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【担任の先生がいない】常態化しつつある教員不足。しわ寄せは、子どもたちに。

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

  • (小学校では)体調不良で長期間お休みしている先生がいますが補充の先生がいません。入れ替わりいろいろな先生が入っていますが、全体に落ち着かないです。穴を埋めている先生方が倒れてしまわないか心配です。(中学校では)まだ美術の授業が始まっていません。(神奈川県、公立小・中学校保護者)
  • 昨年度、担任が突然退職した。しばらく担任不在のままの期間があった。学習支援担当の先生がその後担任になったが、今度はその先生がコロナ関連の休みで、実質その年は子どものクラスの担任不在日は3ヶ月に近い日数となった。安心して子どもをあずけられないという親は周囲の意見を聞いてもかなりいる。(兵庫県、公立小学校保護者)

  • 担当教員が不足しているため、同じ教員が2クラス同時に授業を行うことがあり、教室を出たり入ったりする。大急ぎで授業をすすめるため、早口で何を言ってるのか理解が追いつかないことがしばしばある。(大阪府、公立中学校保護者)
  • 何年も前から、教頭や教務主任が教科を担当することが常態化しています。(千葉県、公立小学校保護者)
  • 担任が次々に変わる現状があります。これは子ども達にとって安全地帯を失っていくことではないかと思います。特に新しいことに適応しにくい子にとっては耐え難いものだったりします。(神奈川県、公立小学校保護者)

これらは、この4月、5月に保護者から寄せられた声の一部だ。

■先生がいない、担任が決まらない

昨今、人手不足という業界は少なくないが、教育現場でも、先生が足りないということが起きている。

5年以上前から教員不足の問題があることは、関係者にはよく知られていたが、おそらく一部の学校でのことという地域は多かったのではないか。ところが、ここ2~3年は、教員不足はあちこちの学校で聞くようになった。

4月に担任の先生が決まらない(配置できない)ことや、専門でない教科の先生から教わるということは、決して珍しい事態ではなくなりつつある。本当にこんなことでよいのだろうか。

文科省は昨年度初めて、教師不足の調査を行った。昨年5月1日時点で、日本全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校で約2千人の教員が不足しており、不足が生じている学校は約1600校で、全体の4.8%であることが判明した(次の図の上のほう)。

出所)文部科学省・「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)
出所)文部科学省・「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)

たいへん貴重な調査なのだが、限界、問題点もあった。たとえば、この調査では「不足ゼロ」と回答する都道府県・政令市もあったが(東京都、山形県、和歌山県、山口県など)、こうした地域からも「実際には不足している、ゼロなんてありえない」という教員の声が私のもとには届いていた。

また、今年の4月の時点で不足が起きているという声も、私のもとに多く寄せられた。文科省が今年度もしっかり調査してくれればよいが、するかどうかは分からないし、調査したとしても、公表されるのは、昨年度の例を参考にすると、10カ月近く経ったあとで、対策はさらにあとになる。こんな悠長な姿勢では、いま困っている子どもたちや教職員は、救われない。

そこで、この4月から、私は、School Voice Projectという教員の声を可視化する活動をおこなっている団体と、末冨芳さん(日本大学教授)と共同で、教員不足の実態把握と政策提言を続けている(#教員不足をなくそう緊急アクション)。本日(6月6日)記者会見も行い、進捗状況を報告した。実態調査の結果の一部をこの記事でも紹介したい。

記者会見の模様(写真提供、School Voice Project)
記者会見の模様(写真提供、School Voice Project)

※記者会見資料はこちらで公表している。

https://drive.google.com/drive/folders/1vHToHh2dVXNkxr0mn1eT9uTKIKja8dAq?usp=sharing

■教員不足は、ほんの一部の学校でのことではない。

以下では、公立小中学校の副校長・教頭が回答してくれた調査結果を共有したい。全国公立学校教頭会の協力を得て実施したもので、1,070件の回答があった(ただし、設問に応じて一部の回答は除いて集計している)。

まず、教員不足が起きているか、聞いたところ、去年を通じて一度でも起きたという回答は、公立小学校、公立中学校の4割近くであった(次の図)。また、この4月始業式時点で不足が起きているか聞いたところ、約2割の小中学校で起きているという回答だった。4月末時点も聞いたが、多くの学校では改善していない。

出所) #教員不足をなくそう緊急アクション記者会見資料より抜粋(以下、特に断りがないかぎり、同じ)
出所) #教員不足をなくそう緊急アクション記者会見資料より抜粋(以下、特に断りがないかぎり、同じ)

昨年度の文科省調査で不足しているのは、小中学校の4.8%ほどだったが、今回の私たちの調査では、それよりも相当多くの学校で不足している可能性を示唆する。

だが、この2割とか4割という数字がすごく意味がある、とは私は捉えていない。この手のアンケート調査には、問題に直面している人ほど回答しやすいなど、一定のバイアスが生じやすいからだ(教員不足が生じていない学校も回答してください、とは呼びかけたが)。

とはいえ、そうした調査の限界を割り引いたとしても、教員不足の問題が、昨年度文科省が把握した事態よりも昨年度の時点でもっと深刻だった可能性は残ると思うし、いま現在も深刻な学校が相当数あることは事実だ。もはや、教員不足は珍しいことではないのだ。

