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「ガツガツ」ではなく「コツコツ」でこそ戦える~NYコメディで成功した日本人が語る4/5

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
NYメッツ本拠地シティスタジアム前にて

お笑い芸人のピース綾部さんが、来年の4月をもって、日本での芸能活動をストップ。単身ニューヨークに拠点を移し、ハリウッドスターを目指すという。

「何もない状態で、ニューヨークに行くピースの綾部さんは、当時の僕そのもの」。

英語力なしコネなしカネなしキャリアなし。ゼロから登りつめた成功には秘訣があった。

「できるはずがない」と周りからバカにされながらも、アメリカ版M-1グランプリの全米お笑いコンテスト、NBC『ラストコミックスタンディング』で準決勝に進出。非英語圏の外国人初の偉業を成し遂げた。

あのビヨンセも笑わせた、世界唯一の日本人プロスタンダップコメディアン、RIOさん。NYのコメディクラブを中心に1万回以上の舞台経験を誇る。20年間の活動で世界中のセレブゲストを含む40万人以上を爆笑の渦に巻き込んだ実力派エンターテイナーから学ぶ「無謀とも思える挑戦へ向けての準備と心がまえ」。

成功するか、失敗するかは、ほんの少しの違い。誰でもできることだけど、誰もがしないことをやるとは? 英語もお笑いも受験も仕事も、すべてに通ずる成功する共通点があった。

Q 日本にいる時に、社会労務士の資格を取得されているじゃないですか。その資格を1年で取ったというのも英語ネタを覚えるのと同じようなやり方でしたか。例えば、繰り返し声に出して言うとか、書いて覚えるとか。

A そうだね。同じだね。なるべく、自分の中にスキを作らないように。臆病だから、スキが認識されると、追いつめられるから、スキを埋めるように埋まるように、時間を使って。

Q なんか、話を聞いていると、ダンスもそうだし、マジックもそうだし、コツコツするのが得意なんですか。

A そうですね。大きな勝負が多いけど決め手はちっちゃいところに宿るような気がするから。ふっと、みんながしない時にやったことが、差だったような気がするんですね。

Q あああ~。

A その土台が、大学入試の時に浪人していたんだけど。お正月に講義があって、僕の友だちはみんな、講義に行かなかったの。お正月だし、徹夜で麻雀やっていたし。でも、僕は、その講義だけはなんか、さぼってはいけないような気がして。だから、僕は行ったのよ、一人だけ。そしたらね、本試験でそれが出たの。

Q わああ~。

A その経験があるから。そういう時に試されているような気がするんですよね。今、やらなくてもいいかなという時が、実は勝負時。

Q なるほど~。すごい。

A ほんとね、そのまま試験に出たんだよね。得点数の大きい1問が解けたから、だいぶ自信がついたよね。

Q その成功体験から、ちゃんとやるようになったんですね。

A その時に行かなかった他のやつらは2浪しているから。その失敗体験も強烈で。その1夜だけの、1クラスだけの差のような気がして。そこで、はかられたなと。だから、社労士の時も、どうしても朝起きられなくて講義をサボろうとしたら不合格の直感がしたのでフラフラで電車乗って行きました。ここの部分で、はかられるような気がして。だから、いつもスキをつくらないようにしてきたのかもね。

Q じゃあ、一発勝負より、コツコツ、積み重ねで。試されている感じがするんですね。

A そうです。いつも、人間性が問われているような気がする。

Q いい話ですねえ。いつも、誰かが見ているような。

いつも試されているような気がするんです。

Q じゃあ、麻雀明けに、自分だけ講義に行ったってことなんですよね。

A みんなは寝に帰ったんだけど、僕だけは徹マンだけど、死にそうになりながら、講義を受けにいったんだよね。眠くて舌を噛みながらクラスに出ていたけど。

Q という真面目さで、ダンスもちゃんと練習したし、マジックもマスターしたし、コメディクラスでもちゃんと宿題をしたし。もしかしたら、1週間ネタを考えただけで終わる人もいるかもしれないけれど、いち早くネタを考えて、練習に時間を使ったんですね。

