夏休み返上や9月入学などと言う前に検討・実践してほしいこと、授業のスピードアップは可能か

学校再開しても、コロナ前の通りの授業で大丈夫だろうか?(写真:アフロ)

 休校が長引くなか、子どもたちの学習の遅れを心配する声は、日増しに高まっている。オンライン、オフライン問わず、なんらかの宿題、課題、教材があっても、かなりの数の子どもたちにとって、登校していたときのように勉強がはかどるわけではない。

 5月中の休校を決めた地域もあるし、夏休みをほとんどゼロにしようとする動きも一部にある。

 昨日のわたしの記事では、夏休みを極端に短くすることの問題点について書いた。年間の授業内容をこなそうとするのが、教育として本当によいことなのか、子どもたちの自由時間の確保も教育上、重要な意味があるという話をした。

前回の記事:夏休みゼロ、大幅短縮の大問題 ― 本当に子どものためを考えてのことか?

 さて、学習指導要領を確認すると、小学校5、6年生は年間1015時間(小学校の場合1時間単位は45分のこと)といった、年間の標準授業時数というのが決まっている。これは、全国どこの小学校や中学校でも、最低この時間は授業してね、というものだが、文科省も再三述べているように、今回のように感染症のときや災害時には、この標準は下回っても構わない。

 とはいえ、「このままでは、授業時間がどうしても足りない」という先生たちの声は多い。どうしたらよいだろうか?

写真素材:photo AC
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■どのくらい不足しているのか?

 ラフだが、ちょっとシミュレーションしてみよう。新型コロナウイルスの影響が今後どうなるか見えづらいが、5月中のみならず、6月もまともに学校が再開できないケース(あるいは再開できても、少ししか登校できないケース)を想定してみる。

 こうなると、授業できる日は

 ・7月、9月、10月、11月、2月 ⇒ フルに使ったとして月4週間

 ・8月 ⇒ 夏休みとして授業日ゼロと仮定する

 ・12月、1月、3月 ⇒ 冬休み、春休みもあるなか、目一杯使ったとして、月3週間

と仮定すると、5ヶ月×4週+3ヶ月×3週=29週 ということになる。祝日などもあるが、いったんこう考えておこう。

 ただし、29週のうち全てを通常の教科指導には使えない。たとえば、修学旅行があると、1週間近く費やすことになる。運動会・体育祭などの準備をかなり短縮したとしても、数日は費やすことだろう。となると、2週程度は行事などのために必要と仮定した場合、教科に使えるのは27週となる。

 もっと行事に時間を使いたいという学校もあろうが、ここでは上記の想定をしておく。3月の休校のときも、卒業式の練習はできなくて、ぶっつけ本番でも、感動的な式になったのではないか?

(今年は運動会の中止を決めた自治体も、写真素材:photoAC)
(今年は運動会の中止を決めた自治体も、写真素材:photoAC)

 小学校や中学校の学習指導要領は、年間35週(小1は34週)教科指導にあてることを標準的に考えて作られている(この35週には学校行事は含まない)。先ほどの年間1015時間というのは、週あたり29時間(コマ)×年間35週=1015というわけだ。

 教科書の多くも、標準的には35週で履修できる分量にしているはずだと思う(厳密に言うと、教科ごとに年間の標準的な授業時間数は異なっており、それを踏まえている)。

 となると、単純計算すると、35週÷27週=約1.3だから、おおよそ例年よりも1.3倍のスピードで進めないと、27週では終えられないことを意味する。なおかつ、このシミュレーションでは、7月から授業がほぼ通常通り再開できた場合を考えたが、新型コロナの影響で完全な再開がもっと後ろ倒しになったり、あるいは一度収束したあと、またこの冬に流行ったりすることも想定すると、1.3倍よりももっとスピードアップすることを考えないといけない。

■スピードアップできるのか?

 難しいチャレンジであることは承知のうえで、申し上げるが、まず各学校でできることといえば、そういうスピードアップができる方策を探ることだ。

 たとえば、かなり乱暴かもしれないが、通常(例年)ならこの単元(例:鎌倉時代の歴史)は10コマ使っていたが、今年は5コマに短縮できた場合、2倍のスピードアップということになる。この単元はじっくりやる(通常通りの1.0倍速)、この単元は少しスピードアップする(1.1倍速)、この単元は思い切ってかなりハショる(2倍速)などメリハリを付けていく。

 「そんなの机上論だ」という反論はあろうが、そうしていくほかはあるまい。ほかは

・1日の授業時間を長くする たとえば7限目を設ける

・夏休みをもっと短くする

・土曜も授業をする

 といった選択肢もあるが、「詰め込み教育」へ先祖返りしたいと言うのか?

 土曜や夏休みを潰しては、学習意欲や集中力が続かない子どもも多くなるし、子どもたちの自由時間も少なくなる。先生たちの負担も重くなり過ぎる。前回記事で指摘した問題、副作用が大きくなる。

 ここまで休校が長引く場合、「もう9月新学期、9月入学にしちゃえ」というアイデアもあるが、それこそ甚だ乱暴である。わたしたち大人が、子どもたちの貴重な半年間を余分に学校にかけろ、と軽々しくやっていいことだろうか。これ以外の理由もあるが、別の機会に論じたい。9月入学ではない別の選択肢ではどうしてもムリという場合なら、話は変わってくるが。

