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紀平梨花、羽生結弦も師事するブライアン・オーサー氏の下で迎える北京五輪

沢田聡子ライター
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

フィギュアスケート日本女子のエース・紀平梨花は、新たな環境で北京五輪シーズンを迎える。

9月8日、紀平はマネジメント会社を通し、練習拠点をカナダ・トロントに移し、クリケットクラブでブライアン・オーサー氏とそのチームの指導を受けることを明らかにした。現在、世界の女子シングルは男子顔負けの高難度ジャンプを跳ぶロシア女子が牽引している。その中で、元々の武器であるトリプルアクセルに加え、昨季の全日本選手権では4回転サルコウも成功させている紀平は、ロシア女子に対抗できる数少ないスケーターだ。19歳で迎える初の五輪シーズンに、紀平が並々ならぬ決意で臨むことが伝わってくる。

ブライアン・オーサー氏は、2014年ソチ、2018年平昌と五輪連覇を果たしている羽生結弦の指導者として有名だ。また、2010年バンクーバー五輪ではオーサー氏に師事するキム・ヨナが表彰台の真ん中に立った。バンクーバーから平昌までの3大会連続で、オーサー氏の教え子が五輪の金メダルを獲得していることになる。

紀平がオーサー氏に師事するというニュースが最初に報じられたのは、昨年6月である。メインコーチは以前より指導を受ける濱田美栄氏が務め、第2コーチとしてオーサー氏にも師事すると伝えられた。しかしコロナ禍の影響もあってカナダへの渡航がかなわず、昨季の紀平は主にスイスでステファン・ランビエール氏の指導を受け、日本では濱田氏にも師事するという状況になっていた。今年3月の世界選手権で、海外のメディアに「今はまだ入国はできないが、今後カナダに行ってトレーニングする意志はあるか」と問われた紀平は、「まったくこれからのスケジュールは立てていないので、そういう予定はない。それはまだ考えていない」と答えている。だがその後、滞っていた話が再び進んで今に至ったのかもしれない。

ようやく叶った紀平の名伯楽への師事で、個人的に期待が膨らむのはスケーティングのさらなる向上だ。オーサー氏は基礎のスケーティングを重視する教え方で、羽生を筆頭とする多くのスケーターを飛躍的に成長させてきた。4回転への挑戦が話題になることが多い紀平だが、すべての要素に優れる総合力の高さも強みだ。加えてダンサーのような表現力も際立っているが、どちらかというと速いテンポで細かく足を動かすプログラムが印象に残る。今季のフリー『タイタニック』は、紀平が師事する「チーム・ブライアン・オーサー」の一員であるデイビッド・ウィルソン氏の振り付けによるスケールの大きな作品で、新境地を開くプログラムとなりそうだ。ゆったりとした曲に乗った、紀平の大きな滑りを楽しみにしたい。

7日(日本時間8日)に現地入りしたという紀平が練習するクリケットクラブは、オーサー氏を中心にジャンプ・スケーティングなど様々な分野を専門に教えるコーチが多数存在するチーム体制で、優秀なスケーターを育ててきた。閑静なトロント郊外にあるクリケットクラブに、筆者も一度だけだが羽生の公開練習を取材するため伺ったことがある。鏡が張られ、天井が高く開放的なリンクなど恵まれた練習環境はもちろんのこと、背筋が伸びるような由緒正しさと、来訪者をくつろがせる温かさを併せ持つ魅力的なクラブだった。重圧が伴う五輪シーズンだが、趣味としてスケートを習いに来る地元の人達も加わったコミュニティでもあるクリケットクラブのアットホームな雰囲気は、きっと紀平の心の支えになるに違いない。

日本からトロントへ、そして北京へ。紀平梨花の今季の道程が、実り多いものになることを心から願う。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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