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米朝首脳会談中止で韓国政府は正念場

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
24日深夜、米朝首脳会談中止を受け緊急招集された韓国のNSC。写真は青瓦台提供。

24日(現地時間)、トランプ米大統領が6月12日に予定されていた米朝首脳会談を中止したことで、一気に流動的となった今後の朝鮮半島情勢。中でも韓国政府は困難な立場に置かれることとなった。

5か月間の成果

トランプ大統領、ホワイトハウスによる突然の発表は関係各国に波紋を投げかけた。

中国は中国共産党系のメディア「環球日報」を通じ、「核実験場を廃棄した数時間後に米朝会談を中止するのは意図的で米国は信頼を損ねる」という強い反応を見せる一方、韓国は「朝鮮半島の非核化と平和は放棄できない」と米朝対話の継続を訴えた。

北朝鮮も一晩明けた25日朝、金桂冠(キム・ゲグァン)第一外務次官の談話を発表し「いつでもどこでも会う」と対話の門を維持しつつ、「突然の会談中止は我々にとって意外なことであり、とても遺憾だ」と失望感をにじませた。

だが筆者はまず、今回のトランプ大統領の中止決定により、今年1月の金正恩委員長による新年辞をきっかけに、駆け抜けるように過ぎて行った朝鮮半島の5か月間が無に帰するものではないことを強調したい。

詳しく述べるまでもないだろうが、南北では11年ぶりの首脳会談が板門店の南側で行われ「板門店宣言」により過去の南北合意が復活した。CIA(米中央情報局)局長出身のポンペオ国務長官は2度も平壌を訪れ、金正恩氏と会談を行った。

また、2011年末に父から権力を受け継いだ金正恩氏は、初めて海外を訪れ、公式的な外交行事に参加した。3月と5月にやはり2度、中国の習近平国家主席と時間を過ごした。

この間、北朝鮮はただの一度も核・ミサイル実験を行わず、ニュースは各国間による対話の内容で覆い尽くされた。北朝鮮はさらに、つい先日、3人の米国人人質の帰還を認め、昨日24日には過去6度の核実験を行った豊渓里核実験場を爆破しもした。

各国間の外交が活発化し、昨年は一触即発とも思えた朝鮮半島の危機を追いやることに成功した5か月は紛れもなく「成果」だ。

「非核化」で米朝に異見

今回のトランプ大統領の決断は、このような「薫風」とも言うべき融和的な気流に一石を投じるものとなった。

米朝会談中止の理由について、書簡では北朝鮮が最近発表した声明にあった「怒り」としているが、実のところは「非核化」をめぐる米朝の異見にあったことは明らかだ。

これまで、北朝鮮は「同時的・段階的」な非核化を公言する一方、米国のボルトン大統領補佐官などの強硬派は「リビア式」に固執してきた。

北朝鮮は「朝鮮半島の完全な非核化」に向け、核凍結、査察受け入れ、施設不能化、核弾頭の持ち出し・廃棄などの各プロセスに合わせ、米側が制裁の一部解除など相応する措置を取ることを暗に要求してきた。

米側の「リビア式」とは、先に北朝鮮が完全な核プログラムの廃棄を行い、それを確認した上で制裁解除や経済援助を行うというものだった。まるで「武装解除」、「完全降伏」とも取れるこの主張に、北朝鮮側は強い反発を示した。

「体制保障」のタイミングもネックに

そしてもう一つ重要なのが、「体制保障」の問題だ。核廃棄と体制保障を同等なものと見なしてきた北朝鮮にとって、米朝首脳会談で何よりも欲しい「成果」がこの体制保障だった。

後戻りのできない体制保障があってこそ、後戻りのできない核廃棄があり得た。だが、米国の立場では、体制保障は核廃棄の最後の段階における報償となる。

こうした「異見」を縫合しようと、トランプ大統領はリビア式ではない「トランプ式」を持ち出した。「非核化で一括妥結する際に体制保障を行い、取引は短い時間内でできるだけ早く行う」というものだった。

だが、この内容を22日(現地時間)、米韓首脳会談前の記者会見で文在寅大統領に確言してわずか2日後に米朝首脳会談を中止したのだった。

「交渉カード」?「完全に決裂」?