■一番の被害者は子どもたち

教員不足が起きている学校は、どうなっているのだろうか。どう対処しているのだろうか。

この4月末時点の状況を聞いたところ、少人数指導や教務主任など、本来は学級担任ではない先生が担任を代行しているケースが多かった(次の図)。また、数として多いわけではないが、教頭や校長が担任を兼務せざるを得ないという異常事態の学校も存在する。

中学校では、教科ごとに専門が分かれているが(教科担任制)、専門外の先生が授業をせざるを得ないという学校もある。また、一部の学校では、教員不足のために一部の授業ができないという例まである。

冒頭に保護者の声を紹介した。多くの保護者も心配しているが、こうした教員不足の問題の悪影響、しわ寄せは、すべて子どもたちに行く

写真:アフロ

今回の調査では、教員不足が起きたときに想定される問題、影響についても聞いている。「学級担任がいなかったり、頻繁に変わったりすることで、児童生徒が不安に思う」、「学級になじめない子や不登校傾向の子が増える」という影響には、「おおいにそう思う」、「そう思う」という回答は8~9割に上っている。

なお、この4月末に教員不足が実際に起きている学校のみを取り出して集計しても、ほぼ同様の結果であった(次の図)。実際、こうした懸念が起きている部分もあるということだろう。

少し考えてみれば、当たり前の話で、4月に初めて小学校なり中学校に通い始める子たちもいる。クラス替えがあって、うまくやっていけるかなど不安な児童生徒も多い。学級担任1人でワンオペ状態でいろいろケアせよということには、私は賛成できないが(複数担任制や学年担任制などのほうがよいかもしれないと思っている)、学級担任が頻繁に入れ替わる事態や、もともと忙しい職である教頭らが担任まで兼務するというのは、子どもの気持ちを一層不安定にさせることだろう。ちょっと相談したいことがあっても、忙しそうな先生には声をかけづらいという子もいる。

■授業の質にも影響

中学校などで、専門ではない先生が授業をせざるを得ないというのは、たとえば、極端な例では体育の先生が国語をもったりするケースもある。たいへんななか一生懸命対応してくださっている教員は多いが、やはり、授業の質や児童生徒の学びの支援という意味では、不安が残る。

実際、教頭向け調査でも、授業の質が落ちるという回答は約9割にも上った(おおいにそう思うという回答だけでも相当多い)。

もちろん、授業、教育への影響は、さまざまな観点で慎重に分析・診断していく必要があるし、質を簡単に評価できるものでもない。

だが、教員不足に関連して大きいのは、少なくとも次の2つの影響だ。

第一に、講師の質をうんぬん言っていらない状態になっている、という問題だ。

産休育休や病気休職の先生の代わりに、講師の先生を募集するが、この講師がなかなか見つからない(これが教員不足の多くの現象)。教育委員会や校長は何十件も電話して、講師になってくれる人を探しているという例もある。いわば、猫の手も借りたい状態なのだ。

そんななか、「講師の質をちゃんと評価して採用している場合ではない、ともかく誰か来てほしい、授業に穴をあけるわけにはいかない」という学校も多いのだ。本当は授業や子どもへのケアというのは、高度で難しいことなので、誰でもいいわけはないのだが。

実際、教頭向け調査でも、次の図のとおり、「B:講師の質を評価して選んでいられる状況ではない」という回答が約65%も占めた。

第二に、教員不足は、教員の多忙を一層深刻にしている影響だ。本来配置されるべき人がいない、欠員状態の学校では、いまいる人が負担を増やして、なんとかカバーしている。授業時間数を増やしたり、生徒指導や事務作業を増やしたりして。

ただでさえ、過労死ライン超えも多い、日本の教員の働き過ぎが、一層悪化する。しかも、病気休職者が出ているような職場は、なにかしら困難を抱えているから、――理不尽なことを言ってくる保護者がいたり、職員室でハラスメントがあったり、サポートがなかったり――残された教員たちは、一層大変になっている(もちろん休むのは大事なことだが)。

教員不足が発生 

⇒ 残された教職員でカバー、さらに多忙に

⇒ 疲弊して離職増 + 教職を敬遠する学生・社会人増(講師登録者減) 

⇒ さらなる教員不足

という悪循環になっている学校も少なくないと思われる。

「連鎖不足」、「連鎖崩壊」とでも言える事態だ。

私は2年ほど前に『教師崩壊』(PHP)という本を書いた。その中で、教員不足の問題や授業の質の低下などが同時多発的に起きており、各々影響し合っていること、「ティーチャーズ・クライシス」とも言うべき事態が今後一層深刻化することを述べた。そこで述べた懸念は現実化しつつある。

今回の調査の中でも、「公教育の崩壊が始まっている」という意見、記述もあった。教員不足の問題ひとつとっても、複雑で、解決にはさまざまなハードルがあるが、実態を把握、診断した上で、効果的な対策を迅速にとっていく必要がある。「なんとか現場でしてくれ」という姿勢や小手先の方策ではダメだ。

<#教員不足をなくそう緊急アクション>

教員不足の解決に向けた署名活動を行っています。ご関心ある方は、ぜひご協力ください。

●活動の様子はウェブページや私たちのTwitter等でアップします。

(妹尾の参考記事)

「【学校が回らない】欠員状態のまま、綱渡りの学校」

「教員不足「さほど深刻ではない、もっと教員を減らすべき」の大いなる盲点」(東洋経済オンライン)

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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