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「綿あめを作る割り箸になりたい」ベストセラー作家・本田健がたどり着いた「人付き合いの境地」

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
講演会は大人気。会場の質問に答える立体話法が特徴(写真提供/アイウエオフィス)

 著書160冊以上、累計発行部数800万部を突破するベストセラー作家の本田健さん。2019年6月には初の英語での書き下ろし『happy money』を刊行。世界40ヵ国以上で発売予定。

 経営コンサルタント、投資家を経て、29歳で育児セミリタイア生活に入り、4年間の育児経験を得て、作家デビューする。大人気のインターネットラジオ『本田健の人生相談~Dear Ken~』は4,500万ダウンロードを記録。

 多くの人を惹き付ける本田さんの「人との付き合い方」、働き盛りにあえてセミリタイアする意義、ご自身の子育て経験から「叱りも褒めもしない教育法」など、独自の考えを通して、「真の豊かさと幸せとは何か」を問う。(3回連載の第3回目)

―― 本田さんは、お金の専門家としてだけでなく、ライフワーク、未来実現、パートナーシップ、才能について、といろいろなテーマで多くの方にセミナーで話されていますよね。のべでいったら、どれくらいの数の方に教えられていますか。

「少なくとも、毎年1万人以上には話しているので、今までだと、数十万人の規模にはなっていると思います」

―― リアルで多くの人に会っていくことを定期的にされている作家さんはなかなか。

「あまりいないんじゃないですかね」

―― 受講者の方たちにお話をお聞きすると、皆さん、「転職した」「開業した」「結婚した」「人生が変わった」と何らかの変化を言われている。本でもリアルな講座でもですが、人の人生を変えるというのは、どんな感じですか、感覚として。

「感覚としては、人生の交差点にいるボランティアのおじさんみたいな気持ちかな(笑)。道を聞かれたら、『結婚する人はこっち、転職する人はこっちかな』と答えているみたいな」

何万人もの人に会っても気疲れしないのは

―― ではもう、次々と方向を示して、そこに執着はないんですね。「僕のおかげで幸せになったんだよ」ということでは。

「全然そんなことはないですね。その人たちが自分たちで決めているわけだから」

―― でも、これだけの人に会っていると、気疲れというか、疲れたりしません?

「『僕が変えてやっている』という気持ちがないので、気疲れはほとんどしません。交差点に人がいっぱいいるなという点では疲れますが、全員が、『変えてください!』というふうに来ているわけでもないし、『僕が変えてやる』というわけでもないから。セミナー後に200人ぐらいのパーティーをするときもありますが、それを見ても分かると思います。僕の周りに人だかりができるんではなくて、僕なんかはほったらかしで、みんなが楽しそうにやっている。僕が帰っても誰も気が付かない(笑)」

―― 「僕がやっているんだ」「助けているんだ」ということじゃないということですね。

「はい。僕が一番なりたいのは、綿あめを作るときの割り箸なんですよ。割り箸がないと綿あめはできないじゃないですか。最初は絶対必要なもの。だけど、綿あめを食べ終わったときには割り箸のことなんか誰も考えていません。コミュニティーができるときには絶対そういう人が必要なんです」

―― 自分はきっかけでしかないということですね。

「そうですね。コミュニティーができあがったら、僕がそれを作ったなんていうことは誰も気にしないし、割り箸としてポイッと捨てられるぐらいがちょうどいいです」

多くの人の人生のきっかけを作っている本田さん(写真提供/アイウエオフィス)
多くの人の人生のきっかけを作っている本田さん(写真提供/アイウエオフィス)

僕のことを悪く思う人もいるかもしれないけれど

―― 多くの人にかかわると、全ての人によく思われるかどうかわからない、いい評判だけじゃないかもしれない。そういう人の評判が気になったり、エゴサーチとかしますか。

「僕はいちいちしませんね。もししたとしても、『本田健はずるい』『本田健は人をだましている』と言う人がいるかもしれませんが、それはその人が見ているわけなので。例えば、『政治家は悪い』というふうに思っている人はそういうふうに見るだろうし」

―― それをなんとか「そうじゃないよ」と説得しようとか、そういう気はない?

