【神戸教員間暴力】教育委員会は何をするべきか(2)未然防止と早期対応に向けてできることは多い

いまも東須磨小でも他校でも、悩んでいる教職員はいる(写真:アフロ)

 東須磨小学校での教員間暴力事件が発覚して1ヶ月、教育委員会が深刻な事態であることを認知して約2ヶ月になる。

 この2ヶ月、神戸市教育委員会や文科省の対応は十分だったと言えるだろうか。もっとやれたこと、やるべきことがあるのではないか。

 前回の記事では、神戸方式の廃止や弁護士の調査だけでは不十分である理由を述べ、「1.なぜ、こんなことが起きたのか、事実の確認と背景の分析を急げ。」ということをお話しした。ほかに少なくとも、2つの重要なことがあるのだが、この記事では2.について述べる。

【神戸教員間暴力】教育委員会は何をするべきか(1)神戸方式の廃止や弁護士の調査だけでは不十分

2.一校で起きた特異、特殊なことと見なさず、他校でも起きうることを想定した再発防止策、早期対応策を整備する。

 前回の記事で、少なくとも次の点で問題がなかったのか、分析と検証が必要だと述べた。

※詳細は不明なことも多く、憶測も含まれる仮説となるが。

1)一部の教員が力をもち、逆らえない、暴行・傷害・いじめまで及んでしまう人間関係、職場はなぜ生まれたのか。

2)採用時の問題はなかったのか。

3)校長や教頭は何をしていたのか。

4)既存の相談窓口や被害者救済の制度等は機能しなかったのか。

 当たり前の話だが、再発防止策を考えるうえでは、こうした要因が何かによって変わる。たんに、「加害教員の資質に問題があった、異常だったのだ」という個人の問題に帰してしまうと、有効な対策がうたれないままになってしまう

 わたしのごく限られた見知る範囲にはなるが、神戸以外の小学校の教員や教育委員会の関係者に、今回の事案について話をふってみたところ、多くの人はあまり触れられなくないという感触、あるいは「あれは異常」という反応だった。

 だが、こうした他人事とする姿勢、マインドセットでは、反省し、学ぶことにはならない。

 たしかに、一校で起きたことを、安易に氷山の一角だと推定、一般化することは慎むべきだ。十分な調査データがないので確定的なことは言えないが、教員の不祥事等の報告をみても、暴行・傷害事案は非常に稀と思われる。

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 ただし、毎年5千人もの精神疾患での休職者を出しているのが、日本の学校である。

 奈良県大和郡山の小学校でも同僚によるパワハラ、いじめを訴えて4人の教諭が休んでいるし(産経新聞2019年10月30日)、兵庫県姫路市立小学校でも「1回死んでこい」と言われ、拳で顔面殴られたという訴えが起きている(神戸新聞2019年11月1日)。

 今回のこと、あるいは職場でのハラスメントを、神戸市教育委員会はもちろんのこと、他自治体においても、特異なことと見なさず、起きうることとして、これまでの対策、施策の反省点をあぶり出してほしい。

 教育委員会等には、再発防止、未然防止、あるいは早期発見・早期対応に向けて、少なくとも、次のことを考えてほしい。

1)ストレスチェックなどの既存調査の活用と、問題がありそうな学校への介入

 一部の教員の力が強すぎて風通しが悪い職場や、威圧的な校長がいる職場では、通常は、ストレスチェックの値が悪くなる。

 だが、現状では、ストレスチェックの結果を、「まあこんなものか、ふーん」という感想程度にとどめている学校が多いのではないだろうか。また、教育委員会としても、ストレスチェックの結果が急に悪くなった学校や気になる学校を訪問、詳細な聞き取りをするなどして、介入しているという事例は、どれだけあるだろうか。

 ”炭鉱のカナリア”として、既存調査を活用するべきだ。

2)校長へのフィードバックサーベイ

 神戸の事案では、前校長、あるいは現校長(=前教頭)、現教頭の責任はまだはっきりしないが、深刻な事態と受け止めず、放置、助長した可能性がある。また、知らなかったとしても、管理職としての責務、安全配慮義務を果たしているとは言い難い可能性もある。

 校長が問題解決に機能しない、あるいはもみ消すような学校であれば、相当絶望的である。だが、そういう事態も想定した救済措置等は、多くの地域・学校で、非常に脆弱である。

