文部科学省が昨日公表した調査によると、学校の先生(教育職員)で、うつ病などの精神疾患で休職した人は、昨年度5,180人で、過去最多となった令和元年度(5,478人)よりは少し減ったものの、依然として高止まりした状況が続いている(下の図を参照、対象は公立の小学校~高校、特別支援学校)。

 先生たちが精神的、あるいは肉体的に疲弊した状態で、いい授業や教育活動になるはずがない。学校はどうなっているのか、苦しい背景にはなにがあるのか、その一端を解説する。

出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」
出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」

■ここ14年間、ずっと毎年約5千人が精神疾患で休職

 公表されているデータを遡ると、精神疾患で休職する教員数は、平成9~11年度(1997~99年度)は毎年1,600~1,900人程度、平成12~14(2000~2002)年度は毎年2,300~2,700人程度だった。

 これが2000年代に増加し、平成19(2007)年度から毎年5千人前後でずっと推移している(次の図)。

※前年度やその前から休職している人もいるから、毎年5千人ずつ純増しているわけではない。

出所)妹尾昌俊『教師崩壊』。文科省「公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成。
出所)妹尾昌俊『教師崩壊』。文科省「公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成。

 ほぼ同じ時期の地方公務員(教員、警察、消防職員を除く)のデータを見ても、精神疾患で休む人は増えている(地方公務員安全衛生推進協会の調査などを参照)。教員だけが特殊というわけではないかもしれないが、教員のメンタルヘルスの悪化は、ダイレクトに子どもたちにも影響を与える。症状はさまざまだから、一概に言える話ではないが、授業がうまく進まなかったり(学級崩壊など)、子どものケアをする余裕がなくなるケースもある。休むことはもちろん大切なのだが、ここ数年は代わりの先生がなかなか見つからないので、カバーする他の教職員がさらにしんどい状態になり、教育現場の疲弊はさらに進む。保護者の一人としても、わたしは心配だ。

 精神疾患の数が多い、少ないという議論よりは、少しでも減らすという方向で考えたい。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

 ところが、文科省が公表しているデータでは、休職者数などの数字を追えるくらいで、背景や要因についてはほとんど分からない。もともと調査名が「公立学校教職員の人事行政状況調査」で、基本的には懲戒処分等の調査の一部であり、メンタルヘルスに関する調査ではないからであろう(よく報道される、わいせつ事案での処分数などはこの調査だ)。そのためか、メディアなどでも、休職者が何人といった報道くらいだ。

 一人ひとり置かれた状況はちがうし、複合的な要因がメンタルヘルスには影響するから、実態把握は簡単ではない。とはいえ、実態把握が疎かな状態では、対策の打ちようがないし、必要な予算も取れないであろう。

 ここ14年あまり、精神疾患での休職者がほとんど減っていない事実からすれば、これまでの文科省や教育委員会の対策、施策、あるいは各学校の取り組みでは十分ではなかった可能性が高い、と反省するほうが筋だと思う。しかし、実態把握がしっかりできていないせいか、文科省の資料で述べられている対策は、毎年同じようなもの、しかも漠然とした方向性が並んでいるだけだし(次の図)、それらがどこまで効果的なのかも不明だ。

 これでは苦しい人はいつまでも救われないのではないか。

出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」
出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」

 さらに付言すると、休職や病気休暇(後述)となった人のなかには、「もう先生は続けられない」と退職してしまう人も多い。過労死した先生もいるし、パワハラや理不尽な保護者等が原因で自殺する人もいる。だが、こうした人たちは、今回のような調査にはのってこない(数としてカウントされない)。仮に休職者が多少減ったとしても、退職者や過労死等が増えていたのでは、問題は悪化していることになる。

■教師の心が折れるとき:やりがいともなっている、児童生徒との関係不調

 とはいえ、文科省の調査や先行研究等からいくつか推測できることもある。その一部を紹介したい。

 次のデータは、九州中央病院メンタルヘルスセンター、十川博氏の資料(中教審、学校における働き方改革特別部会、平成30年7月19日)である。九州中央病院メンタルヘルスセンターを受診した教員のうち、病気休暇・病気休職となった人、105人についてだ。複合的な原因が背景にあると思われるが、そのうち「休むに至った主たる原因(第一位)」と主治医が判断したものを集計した。

図 教員の病気休暇、病気休職の背景(第一位)

