Yahoo!ニュース

【学校の働き方改革のゆくえ】働き方改革を阻むのは保護者か?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

■保護者の理解を得たいのですが・・・

「行事や部活動の見直し、留守番電話など、いずれも保護者のご理解とご協力を得ないと進まないのですが、どうしたら進むでしょうか?

 ぼくは全国各地で、学校の働き方改革や業務改善について講演や研修をしていますが、校長や教職員から度々聞く質問のひとつがこれです。

 一口の保護者と言っても、様々ですし、学校によっても関係性はまちまちなので、この手の質問には答えづらいのですが、おおよそ、次のことはよく気を付けたほうがよいという話をします。

■正規の勤務時間を知っているか?

 まず、理解うんぬんの前に、保護者の多くは学校の現実をよく知っているわけではありません

 一例をあげると、職員の正規の勤務時間が何時何分から何時何分までなのか、PTA役員でさえほとんど知らないでしょう。教育委員会も学校も、だれも教えてくれないからです。

 運動会などの行事も、絶対これはやりなさい、と文科省や学習指導要領で細かく決まっているわけではありません。

 「お姉ちゃんの代にあったソーラン節をなんで、今年からやらないんですか?」などと不満に思う保護者がいても、自然なことではありますが、指導要領にはどこにも「ソーラン節をやりましょう」とは書いていません。保護者等の理解ももちろん大切ですが、各学校で、その行事の意味や目的、それから児童生徒や教職員の負担などを勘案して、プログラムを柔軟に見直してよいのです。

素材:写真AC
素材:写真AC

 部活動が教育課程外であり、教員配置は部活動で決めているわけではないことも、知っている保護者はどのくらいいるでしょうか?

 ですから、「去年の顧問は指導力があり、土日もよく面倒みてくれたのに、今年の先生はやってくれない」と生徒や保護者が不満を感じるのも、自然なことと言えば、自然なことです。「教員の人事は、たとえば、社会科の先生が必要ということで、配置されているのであって、サッカー部の指導力があるといった配慮でなされているわけではありません。」と教えてくれれば、「確かにそうだよね」と多くの保護者もわかると思うのですが。

 部活動は教師の事実上ボランティア的な部分で支えられていること(注1)や、公立高校入試にほとんど影響ない都道府県が多いこと(注2)も、保護者に伝えているでしょうか。

(注1)平日の部活動には、手当や残業代は出ません。休日も3000円など(自治体によって多少異なる)なので、1日試合で引率などだと時給換算すると最低賃金を下回ります。

(注2)よほど顕著な実績のある場合や推薦入試を除いて。面接試験を行っている場合はPR材料にはなるでしょうが。

 情報がないのに理解しろと言われても困ります

 まずは、伝えたい情報を整理して、共有する努力をすることです。「学校便りを出しています」と言っても、こんな活動をしたという報告がメインで、働き方改革に関連することはあまり載っていないのではないでしょうか。入学式後のガイダンスなどは保護者が集まる大チャンスですが、どこまで上記のことなどを伝えられているでしょうか。

 留守番電話の設置は、事実を伝えるチャンスでもあり、「お互い、時間を意識しようね」という保護者等向けの啓発効果もあります。札幌市のある小学校では、近所で不審者情報があると、保護者向けのお知らせを配りますが、そのときに必ず「なにかあったら110番!」というのを大きな字で載せています。これも、学校管理外のことを安易に学校に頼ろうとするのではなく、警察の役割も大きいことを暗に啓発しているのです。

■改革、改善を阻むのは保護者か?

 それから、教師の長時間労働をこのまま放置しては、どんな影響があるかを添えてほしいと思います。「先生たち、忙しくて、かわいそうだ」というだけでは弱いと思います。「うちの夫(または妻)も毎日遅くまで仕事していて、忙しい」という保護者も多数いますので、共感を得られにくい場合もあります。

 僕が保護者向けに講演等を行うときには、先生たちの窮状を伝えるだけでなく、これが子どもたちにも悪影響である、ということを強調します。「翌朝眠い、疲労が溜まったままではいい授業にはならないですよね」という話ですね。

 いい授業をするという共通目標のもとでは、保護者等は学校にとって対立する存在というよりは、組める相手であることが多いはずです。情報の共有の次は、目標の共有を進めるというステップです。