A ダンスもクラスの中で一番の落ちこぼれで、辞めようかなあと思ったんだけど、こういう時に辞めないほうがいいのかなと思って、すこし粘って辞めなかったら、名コーチの師匠に出会って。その師匠が、ガラッと僕のダンスを変えてくれて。教えに従って、ずっと研究していったら、気がついたら、上手になってきて。出会う前は、あまりにもできなくて辞めようと思っていたのに。だから、うまくいくちょっと前には必ず、辞めさせるような誘惑があるというか。

Q お試しみたいなのを与えられて。

A その時に、みんな、辞めるんでしょうけれど。ちょっと粘るんです、いつも。そのちょっとが、必ずよくなるきっかけになる。

Q わあ、いい話ですね。

そう、ちょっとの甘い誘惑に負けずに、ちょっとだけ粘るようにしているんですよね。

Q なるほどね。だから、今、1ステージのギャラが5000円になっているけど、自分の価値を見極めながら。一足飛びにはしないということですね。

A そうですね。周りには一足飛びに、と思われているけれど、一足飛びでギャラアップを交渉したコメディアンがクビになったりしてます。自分ではコツコツしているつもりです。

Q 実際に、ネタを英語で言えるように、1日12時間くらい練習して、英語はそのフレーズしかわからないんですか。

A そうだね。今もそうかな。聞いたことある言葉しか言えないし。言えるというのは、聞こえる言葉なんだけど。全く聞いたことがないことは、ロシア語みたいでわからない時がある。

Q え、コメディクラスの発表会の時は何とか切り抜けたけれど、そこからどうやって。

A でも、言えるフレーズの数は膨大にあるよ。

Q ネタは何個くらいあるんですか。

A 1時間ブッ続けでやれるくらいはあるよ。普通に、テレビドラマのオーディションも同じやり方で、バイリンガルの友だちに頼んで、録音させてもらって、全部覚え込んでいるし。司会とかも、いろんな言い方を入れてもらって、練習するから。それで、どんどんフレーズが増えていった。

Q 1回話したのは覚えているんですか。

うん、忘れない。だって、何回もリピートして、右脳にこびりついちゃっているから。

Q じゃあ、伝統芸能のような、口伝えで幼い頃から身体に染み込んでいるみたいな。

A そうそう。例えば、「南無阿弥陀仏」みたいなもので。

Q お経に近い。

A そう、意味はわからないけれど、言えるという。僕のは、お経英語ですよ(笑)。

Q じゃあ、同僚のプロのコメディアンのネタは聞いてもわからないんですか。

A これがね、不思議なんですけれども、何回も聞いているうちに、最後にわかるようになってきて。聞けるようになって、言えるようになっている。

Q え~、すごい。はあ~。

A 何言っているんだろうって、同じ仲間だから何回も聞くじゃん。だから、最初は10数時間かかったけれど。だんだん短くなってきて、今はね、だいたいね、同じネタを15回くらい聞くと、同じことを言えるようになるね。

Q はあああ。

膨大な数を聞いてきたおかげで、前聞いたことがあるという感じで、今は、簡単なやつだと数回で言えるようになるね。

Q 例えば、収録みたいに、はい、ここはあなたのコーナーです、みたいに枠がもらえればいいけど、ライブとかで、急にチャチャ入れられたりしたらどう対応するんですか。

A これねえ、舞台の上ってねえ。すごい集中力だから、聞いたことがないことを言われても聞き取れるの。すごい緊張で、全身が張り詰めているから、なんか聞いたことがない言葉を言われてもわかるの。わからなきゃいけないと思うのかもしれないけど。