「その人が思っていることなので、そういう気にはなりませんね。例えば、『キリストが神だ』と言う人にそうじゃないと言っても、そう信じる人にはそう見えるわけなので、それはそれで僕はリスペクトします。僕のことを悪く思う人もいれば、悪く言う人もいるだろうし。つまり僕に何か別のものを見ているわけです」

―― では、そこはもう気にしないで。

「気にしないでというか、よくは言ってほしいなという気持ちはもちろん人間だからあります(笑)。例えば、僕はオレンジが大好きですが、オレンジが大嫌いだという人もいます。でも、それは仕方がないなと」

―― それぞれの価値観、人それぞれ。それも認めるということですね。

「それもリスペクトするということです」

同じことを伝えても変わる人と変わらない人の違い

―― 今まで20年間ぐらいでいろんなセミナーでいろんな方にお会いして、例えば、幸せになる人とならない人、同じことを伝えても変わる人と変わらない人、何が一番違いますか。

「やっぱりその人自身が決めて動く人は変わりますよね。だから、全く僕とは預かり知らないところで人は変わっていきます。その人の本当のタイミングが来て、パートナーが欲しいと思ったら本当にパートナーと出会っています」

―― それがすごくゆっくりでもいいし、速くてもいいということですか。すぐ動けてもいいし、1年後でも10年後でもいいから。

「そうですね。なので、やっぱり本人の一番ベストなタイミングでそれが起きるんじゃないでしょうか」

「悪口を言ったり、わざわざ人に嫌われるようなことは、しなくてもいいでしょう」(本田さん)(撮影/佐藤智子)
「悪口を言ったり、わざわざ人に嫌われるようなことは、しなくてもいいでしょう」(本田さん)(撮影/佐藤智子)

―― 本田さんはこれだけのベストセラーを出して成功している。なのに、偉そうな感じが全然ない。

「偉くないですからね(笑)」

―― いろんな人に周辺取材したんですが、すごく皆さん共通しているのは、とても性格がいいと、誰も本田さんの悪口を言わない。すごく好かれているんですよ。これは意識しているんですか。敵を作らない人?

「そんなことはないです。それは昔メンターに教わったこともありますが、わざわざ人が嫌がるようなことをしているわけでもないし、基本的に僕と会った人はすごく良くなってほしいと思って、人を紹介したりだとか、その人たちがうまくいくようなことを心がけているだけです。支払いが滞ったり、人の悪口を言ったり、そういうこともしなければ人から嫌われないでしょう(笑)」

―― 批判もしないですしね。

「そうですね。だから、そんなに悪口を言われることはありません」

―― でも、嫉妬されたり、やっかみとかはないですか。ある一面ではものすごい信者がいて、ある一面では「嫌い」と言う人がいて、そういうことがない人だなと。

「大したことを言っていないからじゃないですかね(笑)」

気さくに話をするのが本田さんの持ち味(撮影/佐藤智子)
気さくに話をするのが本田さんの持ち味(撮影/佐藤智子)

―― そんなことはないでしょう。人間関係において、何に気を付けていますか?

「それはね、僕『ジェラシー・マネジメント』といって、今、毎月プレジデントさんで連載しているんですが、人は、『私、すごいわよ』みたいな、自分が偉いと思っているやつを引きずり下ろしたくなるものです。僕は自分のことをすごいと思っていないので、引きずり下ろすネタがないんです(笑)」

自分を偉いと思ったら引きずり下ろされる

―― では、自分のことをどう思っていますか。

「例えば、自分は格好いいとか、モテるとかと思っていたら、『おまえが思っているほど、モテてないし』というふうになるわけです。僕はモテると思っていないですし、格好いいとも思っていません。だから、引きずり下ろす意味がないのです。自分で格好いいとか、ハンサムだと思っていたら、『おまえ、勘違いすんなよ』みたいになるかもしれませんが、勘違いしていない人には別に引っ張る必要がないんです」

―― それはある種の謙虚さかもしれないし、自分をカテゴライズしていないということですよね。

「等身大で見ているということじゃないでしょうか。ベストセラー作家と言われますが、本はたくさん書きましたよ。多少手は疲れましたが(笑)。でも、本当に売ってくださったのは僕じゃなくて、書店員の方たちです。つまり、書店員さんや出版社の方々が、実際に動いてくださいました」

