な南北首脳会談の日程が決まらなかったのはポンペオ長官が訪朝し、ある程度合意ができてからということだろう。北朝鮮の立場では「9.9節(建国節)」に習近平主席と文在寅大統領を招待して祝賀行事兼三国首脳会談をしたいだろうが、韓国の国民感情や米国の立場を考えると難しい。だから9.9節後に金正恩委員長が国連総会に参加し、そこで演説することで正常な国家として世界の外交舞台にデビューした上で、米国と韓国とだけ結んだ非核化の約束を世界に向けて行う。さらに2度目の米朝首脳会談につなぎ、そこで南北米中の終戦宣言を出すことも可能ではないか。

そのために北朝鮮は米国が要求する核リスト、ポンペオ長官が「核弾頭の6〜70%を寄越せ」と言ったものを渡す。また、米本土にとって最も脅威であるICBMの問題は北朝鮮が解決するものと見る。その対価としてトランプ大統領が終戦宣言を行うことになる。私は以前から「外交は政治だ」と言ってきた。11月の中間選挙で共和党が敗れる場合、トランプ大統領は厳しい局面となる。だからこそやるだろう。実際、トランプ大統領の支持率は米朝首脳会談を行ったあと、30%代から45%にまで上昇した。今も40%代だ。だからこそ金正恩委員長を褒めそやしているのだ。

また、重要なのは、米国務省やCIA(米中央情報局)で北朝鮮政策を長い間担当してきた人物たちが、金正恩委員長は父・金正日とは異なり確固たる非核化の意志をもって経済発展を成し遂げようと見ている点だ。祖父・金日成、父・金正日は「白米に肉を食べさせる」、「経済発展させる」という公約を守れずにきた。しかし金正恩委員長が集権した7年の間、餓死する人はいなくなった。私たちの目には微々たるものだが、彼らにとってはとても大きい変化だ。配給に依存せずに自給自足の道に進んでいるではないか。私が楽観しすぎるのかもしれないが、そう思う“

―日本の役割は何だと思うか?

“私が2000年の6.15首脳会談の際、金正日委員長とお酒を飲みながら3〜4時間話をした際に「米朝関係を改善することで体制を保証し、日朝関係を改善し経済発展をしろというのが金日成主席の遺訓だ」という言及があった。2000年に韓国の新聞に対日請求権(植民地支配に対する補償金)日本に50億ドル提供するという記事がでた。しかし韓国には(1965年当時)総額5億ドルだったことを考えると多すぎるという論調だった。

そこで直接、金正日総書記に聞いて見たところ「とんでもない。100億ドルから1ドルもまけない。小泉首相が70億ドルを提供すると言ってきたが、俺はやらない」ということだった。100億ドルが手に入ったら北朝鮮の労働力と韓国の技術力を合わせて、農業構造の改善や鉄道・港湾などのSOC(社会関節資本)事業をしようと言っていた。今はこの金額が200億ドルになったと聞いている。20年前よりも物価が上がったから。日本から200億ドル、中国から200億ドルを受け取るとのことだ。

しかし今、日本の国民は不安だと思う。なぜなら北朝鮮はICBMだけ解決するだろうからだ。核で日本や韓国を狙うのかという話になるが、両国はミサイルの射程圏だ。原発に打ち込まれたら皆死ぬしかない。しかし、金正恩委員長は「遺訓」を知っているはずだ。今、北朝鮮が日本を相手にしないのは、こうした日本からの補償金をしっかりと貰うために、先を見ての布石だろう“

―日本の政治家とも親交が深いと聞いているが。

“(自民党幹事長の)二階議員とはとても親しい。先日も韓国に来た際に会って話をした。だが、総じて日本の政治指導者やメディアはこの部分(北朝鮮との交渉)に関心が無いように思える”

―日本は今、うまくやっているか。

“やれていない。安倍首相のやり方でうまくいくはずがない。だが今は、安倍首相がどうやっても金正恩委員長は食いついてこないだろう。見ての通り、北朝鮮は日本に一番きつく当たっているのが現状だ。米朝関係改善のために日本をダシにしている。しかし北朝鮮が今の実用主義路線を続ける限り、日本と交渉する時が来る”

―韓国としては日本にどんな期待をしているのか。

“文在寅大統領は余りこういう話をしないが、金大中大統領や私の個人的な考えとしては「日朝関係が改善されてこそ北朝鮮の経済発展が実現する」というのがある。だからこそ、拉致問題などでも(日朝関係を改善したい)北朝鮮の体面を立てるように助言したい。だが今はすべて、米朝問題がうまく解決してからだ。日本にも容赦しないトランプ大統領のパーソナリティをよく把握する必要がある”

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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