Q じゃあ、お客さんの急なツッコミも拾って、対応する。

A 笑わせないといけないと思って、即座に反応するというサイクル。

Q つまり、戦場のような、極度の緊張状態にあると、感覚が研ぎ澄まされて、ちょっとした草の動きや風が吹いただけでもサッと身をかわせるようなことですか。

A そうそう、僕にとっては、ある意味、戦場だから。

Q 人がちょっと言ったことでも、すぐに返せるという。

A そう。ピリピリしている状態だからね。

Q どういうことを言ってくるんですか。例えば、ネタをしている時に。

A 例えば、お客さんに、「どこから来たの?」と。で、聞いたことがない場所の名前でも、さっとちゃんとわかって、繰り返し言えちゃうわけ。

Q つまり、五感が鋭くなっているってことですか。

全身が鋭くなっている。でもそれは、誰でも舞台の上に上がったらそうなると思う。

Q 逆に、ネタが飛んじゃって、ワケがわからなくなるとか、誰の声も聞こえなくなる、自分が言うことで、いっぱいいっぱいになるということはないんですか。

A 最初のうちはあったかもしれないけど、その割合はどんどん減ってきて、五感が鋭くなってきて。

Q リオさんは、日本語で話すと、めっこう早口ですけど、リオさんの英語はアメリカ人の人が聞いても早口なんですか。

A そんなことはないよ。かなり下手で、遅いんじゃないですか。スターバックスで同じオーダーばっかりするから、ばーっと言えるんだけど、というような。とにかくルーティンなの、僕の場合は。スタバのオーダーと同じなの、コメディラインって。

Q というのは、日常英会話でも活かせますか。つまり、ルーティンなこと、同じことを何度も繰り返すほうがいいってことですか。次々と新たなボキャブラリーを増やしていくよりも。

A そうだね。

Q じゃあ、即興で、お題をもらって、例えば、「お茶」でネタを一つ、という感じで急にふられるのは難しいんですかね。

A たぶん、できないだろうね。

Q 考える時間をもらえたら大丈夫。

A そう、僕のは勉強だから。笑いを研究しているから。才能はないですね。

Q つまり、行き当たりばったりではなくて、ちゃんと戦略を立てた笑いということですね。

A そう。だから、日本人なら誰でもできると思いますよ。時間をかけて、労力をかけて、積み上げていった笑いなんでね。才能ではけしてないですね。

Q でも、でも、元々のネタが面白かったということですよね。だって、いくら英語でしゃべれても話が面白くなかったらねえ。

A 最初のトイレネタだけは1個すぐに作れましたけど、2個目作る時からは、だいたい1000個くらい作って、1個ですよ。

Q えええええ。

A ネタを1000個くらい面白いなあと思うのを作って、バイリンガルの日本人に聞いてもらって、面白くないね、ダメダメダメと言われて、まあまあ面白いねというのを大事に、英語を言ってもらって、それを覚えて言うと、やっぱり面白くないねとなると、またゼロに戻って作り直して。とやっていると1000個になって。1000個やって、1個面白いのがあるかなあという感じで。

Q やあ、努力している。

僕のやり方は、ここだね。1000個作り続けるという。

Q へえ。どれくらいの期間でやっていたんですか。1000個作って、1個に絞る作業は。

A 1か月くらいは余裕でかかるよね。

Q ええ~。

A でもね、999まで出ないとするじゃん、運よく2つ目でいいのが出るかもしれないけど。でも、999失敗すれば、絶対、次に来ると思うから。安心して僕は積み上げていっているのよ。失敗をね。これをやらないと、1000個目のネタはできないと思っているから。失敗もすごくガッツポーズなの。あ、これで、一歩進んだ、二歩進んだって思えるから。

Q へえ。すごい。

A さっきのと同じよ。最後の粘りまで、試されていると思って。

Q なんか、ちょっと、アスリートっぽいですね。

A そうですね。僕はファイターというか。ストイックだから。

Q 999回できなかったことが、最後の1回でできるかもしれないということですよね。

A だいたい、万事そういうふうに起きているんで。

お客さんとやり取りをする『NYインプロコメディクラブ』にて
お客さんとやり取りをする『NYインプロコメディクラブ』にて

Q それは、リオさんスタイルなんですよね。みんながそれをしているわけではないですよね。

A 根底にね、ニューヨーク都市伝説があって。5年間、どんな下手なやつでもずーっと舞台に出続けていると、5年後に全米レベルのテレビや映画の出演が決まって売れるみたいなのがある。