―― 自分が偉いわけじゃない。

「書いたのは偉いですよ(笑)。でも、それ以上でもなくて。書いている人たちはいっぱいいるわけだから。何が違うかというと、書店員さんが頑張ってくれたのもそうだし、印刷所の方々もそうだし、何よりも読者の人が買ってくれたからだと思っています。読者の人が評価してくださったことがそれを生んだわけだから、僕が偉いとか全く関係ないわけですよ。ただ単に等身大に見ているわけで、謙虚でも傲慢でもないと思っています」

ビジネスは人をブラックホールのように吸い込んでしまう(写真提供/アイウエオフィス)
ビジネスは人をブラックホールのように吸い込んでしまう(写真提供/アイウエオフィス)

ビジネスはブラックホール

―― 子育てについてなんですが。セミナーの中で娘さんのお話をされていますね。29歳でセミリタイアをされて、4年間の子育て経験をして、という。

「はい、そうですね」

―― 29歳の男性と言ったら、いくら経済的自由を手に入れたとはいえ、やっぱり不安もあるし、やっぱり「もっと、もっと」となるじゃないですか。そのいったん休みを取るということの意味を教えてもらいたいんですが。

「僕はメンターにビジネスというのは人を真空のように、ブラックホールのように吸い込んでしまうから、すごく気を付けなさいと言われてきました。なので、お金とかビジネスとかの境界線を作っていないと、多くの人たちは、『もっと、もっと』の世界にやられてしまいます」

―― なるほど。

「だから『もっと、もっと』の世界から一回離れるために、僕は休む必要があるなと思ったんです」

小さい頃からずっと心に決めていたこと

―― それは自分で決めたんですか。

「奥さんと話し合って決めました。あとは、僕の父親は税理士でお金があったのに、結局お酒でおかしくなってしまった経験をしています。僕は小さい頃にずっと思ったのは、『僕はお金ができたら絶対に家族を守る』というのをすごく心に決めました。なので、そういった意味では、本当に家庭を守る、それを一番にするということをすごく大事にしています」

―― このくらいで子どもができるとか、そういう計画じゃなくて、子どもさんができたから。

「そうですね。というのは僕が29歳で彼女は39歳だったので高齢出産でした。実際に出産したのは40歳ですが、そのときの統計で40歳過ぎて初産だった人は80人ぐらいでした。それぐらい高齢出産が少ない時代でした」

―― 今は違いますけど、その当時はね。

「だから、そういう意味でも本当に大事にしようと思ってセミリタイアしました」

子育ては2人以上でやったらすごく楽しい

―― セミリタイアして、実際に子どもさんを育てる経験をして、どうでしたか。

「お金持ちになる体験と一緒で、やっぱりやってみないと分からないことがあります。子育ては1人でやったら大変ですが、2人以上でやったらすごく楽しいものだと思っています。なぜかと言うと、毎日発見がありますからね。なので、僕は父親としては珍しく初めて娘が言葉らしきことをしゃべった日、しゃべった瞬間を覚えているんですよ。僕は『パパ』と言ったと思っているんですが(笑)」

―― 「パー」ぐらいでも。

「そう。『パー……パパ……』と言ったなと。瞬間も見ているし。初めて娘がハイハイしたのもそうだし。初めて娘が立ち上がり、初めて歩き、初めて走る。初めて歌う、その全てをずっと一緒にいたので見ることができました」

―― へー。いいですね。

「それは僕にとってはかけがえのないぜいたくなんです。それは何億、後でお金を払ってもいいぐらいの体験です」

成長の瞬間瞬間をすべて見てきたことはかけがえのないぜいたく

―― その瞬間、瞬間ですもんね。二度と来ない初めての瞬間。

「その瞬間に立ち会わないとわからないと思います。なので、僕はたぶん子育てをして、お金を稼がなかったという意味で、何億か損をしたと思っています。でも、そんなのは後から取り返せるわけだから、僕は本当にあの決断をしてよかったなと思うし、それができるだけの知性と勇気と感性があった自分を褒めてあげたいと思っています」

―― 素晴らしい。それから何年かして、お子さんが小学校に入るときにアメリカに皆さんで移住された。

「はい、そうです」

―― それもお子さんのことを思ってですか。

「そうです。娘にとってのベストな教育は何なのかという決断が最終的にはアメリカでした」

―― そのときも仕事を休まれた。どれくらい?