 校長向けにパワハラ研修をするといった、ぬるい施策では不十分であろう。意識の低い人は、研修をちょっと受けたくらいでは変容しない。

 わたしは、校長向けに教職員の声を伝えるフィードバックサーベイが必要だと考えている。無記名で校長のマネジメントや日常の振る舞いで気になること、もう少しケアしてほしいことなどを部下が評価、指摘する。校長育成のための仕組みだ。

 もちろん、これも限界がある。正直に書きづらいという職場もあるだろうし、小学校は比較的職員数が少ない学校もあるから、誰が書いたか分かってしまう例も出そうだ。だが、子ども向けのいじめ調査や体罰調査と同様に、リアルな声が教育委員会と校長に届くようにしておくことは必要だと思う。

3)相談窓口、人事委員会等の既存制度の点検、改善

 内部通報制度や人事委員会、相談電話窓口などの制度、機関があっても、利用しづらいとか、スタッフが少なくて対応が十分になされないといった問題があるのではないか。

 神戸の事案では、この9月に相談窓口に本人と親族が来所したことで、教育委員会は事態を把握したという。もっと深刻になる前に、相談できるところ、SOSをキャッチできるところがなかったか、悔やまれる。

 岐阜県教委では教職員向けに、岐阜市内の法律事務所に業務委託をする形で「外部相談窓口」を設置している。この窓口を設けたのは、13年に当時24歳だった特別支援学校の男性講師が、他の教員による叱責などを苦に自殺したのを受けてのことだ(教育新聞2019年10月29日)。

 

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 前述のとおり、校長や教育委員会に相談しても十分に動いてくれない、あるいは校長等が加害側になるということもあるので、外部の相談窓口があるというのは、ひとつの仕組みだろう。だが、これも限界がある。相談にはのってくれるが、介入はできない、改善指導する権限はない場合、解決には向かいづらい。

4)重大事態には迅速に調査、指導できる体制構築

 今回の神戸とは別だが、実は、若い教員等がパワハラ等を苦に自殺した事例はかなりある。(たとえば、2006年に西東京市で新任教員が自殺しているが、新任教員への職場等でのサポートが不十分だった、と裁判でも判断されている。)

 子どものいじめ問題と同じだが、教職員についても、生命、心身に重大な被害が生じた疑いがあるときは、重大事態として、何からの機関が迅速に調査等に乗り出せることが必要ではないか

 ただし、教育委員会の対応は今回もそうだが、緩慢であるケースもある。また、一部の声のみを聞いて、問題は深刻ではないと見なしてしまうようなこともある。よく言われるが、教育委員会の幹部等のなかには校長や教頭経験者も多く、同質性が高いため、つい学校側に甘くなる部分はあるかもしれない。

 なお、過去に起きた教員の自殺等の事案でも、再発防止に向けた検証報告書をちゃんと出している教育委員会は、管見の限り、皆無である。

 大多数の教育委員会職員は非常に忙しい中、日々業務に一生懸命励んでくれているが、教職員の命を救うこと、教員間の問題に介入して解決することについては、わたしは教委任せでは、楽観視できないと思う。

 首長の権力が強くなることには危険性もあるが、緊急性の高い事態が発覚したときには、首長のもとに然るべき組織を設けるのもひとつの案だと思う。

 以上の4点はもちろん完璧ではないし、一定の予算措置等も伴うので、難しさもある。だが、今回の神戸の暴力事件を見て、「ひどいヤツがいるものだな、もう二度と教壇に立つな」、「被害に遭われた先生は気の毒だったよね」という程度でおさめては、いけない。あそこまで幼稚でひどい事案は稀だろうが、ハラスメントやいじめは起きているし、メンタル不調も多発しているのだから、神戸市教育委員会はもちろんのこと、他自治体においても、少なくとも上記4点くらいは、検討してほしいし、ほかにもできることはないか、主体的に考えてほしい

 支援というのは、ひとつ、ふたつではなく、いくつかあったほうがよい。そのほうが、救済が必要な人がひっかかりやすいし、事態が深刻化する前に早期発見しやすくなるからだ。

 文科省も「ひどい事件があってケシカラン」というだけでなく、市区町村教育委員会任せでは、人的にも予算的にも限界があるので、国としてできる支援を講じるとともに、全国的に実際に起きたことから、関係者がしっかり反省する、学べる仕組みをつくってほしい。

 次回は、大きなテーマとしては3番目、信頼回復に向けた取り組みについて提案したい。