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女の化粧は「生きるため?」 CM批判から見る脱コルセット運動

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
カネボウ KANEBO 「生きるために、化粧をする。」60sec CMより

まさかKANEBOも、ここまで批判を受けるとは想像もしていなかったのではないか。

「I HOPE.」を掲げ、「新しい日常に向けた新しいブランドCM」を7月17日(金)に発表するや否や、Twitterでは「#kaneboの新CMに抗議します」のハッシュタグとともに、批判が噴出している*。

TOKYO、NEW YORK、PARIS、LONDON、SYDNEY、CAPE TOWN、SHANGHAI、DUBAI、VIETNAMと世界の各国で撮影されたという色とりどりのフィルム。若い女性、年輪を感じさせる女性、白人も、ブラックも、アジア系と様々な人種の女性達、そしておそらく男性(の身体を持って生まれた)と思しきひとも。ありとあらゆる「多様性」に配慮された作りになっている。

さらに渡辺真知子さんの40年の楽曲「唇よ、熱く君を語れ」が、アレンジを加えられて、力強くCMを引き立てている。今年1月に公開された前CMは、第57回ギャラクシー賞を受賞した。今回も満を持して公開されたはずだ。

実際にぐっと引き込まれるCMであることは間違いない。それでは何が問題だとされたのか?

生きるために化粧をする?

(ナレーション 中島セナさん)

化粧なんて何のためにするのだろう、と言う人がいる。

化粧で喉は潤せないし、

お腹だって満たせない。

それでも、わたしたちは化粧をする。

美しさのため?

誰かのため?

あなたは、何のために

化粧をする?

(テロップ)

生きるために、化粧をする。

KANEBO

SNSで見られる批判はこの「生きるために、化粧をする」の最後のテロップに集約されている。

女性達が化粧をするのは、化粧をしないと「就職も昇進も不利だから」「会社から、社会から化粧をするようにプレッシャーを感じているから」。まさに「生きるために、化粧をしてる」のだというのだ。

そんなことで、ここまで批判され、炎上騒ぎになるだろうかと、首を傾げるひとたちもいるかもしれない。しかし、抗議にさらに「#女性に装飾を求めるな」というハッシュタグが加えられることに、ここ数年、特にSNSを中心に盛り上がっている脱コルセット運動の流れを見ないわけにいかない。

脱コルセット運動

韓国では、2016年に「江南(カンナム)駅殺人事件」をひとつのきっかけとして、フェミニズム運動が再び盛り上がっている。駅近くの公衆トイレで、若い女性が見知らぬ男に殺害された事件である。その後、ハリウッド発の me too運動のうねりも受け、「脱コルセット」運動が盛んとなった。

脱コルセットとは、女性たちを縛る美の「コルセット」を脱ぎ捨てようという運動である。痩せていなければならない、髪の毛は長くなければならない、化粧をしなければならない。そういった女性達自身をも縛る「コルセット」を脱ぎ捨てた女性たちは、髪の毛を切り、眼鏡をかけ、化粧をやめて素顔に戻る。

こうした運動は当然、日本の女性達の間にも知られ、広がっている。その広がりを、思いもかけないかたちで、突き付けられるかたちとなった。

このCMがもし、答えを安易に出すのではなく、「あなたは、何のために化粧をする?」という問いかけで終わっていたならば、化粧品会社による、もっともラディカルなCMになり得たのかもしれない。

「生きるために、化粧をする。 」 新しい日常を生きる私たちが「化粧をする。」ということ 「I HOPE.」を掲げる KANEBO の新 CM が 7 月 17 日よりオンエアに、このCM作成については詳しい。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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