「そのときは結局1年半ぐらいでしょうか。セミナーとかをやりながらでしたけれども、ゆっくりしました」

―― 何歳のときですか?

「ちょうど40歳ぐらいだと思います」

―― 人生で2回、年単位の休みを取るという、大きな決断をされた。40歳というと、これから何か、というとき。働き盛りに人生を激変させるというのは勇気がいることじゃないですか。

「だから勇気と好奇心でしょうね。22歳から60歳まで、65歳まで同じことをやっていたら、一回しか人生を楽しめないじゃないですか。例えば、僕の場合、何々時代という年表があるんですが、会計時代、セミリタイア時代、作家時代みたいなものがあります。長野にも住みましたし、アメリカにも住みました。そういういろんな時代を経て人生で何毛作もしています」

自分で人生を設計するのが最大の喜びと面白さ

「人生の幸せを味わいたいなら」と自らの体験を語る(写真提供/アイウエオフィス)
「人生の幸せを味わいたいなら」と自らの体験を語る(写真提供/アイウエオフィス)

―― 二毛作とかでもなくて、多毛作で。

「はい。そして、ここからまた僕の旅人時代が始まります。そうやって何年かごとに人生を自分で設計できるというのが、僕の人生の最大の喜びと面白さです。それがやっぱり大切だなと思っています」

―― そういう自分で休みを取ったりして、人生を変革するというのは誰でもできますか。

「経済と社会的なことがあるので、『誰でも』とは言えません」

―― そうですよね。

「あとは心の余裕が大事ですね。人生で止まる時間を持てるかどうか」

―― それがねえ。

「多くの人は止まることができません」

―― 奥さまの理解も、パートナーシップも必要ですよね。

「はい。奥さんに反対される人もいると思います」

―― 奥さまは今の本田さんの活躍、成功を見て、どう言われていますか?

「妻は、若い頃からのビジョンが形になって、とても喜んでくれています。夫婦一緒に作ってきたとも思っているので、共同創造の結晶でもあると感じてくれているようです」

―― 素敵ですね。

働き盛りにまとまった休みを取るのはオススメか

―― ビジネスマンの人にセミリタイアとか休みを取るというのはお勧めできますか。

「全ての人にはお勧めできませんが、人生の幸せを味わいたいなら、もし、その人に勇気があって、きちんとそういう仕組みを作ることをやりたいという意図があればお勧めします」

―― 働き方改革を問われていますが、休むことのメリットは?

「それはやっぱり幸せとは何なのかということを考えますよね。仕事をしていると自動的にそれが正しいことになってしまうから」

―― それは子育てや夫婦関係にも影響しますか。

「はい、もちろんです」

―― どういうふうに影響しました?

「仕事が忙しいと、何のために仕事をするのかという目的が分からなくなってしまう、と思います。それが休むことで実感できます」

―― 実際に休まれて、夫婦関係、家庭環境はどうなりましたか?

「家族とリラックスしながら過ごせて、一生の思い出になりました。それまで、いつも仕事が家族の間を邪魔していた感じでしたが、セミリタイア中は家族だけの時間をゆっくり過ごせました。今振り返っても、家族で貴重な時間を過ごすことができて本当によかったです」

―― 大きな決断をされたことで、大きな幸せを感じることができたわけですね。

夢を実現した親の子はどう育つのか

  本田さんの娘さんは、 HANAというアーティスト名でシンガーソングライターとして活動中  (写真提供/アイウエオフィス)
本田さんの娘さんは、 HANAというアーティスト名でシンガーソングライターとして活動中 (写真提供/アイウエオフィス)

―― 人生のスケジュールを夫婦2人で、二人三脚で決められた。そういうパートナーシップの中で、セミリタイアされて子育てをしたお子さんは今、どんなふうに育っていますか。(本田さん、おもむろに、娘さんの写真を取りだして見せる)

