給特法廃止、変形労働時間導入の先行事例、国立大・附属学校で、働き方改革は進んでいるのか?

(写真:アフロ)

■給特法を廃止し、変形労働を入れた身近な実例

 公立学校の働き方改革をめぐって、給特法(注1)を廃止・改正するべきかどうか、また、年間の変形労働時間制(注2)を導入するべきかどうかについて、さまざまな議論がある。

注1:教員に時間外勤務手当を支給しないことなどを定めている。

注2:忙しい時期の平日の勤務時間を最大10時間などに延ばして、閑散期の日の勤務時間を短くする、あるいは休みを取れるようにする制度。

 前回の記事(下記)で、わたしは、年間の変形労働時間制を導入すると、5つの心配なことが起きかねないことを述べた(仮に導入するとしても、5つの問題が解決されることが必要)。

◎年間の変形労働時間制を入れても、学校の働き方改革にはならない

 実際のところ、これらの制度的な変更を行うと、教職員の働きぶりや生活には、どのような影響があるだろうか。

(ここでは論じきれないが、児童生徒への影響ももちろん最重要である。)

 実は、ほぼ各県に1~2校ずつ、かなり身近なところに先行例がある。

 それは、国立大学の教育学部等がもつ附属の小学校や中学校だ。たとえば、わたしの住む神奈川県には、横浜国立大学教育学部の附属小学校や附属中学校がある。

 2004年に国立大学が法人化されたことに伴って、給特法から、国立の附属学校は除かれることになった。附属学校の教職員は、大学が法人化する前は、国家公務員だったのだが、法人化後は一般の労働者と変わらない身分となり、労働基準法が完全に適用されるようになった(注3)。

注3:公立の教員にも労基法は適用されているが、給特法により一部の規定が適用外となっている。

写真素材:photo AC
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 また、1年単位の変形労働時間制を導入する附属学校も多い。文科省の調査によると、全56の国立大学法人のうち、50法人(89.3%)で導入されている(中教審・学校における働き方改革特別部会、平成30年10月15日資料)。

 だから、給特法や変形労働時間制の是非を考えるには、附属学校がどうなったかをよく見ておくと、相当参考になる

■給特法廃止後も、サービス残業が横行?

 そこで、わたしは、ある国立大学の附属小学校に勤務する教員(A先生と呼ぶ)に話を聞いてみた。この例がどこまで他の附属学校に言えるかはわからないが、参考になる部分もあると思う。(表現や言い回しの一部は変更してある。)

妹尾:

今日は夕方遅くにおじゃましてしまって、お忙しいところ恐縮です。先ほどまで職員会議だったようですが、これは変形労働時間制で勤務時間が延びているからですか?

A先生:

そうです。今日は17時30分までの勤務時間の日ですので。働き方改革は、職場でも話題には上っていますが、なかなか進んでいる感はしないです。

妹尾:

変形労働時間制では、教員のみなさんは同じ勤務時間パターンなんですか。

A先生:

基本、そうです。たとえば、ある日は8:00~17:00、別の日は8:00~18:30といったふうに、月ごと日ごとに、どのパターンが勤務時間になるかは示されています。

妹尾:

なるほど。そのほうが、管理はラクですものね。ただ、育児や介護の方にとっては、不便になりそうです。

A先生:

いまのところ介護の方はいないと思いますが、未就学児をもっているある先生は、時短勤務を選択されていますね。

妹尾:

ご本人や家族にとって、時短勤務の処遇条件や勤務時間でよいというならいいのですが。時短だと給与が下がるので、フルタイムで働きたい、でも変形労働で遅い時間までの勤務のときもある、となると、働きづらくなる可能性があります。

ところで、附属学校は教育実習生を大量に受け入れますよね。そのときは、いくら変形労働をやっても、時間外勤務が発生するのではないですか。

A先生:

当然のように、勤務時間外にも及びます。本校の場合、ひとりの教員が一度に3~4人の実習生を1ヶ月近くみます。これが年間2回。実習生が行った授業の振り返り(反省、改善の検討など)をしていると、すぐ20時過ぎますが、自分の授業準備などの仕事はその後からになります。

実習生の指導、助言などは、国立大学附属としては重要な使命のひとつだと考えていますし、大事なことではあるのですが。

妹尾:

1人の実習生を受け入れるだけでも大変な労力なのに、教員1人あたり4人もみていらっしゃるとは・・・。

きちんと残業代は出ているのでしょうか。給特法が適用外になり、労働基準法が完全適用ですと、時間外勤務手当を支払うようになっているはずですが。

A先生:

残業代はありません。実習生の受け入れ時期だけに特別の手当は出ますが。

妹尾:

”ちょっとこれでガマンしておけ”みたいな手当ですが、労基法上は問題がありそうな措置ですね。

それから、教育実習のときに限らず、何かトラブルがあったときや、運動会などの行事の準備のとき、あるいは大きな公開授業(研究会、研究大会)のときなどは、時間外にもお仕事は残ると思いますが、残業代は出ていないのですか。

A先生:

体育大会や研究会の前はすごく忙しいのですが、残業代は出ていません

研究も附属学校の重要な役割で、教科ごとの専門性を高めるべく、各教科の研究会があります。その2週前くらいからは、21時過ぎる日はザラですね。毎日そうとは言わないけど、2日に1日以上は。変形労働にしても、21時までの設定にはできませんしね(朝の勤務開始も早いので)。残業代は、大学の経営、財務も苦しい事情のなかのことだとは思いますが・・・。

大学側からは「附属の教員だったら、研究会はしっかりやるよね」みたいな声、プレッシャーは、ずっとかけられています。

妹尾:

実習受け入れや研究は、とても重要とはいえ、サービス残業になっているということですね。そもそもですけど、勤務時間はちゃんと把握、報告されているのですか。これは使用者責任なので、先生を責めているのではないのですが。

A先生:

うちの学校は、まだ出勤簿にハンコです。

妹尾:

えーーー!