出所)九州中央病院メンタルヘルスセンター十川博氏の資料をもとに作成。健康・介護等を理由とする病気休暇・病気休職は除く。
出所)九州中央病院メンタルヘルスセンター十川博氏の資料をもとに作成。健康・介護等を理由とする病気休暇・病気休職は除く。

 対処困難な児童・生徒への対応に苦慮した結果というのがもっとも多くて約4割。次に保護者への対応が約2割(おそらく児童・生徒への対応と複合的な場合も多いであろう)。つまり、ある特定の児童生徒や保護者との関係性がこじれたり、授業が成り立たなくなったりするケースである。

 管理職との関係、職場環境、同僚との関係などの職場での人間関係等に起因する要因も、合わせると約3割となる。

■20代、30代の病休者が急増

 次に前述の文科省調査ももう少し見ておこう。1ヶ月以上の病気休暇取得者のデータも公表されている(ただし、直近5年分のみ)。約5千人の病気休職というのは、行政処分のひとつだが(給与がカットされることもある)、その前に、病気休暇を取得できる(多くの場合、最大90日間)。1ヶ月以上の病気休暇の取得者(休職の人も含む)の推移は以下のとおり。

出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成
出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成

出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成
出所)文部科学省「令和2年度公立学校教職員の人事行政状況調査」をもとに作成

 どの校種、どの年齢層でも病休となる人はいるが、2016年度から20年度までの増加率を見ると、小学校での精神疾患による病休者が1.28倍で、特に多くなっている。

 年齢別に見ると、20代の教員の精神疾患による病休が1.66倍と急増しており、次に30代の精神疾患による病休も増えている(1.43倍)。地域によっては若手教員の絶対数が増えているという影響もあるが(後述)、年代別教員数に占める比率を見ても、20代教員の精神疾患者は、0.91%(2016年度)から1.43%(20年度)、30代教員の同比率は0.92%から1.22%へと増えている。

 つまり、とりわけメンタル不調が深刻化している可能性が高いのは、小学校、20代、30代である。(繰り返すが、それ以外でも苦しい人は多い)。

 なぜ、そうなっているのか。さまざまな背景があるが、ここでは4点指摘しておきたい。

 第一に、小中学校では、若手教員のほうが抑うつ傾向が高い傾向がある(2016年実施の文科省・教員勤務実態調査)。

 この調査では、若い年齢層ほどSOCというストレス耐性の値も低い傾向があることが分かった。SOCは、人生に対する首尾一貫した感覚を評価する指標で、なんとかやってのけられると感じる能力や直面したことに意味を見出せる能力などを指す。

 ある程度経験があっても保護者等からの理不尽な対応はつらいものだが、「こんな保護者もいるよね」とか、「以前しんどかったケースと比べるとマシなほう」とある意味開き直れるケースもあろう。だが、若い人ほど、困難な状況に慣れていないこともあって、自信を失ったり、深刻に受け止め過ぎたり、仕事に意味を見いだしにくかったりする。

 また、若い年齢層ほど長時間労働であることも別のデータで分かっている。つまり仕事の負荷が重いため、ストレスが高くなり、メンタルヘルスが悪くなっている可能性もある。

 第二に、いびつな年齢構成となっている学校もある。次のグラフは文科省の統計から公立小学校教員の年齢構成をみたものだ。ただし、本務教員という常勤職のみの統計なので、非常勤講師などは含まれていない。

 地域差が大きいので、いくつかピックアップしてみたが、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府などの都市部(児童数も教員数も多い)では、20代、30代が多く、40代半ば~50代前半が少ない傾向がある。

出所)文部科学省「教員統計調査(令和元年度)」をもとに作成。横軸のスケールは都道府県ごとに異なることに注意。
出所)文部科学省「教員統計調査(令和元年度)」をもとに作成。横軸のスケールは都道府県ごとに異なることに注意。

 こうした地域の学校では、20代、30代は多いが、その上の先輩が少ないので、ケアされることが少ないのかもしれない。また、小学校では、ほぼ全員が1年目の新人から学級担任の重責を担う。不慣れななかでたいへんだが、相談にのりやすい中堅が少ない職場もある(初任者には指導者役は付くが)。

 学級がうまくいかないときや、保護者からの理不尽とも思えるクレームがあるときなどは、学年主任や管理職に相談して、チームで対応することがどこの学校でも多い。だが、この年齢構成では、相談しづらかったり(周りの先生も忙しいし)、問題がかなり深刻になってから対応したりするケースも増えているのかもしれない(このあたりはデータからは分からないので、推測になってしまう)。