 行事や部活動の縮減などは、もちろん、保護者のなかには、強い反対意見もあるでしょう。ですから、保護者と対立する場面もあるとは思います。ですが、時にはそうであったとしても、組める部分も大きいということ、より上位目標をもとにして捉えてほしいと思います。

 学校側は、こういう案を出すと、保護者等が反対するだろう、クレームに発展して後々面倒だという”忖度”を働かせ過ぎている場面があるのではないでしょうか。

 こうした、ある意味でのリスク感覚はよい方向に働く場面もあると思いますが、ともすれば、忖度し過ぎて、改革、改善を自分でブレーキをかけてしまうこともあります。それに、今回お話ししたように、きちんと情報を伝えた上で目標共有も進めていけば、多くの保護者が理解者なり応援団の側になってくれるかもしれません。

 簡易な保護者アンケート(意向調査)をしてみるのもよいと思います。GoogleなどITを使えば集計も簡単にできるようです。学校はどうしてもクレームを言ってくる少数派に過敏に反応しがちです。もちろん少数意見を無視してよいという話ではないのですが、全体的な状況を把握しておいたほうが、様々な人に説明しやすいと思います。

■実は保護者の多数は学校に満足?

 ひとつ参考となるデータがあったので、引用しておきます。ベネッセが朝日新聞と共同で実施している「学校教育に対する保護者の意識調査」です。2004年、08年、13年、18年に実施しており、対象は、公立の小中学校に子ども(小2生、小5生、中2生)を通わせている保護者です。毎回5千人~7千人が回答している大規模調査です。

 

 詳しくはリンク先をご覧いただければと思いますが、多くの質問項目で保護者の満足度は上がっている傾向がみてとれます。次のグラフは小学校の保護者への結果の一部を抜粋していますが、教科の学習指導に満足という保護者は多いし、先生も熱心だと感じています。ただし、「とても満足している」という回答が2割にも満たないという意味では、まだまだという評価もできるでしょうが。

画像
画像

出所)ベネッセ教育総合研究所・朝日新聞「学校教育に対する保護者の意識調査」をもとに作成

 この手のアンケートは、もともと学校へ不満がある保護者は調査に協力しないかもしれず、選択バイアスがかかっている可能性もありますから、限界もあるとは思います。ですが、ひとつの目安にはなりますね。

 今日はちょうど、平成から令和への節目です。平成のあいだ、とりわけその後半には、開かれた学校づくりがずいぶん進みました。学校評議員制度、学校評価への保護者等の参画(学校関係者評価の実施)、コミュニティ・スクール、学校支援地域本部や地域学校協働活動などです。絵本の読み聞かせやゲストティーチャーによる授業などは、とくに小学校ではかなり行われていますよね。また、おそらく、いまや学校のウェブページ(HP)がないところを探すほうが難しいでしょう。

 保護者の満足度が上がってきているのは、保護者と学校の距離が少し縮まってきたということかもしれません。

 ですが、今日お話しましたように、保護者の反対があるかもしれないことや保護者の間で意見が分かれるようなこと ー 働き方改革ではそういうテーマの内容も多いわけですが ー については、まだまだ保護者と学校との距離は遠いように思います。

 見方によっては、いまはチャンスです。社会全体で働き方改革の流れが来ているということがひとつ。もうひとつは、前述したように、満足がまあまあ高い時期だからです。もし、授業や教師の熱心さに、保護者から不信感がたくさんある時なら、教師の業務(行事、部活動など)の見直しなどの話には持って行けないでしょうが。

 裏返せば、PISAショックのときのように、学力低下のイメージが蔓延すると、また話はちがってくるでしょう。ここ数年、大量退職大量採用が続いている自治体もあり、特に小学校教員は採用倍率の低下が顕著です。保護者のまあまあ高い満足度が今後も続くのかは、楽観視できないように思います。

 働き方改革や業務改善をするなら、いまがチャンスということを、どれだけの校長や教職員が実感しているでしょうか。冒頭の質問のように「保護者の理解がないから進まない」という考え方は、一面では正しいのですが、もう一面としては、言い訳をしているところもあるかもしれません。むしろ、保護者の理解よりも、まずは職員室のなかの合意形成がうまくいっていないというところも多いようにも見えます。

 働き方改革を阻むのは誰なのか。別に犯人さがしをしたいわけではないですが。できない理由を並べ立てようとするばかりではなく、チャンスをとらえて、できるようになる方法に知恵と行動力を使いたいですね。

★妹尾昌俊記事一覧はコチラです~。

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

妹尾昌俊の最近の記事