Q えへへへ(笑)。

ニューヨーク芸人都市伝説。僕も体験しているし。そういうやつらをたくさん見てきているし。ほんとにあるんだなあと。すごく面白くないやつが、5年後、どーんと行くの。アメリカのトップクラスのところまで、バーンと。そしてその後、スグに落ちるんだけど。だから、それまでの蓄積が勝負で、それがないと消えちゃう。

Q それって、ずーっと面白くない同じネタをしていても、突然、ぱっと時代がくるということですか? それとも。

A 突然注目され始める。この5年間をいろんな過ごし方はあると思うんだけど。濃縮した5年間を過ごす。ウケないとつらいじゃん、普通。ウケないのに、舞台に出続けるのは、すごくしんどいじゃないですか。でも、出続ける異常にタフな精神力のやつがいる。

Q はあああ。

A そういう濃密さ。僕は、英語ができないのは怖いじゃん。普通なら辞めるし、辞めているんだよね、日本人は。それでも、ずーっと舞台に立ち続けて、やっと5年目とか、5年後とかに。僕の場合は、全米のお笑い番組で準決勝まで勝ち残ったり。

Q 例えば、日本だったら、すべったら、さむーというか、しーんとなるじゃないですか。アメリカはどうなんですか。

すごいブーイングですね。積極的に舞台から降ろそうとしますね。ブーイングとかもくらったねえ。

Q 物とかも飛んできたりするんですか。

A あったね。舞台上がる時、白いTシャツだったのが、終わる時、赤くなっているんですよね。ブランデーマリーとか、カクテルをかけられてね。

Q 金返せ、みたいな。

A 金返せ、とは言われないけど、「ちょっと、なげーぞ。降りろ」と。「国に返れ」と言われたこともありますね。

Q あああ。つらすぎる。

お客さんが参加型だから。黙って時間が過ぎるのを待つというのはないね。

Q ダメダメ、はい次、次、って感じなんですか。

A そうそう。だから、それが来るなあと思ったら、その前にひと言、わっと言う練習したり。でも、来ちゃったら、この空気はお客さんもキリッとするから、僕の場合は、「黙ってろ」という感じ。それがちょうどいい。臨戦態勢になったら、そこまで言われたらね。それまでは、「あれ、みんな、俺のこと見ながら、舞台降りろと思ってんじゃないの」と先に言って、ちょっと和まして。それで、聞かなくなったらケンカです。

Q じゃあ、ひるんだりとか、しょんぼりしている場合じゃないんですね。

A そうだね。みんな、あの立場になったらそうなるんじゃないかな。

Q 例えば、ブーイングが起きて、舞台降ろされた人って、ほんとにそのまま辞めちゃう人もいるんですか。

A 辞めちゃう人、いっぱいいるね。

Q 何割くらい辞めちゃうんですか。

90%くらい辞めちゃうんじゃない。

Q ええええ。

A コメディアンのほとんどが志して、みんな辞めていくんじゃない。

Q それはウケないことが耐えられないということですか。食べていけないとか。

A 障害が多いですね。やっぱり、ウケないっていうのが多いんだろうな。ウケても、食べられないというので、また、淘汰されるしね。これは、アメリカ人の場合だからね。アメリカ人の100%の中で、残るのは10%。

Q アメリカ人はそういう意味ではコツコツしないんですかね。

A そうね。ダメなら、次行こう、次行こう、みたいな。

Q 向いてないんだから。チャンスは他にもある、みたいな。

みんな、コメディやるのよ、とりあえず。だから、生き残っているやつは、リスペクトされるわけ。

Q ウケないという状態で舞台を降ろされると、怒って帰るんですか。耐えられないというのは、プライドが、ということですか。

A まあ、泣いて帰っていたやつもいるしね。ショックで辞めちゃうやつもいるしね。あと、蓄積していって、いつの間にか、という自然淘汰が一番多いのかなあ。1回だけじゃなくて、2回、3回続くと、辞めろっていうサインかなあと自分で感じて。

