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2年前、韓国で復活の勝利を挙げた騎手が、ドイツで負傷したミナリクを想う気持ち

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
岩田康誠騎手(右手前)とミナリク騎手(左奥赤帽子)

戦友を想う気持ち

 今週末は新潟記念(G3)が行われる。丁度1年前のこのレースをユーキャンスマイルで制したのが岩田康誠。先日、彼から電話が入った。

 「ミナリクの状態はどんな感じですか?」

 7月3日、ドイツのマンハイム競馬場で落馬をしてから意識不明になっていたフィリップ・ミナリク騎手。日本でもお馴染みの彼が意識を取り戻したのは落ちてから1ケ月以上経った後。当方が現地の関係者と連絡を取り合っている事を知っている岩田が、心配して連絡を寄越してきたのだ。

 「挨拶をかわす程度でとくに親しかったわけではないけど、そりゃ、気になりますよ」

 そう言う彼に、日に日に回復している事を伝えると、更に言った。

 「良かったです。注意をしていてもどうにもできない怪我に見舞われるのが僕等の仕事ですからね。自分は運良くすぐ乗れた事に感謝しなければいけませんね」

2013年、ロードカナロアで香港スプリント(G1)連覇をした際の岩田康誠
2013年、ロードカナロアで香港スプリント(G1)連覇をした際の岩田康誠

自らも大怪我から復帰

 話は4月26日に遡る。

 この日の京都競馬場の第1レース。ダート1200メートルの3歳未勝利戦で、岩田は3番人気馬に騎乗していた。ゲートが開くとすんなりと先行した。好手応えで3番手を進み、直線に向いた。そこで、事故が起きた。コンビを組んでいたパートナーが故障を発症。岩田は前から崩れるようにダートに叩きつけられた。すると、今までコンビを組んでいた相棒が岩田にのしかかるようにして転がってきた。結果、右腕の骨を2カ所複雑骨折し、肋骨も13本、折る重傷を負った。しかし、岩田は言う。

 「馬自身は故障した後も僕を庇うように転がってくれました。映像を見ると僕にのしかかったように見えるけど、実際には上手に上を越えていく感じで、重みを感じる事は全くありませんでした」

 だから最初に折れたのは右腕の2カ所だけだった。しかし、避け切れなかった後続馬と接触した事で肋骨を粉砕されたのだった。

 「どうしようも出来ませんでした。タイミング一つでもっとひどい事故になっていてもおかしくなかった。復帰出来たのは不幸中の幸いです」

 これだけの大怪我を負いながらも1ケ月半ほど休んだだけで、6月13日には騎乗を再開。翌14日には復帰後初勝利をマークした。

 一方、ミナリクは日に日に回復の気配を見せているとは言うものの、ようやく意識を取り戻したばかり。これからまだ長くなりそうな戦いに、国籍こそ違えど戦友である岩田は心を痛めた。

 「大怪我をして痛かったけど、痛く感じる事が出来るだけでも良かったのかな、と思うようになりました。ミナリクには1日も早く元気になってもらいたいです」

 また、同時にジョッキーという仕事が“運”といういかに不安定な土台の上にその人生を預けられているかを、改めて胸に刻んだ。次男の望来も騎手をしている岩田にとって、それは受け入れ難くも受け入れなければならない事実なのであった。

イギリスで騎乗した際のミナリク
イギリスで騎乗した際のミナリク

復帰と復活と無事を願って……

 思えば岩田は2年前も怪我に見舞われていた。18年の7月29日、札幌競馬場で騎乗した際、騎乗馬とゲートの間に右足を挟まれる形になり腓骨遠位端骨折と診断された。しかし、その時も1ケ月に満たない8月25日には復帰。復帰2週後の9月9日には韓国へ遠征し、ロンドンタウンでコリアカップを優勝してみせた。今回もまた当時のような復活劇を期待したい。

2018年、コリアカップを優勝した際の岩田
2018年、コリアカップを優勝した際の岩田

 さて、今回は岩田の弁を紹介させていただいたが、武豊を始め多くのジョッキー達がミナリクを心配している事も記しておこう。時間がかかっても構わないので、彼が回復してくれる事、そして、命懸けで素晴らしいドラマを見せてくれるジョッキー達、皆の無事を祈りつつ、今週末もレースを観戦させていただこう。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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