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部活動の地域移行、民間委託の是非 ― 魅力・よさも課題も山積み

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 文部科学省はおととい(9/1)、休日の部活動を地域、民間に移行していく案を示しました。きょうは、この案も踏まえつつ、部活動を地域に移行していくと、どのような変化、効果が期待できるのか、はたまた、どのような問題、課題があるのか、整理してお伝えします。多くの子どもたちにとっても、部活動の存在は大きいですよね。地域移行には、さまざまな、大きなインパクトが出てくると思います。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

■部活動改革案の中身は?

 文科省の検討の概要として、以下の報道が参考になります。

 部活動の指導をめぐっては、教員の長時間労働の原因や指導経験がない教員の負担になっているといった声があがっています。

 これを踏まえ、文部科学省は1日、「学校における働き方改革推進本部」で、休日の部活動については民間のスポーツクラブや芸術文化団体などに運営を移行していく方策を示しました。地域のスポーツ指導者や退職した教員などの人材を確保する一方で、希望する教員は引き続き指導できるようにします。

出典:TBSニュース9/1

 関心のある方は、ぜひこの会議の資料もご覧になってください(https://www.mext.go.jp/content/20200901-mxt_kouhou01-100002242_7.pdf?fbclid=IwAR2iRYthgqMGcPXJswXdDbZW1HRPL_m5djgchZ6reWa8Mu5JaoIQHAD88iM)。次の概要ペーパーほか、関連資料がたくさん出ています。

文部科学省前掲会議資料より抜粋
文部科学省前掲会議資料より抜粋

 「なぜ、休日だけ?」という疑問は浮かびますが、おそらく、まずは休日からでも地域移行を促したいということかと推察します。平日の夕方空いている地域人材はそう多くないので、よりハードルが高いですが、将来的には平日についても地域移行できるものは考えていきたいというアイデアなのかもしれません(平日については、資料中にほとんど言及がないので、未知ですが)。

 ここ2~3年は実践研究(おそらくモデル事業など)を行って、2023年から、地域主体に変えていくこと(休日について)を段階的に全国展開したいという工程案になっています。これを「ぬるい。時間がかかり過ぎている」とみる見方もあるでしょうし、わたしもそう思う部分も大ですが、地域移行(注1)には問題、課題も山積みです。

(注1)「地域移行」の定義は、論者によって少しずつズレますが、本稿では、部活動を一部でも、地域主体にしていくことを指すことにします。スポーツ団体や文化団体、民間事業者、保護者の団体等が担うことを想定しています。部活動指導員は学校の職員となるので、厳密には「地域」ではないと思いますが、部活動指導員が担うケースも、ここでは地域移行に含めます。要するに、部活動指導を教員の業務から離していくことを総じて「地域移行」としてイメージします。

■地域移行のよさは?

 まず、部活動を教員主体から、地域主体にしていくよさ、メリットはなんでしょうか?

 報道では、教師の負担軽減、働き方改革に資すことが強調されていますが、それだけではありません。いや、さんざん、各地の教育委員会や学校向けに働き方関連の研修やアドバイスをしてきた、わたしから見ると、教師の負担軽減だけを前面に出しても、関係者の理解を得ることは難しいケースもあります。このあたり、文科省のペーパーは認識不足あるいは言葉足らずかもしれません。関係者とは、まずは先生たちで、部活動の地域移行に反対する人もいます(いろんな考え、捉え方はあっていいのですが)。そして、生徒や保護者です。

 では、何が重要でしょうか。まずは子どもたちを主体、主語にして考えることです。子ども(中学生、高校生がメインとなりますが、一部小学生も関係します)への影響はどういうことなのかも含めて、以下では、子どもへの影響、教職員・学校への影響、地域への影響の3つに分けて整理しています(次の図)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 子どもたちにとっては、部活動(地域主体の活動を”部活動”と呼ぶかどうかは、置いておきますが)の選択肢が増えるという効果が期待できます。たとえば、小規模化した中学校などでは、文化部と言えば、吹奏楽部と美術部と科学研究部しかないといった例があります。地域主体でカルタ部、将棋部、茶道部などが展開できれば、より生徒の好きなことや伸ばしたいことで活動できますよね。運動部についても同様です。