米朝首脳会談決定の知らせをツイッターで全世界に公表したトランプ大統領であったが、今回の中止決定の知らせは公開書簡という一風変わった形ながらも、表向きは丁重な体裁と共に行った。

内容も「あなた(金正恩氏)の核より米国の核の方が強い」と強情な面をにじませたが、全体的には「いずれの日か会うことを楽しみにしている」や「気が変わったら連絡してほしい」と今後の会談実現に含みを持たせていた。

さらに冒頭で述べたように、金正恩委員長が金桂冠次官の口を借り、冷静なトーンで交渉維持を表明する返信を行ったことから、事態を決裂ではなく「交渉の延期」とし、交渉がまとまり次第、米朝首脳会談が実現すると見る向きがある。

しかし、厳しい見方も少なくない。

南北関係に詳しいソウル大学平和統一研究院の徐輔赫(ソ・ボヒョク)研究教授は24日、筆者の書面インタビューに対し「北朝鮮側は今後も、非核化交渉を続けることが難しいだろう。米国に裏切られたと感じる上に、(このままでは)軍部を説得することもままならない」と答えた。

また、同様に南北関係に詳しい西江大政治経済学部の金英秀(キム・ヨンス)教授は24日、やはり筆者との書面インタビューの中で、「書簡の内容が金正恩氏にとって侮辱的とも取れる内容になっており、今後の協議につなげるためのカードという次元を超えている」と評価した。

中国が「離脱」か

一方、さらに厳しい見方を示す向きもある。韓国有数のシンクタンク・世宗研究所に所属し、中朝関係に明るい鄭載興(チョン・ジェフン) 安全戦略研究所研究委員は「今後、中国によって制裁局面が有名無実化するおそれがある」と警鐘を鳴らす。

25日、滞在先の上海で筆者の電話インタビューに応じた鄭研究委員は「中国の専門家の反応は米国に非常に批判的だ」と前置きした後で、「中国は北朝鮮側が3人の米国人人質を返し、核実験場の廃棄を行うなど先制して措置を取っていることを評価している。だが今回、交渉を中断したのは明らかにトランプ大統領。今後、同大統領が北朝鮮への制裁を強めるとしても、中国はそこに加わらない可能性が高い」と現状を診断した。

さらに、「中国は今回、北朝鮮からの経済視察団を長期にわたり受け入れるなど、独自の経済強力を模索している。中朝関係が改善に向かっている今、北朝鮮としても『武装解除』を強いられるような米国との非核化交渉を、あわてて始める必要もない」と、『制裁と対話』という昨年来から朝鮮半島情勢の基調となってきた局面が変わる可能性を見通した。

韓国は八方塞がりか

昨年5月の発足以降、朝鮮半島問題の「運転者」であり米朝の「仲介者」であろうと努力してきた文在寅政権は、今回のトランプ大統領の決定を厳しく受け止めている。

昨年9月の北朝鮮による核実験時にも前例の無かった、NSC(国家安全保障会議)常任委員会を2日連続(24日夜、25日午後)で開催するなど、今後の対応に苦慮している。

25日午後、韓国政府が明かしたNSC会議の結果は「米朝首脳間の直接的な疎通が必要であり、これに向けての努力を続ける」というものと、4月27日の「板門店宣言」に基づき、「南北関係を改善していく中で、再び米朝関係改善に向けドライブをかけていく」というものだ。

しかし前者は見てきたように、「非核化」において韓国が米朝どちらかに大幅な譲歩を求める役割を果たすことになるが、韓国にその力は無い。米朝問題は米朝でしか解決できない。文大統領が米韓首脳会談から帰国した翌日にトランプ大統領が米朝首脳会談の中止を発表した事実は重い。

一方、「南北関係→米朝関係」という論法は90年台後半以降、効果を確認できた手法であり、今回も最大限活用されたものだ。4.27南北首脳会談で南北の蜜月を強調した直後に、現在のような局面になってしまったため、今後どれだけ「伸びしろ」があるのかは不透明だ。

さらに、目標にしてきた米朝首脳会談が中止となる重大事を前にしても、せっかく設置した南北首脳間のホットラインは眠ったままだ。

文在寅政権は就任後から、米韓の強い同盟、強い協調をテコに朝鮮半島の戦争終結(平和)と共同繁栄を目指してきた。しかし今後は、結びつきを強める中朝と、北朝鮮に強硬な日米の間に挟まれる可能性も出てきた。文在寅政権の朝鮮半島政策は今まさに、正念場を迎えている。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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