【学校の働き方改革のゆくえ】教師の過労死は氷山の一角

(写真:アフロ)

過労死白書で教師が特集されたが・・・

本日(10月30日)に過労死白書が公表された。NHKはこう報じている。

ことしの過労死白書では、過労死が特に多く発生していると指摘されている教職員や看護師について、保護者の対応によるストレスや患者からの暴力などが要因で精神疾患になるケースが多いとして、メンタルヘルス対策が重要だと指摘しています。

・・・

このうち教職員では、平成22年からの5年間に精神疾患で公務災害と認定された28件について分析した結果、仕事上の負荷がかかった出来事として33件の事由が挙げられ、保護者や児童の対応といった「住民などとの公務上での関係」が14件と最も多く、・・・

出典:NHKニュース2018年10月30日

白書はこちらのサイトにアップされている。公立学校の教師についてはp99~。

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/18/index.html

なお、公立学校の教師について引用されている調査研究の元資料のひとつはおそらくこちら。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000577019.pdf

過労死白書では、以下のとおり、過労死等となった方の一覧がある。

出所)平成30年版過労死等防止対策白書p102
出所)平成30年版過労死等防止対策白書p102

これを見ると、20代、30代の方で亡くなった方もいることが分かる。

過労死として認められているのは氷山の一角

しかも、この表は公務災害(民間で言うところの労災)と認定機関が認めた事案からのデータに過ぎない。実際は、こんな事例も多くある。

  • 遺族等が悲しみのあまり、公務災害の申請をしないケース。
  • タイムカード等もないなか、過労であることの証明や過労の影響の立証が難しく、公務災害の認定を受けられないケース、または途中であきらめてしまうケース。
  • 校長の指揮命令のもとの業務ではないということで(これは法律、特に給特法も影響している)、公務災害の認定を受けられないケース。

などなど。

つまり、オモテに出ているのは氷山の一角に過ぎない。この過労死白書で多少の分析、紹介がされているのも一部だ。

実際、過労死白書には、次のデータもある。地方公務員について、過労死等として申請を受けた件数と認定された件数である。平成28年度は義務教育学校職員(ほとんどが教師と思われる)は受理が15件、認定は5件に過ぎない。義務教育以外と合わせても、認定されたのは7件。

平成30年版過労死等防止対策白書p66
平成30年版過労死等防止対策白書p66

なお、ほかの職種も認定件数等は多いとは言えないが、地方公務員としては、教育関係の職員は総数(=母集団)で、約100万人いる(総務省調査)。消防関係は約16万人、警察は約29万人であることを考えると、学校関係の場合、消防や警察と比べて、そもそも申請も少ないし、認定も少ないと推察される。

これは消防や警察よりも、教師の仕事が軽いというわけではおそらくない。むしろ長時間労働は教師のほうがひどい。教師の場合、過労死等と疑われる事態になっても、申請まで行かない、行けない事案が多いからだろう。

実は、公立学校の教師の場合、過労死あるいはその疑いが強いと思われる件数すら、はっきりは分かっていない。文科省も厚労省も、誰も把握していない。わたしは今年7月に国の中央教育審議会(中教審)でこの点を指摘したのだが・・・。

次の表のとおり、学校教員統計調査という統計によると、毎年、小中高で約400~500人の方が亡くなっている。もちろん、これには病気や交通事故も含まれる。おそらくこの中にも、過労死と思われる方も相当数いると推測される。繰り返しになるが、公務災害の申請に行くケースはほんの一部、加えて、公務災害と認められるのもそのなかも一部というわけである。

中教審・学校における働き方改革特別部会(第15回)妹尾提出資料
中教審・学校における働き方改革特別部会(第15回)妹尾提出資料

最近はエビデンスに基づく政策立案(EBPM:エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング )が大事だなどと言われるが、エビデンス以前の問題である。基本的な事実(ファクト)すら、きちんと把握できていないのだから。