 また、教員が担う現状の体制では、特にその競技や文化活動の指導に長けている人ばかりではありません。教員のほぼボランティア的な協力で成り立っているのが部活動ですし、その教員は、たとえば社会科の先生として採用されているのであって、サッカー部の指導ができるということで採用されているわけではありませんから、教員側の技術力や見識が高くないのは、仕方がないことです。なお、一部に部活採用、部活人事(強豪校には指導力のある先生を異動させる、あるいはよそに異動させない)と言われる実態もあると聞いていますが、特に公立学校において、それでいいんでしょうか、疑問です。

 これは教師にとっても、部員である生徒にとっても不幸です。技術力のない人、あるいは場合によってはその競技等にたいして関心のない人が顧問になるわけですから。

(写真素材:photo AC)
(写真素材:photo AC)

 さらに、子どもたちにとって、学校の先生でない人と接する、交流することにも意義があります。親や教師はタテの関係(評価する側、される側という関係)と言われますが、そうではない、ナナメの関係ができるわけです。さまざまな価値観をもつ大人がいることを知ることは、生徒の学びになることでしょう。また、地域主体では複数校が合同で集う場合などもありますから、生徒の交流も活性化します(試合などの敵としてではなく)。

 ほか、書ききれませんが、前掲図にリストアップしたように、さまざまな効果が期待できます。地域にとっても大いにプラスです。子どもたちの成長に携われるというのは、地域人材にとっても生きがいになりますし、おそらく、健康寿命が延びる人もいるんじゃないでしょうか。また、地域と学校、生徒らとの結びつきが強くなると、防災や防犯、あるいは授業での協力など、部活動以外でもプラスになることでしょう。困ったことがあると、助け合える関係が広がるというわけです。こうした点は、主たる効果ではなく、副次的なものでしょうが、重要な資産になると思います。

■問題、課題もいっぱいある。

 次に、地域移行の問題、懸念される課題についてです(次の図に整理しました)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 一番、心配なのは、「子どもたちのためにならない」結果を招くことです。

 具体的には、第一に、過重負担です。教師のではなく、子どもたちの負担。たとえば、すでに一部を地域移行している、ある地域では、平日の18時以降は保護者主体で学校の体育館をかりて活動を続けていますが、21時頃まで熱血指導が続いているそうです。仮に文科省の案のように、休日だけ地域に切り離せたとしても、子どもにとって「休日」にならないようでは、どうかと思います。平日も土日も、子どもの自由時間や勉強時間なども大切です。

 そんな当たり前のことが、スポーツや音楽などで熾烈な競争の世界のなかでは、過小評価されたり、無視されたりすることもあります。スポーツ庁で部活動のガイドラインをつくる委員を、わたしもやっていましたが、そこで重視されたのは、過度な運動は、怪我やバーンアウトにつながるリスクが高まるということです。教員が顧問をする場合であろうが、地域主体であろうが、子どもたちを潰す活動であってはなりません

 第二に、暴力、体罰、暴言などが一部の活動で横行している実態もあります。これは教員が顧問をする場合でも起こっている問題ですが、地域主体であっても、起こっています。しかも、地域移行すると、学校の管理下ではなくなりますから、よけい見えづらくなる危険性があります。校長や教育委員会は自分たちの責任外ですから、それほど神経を尖らせないかもしれません。

 2019年には全国大会に出場した大分県日出町の小学生女子バレーボールチームで、監督による暴力事件がありました。

監督は女児を「声が小さい」と叱責し、グラウンドを10周走るよう命じた後、平手で頭をたたいた。「めちゃくちゃ痛かった」。練習後、女児はそう話したという。 (中略)

監督による体罰を知る保護者は多かった、というのが母親の認識だ。ところがチームは小学生女子バレーボールの強豪。見て見ぬふりをして体罰を容認する保護者も多かったという。