―― すごく、キレイですね。超美人。

「ありがとうございます(笑)」

―― 聞きたいのは、夢を実現した親は、その子どもも夢を実現するのか、ということです。

「少なくとも、娘は自分の夢を生きています」

―― 「この子には夢をかなえてほしい」と言って、自分の人生を我慢して託す親がいますが、それはどう思いますか? 自分も夢が実現できて、子どもも実現できているのとは違って。

「ある意味、それは、そういう1つのあり方なので、僕は美しいと思います」

―― それはそれで。

「はい。僕はこうやって夢を叶えているよというのを話しています。今、娘は音楽をやっていて、HANAというアーティスト名で、シンガーソングライターとして、日本語と英語とで歌っています。一緒に仕事したい方たちを自分で見つけてきて、自ら交渉して、実際にアメリカでレコーディングをやっています」

―― すごい。確か20歳ですよね。そういう娘さんに育ったのは、ある種の成功例だと思うんですが、子育てをしている人、子育てをしたことがない人も含めて、何が教育だと思いますか。子育てで、気を付けられたことはなんですか。

「教育とは、やっぱり本人が本当に自由に輝くのを親と社会が邪魔しないことだと思います」

教育とは、邪魔をしないこと

―― 一例でいいのですが、どんなふうに。

「例えば、昔の美術のクラスのときに、外で写生をしていたら、キンコンカンとチャイムが鳴りました。紅葉がきれいだったから、『先生、もうちょっと、あと15分、描いてもいいですか』と言ったら、『アホ、おまえ、次は数学の時間じゃ』とか言われて。『でもこれ、来週になったら全部葉っぱが落ちてしまいますよね』と言ったら、『そんなん、想像して描け』と言われ、おかしいなと思いました。『別に今週は数学をやめて美術2時間にして、来週数学2時間でもよくないですか?』と言ったら、『そういうふうになってへんのや!』と怒られたことがあります。例えばそういうことをしないことです」

―― そのときにしか味わえない経験がありますものね。臨機応変にはできないシステムがありますからね。娘さんに対しては何か邪魔しなかったことで覚えていることはありますか?

「娘はアメリカの『サドベリー・スクール』というところに行っていて、本人が、自分がやりたいことをやりたいように生きるという教育のある環境で育ちました。つまり、今、日本というか、世界で認められていない人権があると思っています。それは何を学ぶかということと、いつ学ぶのかという、この2つは残念ながら基本的人権として認められていないんです。何を学ぶかは政府が決めているわけです」

―― カリキュラムがありますからね。

「そして、いつ学ぶか、というのも政府が決めています」

―― 義務教育がありますからね。

「はい。それは僕からしたら暴力的なものに感じます。算数を勉強したい、14歳まで勉強したい、一生算数はいらない人もいるんです。それは本人が決めることであって、政府とか他人が決めることではないというふうに思いますが、残念ながら今の教育は義務教育がベースになっています」

ポジティブでもネガティブでもないニュートラルでいること(写真提供/アイウエオフィス)
ポジティブでもネガティブでもないニュートラルでいること(写真提供/アイウエオフィス)

―― そうなると、本田さん自体は家庭の中で娘さんにどういうことをよく言っていましたか?

「僕は何も言っていないことはないと思いますが、『あれするな』『これするな』とか『駄目』という言葉はなるべく言わないように意識していました」

―― では、叱ったこともない?

「ほとんどありませんね。『危ない!』とかはありますが、それも『ノー』に入ってしまいますから」

―― あまりに言うと、恐れになってしまうし、脅しになってしまうから。

「1日に3,000回平均で子どもは『ノー』を聞くというのを聞いて、そんなことはないと思っていたら、『危ない!』とか『駄目!』とかけっこう言っているんです。何千回かは分からないですが、やっぱり言っているんですよ。かといって、僕は褒めるということも実はすごく気を付けて、褒めないようにしたんです」

―― えー。意外。褒めて育てたわけじゃないんですか。

「違います。なぜかと言うと、褒めると褒められたい人に育つんですよね」

―― ああ、そうか、そうですね。承認が欲しくなる。

「人の承認を求める、承認欲求の高い人になってしまうので、うちでは褒めるということはできるだけしないようにしました。『すごいね』『できたね』というふうに言い続けたら、そういう言葉が来ないと人は不安になるんです」

―― では、どういう言葉をよく言っていましたか? 「よかったね」みたいな?

