【小学校が35人学級へ】 評価できることと大きな課題、疑問

(写真:アフロ)

 公立小学校で、来年度以降、徐々に35人以下学級となる見通しだ。

現在は40人(小学1年は35人)と定められている公立小中学校の学級基準について、政府は小学校に限り、全学年を来年度から5年かけて段階的に35人まで引き下げる方針を固めた。(中略)

小学校の学級基準の一律引き下げが決まれば約40年ぶり。文科省は来年度の予算編成で小中学校の学級基準を一律で30人まで引き下げることを求めていたが、効果を疑問視する財務省は譲らず、小学校に限った「35人学級」の実現で折り合った。学級基準を定めた義務標準法の改正案を年明けの通常国会に提出するものとみられる。

(毎日新聞12月16日)

■評価できるところは?

 この動き、どう捉えたらよいだろうか。

 まず、率直に申し上げて、評価できる点としては、やっとこの国も小学校教育に投資しようという気になってくれたのか、という点である。OECDの統計などを見ても、日本の学級規模は他のほとんどの先進国よりも大きい。35人学級でもまだ多いほうだが、大きな一歩前進である。

写真:アフロ

 もうひとつ、大きく評価できる点は、義務標準法改正の動きになる見込みであることだ。これまでも、算数の少人数指導などのために「加配定数」といって、文科省は予算化してきた。だが、加配という、本来よりも余分に配当しますねという制度のもとだと、毎年の財務省との予算折衝の中で削られたりすることもあるし、都道府県別等の配分は文科省しだいなので、教員を採用・配置する都道府県・政令市側から見れば、中長期的な見通しをもって採用・配置できない。その結果、非正規雇用の臨時の先生らで賄ってきた自治体も多い。

 これが、今後標準法の改正が進むと、自治体としては中長期に雇用しても大丈夫な状態になりやすいので、先生の正規雇用が増える可能性がある(とはいえ、自治体しだいではあるが)。つまり、今回の動きは、正規の教員数を増やす方向にある、これは大きな前進だろう。

■1割弱にしか影響しない。

 ただし・・・、実に約40年ぶりの改正と聞くと、大きなインパクトがあるように思えてくるが、過大な評価は禁物である。文科省「学校基本調査(令和元年度)」という基本統計で確認しよう。直近のデータでは、公立小学校の単式学級数は218,541(これに加えて、複式学級と特別支援学級がある)。このうち、1クラス36人以上の学級数は18,098で、全体の約8.3%である。つまり、今回の動きは、1割弱の学級にしか影響はしない。

■全国単位だけで見ていると、判断を誤る。

 しかも、学級の状況は、都道府県ごとの差が大きい。地方のいくつかの県では、すでに独自施策で1クラス30人以下学級とか35人以下学級としているところも多い。しかも、人口減少・少子化で自然に1クラスの人数が少ない学校もある。現在、小学校で1クラスに36人以上がひしめている学級が多いのは、おもには首都圏(埼玉、東京、神奈川)や愛知などの都市部だ(次のグラフ)。

文科省「学校基本調査(令和元年度)」をもとに筆者作成。複式学級と特別支援学級も含むデータである点は注意。(本当は除いて単式学級のみで比べたいが、文科省の統計上、区別できない。)
文科省「学校基本調査(令和元年度)」をもとに筆者作成。複式学級と特別支援学級も含むデータである点は注意。(本当は除いて単式学級のみで比べたいが、文科省の統計上、区別できない。)

 こうした都市部の学校のなかには、校区にマンションができたりして、急に子どもの数が増えているところもあって、校舎が手狭になっているところもある(空き教室は不足)。教室、建物の問題はひとつ大きい。

 もうひとつ、より大きな問題は、教員確保だ。こうした都市部の自治体の多くでは、すでに教員の若返りが進みつつある。かつて大量採用された世代が定年を迎えて、20代の先生が増えている。こうした世代は、転職・離職しやすいし、産休・育休に入る人も今後急増していくから、教員不足に陥るリスクは高い。しかも、小学校はハードな職場であり、精神的に追い詰められて休職する人も(これは世代を問わず)多くいるから、なおさら人手不足になりやすい。

 いまでも、本来配置されるべき数の先生が足りておらず、教頭先生が学級担任の代わりを務めていたり、算数の少人数指導のための先生を引き上げて学級担任に置いたりしている小学校は多い。

 正直、小学校現場からすれば「猫の手も借りたい」ような状況だが、もちろん、先生のなり手として、だれでもいいわけではない。残念ながら、この人に学級担任を任せると、必ずと言っていいほど学級崩壊したり、保護者等とトラブルになったりする先生もいると聞く。つまり、教員の量の問題と質の問題の両面で、心配な事態になるリスクを考えておく必要がある。

■結局、なんのための少人数化なのか?