 なお、これらの都市部では、小学校で35人以下学級になる影響も受けやすいので、今後さらに若手が増える可能性がある。

 対照的に、秋田県、福井県、高知県、宮崎県を例示するが、地方について見ると、50代が多く、20代、30代はそれほど多くはない(次のグラフ)。これらの地域では、若手の相談や支援にベテランが比較的のり出しやすい職場が多いのかもしれない。だが、現在~今後、ベテラン層の大量退職時代を迎えるので、それはそれでたいへんである。

出所)文部科学省「教員統計調査(令和元年度)」をもとに作成。横軸のスケールは県ごとに異なることに注意。
出所)文部科学省「教員統計調査(令和元年度)」をもとに作成。横軸のスケールは県ごとに異なることに注意。

 第三に、近年、全国各地で教員不足、講師不足が慢性化している。病気休暇または休職となる人の代わりの先生が見つからないのだ(前述)。そのため、学級担任をもっていなかった教務主任などの中堅・ベテラン層、場合によっては教頭らが学級担任の代わりになって、しのいでいる小学校なども多い。

 こうなると、職場で若手等の悩みを聞いたり、問題が大きくならないうちに組織的に対応したりすることが、どうしてもますます後手後手に回りやすい。また、カバーに入る中堅・ベテラン層らのメンタルが悪化しやすくなる。ドミノ倒しのように悪循環になる。教員のメンタルヘルスのケアやストレス負荷の軽減には、職場での取り組みや支援が不可欠だとはいえ、現場にがんばれと言うだけでは、限界が来ている。

 これら1点目から3点目はコロナ前からも深刻だったが、第四に指摘したいのは、やはり新型コロナの影響だ。とりわけ、公立小学校ではさまざまな背景や特性の児童がいて、配慮やケアの必要性が高い子は多いし、「コロナが怖い」という子も多い。マスク越しでは子どもとの関係を築きにくいというケースもあろう。

 保護者も、小学校低学年などでは不慣れで、学校について分からないことは多い。コロナで仕事や育児でストレスが高い状況は続いているし(休校中は特にたいへんだった)、保護者同士のつながりも薄くなりがちだ。子どものことで心配なことがあれば、つい学校、先生にきつく当たってしまうケースもあろう。しかも、担任が20代の先生なら保護者よりも年下で、よけい厳しい態度になりやすい場合もある。

 しかも、中高では副担任が付くことも多いが、小学校では教員数の算定上、中高よりもキツキツの人数なので、副担任を付ける余裕は、多くの小学校では皆無だ。これは35人以下学級になっても改善しない。

 このように、挙げていくとさまざまな要因、背景事情はあるが、とりわけ小学校での状況が厳しく、なかでも20代、30代の先生が苦しみやすいという事情はある。仮にこうした診断が当たっているなら(繰り返すが、地域や学校ごとの状況にちがいはある)、その要因、背景にミートした施策、支援を講じていく必要がある。

 やはり、小学校の学級担任の負荷を下げていく方策や人的支援はもっと必要だ。「〇〇教育」の増加や学習指導要領の改訂で、次々と小学校現場で教えることはビルド&ビルドで積み重なる一方だが、いい加減、やめる、減らすべきではないか。講師不足の問題にももっと抜本的な手立てを講じる必要があるように思う。たとえば、年度途中での募集では既に別のところに就職している人も多いのだから、年度初めから講師を多めに確保、配置できる予算措置が国や都道府県等に必要ではないか。

 若手等の悩みなどを職場外でも相談しやすい体制をつくる必要もある。一例だが、メンタルヘルス対策に積極的に取り組むある市では、保健師が相談にのる体制ができている。

 今回述べたことは、教員のメンタルヘルスを良好なものにして、児童生徒に活き活きと接してもらうようになるための、ほんの一部の問題提起や提案に過ぎない。述べられなかった点も含めて、幅広く議論と支援が広がってほしい。文科省も教育委員会も、あるいは社会も、休職者が増えた減ったとだけに一喜一憂している場合ではない。

(参考)

・教育新聞21年12月21日電子版記事「精神疾患による教員の休職や休暇取得が微減 20代は増加」

・大石智『教員のメンタルヘルス』大修館書店

・妹尾昌俊『教師崩壊』PHP新書

・妹尾昌俊21年10月29日Yahoo!ニュース記事「【学校が回らない】欠員状態のまま、綱渡りの学校」

・妹尾昌俊20年6月30日Yahoo!ニュース記事「このままでは、メンタルを病む先生は確実に増える 【行政、学校は教職員を大事にしているのか?(3)】」