「そういうポジティブな言葉も避けていましたね」

―― えー?

「ポジティブでもネガティブでもなく、ニュートラルで育てるということ。これはまた全然違う体系の話なので、一般にはちょっと分かりづらいかもしれません」

叱りも褒めもしない教育のしかたとは

―― 1個だけ、そのニュートラルな言葉はどういうことですか。「そうなんだ」みたいなことですか?

「言葉じゃないんです。結局子育てでいうと、ネガティブというのが叱ること。『あなた、これやらないと、こうなるよ』というのは脅しですよね。でも、『こうやったらご褒美をあげるよ』というのも、ポジティブな言葉だけど、結局一緒なんですよ。『いいね、日本一、次は世界一をやろう』というのも、ビジネスの人になってしまうんです」

―― なるほど。となると、その子のありのままの姿を見守るというか。

「そうです。見守ること。なので、僕は、褒めるということを100%応援できないところがあります」

―― そんなふうに育った娘さんからは、お父さんはどういう印象、どういうふうに言われてるんですか。パパはどういう人だと。

「うちの娘もインタビューすると面白いと思いますよ(笑)、たぶん。材料としては。この子は、やっぱりすごいですよ」

―― 何がすごいですか。

「自尊心が傷ついていない。だから、本当に変わっています」

―― 似ています? 自分に。

「いや、僕はもう全然、そういう意味では傷だらけだから(笑)」

―― 傷だらけ(笑)?

「小さい頃からボロボロ。ボロボロでもなんとか丸くなったほうですが、うちの子は完全に球体です」

―― すごい。じゃあ、傷つけることもなく、偉そうにもさせず。

「そう、すごいですよ」

―― 素晴らしいですね。

「ちょっと親バカも入っていますが、そういう人に会ったことがないです(笑)」

名刺の裏に書かれた手書きのメッセージ(撮影/佐藤智子)
名刺の裏に書かれた手書きのメッセージ(撮影/佐藤智子)

―― 私が周辺取材させていただいた中で、38歳の男性の話です。「今までいろいろなビジネスセミナーに行ったけれど、成功するためのもの、こうすれば幸せになるという、モチベーション系のやつばかりだった。でも、本田さんはそれを言わない。幸せになるために何がなんでもとなると、何かを犠牲にすることになってしまう。でも、本田さんは結局のところ、みんなが幸せで、精神的に健康であるアプローチをしている」と。本を買ってサインをしてもらったときに、名刺の裏に「夢を生きよう」と書いてあったそうです。幸せに自分らしく生きることが本田さんの一番の持ち味なんじゃないかなと言うんですが、どうですか。合っていますか。

「その人がそういうふうに捉えてくださったということですよね。それはそれでうれしいですが、それは1つのものの見方ですよね。人によっては『本田健さんに会ってモチベーションが湧きました』と言う人もいるわけです」

―― はい、はい。

「だから、その人にとって本当にそういうタイミングだったということだと思います」

―― まさに、ニュートラルですね。今の話ですごく分かりました。

僕にとっての「豊かさ」「幸せ」とは

―― 本田さんにとっての豊かさ、幸せとは、どういう状態ですか。

「1つには、自分のやりたいことをやりたいときに、やりたい人と、やりたい場所で、その人がやりたいようなやり方でやれることが僕にとっての豊かさですね」

―― なるほど。

「そのためにはお金が掛かる可能性があります。例えば、僕はこういう話を喫茶店でやることもできますよね。あるいはホテルのラウンジでもできる。いろんな場所があるわけじゃないですか。その中で僕は自分の好きな家具に囲まれて、自分のお気に入りのスペースで話せる。そういう、何て言うかな、「こういう状態でやりたい」というのが僕の豊かさです。こうやってインタビューをしていただくことも僕の夢と豊かさの1つなんですよ。これは2人で話しているだけじゃなくて、この記事を通じて、たくさんの人たちに届くわけじゃないですか」

