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「同性愛は個人的趣味」でもいいじゃない? 小林ゆみ杉並区議の発言に思う

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

刺激的なタイトルをつけてしまった。各方面から起こりうる反応が想像がつくのでかなり身構えるのだが、思い切って書く。

小林区議が「同性愛は個人的趣味」と

杉並区の小林ゆみ議員が、「同性愛は性的嗜好であり、個人的趣味の問題」*と発言したというニュースのタイトルだけを読んだときに、同性愛擁護をしているのかと誤解してしまった。「個人的な趣味の問題に、他人が介入したり差別したりする必要はない」と主張しているのかと思ったのだ。どうもそうではなかったらしい。「地方自治体が現段階で性的嗜好、すなわち個人的趣味の分野にまで多くの時間と予算を費やすことは、本当に必要なのでしょうか」という主張だそうだ。

渋谷区で渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(いわゆる同性パートナーシップ条例)が制定されるなど、リベラルな風が吹いていたので、あえてそんな主張をする若い議員がいることに思いが及ばなかった。まだまだである。顔は保守のほうを向いていたのだ。

これに対しては、当然、sexual orientationは「性的嗜好」ではなくて「性的指向」だ。指向は好みではなく、生まれつきで変えられない。生得的なものに基づく差別は許されない、という反論がある。それはそれでひとつ。主張の背景も意味も、よく理解しているつもりである。

異性愛だって「個人的趣味」?

しかし個人的には、「異性愛だって、個人的な趣味じゃない?」という気持ちも抑えきれない。私の周囲には、異性愛者として生きてきたけれど出会いがあって、同性をパートナーに選択するひとは、結構いる。別れたあとに、今後は異性をパートナーに選ぶこともある。

「そういうひとは、バイセクシュアル」とか、「同性愛者であることを、抑圧して生きていたんじゃないか」という解釈も可能だろう。でも「パートナーに会うまで、自分が同性と恋愛関係に陥るなんて考えたこともなかった」という発言を聞いていると、必ずしもそうとばかりはいえないように思う。そう考えると、同性愛も異性愛も、同じようなひとつの趣味じゃないか、という気がしてくるのである。

「趣味(レジャー)」としての恋愛?

そもそも恋愛は崇高なのだろうか? 確かにひとを愛することはとても素晴らしいことである。でも同時に恋愛は、傍から見たら滑稽だったり、あとから自分自身が振り返っても、間抜けなものであったりもする。同性愛、異性愛を問わず、そもそも恋愛って、妙ちくりんなものなんじゃないかと思うのである。

フェミニストの某先生は、「恋愛は最高の暇つぶし」と公言してはばからない。恋愛だって、してもしなくても構わない。「趣味(レジャー)」という意味で、恋愛を堪能しつくすひともいれば、関心のないひとも増えてきている。

いかにも人間臭いひとを愛するという個人的な営みを、異性愛者の場合は制度的にバックアップして、支援しているのである。同性を愛したからといって、そこから外れる理由はないではないか。「同性愛者は再生産をしないから」というひともいるが、異性愛者でも、子どもをもたない/もてないひとはたくさんいる。そういう関係に、意味がないとは思えない。「パートナーに、同性を選ぶか異性を選ぶかというたかだか趣味の問題で、差別されるいわれはない」という主張が通る社会がくるといいなと思う。

*小林議員の発言は、正確には「レズ、ゲイ、バイは性的嗜好であり、現時点では障害であるかどうかが医学的にはっきりしていません。そもそも地方自治体が現段階で性的嗜好、すなわち個人的趣味の分野にまで多くの時間と予算を費やすことは、本当に必要なのでしょうか」であるようだ(小林ゆみ・杉並区議の「同性愛は趣味」発言 当事者に聞く問題点「誤解を拡散」

【追記】口頭では「指向」も「嗜好」も同じに聞こえるが、小林区議本人は「レズ、ゲイ、バイは性的指向(好み)」とブログにお書きであり、「性的指向」という漢字を充てていらっしゃるようだ(「第一回定例議会3」杉並区議会議員 小林ゆみブログ)。しかし「性的指向」が「好み」であると括られているところをみると、「指向」という訳語に込められた意味は捨象され、まさに「嗜好」としてとらえられていらっしゃるようにみえる。原稿を「しこう」とひらがなに変更しようかとも考えたが、とりあえずそのままにして、ここに追記しておく(2016年2月24日)。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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