そりゃ、残業代を出す、出さない以前の問題ですよね。計測されていないのですから。

写真素材:photo AC (記事中の学校とは関係ありません)
写真素材:photo AC (記事中の学校とは関係ありません)

■教員の使命感に依存は、公立も国立も同じ

 会話をみていただいたとおり、この附属小学校は、労務管理や業務改善という観点では、非常にずさんである。実習生への指導や、研究授業の様子などは、すばらしいのかもしれないが、これらは、教員の使命感とかなりの部分、無償労働に支えられたものである。

 文科省は、公立学校の働き方改革について、教育委員会等に度々通知などを出して、促しているが、わたしから言わせると、もっと「隗より始めよ」である。国立大附属の学校もひどい状態のところが多いのではないか。

 今回の一例を安易に一般化することは危険だが、公立学校において、仮に給特法を廃止、改正したとしても、決してバラ色ではない、ということは、かなりの程度、予想できると思う。もっとも、本件の場合、給特法うんぬんの問題ではなく、労働基準法や労働安全衛生法が無視されているという問題なのだが

※なお、わたしは、給特法がいまのままでいいとは、全く思っていないが、本稿では紙幅の関係もあり、述べない(文章末の拙著を参照)。

 サービス残業について、本件のように、労基法全面適用後は違法の疑いが強くなるし、労基署からの指導対象にもなるであろう。こうした点で、給特法と地方公務員制度のもとでの公立学校とは大きな違いがある。この差は大きいことは付言しておく。

 給特法廃止を訴えている方は、以下のように言う。給特法をやめて、時間外勤務手当を支給するようにする。限られた財源で残業代を支給するのは限界があるので、経営側(教育委員会、校長等)は業務の精選を行うようになる。教員の業務の拡大に一定の歯止めがかかるようになる。

 本当にそう楽観的に考えられるだろうか?今回の附属学校のように、結局、教員の善意に甘えて、サービス残業が横行する可能性は残る

 参考になるデータも紹介しておこう。

 日本教育大学協会(附属学校等をもつ全国の教育系大学が加盟している団体)が、附属学校等の担当者に実施したアンケートによると、働き方改革への取組について「行っている」ところは43%、「検討している」は52%、「予定はない」は5%であった(「国立大学・学部の附属学校園に関する調査」平成30年3月)。

 自由記入に具体的な取り組み例が紹介されているが、「行っている」と回答した法人でも、検討会議を立ち上げた、ノー残業デイを設定している、部活動の休養日を設定した、校務支援などITを活用しているなどの回答が並んでいる。これらの取り組みは重要であるが、果たして、それで十分かどうかは、あやしい。ましてや、残業代を出さないでよいほど、時間外が圧縮されているとは考えにくい。

 どこの法人も、教育実習生の指導体制について見直したとか、研究会の負担を大幅に見直した、部活動は大きく精選する方向で動いているといった回答はない。

 なお、「検討中」との回答のなかには「勤務時間の把握の仕組みについて検討中」といったものもある。つまり、現状では出退勤管理はできていない、ということだ。この調査をみるかぎりでは、国立大学が法人化されて15年近くになるとはいえ、附属学校等の労務管理や働き方改革は、まだまだお寒い状態である可能性が高い。

■変形労働時間制を導入して、年休が取得できない?

 また、前回の記事で書いたように、変形労働時間制も、大きな業務改善を伴わずに導入しては、夕方遅くの職員会議もOKとしてしまうなど、いまの長時間勤務を追認する方向で、使われてしまう。これでは、改善とは呼べない。A先生へのインタビューをもう少し続けよう。

妹尾:

1年単位の変形労働時間制が導入されて、夏休み中などの休暇のまとめ取りはできるようになったのでしょうか。

A先生:

毎年8月のこの期間は休みをとってください、と指示されます。これは4月などに通常の7時間45分勤務よりも長く働いた分の振り替えのようなものです。しかし、そのぶん、有休(年次有給休暇)は余ってきます。有休は冬休みと春休みに取得が奨励されていますが、その時期も仕事は多くありますから、多くの日を休めるわけではないです。

妹尾:

年間どのくらい有休、余らせていますか。そもそも、そういう意識も遠のくほど、取っていない感じですか。

A先生:

わたしも周りの先生も、年10日も取れていないんじゃないですかね。

妹尾:

確認ですが、実習や研究会などで、残業しているぶんは、勤務時間把握もされていませんし、実質的にサービス残業扱いですから、変形労働時間制の適用によって、休暇がそのぶん増えているといったことはないですよね。

A先生:

休暇が増えるなんて、ありませんね。8月の休暇のまとめ取りは、基本的には、正規職員であれば同じ日数です。この人は残業が多いから、もっと多くの日数を休めるなんてことはありません。

そんなバラ色の変形労働があったたら、ぜひ導入してほしいですけど。

 あくまでも一例だが、この先生の場合は、年休が取得しづらい状態になっている。年間の変形労働は、国立や私立の学校法人にとっては、残業代の縮減になるぶん、都合はよいかもしれないが、働く人にとって本当によいものになっているかどうかは、よく注意しておかないといけない。

 もちろん、公立でこの制度を入れようとするならば、先行事例である附属学校等での功罪をよく検証していくべきだ。

今回は取り上げなかったが、私立学校にも非常に似た問題がある。

◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

◎参考

妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