 大好きな空間で仕事をする。それも幸せのひとつ(撮影/佐藤智子)
大好きな空間で仕事をする。それも幸せのひとつ(撮影/佐藤智子)

―― そうですね。

「例えば、『夢を実現できる』『ハッピーマネーでお金をニコニコさせよう。あなたの財布のお金は笑っていますか?』という話をすると、『ヤバイ、笑っていないかも』というところから、じゃあ、どうやったら自分のお金が笑うんだろうということを考え始めます。だから、僕は正解というのは一切与えていません。正解はないと思っているので。100人いたら、100人の人の答えがあるわけです。でも、今の自分の答えが今の自分の幸せに合っていない可能性もあります。なぜなら、自分の父親が考えたことだったり、社会が考えた幸せを、自分の幸せだと思っていることもあるからです」

―― それは違うんじゃないの? と。

「気付いたときには自分の幸せの定義を書き換える必要があります。それが僕はすごく人生で大事なことだと思います」

―― 幸せは人それぞれだし、そのとき、そのときで変わっていくものだし。

「はい、そう思います。25歳の幸せと35歳の幸せは違います」

評価されたとしてもニュートラルでいる

―― すごく興味深いのは、「本田さんのことをこういうふうに肯定的に言っている人がいますよ」「わあ、うれしい」というのでなくて、それはその人の考え方、僕は僕の考え方、いろいろあるということを言われているのがブレていないなと。

「そうやって思ってもらったことはすごくうれしいですよ。でも、それで何か評価されたら『イエーイ!』というものでもないんですよ」

―― だから偉そうにならないんですね。

「はい。『ヤッター! 俺、スゴイ!』とは思わない。その38歳の男性はそういうふうに考えるんだなと。例えば、『虹を見たときに何色が見えましたか?』と言ったら、『オレンジが見えましたよ』と。『あー、オレンジですね』ということは、その人がそういう方だと分かるだけです。例えば、その方が優しい人で、すごく人間味にあふれている人だということとか」

―― 自分の状態を本田さんに投影しているということですかね?

「そうですね。『こいつは金をもうけてずるい』と思ったら、ずるい自分が見えただけです」

―― 人の言葉を自分のこととして捉えると、自分がエゴになっていって偉そうになっていきますが、それを引き離して客観的に流せるということですね。お金もそうですね。お金を持ったから俺は偉いんじゃなくて、それは一時的にそうなっているけれども、流していくということですね。

「はい、そうですね」

―― なるほど。すごく勉強になります。

「いえいえ(笑)」

セミリタイアして得たものは大きい。今も家族との何気ない時間がとても大切

―― 家族の時間は最近だとどんな時間を過ごしました?

「昨日3人でご飯を食べました」

―― どんなものを食べるんですか?

「何でも食べますよ。お刺し身や玄米とか、ある意味、質素なご飯です。料亭に行ったりとか、そういうのではなくて。3人でああでもこうでもないと話して、そういうのがすごく幸せな時間です」

―― そういうときはどういう話をされるんですか。みんなで未来の話をしますか。今の話をしますか。どんな話をしますか。

「いろいろですね。芸能界とか、そういう話はしませんね(笑)」

―― ワクワクすること。

「そうですね。今これからやろうと思っていることとかね」

中国でのセミナーも多くの人が詰めかけた。2020年、世界中で講演をする予定(写真提供/アイウエオフィス)
中国でのセミナーも多くの人が詰めかけた。2020年、世界中で講演をする予定(写真提供/アイウエオフィス)

―― 本田さんの今後はどうなりますか。ご自身の未来予想図をここであえて宣言するとしたら。まず、2020年は。

「世界中を旅して講演しながら回っている予定です」

―― 仕事面ではどうですか。

「仕事面では、世界中に本が出ていって、どこかの国ではベストセラーになるでしょうね」

―― 5年後はどうですか。

「5年後はちょっと今想像しにくいですが、たぶん、今の延長線上でもっと大きなステージで講演している感じがします」

―― ぜひ、楽しみにしています。

「はい、ありがとうございました」

●第1回目「幸せなお金」についてのインタビューはこちら

●第2回目「願望達成」についてのインタビューはこちら

プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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