Q ああ。見切りをつけて。コメディアンの方の層は何歳くらいの人が多いんですか。

A えっとねえ。コメディアンってね、全体的に、年齢層高いから、20代30代はあんまりいないの。けっこう、おっさんのやることなんで。

Q 一番高齢者だと。

A 70代とか。だから、落語の世界だね。どっちかというと。舞台立ったまま、亡くなることもあるしね。

Q ええええ。

A まあ、そのままじゃないけど、先週まで舞台に立っていてというのはあるし。日本で売れない芸人がいるというけど、ある意味いいなあと思います。売れていなくても生きていられるから。アメリカだと、売れてないと死んじゃうからね。

Q 自殺するってことですか。

自殺というより、食えていけなくなったり、ドラッグとかお酒に走ったりして、身体を悪くして死んじゃうというのがよくある。メンタルがおかしくなって。日本はそんなことは起きていないから、いい国だなあって。

Q だから、あれですよね。スランプがあるスポーツ選手とかにでも、頑張れーって一生懸命応援しますもんね。そんな、「帰れー」とか、どっかの国みたいに、撃たれるみたいなことはないですもんね。死と直結しているということですよね。ウケないということは、国を去らなければいけないほどの罵声を浴びせられるわけですからね。

ストレスが、鬱どころじゃないからね。その代わり、ウケた時の輝きはすごいから。そのバランス。日本はウケた時もそこまでじゃないから。その中で生きていけるかどうか。

Q コメディクラブに来るお客さんは、21時くらいから来て、何人くらいのネタを見ることになるんですか。

だいたい、司会が一人いて、20分枠で4人。1時間半から2時間くらい見て。

Q それで、どれくらいのお金を払っているんですか。

入場料がだいたい2000円で、2杯飲まなきゃいけないから、3500円から4000円払えば。安いエンターテイメントだね。

Q お客さんはどういう人たちなんですか。

A アメリカ全土、世界全土から来るのがニューヨークだね。ニューヨーカーは半分くらいかな。

Q 何を求めてというか、ニューヨークのコメディアンを見たいということなんですか。

A そうですね。世界一のコメディアンがここに集まっているんだろうって。ヨーロピアンが来たり、アメリカのあらゆる州から来たり。実際、クオリティが高いから。

Q 一番売れているというか、最高額のギャラ1万円をもらっている人はどういうネタをしているんですか。

そこまでいくと、日本人には面白くないはず。政治ネタ、宗教ネタとか、徳のある高尚な話なもんだから。僕がわからないというのもあるのかもしれないけど、政治とか文化の話をするから。あるあるネタとかなくなってくる。

