「悪玉コレステロール」という呼び方は、もう止めよう!

(ペイレスイメージズ/アフロ)

■脂肪をたんぱく質でくるんで運ぶ

栄養素に優劣をつけることは、あまりいい考え方ではないが、私たちヒトという動物にとって、糖質とたんぱく質と脂質はきわめて重要な栄養素である(この3つを「三大栄養素」という人もある)。

私たちは、食べ物として摂取した栄養成分を血液で体の各部の細胞へと輸送する(三大栄養素は、食べ物として摂取するだけでは足りないので、肝臓でも作っている)。

糖質は最終的に「ブドウ糖」という成分になって、血液中を流れて(血漿という血液成分に乗って運ばれて)いく。

問題は脂質(コレステロールや中性脂肪など)である。

血漿の主成分は水なので、脂質がうまく血液中を流れていかないのだ(“水と油”というくらいだから・・・・)。

さてどうするか?

ヒトは見事なシステムを作り出した。

たんぱく質は水(血漿の成分)と相性がいいので、相性の悪い脂質をたんぱく質でくるんで、肝臓から(心臓のポンプの力を借りて)体の各部へと運ぶことにしたのだ。

この「脂質をたんぱく質で包み込んだ物質」をリポプロテインという(リポは脂質のことで、プロテインはたんぱく質のこと)。

■LDLもHDLも“善玉”

肝臓から出て行くときのリポプロテインは、たんぱく質もコレステロールもたくさんあって、大きくて密度が低い。

これを低密度リポプロテイン(Low Density Lipoprotein:略してLDL)という。

体の各部にたんぱく質と脂質を運ぶきわめて重要な「栄養成分の塊」だ。

リポプロテインは、体の各部(の細胞)に脂質とたんぱく質を分配しながら、だんだん小さくなって密度も濃くなり、静脈を通って心臓へと戻ってくる。

これが高密度リポプロテイン(High Density Lipoprotein:略してHDL)だ。

ちなみに、HDLの中には、戻る途中で使われていないコレステロールを見つけるとそれを回収したものも含まれている(コレステロールは貴重な栄養成分なので、けっしてムダにしたりはしない)。

これでおわかりのように、LDLもHDLも、私たちの体にとって欠くことのできない栄養成分であり、“悪玉”のわけがない!

あえて言えばどちらも“善玉”だ。

にもかかわらず、LDLの中にあるコレステロールだけを取り出して“悪玉”呼ばわりするのはまったくの言い掛かり、濡れ衣もはなはだしい。

念のために書くが、LDLの中のコレステロール(よく「悪玉コレステロール」と記述されるもの)と、HDLの中のコレステロール(よく「善玉コレステロール」と記述されるもの)は、同じ物である。

■「往き」と「帰り」では積み荷が違うはず

コレステロールの“善悪”を議論する際に、もう一つ考慮しなければならないことがある。

それは、健康診断時の血液検査用の血液は「静脈血」であるという点だ。コレステロール値と健康との関連で問題視されるのは(主として)「血液中のコレステロール値が高いと動脈硬化の原因となる」という観点からだ。

その目的からいえば、静脈血を採取するのではなく動脈血を採取して、コレステロール量を計測するほうがいいはず。

動脈の中を流れる血液の成分と、静脈の中を流れる血液の成分は、当然にも異なるので、「静脈の血液成分を調べて、動脈への影響を云々する」のは必ずしも適切ではないのではないか、と筆者は考えている。

しかし(これは当然のことだが)動脈に血液採取用の注射針を刺すわけにはいかない(針を刺したとたんに血液があふれ出てきて止まらなくなる)ので、やむを得ず、健康診断では静脈に注射針を刺して採血することになる。

このことを忘れてはならない。

わかりやすく(?)例えれば、動脈血は「往き」の貨物列車で、静脈血は「帰り」の貨物列車だ。

行きは荷物(栄養成分)をたくさん積んであるが、帰りはその荷物を目的地で下ろしてくる(栄養成分を細胞に届けてくる)のだから、普通は空っぽに近いはず。

その「帰り」の列車を調べて、まだ荷物がたくさん積んであるとしたら、原因は2つ。

「必要量よりも荷物を過剰に積みすぎた」か「目的地で予定よりも必要量が少なくて余ってしまった」か、のいずれかだろう。

私たちの体でいえば、前者(積みすぎ)は「食べすぎ・飲みすぎ」であり、後者は「運動不足」である。

荷物(コレステロール)が悪いわけではない。

■真の生活改善につながらない

自分の食べすぎ・飲みすぎや運動不足(ほとんどの場合その両方)を棚に上げ、大事な栄養素であるコレステロールを“悪玉”などと評してはならない。

それをすると、次の2つの不具合に直面することになる。

1:コレステロールを含有する食品を「健康に悪いもの」という間違った評価をする。

2:「いけないのは自分の食べすぎ・飲みすぎや運動不足である」という、正しい認識から目がそれる。

この「1」「2」にとらわれると、生活改善・食習慣改善とはいっても、つまるところ「コレステロールの多い食材を避ける」ということになり、「食べすぎ・飲みすぎや運動不足を改善する」ということにつながらないのだ。

これは、生活習慣病の予防にとって(あるいは治療にとっても)すこぶる好ましくないこととなる。

なので、私はもう10年以上も前から「コレステロールを善玉と悪玉に分けるのを止めよう」と提唱しているのだが、うまく伝わらないし、なかなか拡がらない。

■もうアメリカでも摂取制限はしてない

食品中のコレステロールを“悪者”としてとらえて、それを摂取しないようにする食事法は、二十世紀終盤にアメリカ(USA)からやってきた。

1990年くらいまでは、アメリカでは心臓疾患を予防するために食事からのコレステロール摂取を制限するように提唱されていた。

日本では、食事からのコレステロール摂取量はアメリカよりもはるかに低かったのだが、アメリカにならって「食事からのコレステロールを減らそう」という食事法が推奨された。

その後、「食事から摂取するコレステロールは血中コレステロール値にほとんど影響しない」という科学的データが集積され、2015年2月にアメリカの保健福祉省と農務省は「食事からのコレステロール摂取制限を設けない」ことを発表した。

これを受けて、日本動脈硬化学会は2015年5月に「健常者においてはこの記載を支持する」という声明を出した。

つまり世界中で「食事中のコレステロールは悪さをしない(するという証拠がない)」ということが科学的常識となっているのだが、一般の人たちには、これがなかなか伝わらない。

筆者は、その大きな要因が「悪玉コレステロール」という名称にあると感じている。

「キチント説明するのが大変」だということは理解できなくはないのだが、だからといって安易に「悪者を作ってそれを攻撃する」という指導をしていると、「真の健康法=食べすぎ・飲みすぎや運動不足にならないようにする」に結びつかない。

そしてこのこと(悪玉コレステロールという呼称)は、「だからこれを食べましょう!」という“アヤシゲナ健康食品”の摂取に容易に結びつく。

日本の医師も管理栄養士も(看護師も保健師も)、これらの弊害を真摯に捉えて、LDLコレステロールのことを「悪玉コレステロール」と呼ぶのは、もう止めるべきだと思う。