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休校中の「大量の宿題が大変です」をどう考えるか【#コロナとどう暮らす

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 Yahoo!ニュースでは新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのようにしていくのか、皆さんが不安に感じていることをコメント欄に記載する記事を公開しています。

 その中から「休校中の宿題が多くて困っている、教えることにも限界がある」と不安に感じている人がいたので、この声を手掛かりに子どもたちの学びについて考えます。

(写真素材:photoAC)
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■多くの保護者が苦労している、約半数が怒りっぽくなってしまった

 読者のみなさんのところは、いかがでしょうか。ちょうど6月から学校再開で、今日、明日は追い込み(またはあきらめかけ)という子どももいるかもしれません。わたしのもとには、保護者からたくさんの声が寄せられています。

(例)

●休校中にたくさんの宿題が出されたけれど、学校からはフォローがほとんどなくて、困っています

●子どもの学習の遅れが心配です。

●仕事や下の子の育児もたいへんななか、なかなか子どもが宿題をやりたがらなくて、手を焼いています

●宿題を終わっていないことが苦で、子どもが学校に行きたがりません

 わたし自身も、小学生から高校生まで4人の子育て中ですが、宿題の面倒には苦労しています。やはり、家はゲームや動画など誘惑もたくさんありますので、なかなか学校のようにはいきません。

 わたしが今月(5/10~12)実施した保護者向けのアンケート調査でも、確認できたことがあります。小学生の保護者の約半数が「ついイライラしたり、子どもに怒ったりするときもあった」と回答。小学校1~4年生の保護者の5~6割は、「時間がとられて、仕事や家事が進みづらかった」と答えています。

出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」をもとに作成
出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」をもとに作成

■宿題の効果は限定的という研究は多い

 まず、読者のみなさんと共有したいのは、多くの保護者にとって、小学生等の家庭学習をしっかり進めるというのは、簡単なことではない、ということです。「悩んでいるのは、わたしだけじゃなかったんだ」と考えていただいてよいと思います。保護者には先生の代わりはつとまりません

 実は、海外の学術的な研究を見ても、保護者の関わりは、学習効果上マイナスに働くケースも見られること、また、子どもの年齢が若いほど、宿題の効果は小さくなる傾向があることなどを示すものもあります(参考文献を参照)。

 宿題や家庭学習というのは、とても難しい部分もあるのです。

保護者が付き添える家庭ばかりではない(写真素材:photoAC)
保護者が付き添える家庭ばかりではない(写真素材:photoAC)

■どうして学校は大量に宿題を出したのか?

 では、効果が限定的かもしれないのに、冒頭で紹介したコメントのように、どうして、大量とも思える宿題を学校は出したのでしょうか?

 そもそも、宿題の量が多いか少ないかは、その子の学力や学習意欲などにもよりますので、一概に言えることでもありませんし、学校によってもさまざまな事情はあります。小学生と高校生ではちがいます。とはいえ、いくつか押さえておきたいポイントがあります。

 それは、学校側、先生側も、不安と戦っているということです。

 言い換えれば、休校が予想以上に長引きましたから、宿題が少ないままでは、この1年に計画していた学習の進ちょくが遅れてしまうという不安、それから、「いくら休校だからといって、学校は子どもたちの学習をストップさせたままでいいのか」という世間からの批判や疑問の声が4月、5月となるにつれ高まったという事情もあります。

■なんのための宿題か?

 そのような背景はあるにせよ、学校も保護者も、あらためて原点に戻って考えてはどうかと思います。「なんのための宿題なんだろう?」、「子どもたちがイヤイヤ進めたり、親から怒られたりしながらやるのが、本当に効果の高い家庭学習なのだろうか?」、「大人の側が与えよう、与えようという発想ばかりで、本当に子どもたちのためになっているのだろうか?」ということを考え直す時なのかもしれません。

 いろいろな答えはあっていいと思いますが、わたしは、宿題は、子どもが主体的に(自律的に)学ぶトレーニングをするためにある、と捉えています。実は、小学校でこの4月から始まった新しい学習指導要領でも、「学びに向かう力」ということが強調されています。

 仮にそのように宿題を捉えると、たとえば、漢字の書き取りや計算問題で、やらなくても、わかりきっているものはやらなくてもいいですし、基本は自学自習したいものをやる、という宿題のほうがよいのではないか、と思います。

 子どもたちも、保護者も、宿題のためにストレスを溜めたり、ケンカしたり、ましてや、学校に行きたくなくなるようでは、逆効果なので、ゆるく宿題を捉えたいです。

 とはいえ、あまりにも自由ですと、とりわけ小学生等(ならびにその保護者)にとっては何をやったらよいのかわからないので、学校からはオススメや目安を示すというくらいがよい気はしています。

 言い換えれば、一番大事なのは、子どもたちの学習意欲や好奇心を維持して高める方向に家庭学習も学校教育も向かうことです。冒頭で紹介した保護者の悩みの多くも、そうした原点に立ち戻ると、もう少し気楽に構えられるのではないかと思いますし、ぜひ学校側も、宿題のありかたや意味について深く考えて、児童生徒と保護者にメッセージを出してほしいと思います。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 多少の学習の遅れは、徐々に取り戻すことができますが、いったん、学習意欲や好奇心が低下してしまうと、その後の学習や学校生活にも悪影響が長引きます。国際的な学力テストや全国学力・学習状況調査などでも、日本の子どもたちは勉強が好きだという回答は少ない傾向があります。宿題のせいで、キライになる子を増やしてしまうことはやめて、興味があることが広がったり、やってみようかなと思えたりする子どもが増えるものでありたいと思います。

※記事をお読みになって、コロナ後の教育についてさらに知りたいことや疑問に思っていること、自分なりの乗り越え方などのアイデアがありましたら、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください(個別の回答はお約束できませんのでご了承ください)。

また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

【参考文献】

ジョン・ハッティ(2018)山森光陽監訳『教育の効果』図書文化

森俊郎・江澤隆輔(2019)『学校の時間対効果を見直す!エビデンスで効果が上がる16の教育事例』学事出版

妹尾昌俊(2020)『教師崩壊』PHP新書

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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