 もうひとつ、よくよく注意したいのは、今回の政策がいったい何をねらったものなのか、なんのためのものなのかが、いまだはっきりしないことだ。教育再生実行会議などでも議論は行われているし、財務省と文科省とのあいだでも攻防があったのは確かだが、だれも説得力のあるビジョンを示しきれていないのではないか。

参考:妹尾昌俊「少人数学級はなにに効果的なのか? 財務省と文科省の攻防、両者が見落としているもの」

 こういう表現は失礼かもしれないが、政治家の先生や文科省幹部らにとって、40年ぶりの大改革として、ご自身の功績をPRできるようにはなるだろう。だが、肝心の子どもたちや先生たちにとって、どれほどよい効果があるのだろうか。しかも、学級数の1割弱とはいえ、多額の公金を使う以上、その費用に見合うものなのかどうか、説得力のある説明が必要だ。

画像素材:photo AC
画像素材:photo AC

 「少人数学級のほうがよりきめ細かな指導ができる」とおっしゃる人は多い(行政にも学校の先生にも)が、そんな漠然としたことで政策論たりえるとは思えないし、煙に巻かないでいただきたい。

 申し添えると、「新型コロナ対策で教室内の密を避けるためには、少人数にする必要がある」とのロジックは、ほとんど詭弁だ、と思う。

 コロナの感染が本当に心配なら、なぜ、高校でなく、小学校を35人以下にするのか?児童生徒数から感染者数を割り出すと、高校生のほうがリスクは高いと言えるだろうし、高校生のほうが広範囲を移動するから、周りにうつすリスクも高い。

 もうひとつ。「GIGAスクールで一人一台端末になるし、子どもたち一人ひとりに応じた指導・学習にしていく必要がある」とおっしゃる人も多い。わたしもこの論には半分以上賛成だが、2つ疑問がわく。

 ネット上の教材(動画等)やアプリが学習支援してくれるなか、教員の役割をどこに見いだすかという問題がひとつ。仮に、コンピュータやネット上の先生が、教室の実際の先生の役割の一部を代替できるなら(※)、35人以下や30人以下にしていく必然性が高いとは言えない

※念のために申し上げると、わたしはリアルな教師の役割は変化はすれど、大きいと考えているが、このテーマは別の機会に論じる。

写真:アフロ

 もうひとつの疑問は、この理屈を通すなら、小学校だけでなく、中学校、高校でも1クラス40人は多すぎる、ということになろう。小学校段階と異なり、中学、高校のほうがより発展的で探究的な学びのウェイトを高めていくならば、小学校の35人学級を先んじる理由はどこにあるのか?

■小学校教育への投資は重要。

 わたしにとって、腹落ちするのは、小学校は、中高の段階よりも、投資効果がおそらく高い、ということだ。たとえば、小学校段階で勉強嫌いとか、スポーツ嫌いなどになってしまうと、中学や高校で取り戻そうとしても、子ども本人も、学校も、相当苦労する。よく言われるが、中学校の数学で苦手な子は、小2、小3でつまずいているままというケースもある。

 加えて、発達障害を抱えてより丁寧なケアが必要な小学生も増えているし、ギフティッドと言われるが、特異な才能をもちながらも学校で十分に認められていないケースなどもあるし、家庭の貧困問題などの影響で、学校生活に意欲がわかない、将来に希望がもてない子たちもいる。こうした困難やチャレンジのある子も含めて、多様な子たちを認め、子ども同士でも学び合っていくためには、1クラス40人だと多い、という話なら、そうかもしれない。

 言い換えれば、小学校段階で家庭や学校が十分にケアできず、取り残されそうになっている子がいるなら、もっと小学校教育に重点的に投資していこうとする発想は、重要だろう。もっとも、その手段として、35人学級という手段、政策がどこまで有効で、他の政策選択肢よりも優れているかどうかは、もっと議論されるべきだと思う。

 要約する。小学校の35人学級の動きは評価できることは多い一方、疑問もつきない。なぜ小学校なのか、本当に効果的なのか?政治家や官僚の人気取りのためのものになってもいけない。

 以上述べたことのほかにも、今般の動きには、大きな副作用、痛みを伴うリスクがあると、わたしは考える。この点は、次回に解説したい。

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