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消費者市民社会をつくる会が機能性表示食品の「評価」を公表したが、これが誤認を招きそう・・・

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■「粗悪な健康食品を排除する一助」になるかどうか・・・

Yahoo!ニュースの読者の中にはご存じの人はほとんどいないのではないかと思うのだが、一般社団法人消費者市民社会をつくる会(以下「ASCON」と表記)という(いわゆる)消費者団体がある。代表を務めているのは前・消費者庁長官の阿南久氏(私も正会員として参加している)。このASCONが、5月1日に機能性表示食品に関する評価結果なるものを発表した(下記)。

http://ascon.bz/archives/473

機能性表示食品については、私もこの「日記」で何度かご報告してあるので(下記)ご覧いただきたい。安倍首相の“鶴の一声”で始まった(と私は理解している)食品表示制度で、ある程度の根拠があれば比較的安易に機能性の表示が可能になるという、新しい制度である。この「ある程度の根拠」と「比較的安易に可能」という2点が、制度をあいまい(骨抜き)にしていると思える。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150503-00045361/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150713-00047492/

機能性表示食品制度に関しては、長い時間をかけて議論された結果(今でも継続審議されている)、賛否両論がほぼ出そろった感がある。否定的な意見としては「きわめて希薄な科学的根拠をもとに機能性だけが強調されるので、消費者を誤認させる」があり、逆に肯定的な意見としては「ピンからキリまであるいわゆる健康食品の中から粗悪な物を排除する効果が期待できる」がある。いずれにも一理あり、議論を重ねてもなかなか結論が導き出せない(私は前者を支持するものだが)。素人である消費者は、機能性表示食品とどのように接すればいいのかが全くわからない、というのが現状であろうと推測する。

そこに一石を投じたのが、この評価結果である。ASCONが、第三者機関として、多々ある機能性表示食品に対して、消費者がどのように接すればいいかという判断基準を示したものだ。ご覧いただけばわかるとおり「力作」である。と同時に、ご覧いただいた多くの方は「読み込めなかった」のではないだろうか。 残念ながら、とても一般市民が正確に理解できるレベルではない。

■一般市民は「赤字の部分」だけに注目することだろう

ASCONは、冒頭に紹介したように「消費者市民社会をつくる会」だ。学術組織ではないので、一般市民が読んで理解できるレベルで情報を提供すべきだと思うのだが、いかがなものだろうか。少なくとも「一般市民が目にしたときに読む気がおこるものであってほしい」と願うのは私だけではあるまい。

今回発表された評価は、この制度に相当の興味を持っており、かつ、ある程度の科学的知識がある人がじっくり読めば、かなりおもしろい内容ではある。しかし(くどいようだが)一般市民が理解できるレベルではない。恐らくだが、これを目にした一般市民は、細かい部分はほとんど読み飛ばして、赤字で表記してある「総合評価判定」と「安全性評価」の2項目だけを見るのではないだろうか。わざわざ赤字で表記してあるところ見ると、ASCONのほうでもそのつもり(ここだけ見てもらったとしてもやぶさかではない)なのではなかろうか・・・。

「総合評価判定」を見ると商品(食品)ごとに「A」「B」「C」の3段階に分かれている。一般消費者は、もちろん、の商品よりもの商品のほうが機能性が高い(健康効果がある)と理解するだろう。少なくとも「ASCONがそのように評価した」と受け取るはずだ。でも、よく読めばわかるのだが、そういうことではない。

機能性表示食品は、必ずしも食品そのものを使った実験が必要なのではなく、その食品が含む成分の機能性を証明した論文(これをシステマチックレビューという)があるだけでも「届け出」が可能だ。ここが特定保健用食品(いわゆるトクホ)と違うところで、トクホの場合は「その商品そのものを用いた実験」が必要である。

で、ASCONによる今回の総合評価判定は「用いた論文の数が多いかどうか」そして「届け出書類の手続きが適正であるかどうか」を判定したものなのだ。参考にした論文の内容が科学的で確かなものであるかどうかを評価したものではないし、ましてや、その商品(食品)の機能性を評価したものではない(と書いてある)。の商品のほうがの商品よりも効き目がある、というわけではない。私には、これこそまさに「消費者を誤認させる表現」だと思える。

■恣意的に悪用される危険性を排除できない

「安全性評価」にしてもほぼ同様のことがいえるだろう。すべての商品(食品)の安全性が、赤い文字で「問題なし」と表記されてある。しかしこれも、この商品自体の安全性をASCONが調べて「安全性には問題がない」と判定したわけではない。その商品に含まれている機能性成分に関して「安全性に問題がないという論文がある」ということを示しているにすぎない。

もちろんそのことは書かれてあるので、専門家が読めば誤解することはないのだが、消費者はどう判断するだろうか。多くの消費者は、ASCONがこの商品の安全性を「問題なし」と判定した、と受け取ることだろう。これは「消費者を誤認させる表現」にはならないだろうか。せめて「安全性評価」に関しても、論文の数が多い物から「A」「B」「C」とすべきではなかったか・・・。

ここまで批判的な意見を述べてきたが(私がASCONの会員だということを差し引いても)今回の評価結果は大きな実績であることに異論はない。幸か不幸か(?)ASCONはまだ一般市民にはほとんど知られていないので、読む人は専門家(とその周辺の人)に限られるだろう。一般市民がこれを読んで誤解をするというケースはそれほど多くはなさそうだ。そういう意味では、これを専門家と一般市民の間に立つ人が「翻訳」して伝えれば、誤認を招く危険性は少ないかもしれない。

しかし、それはASCONの目指すところではなかろう。ASCONは一般市民に、直接かつわかりやすく伝えることを志したはずだ。残念ながら、今回の評価はASCONの志とは別に、「誤認」が広がる危険性がある。

また、中にはこの評価結果を、意識的に「悪用」する事業者が現れないとは限らない。つまり「当社の○○という機能性表示食品は、消費者市民社会をつくる会の科学者委員会から『安全性』では問題なし『総合評価判定』ではと判定された」と宣伝する事業者が(必ず)現れるだろう。

それを見た一般消費者の食生活が不健康な方向に傾くことを、私は懸念する。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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