出典:毎日新聞2020年3月29日

 一事をもって多くがそうであると判断するのは慎むべきですが、本件も含めて、小学校のスポーツ活動は地域主体(保護者会を含む)で展開している例はたくさんあります。それはある意味で、中高の部活動の今後にとってお手本、モデルにもなるわけですが、一方で、暴力や暴言なども少なくないことが保護者等の声からたびたび出てきます。たとえば、大阪府松原市では少年野球チームの男性監督が選手に暴力をふるった様子がYouTubeに投稿されました(2018年)。反面教師にしないといけない部分もあります。

(写真はイメージ、photo AC)
(写真はイメージ、photo AC)

 なお、大分のこの事件では、「県小学生バレーボール連盟(県小連)は、被害女児やその保護者に聴取せずに『体罰なし』と認定した。一方で、一部の保護者は7月、体罰の事実を外部に漏らさないよう保護者全員に誓約書への署名を迫っていた。指導者、連盟、保護者。強豪チームで起きた問題に、三者がそろって蓋(ふた)をしようとする“隠蔽(いんぺい)体質”が透けて見える。」とのことです(毎日新聞2019年11月22日)。「保護者会では、情報を漏らしたと疑われた親が正座させられ、リーダー格の保護者に詰問されたという。保護者会は午後6時半に始まり、4時間に及んだ」(同紙)。

 繰り返しますが、地域移行したから問題が多くなる、とは限りません。学校の教員がやっていても、問題事案は起きています。ちなみに大分のこの事件では監督は地元小学校の元教頭でした。とはいえ、地域移行した場合に、不適切な行動や「指導」がないように誰が管理するのか、責任の所在は明確なのかという点は問われます(わたしには暴力暴行事件を体罰とか不適切な指導と呼ぶことにも違和感があります)。また、保護者主体である場合などは、同調圧力が高まり、閉鎖的になる危険性もあることには注意が必要だと思います。

 第三に、地域移行すると、保護者の経済的な負担や活動場所への送り迎えなどの負担が高まることも想定されます。そうした負担がカバーできる家庭の子はいいですが、そうではないところでは、参加できない子も出てくるかもしれません。

 習い事などでは、レッスン料、月謝はかかりますね。それと同じです。教員が部活動顧問をしている場合は、休日の部活動手当は出ていますが、月謝はかかりません。地域移行のメリットで述べたこととは裏腹に、一部の生徒を排除するような方向に動いてしまうのは、問題だと思います。

 ほかにもたくさんの問題、課題がありますが、説明は省きます(前掲の図を参照してください)。仮に休日だけでも地域移行するとしても、こうした問題を想定して、問題を防ぐ対策と、万一起きたときに早期に発見、対処できる仕組みを講じておく必要があります。

■文科省はモデルやガイドラインは示すが、具体的にどうするかは地域、学校、生徒次第。

 本稿の最後にもう一言、申し添えます。

 部活動の今後を具体的にどうするか、決めるのは文科省の権限ではありません(注2)。学習指導要領上も、部活動は生徒の自主的、自発的な活動とされていますし、究極的には生徒がどう思い、どう活動するか次第です。これまでも、そしてこれからも、国のほうではガイドラインを示したり、モデル事業を実施していくつか参考となる事例を紹介したりはできるでしょう。しかし、部活動の設置主体と運営主体は、国ではありません。各学校で部活動を今後どうしていくか、また地域で受け皿等をつくっていくのかどうかは、国が決めることではありません。

 ぜひ、本稿で解説した、地域移行のよさ、魅力、メリット、あるいは問題、課題などを踏まえて、また文科省の提案なども参照して、多くの学校、地域で部活動をどうしていくか、児童生徒も参画した対話と議論をスタートさせてほしいと思います。

(注2)文科省の宿題としては、学習指導要領上、部活動をどのように位置づけるのか、記述するのかという点は残ると思います。また、今回の改革案にもありますが、大会等のあり方、精選などは各学校ではできないことなので、国が一定の働きかけや調整役を果たすことも、わたしは期待しています。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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