◎関連記事:文科省や教育委員会に必要なのは、事実に基づいた政策

今回の白書で特集されたデータや分析は非常に貴重なのだが、ほんの一部しか捉えていないことは念頭においたうえで、読んでおきたい。

とりわけ、公立学校教師の場合、地方公務員という意味では総務省管轄、教師や学校という意味では文科省管轄、過労死等という意味では厚労省ということで、3つの省にまたがる。縦割り行政の弊害と批判するのは、たやすいが、誰が何をどうしていくのか、少なくともわたしの知る限りは、はっきりとはまだ見えてこない。例えば、そもそも公務災害の申請や認定の制度の在り方を見直すことについては総務省、そして、後述するように、教師の仕事を減らして長時間労働を減らしていくのは文科省(ならびに教育委員会と各学校)がリードしていくべきだ。

教師が長時間労働なのは、業務量が多いから

次のデータは、過労死白書で紹介されている教職員への意識調査結果である。長時間労働になりがちな理由の一端が分かる。

平成30年版過労死等防止対策白書p112
平成30年版過労死等防止対策白書p112

定められている出勤時刻より前、定められている退勤時刻より後に(所定勤務時間を超えて)業務を行う理由は、「自身が行わなければならない業務量が多いため」(69.6%)が最も多く、次いで「予定外の業務が突発的に発生するため」(53.7%)、「業務の特性上、その時間帯でないと行えない業務があるため」(48.9%)、「締切や納期が短い業務があるため」(30.7%)である。

つまり、仕事量が多いということだ。

これは教師の1日をイメージすれば、調査をするまでもなく分かることだ。

正規の勤務時間は8時15分からなのに、児童生徒が7:45頃から登校してくる。声をかけたり、いじめ・からかいなどがないか見守ったり、出欠確認をしたりする。宿題を集めて確認を始めたりもする。これですでに30分前後、時間外が発生している。しかも、担任の教師以外にこういうのをやってくれる人はいない。保育園や病院だとシフトが組まれるが、ほとんどの学校にはシフト制はない

夕方・夜は部活動指導や行事の準備などがある。中高では進路指導の負担も重い。いずれのことも、少ない教職員数でまわしているので、それほど代わってくれる人はいない。だから、「自身が行わなければならない業務量が多いため」(69.6%)となる。

そうこうしていると、生徒指導の事案が発生したり(生徒同士のもめ事、喧嘩が起こったとか)、議会対応などで教育委員会から急ぎこの情報をくれといった依頼も来たりする。

保護者や地域から問い合わせやクレームが来ることもあるし、そっちよりも、最近多いのは親の悩み相談かもしれない(学校外での子ども同士の喧嘩を親同士で解決できないケースなども増えているそうだし)。なので、「予定外の業務が突発的に発生するため」(53.7%)、「業務の特性上、その時間帯でないと行えない業務があるため」(48.9%)となる。休み時間に怪我をした子がいると、保護者に電話を入れて事情を説明しなければならないし、などなど。

今回紹介されているデータは、あくまでも教職員の主観に基づくものなので、注意を要するが、いくつか国の客観性のあるデータ(教員勤務実態調査など)からも、教師の仕事量が多いことは、強く分かることでもある。

仕事が多いし、突発的なもの(自分のコントロールで調整しにくい仕事)も多い

⇒ 慢性的な長時間労働

⇒ 睡眠不足

⇒ ストレス増

⇒ メンタル病む、または過労死

といった流れを断ち切るためには、メンタルヘルス対策や教師の意識改革、校長等の働きかけなどももちろん重要であるが、おおもとは、教師の業務量の大幅な削減、スリム化にこそ取り組むべきだ。

◎関連記事:【学校の働き方改革のゆくえ】対症療法の策はいらない。抜本的な働き方改革とは!?

今回の過労死白書では、今後の対策、アクションについては、非常に記述があっさりしている、というか、踏み込み不足のように思う。

学校も、教育行政も、あまりにも過去の反省、教訓から学んでいない

長くなるので、このへんにするが、もうひとつメッセージがある。

教師の過労死の事案は、今に始まったことではない。何十年も前からある。

が、悲しいことに「歴史は繰り返す」という事態が続いている。

そもそも件数すらちゃんと分からないことから示唆されるように、過去の反省を私たちはいかせていない

「あの熱心な先生は、過労で倒れられて、本当に気の毒だった」、「よりによってあの先生がね・・・」といった気持ちや感想は関係者にはあるのだが、実際、過労死等を防止するにはどうすればよかったのか、という検証と引き継ぎがないのである。この問題は、近日中に別の機会にも解説したい。

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