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私たちはなぜnetgeekを提訴したのか フェイクニュースの問題点

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
写真はイメージです(写真:アフロ)

私は今日、2019年4月8日フェイクニュースサイトであるnetgeekを、永江一石さんたち5人と、東京地方裁判所に提訴した。

ご存知の方も多いと思うが、去年の10月、私がヤフーニュースに書いた記事がネットで大炎上した。記事は以下のものである。

ノーベル賞のNHK解説に「キズナアイ」は適役なのか? ネットで炎上中【追記あり】

「表現の自由」はどのように守られるべきなのか? 再びキズナアイ騒動に寄せて

私の主張をまとめると、ノーベル賞の解説サイトにおいて、キズナアイが相槌ばかりをうつ補助的な役割に押し込めるのではなく、理系の分野ではとくに女の子をもっと励ますような役割を与えてあげて欲しいということである。

2本目の記事は、表現規制を主張しているのかと疑問が出てきたことを受けて、

国家による検閲や介入は、できるだけないほうが望ましいとも考えている。

だからこそ、国家に介入されないように、私たち市民がオープンに表現について語ることが必要だと思っている。

出典:「表現の自由」はどのように守られるべきなのか? 再びキズナアイ騒動に寄せて

と主張したものである。

ヤフーニュースではアクセス数が分かるのだが、このニュースは、大炎上したにもかかわらず、私が普段書く記事と比較しても、ほとんどといっていいほど、読まれていない。ほぼ読まれることもなく、大炎上したことには、驚いた。

振り返ってみると、私の主張がうまく伝わらず、なによりも自分が主張した「私たち市民がオープンに表現について語ること」ができなかったことは、私自身の不徳の致すところである。ツイートなども本当に下手で、「オタクを嫌いなんだろう、憎んでいるんだろうっていう意見がたくさんきましたが、私を誰だと思っているのか」というツイートは、友人にも叱られた。

「あれは見た瞬間、炎上すると思ったよ。あんたがオタクのコンテンツ研究してるなんてこと、知らない方が多いんだから」。果たしてやっぱり、「私を誰だと思っているのかという傲慢な学者!」と相当叱られた。私が言葉足らずだったのも、事実だとは思う。不徳の致すところである。申し訳ない。

やはりとてもセンシティブな問題であり、語り方も相当工夫する必要はあった。自分の好きなコンテンツ、表現に「ケチをつけられる」ことは、日ごろ迫害されがちな「オタク」への体験と相まって、気分を害することはもちろん理解できる。なぜなら私だって、オタク属性をもっているからである(と書くとまた、「そんなことは関係ない。今更媚びるな」と嫌われるのだろうから気をつけねば、なのだが)。

何よりも、私の博士論文や著作が「ねつ造」「不正」であるという事実無根の誹謗中傷を繰り返されて、東京地裁に提訴した件(ツイッターにはなぜ、誹謗中傷があふれるのか――ネットの損害賠償等請求の経験から)、謝罪されたので提訴を取り下げたら、ブログがまた再開されていた*。事実無根の事実を拡散されたのは、やはり研究者としてはとてもつらいことだった。博士論文や著作に不正やねつ造があるというのは、私が職を失いかねない「嘘」だからだ。

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(一度は謝罪を受けたので、提訴を取り下げました。しかしその後、ブログが再開され、さらになぜか同様の主張のツイッターアカウントや別のHPが何度もネット上に現れては消えていました。今はブログが削除されていますが、万が一また再開するなら訴える予定です。やめてくれるなら、ことさら取り上げることはしたくありません)。

いろいろと自分が至らなかったと思う部分がある。あとは、日ごろから離婚後の面会交流の際には子どもの安全性を最優先すべきと主張していたことによって、「記事を取り下げろ」と大学にまで抗議の電話を大量にもらうなどしていたが、恨みを買わないほうがいいなとも思た(ほぼ私の業績への誹謗中傷だけを、昼夜問わず繰り返すことになったアカウントなどもあった)。

炎上はされてみる側になってみると、本当につらいことなのだなと骨身にしみた。

netgeekには、この炎上を取り上げられ、記事を書かれた。記事は、時系列がまずめちゃくちゃにつくりあげられている。netgeekが作り上げたストーリーに合わない部分は、私のツイートを黒塗りにしてすらいる。「キズナアイは媚びてる!!」と私が怒りまくったことになっているが、キズナアイが媚びていたとしてもだからどうだと思う。そもそも「媚び」は(とくに弱者の)生存戦略であって、誰かを「媚びている」というような悪口は、日常生活でも私は大嫌いである。私が「若いキズナアイちゃんに嫉妬するおばさん」みたいな扱いになってるのはどういうことなんだ(あとはいろいろ言いたいことはあるが、裁判では弁護士さんが、ポイントを絞って訴状を書いてくれた)。

正直に言えば、私一人であったら、netgeekを訴えたかどうかはわからない。私には、こうやって反論する(?)場もあるし、それなりに(正当なものであるなら)批判を受けることも織り込み済みの職業ではある。

しかし、この取材もしないnetgeekは、一般のひとにも矛先を向けている。ネットに落ちているツイッターなどの素材を加工して、面白おかしく騒ぎ立ててきたのだ。たまたま対象とされたひとの、プライバシーは徹底的に暴かれてしまう。反論の場はほぼない。netgeekには高邁な理想があるわけでもない。目的は、広告収入である。お金目当てで、このような「ネットリンチ」をすることは、許されることではない。

キズナアイ炎上で、私に対して批判の目を向けていたひとですら、「netgeekの裁判は応援する」といってくれてたときは、泣きそうになった。

弁護団のひとりの小倉秀夫弁護士だって、キズナアイのファンであるらしい。「キズナアイを悪く言われるのは、嫌ですよね」といっていたから。「ならばなおさら、キズナアイちゃんにちゃんとした役割をあげて欲しいですよね」と私は返したのだが、小倉弁護士は反論はされなかった(*小倉弁護士にあとで確認をとって、不都合なら消します)。

「私のことを嫌いでも、netgeek裁判は嫌いにならないでください」というとふざけすぎだが、金銭目当てでフェイクニュースをまき散らすことは、許されてはならない。見守って欲しいと思う次第である。

(またnetgeekとは関係なく、寄せられた批判に対しては、稿を改めて一度書くことはしなければならないなとは思っている)。

【追記】小倉弁護士は「私は、きちんとした相槌が打てる進行役って、高度の技術を必要とする重要な仕事だと認識しています」ということで、番組内のキズナアイの役割には異存はないそうです(2019年4月8日13時55分)。

【さらなる追記】

*「事実無根の誹謗中傷がまた再開されていた」と書いたところ、本人から誹謗中傷ではないという主張が弁護士のところに来ました。そうであるならば、今後は法廷で決着をつけるべきかと思い、「ブログがまた再開されていた」に表現を直します(2019年4月8日21時36分)。。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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