Q どういう内容なんですか。トランプ氏がどうのこうのとか。それか、お話会というか、講演会みたいになっているんですか。

A うーん、あんまり刺激ネタじゃないというか。

Q つまり、専門ネタになってくるというか。

まさに、落語的になってくるね。レベルが高くなってくる。だから、通好み。聞き込むと、それしか受け付けないくらいの病みつきになる。

Q やっぱり、コメディを聞く人は、賢い、教養があるんですか。

A そうですね。たくさん、経験して、聞き慣れている人じゃないと。だから、笑いが分かる部分でレベルが分けられているんです。

Q あ、どの笑いがわかるかで、教養があるかないかがわかるみたいな。

宗教的な単語がわかるかとか。宗教を知っていないと、わからないようなオチがある。笑いを試すような。

Q はああ。笑える人は教養があるんだよと。これを知っていないと、笑えないでしょ、というのを突いてくるわけですね。

A いろんなことを理解していないと、笑えないでしょうと。和歌みたいな。

Q はああ。

A それは太刀打ちできないですね。和歌を詠む茶会みたいだから。

Q 例えば、誰でもわかる、初心者でもわかる、笑いをとっているような人はどういうネタなんですか。

A やっぱり、人種ネタとか。トランプネタとか。「もうすぐトランプ就任だね! メキシコ人は隠れてろ!」とかわかりやすいような。

Q それは、放送とかでは差別用語になるような。クラブだけの、ライブだからこそ言える。

A そうだね。だから、笑点のような番組でやるネタが、一番お金を取るネタということですね。

Q では、リオさんは、その中にあって、キャラクターで言うと、どういうキャラなんですか。

僕は、まだ、賑やかしというか、最初の、沸かすという感じの。メインの人たちのお膳立てをする。

Q じゃあ、そのためには、体験ネタを増やして。

A そうね。僕ができることをする。僕だからこそ、できることを。

Q なるほど~。アメリカ人と日本人の笑いの違いは。

A 基本的には、僕は、日本人が笑うネタの範囲でしか作っていなくて。アメリカ人は笑うけど、日本人は笑わないっていうのは、あんまり思いつかないの。

Q ということは、日本人とアメリカ人の笑いの共通点を出しているということですか。

A というか、ネタ聞いてもらうのが、日本人なんで、最初いつも。その人にウケたものを英語にしているから。どうしてもそうなっちゃう。でもね、日本人とアメリカ人両方にウケるネタはね、世界中誰が聞いてもウケる。

Q アメリカ人の笑いっていうのは、どういう笑いなんですか。

A アメリカ人も自虐が好きだから。アメリカに住んでいる日本人はわかるわかるみたいな。

Q 確かに、アメリカ人の自虐ネタも多いですよね。

A そうですね。上げて降ろすみたいな。

Q あるあるネタの自虐パターン。

A 例えば、「では、次のネタ、紹介しますね。ちょうど、今の状態ですね。ちょっと、すべり気味のやつですね」とか。ちょっと、ふっといれてね。

Q 伏線を引いておくみたいな。じゃあ、思わぬことがウケるということはないんですね。

A あるねえ。多いねえ。

Q 例えば。

A 思わず舞台で言ったことがウケて、そのままネタにしていることもあるね。

「今日のお客さん、いいね。少ないわりによくウケるね。笑いが大きいね。とても15人しかいないようには思えないね。大爆笑だね。俺には16人が笑っているように聞こえるね」みたいな。そういうことですかね。

Q なるほどねえ(笑)。事実をちょっとオーバー気味に言っておいて、解釈を言って、最後に落とす。

デフォルメしてね。方程式がありますね。

Q じゃあ、アメリカ人に寄せているわけではなくて、自分も笑えることを。

A 日本人にウケることを作ったのが、たまたまアメリカ人にもウケているというね。

Q なんか、私たちからしたら、歴史も違うし、文化も違うし、習慣も違う人をね、笑かすというのはすごく難しいと思うんですよ。英語力でも上級者だと思うんですけど。

A そういうふうに勘違いされるんですけれども。決してそんなことはない。方程式をきっちり守って、伝わる範囲の英語でやっている。

Q じゃあ、英語が全くしゃべれない人でも、シナリオみたいなのを作っておけば。

A 絶対ウケる。僕の友だちとか、僕の英語ネタを覚えていて、アメリカ行った時に、チャンスがあって、ウケたって言ってましたね。「すげえな、俺が言ってもウケるんだ」って。その時は、ビヨンセのネタですけど。「ビヨンセが今日わざわざ私のショーを観にきた時に、2台のリムジンで来てくれたんですよ。ビヨンセは世界一お尻の大きい女性だから、1台目にはビヨンセで、2台目は彼女のお尻だけが乗ってきたんですよ」というふうなことなんですけど。

Q たとえ、ビヨンセがいたとしても、大笑いするんですか。

実際にビヨンセ本人を前にしてやったジョークですよ。でも、隣の彼氏のジェイ・Zと一緒に爆笑してましたよ。アメリカ人って、自虐好きだから、言ってもらうと喜ぶ。いじってもらいたがる。日本で言うと、「和田アキ子」ネタというか。強いから、いじられることで、強さはさらにひけらかせる。余裕で笑えること。それが余裕の象徴なの。

Q ああ、大物感というか。

A そう。和田アキ子さんは怒らないでしょう。あれが、小物だったら、怒っちゃうじゃないですか。その違いですよ。自虐をいじってもらって、余裕で笑えるのが、強者の表れ。

