サウジで1日に重賞を4勝したルメールが、勝たなくてはいけなかった理由とは?
立て続けに重賞3連勝
現地時間26日、サウジアラビアのキングアブドゥルアジーズ競馬場で行われたサウジCデーで、クリストフ・ルメール騎手が4つの重賞を制した。
「4つのうち2つは自信がありました。でも、4つとも自信があったとしてもそうそう勝てないのが競馬である事は長く乗っているので分かっています。まさか4つも勝つなんてアメージングです」
前年は雨に見舞われたこの開催だが、今年は晴天。日中は30度を超す炎天下。少しずつ気温が下がり始めた午後3時45分、最初のレースのゲートが開いた。
芝2100メートルのネオムターフ(GⅢ)でルメールが手綱を取ったのはオーソリティ(美浦・木村哲也厩舎)。スタートからハナに立つとそのまま楽々と逃げ切り。最初の勝利を記録した。
「追い切りで乗った時には少し太く感じたけど、ジャパンC(GⅠ)で2着するほどの実力馬ですからね。ここは正直、自信がありました」
続いて騎乗したのが1351ターフスプリント(GⅢ)。芝1351メートルのここではソングライン(美浦・林徹厩舎)を中団からエスコートして見事に差し切り。重賞連勝を飾った。
「追い切りはモノ見をしていたけど、このひと追いで良くなる印象は受けていました。チークピーシズも効果がありました」
勝因をそう語った。
そして、第3レースは芝3000メートルのレッドシーターフ(GⅢ)。ここではステイフーリッシュ(栗東・矢作芳人厩舎)とタッグを組むと果敢に先頭へ。長丁場を一人旅で重賞3連勝を飾った。今まで逃げた事のない馬での逃げ切り劇は同じ社台レースホースのハーツクライで制したドバイシーマクラシックを彷彿とさせたが、鞍上は「作戦通りだった」と語る。
「ステイフーリッシュは瞬発力がないので、スローペースからのヨーイドンになるのは嫌でした。だから自分から引っ張って、そんなにペースを落とさない競馬をしようと考えていました。幸い、カメラの搭載車をモノ見した事で息が入りました。60キロのハンデですか? 他の馬も皆、結構背負っていたので心配はしていませんでした」
多くの人がアッと驚いた勝利ではあったが、ルメールは「これも自信の鞍だった」と続ける。
「調教に乗った時に絶好調だと感じました。だから自信がありました」
更に上積みして重賞4勝
重賞4勝目を目指したサウジダービー(GⅢ)は、コンシリエーレ(美浦・稲垣幸雄厩舎)とのコンビで挑んだ。しかし、同馬は調教時からノド鳴りの傾向を見せており、その影響があったのかは分からないが3着に敗れた。
こうして改めて重賞4勝を懸けて臨んだのがリヤドダートスプリント(GⅢ)だった。手綱を取ったのはダンシングプリンス(美浦・宮田敬介厩舎)。ダート1200メートルのここでも好スタートを決めてハナを奪うとそのまま最後まで危な気なく逃げ切り、重賞4勝目をマークした。
「スタートが決まったし、道中はナチュラルスピードで走っていました。最後まで余裕があったので早目に勝利を確信出来ました」
こう言うと1日を総括して続けた。
「久しぶりの海外遠征で、何としても1つは勝ちたい、勝たなければいけないという気持ちがありました。でも、4つも勝てるとは自分でもビックリです。1日に重賞4勝は勿論、僕自身初めてです」
去り行く恩人のために
この週は日本の競馬も2月の最終週。それはつまり引退調教師のラストウィークを意味していた。ルメールにとって「恩人の1人」(本人)とも言う伯楽・藤沢和雄も現役生活最後の競馬となった。日本にいれば当然、何レースも実現したであろう1500勝トレーナーとの最後のランデブー。それを諦め、涙を呑んで中東へ渡った。それだけに「勝ちたかった」し「勝たなければいけない」と考えていたのだろう。そんな思いが結実した重賞4勝を、去り行く伯楽はどんな思いを持って日本で見ていただろう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)