■少なくとも3つの方法がある

 具体的にどうやれば、授業のスピードアップ、より正確に言えば、子どもたちの習得のスピードアップはできるだろうか。

 教科の特性や児童生徒の状況にもよるから、一概に言えるものではない。また、わたしは教授法、授業方法は専門外で、詳しいわけではないが、もちろん、先生たちのしゃべり、講義が1.3倍速になるという方法ではダメだろう、動画の早送りとはちがうのだから(笑)。

 また、単純なスピードアップや一部を飛ばしていくことは、その教科が苦手な子、低学力層にとっては、一層つらくなる。休校中もそういう子たちのなかには、なかなか学習に向かえなかったり、あるいは家庭でのケアが行き届かなかったりしている子もいる。おそらく、休校中も学力格差は広がっている。そうしたハンデのなかで、学校を再開して、授業がスピードアップされたのでは、なおさら、取り残されてしまう。

 したがって、戦略、方針としては

1.可能な単元については、大胆にスピードアップを図る、一部は飛ばすなど、メリハリを付けること

2.取り残される子がなるべく出ないようにすること

という2つともを重視する必要がある。

(家庭の教育力に過度に依存するのは危うい、写真素材:photoAC)
(家庭の教育力に過度に依存するのは危うい、写真素材:photoAC)

 これは難題だが、「ここであきらめては、授業がプロの教師として、それでいいんですか?」とは、問いかけたい。全国からさまざまな知見や実践が共有されるといいと思うが、わたしは、たとえば、次の方法があると思っている。

1)休校中の学習で進ちょくがあるところは、多少スピードアップする。

 とはいえ、前述のとおり、低学力層などは、休校中の学習がそれほど進んでいない可能性を考える必要がある。

2)ICT等を活用する。

 たとえば、予め自宅か学校の自習室等で動画を見ておくことで、授業当日、先生がくどくど説明するのを短くする。反転学習の方法。なお、必ずしも動画教材でなくても構わない。(高校生などでは参考書を読んでおくでもいいだろう。)

 また、基礎的な知識・技能の習得をめざす単元については、コンピュータ・AIによる採点・出題なども活用して、なるべく個々の子どもの習熟度に応じたものにしていく。

 千代田区立麹町中学校の前校長の工藤勇一さんはこう述べている。

麹町中では数学の授業にAI教材、キュビナ(Qubena)を導入しました。AIという教材を媒介として、教員と生徒、または生徒同士がつながり、分からないことを分かるようにしていくという自律型の学習になっていきました。そうすると、一番遅い生徒でも、授業時数の半分ぐらいのスピードで進み、修了したのです。

出典:教育新聞2020年4月23日

3)協同学習、学び合いを進める。

 子ども同士で教え、学び合うことで進度が上がるという報告がある(上記の麹町中の事例もそのひとつ)。西川純さん(上越教育大学教授)は「学び合い」を進めることで、教科書の標準的な内容を従来の3分の2もしくは半分くらいの時間で終わらせることも可能だ、と述べている(『個別最適化の教育』学陽書房)。

 麹町中の実践や西川先生が関わっている事例が、ただちに全国各地の学校に当てはまるとは限らない。だが、参考になる部分はあると思う。「工藤先生や西川先生だから、やれたんだ」と言って、食わず嫌いでいても、前に進まない。

■探究的な学びが疎かになるおそれ

 ここまで言っておいてなんだが、以上のわたしの提案には、弱点、欠点があるとも認識している。少なくとも2点。

 第一に、先生たちの力量や意識、投入できる時間にかなり依存したアイデアだ。つまり、スピードアップできる、もっと言えば、授業の「生産性」を上げられる先生もいれば、そうはいかない先生もいる。なお、これは教員の個人の要因だけでなく、子どもたちの状況にもよるし、ICT関係は教育委員会の予算等にもよるから、個人のせいだけにもできない。

 新型コロナが落ち着いたあとの学校再開といっても、感染予防に細心の注意をして、いじめ対策などもやりつつ、授業準備をするのである。平時でも、過労死ラインを超える人が多いほどの忙しさなのに、コロナ後は一層多忙になるだろう。「上記の2つの戦略を実現するように、授業やカリキュラムを工夫してください」と、言い放つだけでは、実行は難しいだろう。

 第二に、授業のスピードアップばかりを意識しては、子どもたちが自ら問いを立てて、さまざまな人と協働しながら問題解決等にあたっていく、探究的な学びを進める余裕がどんどんなくなってしまう可能性が高い。これは、行事などの特別活動の短縮も密接に関係する話だ。

 多くの場合、探究の要素を多く入れるプログラムは、準備にも実践にも、時間がかかる。今回のわたしの提案をなにもやらなくて、例年通りのスピードで授業をしては、よけい探究は形骸化する(やっているふりをする)と思うが。

 前回の記事に書いたとおり、これでは、本来の学校教育としていいのか、おおいにクエスチョンが付く。こなすこと、最後まで終えることが目的化しては危ない。

 さて、「妹尾は自分で提案しておいて、弱点も指摘して、何が言いたいんだ?」と思われた方もいると思う。わたしがこの記事で共有したいことを、以下に要約する。

●各学校でできる工夫、授業のスピードアップに向けた準備は、休校中の今からよくよく練っておく必要がある。各教員が個人個人で考えるだけでなく、知恵や実践事例を広く共有していく必要がある。

●そうした現場の努力をしても、なお、難しい部分や負の影響は残るであろうから、文科省や教育委員会による支援や施策が重要となる。この点については別の記事で提案する。

夏休みの大幅削減や9月入学といった大きな手術をしなくても、できることはある

 危機のときだからこそ、なるべく先々を予想して、大事なものを見失わないようにして、動こう。

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◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/