Q リオさんの、「英語を何回も聞いてマスターする」やり方って、日常の生活に活かされることはありましたか。スピードラーニングじゃないけど、ずっと英語を繰り返して聞き流すやり方は。

他の言葉でも覚えられるようになったよ。英語だけに限らず、音に集中して聞くから。スペイン語も、中国語も、何回も聞くと、覚えられるよ。

Q 完全に耳から入っているんですね。

A 文字がないからね。

Q 意味もわかるようになるんですか。

A 意味も不思議とね。言っていた言葉がいつも怒っている状態だったら、怒っている時に言う言葉なんだ、という感じで覚えていく。

Q シチュエーションでね。じゃあ、今は、英語レベルは。

A どうだろう。お笑いに関してはネイティブ以上なのかなあ。

Q それは、どういうレベルということなんでしょうか。

A そうだね、わかりづらいね。あ、この前、センター試験を試しに解答してみたら、英語は満点だったけどね(笑)。

Q わあ、すごいですね。英語レベル2からのスタートで。

A そうだね。でも、まあ、今もわかるところは100だと思いますが、わからないところは0のままですね。すべてをわかろうとしていないんで。わかるものだけわかるというのを数を増やしていったんで。

Q わかるものとは。

A 笑い話に関しては、わりと集中して聞いているからわかりますけど。法律の言葉や医学の言葉は、聞いたことがないから聞いてもわかんないですね。英語わかるだろうと思って、ドキュメンタリーを観てたけど、巨大イカの番組で、聞いたことのない単語ばかりだから、さっぱり意味がわかりませんでした(笑)。

Q あああ。

興味なかったり、初めて聞く言葉はわからない。でも、笑いは好きだから興味がある。そうなると、宗教ネタだったら、聞いてしまうよね。その集中力はすごいよね。

Q じゃあ、英語を覚えたいときは、自分が興味あるものをずっと繰り返し聞いていればいいですね。

人によって、専門分野というのはあるんですか。例えば、医学ネタだけをするような人とか。

A いますね。医学ばっかり、政治ばっかり、宗教ばっかりの人がいますね。僕も何回も聞いている。笑いが起きているから興味があるんですよね。僕は、笑いにワクワクしているのかもしれない。

Q そういう状態で耳から入ると、わからない英語もわかるようになる。

A とにかく文字なし。なるべくスピードを早くして聞く。

Q 私の知り合いも、ニューヨーカーの人がいますけれど、早口だし、ジョークだらけで、何がほんとで何がウソかわからない。それについていかなきゃいけないし、黙っているとわかっていると思われて、そのままどんどん話が進んでいってしまうし。

僕がオススメするのは、相手の早口の中でも聞きとれる言葉があるじゃないですか。それを「〇〇?」ってわかる言葉だけリピートして返すと、相手が説明をしてくれるし、自分の発音の確認にもなる。そうすると、ボキャブラリー数が増えていく。ちょっと長めにわかるようになる。とにかく言われたことをリピートするだけ。

Q 録音して聞き返したりもして。

A そうそう。そしたら、わかったと思う数が増えていきますよ。ちょっと粘ると、しゃべれるようになる。

Q ここでも、粘りですね。じゃあ、会話を重ねるのではなく。

A そう。僕は、相手いらず。僕の勉強法は。会話しなくて、うまくなる英会話(笑)。会話いりません。独学で、一人でうまくなる英会話ですよね。

Q 聞くだけですからね。

聞いて自分で言えるようにしますから。それで、自分が言った言葉も録音していますから、ネイティブと聞き比べると、「あ、違うな」とわかるから、もう一回直して。「あ、似てきたな」と。

Q だから、英語の歌をずーっと聞いていて、歌えるようになるのと一緒ですね。

A そうです。僕の場合、英語は全部歌なんですよ。

Q 結局はすべて、コツコツ、繰り返し、粘りですね。舞台も英語も笑いの世界も。

A そうです。それができた者にラッキーなサプライズが確実に起こる。

第5回につづく。

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プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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