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アクリルアミドの健康被害を避ける方法は「ポテトチップスを食べないこと」ではないらしい。

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■長期間とり続けると健康に悪影響を与えるおそれがあるアクリルアミド

11月30日、農林水産省主催の平成27年度食品安全セミナーが開催された。今回のテーマは「アクリルアミド」と「食中毒」。この食品安全セミナーは一般消費者を対象にしたものなので、とりわけ「家庭でできることは何か」という内容に絞って解説が行なわれた。

まずは最近よくマスコミやネット等で「ポテトチップスがよくない」と話題に上るアクリルアミドについて。

私たちが食べる食品はさまざまな化学物質を含んでいる。というよりも食品は化学物質からできている。食品が含む化学物質には栄養素(体に役立つ物)もあれば非栄養素(体に役立たない物)もある。食材に元々(天然に)含まれている物もあれば、食品の加工中に生じたり添加されたりする物もある。後者の中には、食品の加工中に意図的に(何かの目的をもって)食材に加えられる成分と、意図的には加えなくとも調理の過程で新たに生ずる成分がある。

調理には加熱という重要な過程がある。加熱をすることには、おいしそうな色がついたり、よい香りがしたり、あるいは微生物を殺菌したり、栄養素の消化がよくなったりと、さまざまなメリットがある。逆に加熱することによって、「大量に摂取すると健康に悪影響を与える可能性のある成分」が生ずることもある。

アクリルアミドもその一つと考えられている。アクリルアミドは食材(とりわけアスパラギンと還元糖)を120度C以上で加熱すると生ずる成分だ。アスパラギンや還元糖は、きわめて多くの食材(天然の食材)に含まれているため、これを完全に排除するのは不可能に近い。

アクリルアミドは、国際がん研究機関(IARC)によって「ヒトに対しておそらく発がん性がある」というグループ2Aに分類されている。この分類に関しては理解がなかなか難しいので、12月14日の私のコラム(下記)を参考にしていただきたい。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20151214-00052354/

今回の食品安全セミナーでも「食品に含まれるアクリルアミドを長期間とり続けると、人の健康に悪影響が生じる可能性がある」とし、農林水産省や食品事業者はアクリルアミドの低減に向けた取り組みを進めていることが紹介された。

■アクリルアミドと食中毒の相違を冷静に受け止めよう

農林水産省や食品事業者が進める低減策とは別に、「アクリルアミドの健康悪影響を避けるために、私たちは家庭では何をすればいいのか」をみてみよう。

農林水産省が「一番大切なこと」として勧めているのは(意外にも)「食事の栄養バランスに気をつけること」。栄養バランスに気をつけることによって、食塩のとりすぎによる発ガンのリスクや、健康に悪影響があるかもしれない成分の過剰摂取を抑えることができる。そのことのほうが、アクリルアミドによる発ガンのリスクそのものよりも影響が大きいのだと考えられている。

次に、アクリルアミドは高温調理(揚げ物や炒め物焼き物)によって生ずるので、水を使った調理法(煮る、蒸す、茹でる)を上手に取り入れることも効果的。これらの調理では、食材の温度が120度Cを超えることがないため、アクリルアミドができにくくなる。

調理時の細かい工夫として、食材をこがしすぎないこと、食材を炒めるときにはよくかき混ぜること、火力を弱めにすること、なども推奨している。

さらに調理前の工夫として、じゃが芋を長期間冷蔵すると還元糖が増えるので、常温で保存する(つまり、長期間の保存をしない)ことや、芋類や野菜を切ったあとには水にさらしてアスパラギン酸や還元糖を洗い流すことなどを勧めている。

ここで留意すべきことは、アクリルアミドの過剰摂取を避けるために消費者がまず最初にすべきことは、ちまたで言われているように「ポテトチップスやフライドポテトを避けること」ではなく、「食事の栄養バランスに気をつけること」である点だろう。こう書くと、「栄養バランスのいい食事をすることは基本なので、どんなときにもそれが書いてある。でも本当はポテトチップスを避けるほうが効果的なんじゃないの?」と疑う人がいるかもしれない。

しかしそういうことではない。その証拠(?)には、この日の2つ目のテーマは「食中毒」で、やはり「家庭でできることは何か」が紹介された。そこでは食中毒予防の3原則の「つけない」「ふやさない」「やっつける」を徹底することが提唱されている。

具体策としても、「調理前や調理中、食事の前には手を洗う」「加熱しない食品を先に切り、生の肉や魚介類はあとで切る」「まな板や包丁を使い終わったらすぐによく洗う」「焼き肉やすき焼き等では、生の肉をつかむ箸と食べる箸を別々にする」などが紹介された。

当然といえば当然だが「栄養バランスのいい食事に気をつけること」が食中毒予防の第一ではないことと比較すると、アクリルアミドの健康被害から身を守る方法が「栄養バランスのいい食事をすること」であるという提案には重みがあるといえるだろう。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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