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アーモンドアイを破り有馬記念を制した豪州人騎手ダミアン・レーンと日本競馬との逸話とは……

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
有馬記念を優勝したリスグラシューと騎乗していたダミアン・レーン騎手

調教師の両親の下で育ち、高校生で騎手デビュー

 12月22日、中山競馬場で行われた有馬記念(G1)を優勝したのはリスグラシュー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)。手綱を取ったのはダミアン・レーン騎手だった。

 この春、初来日を果たし、一気にブレイクしたオーストラリア人ジョッキーだが、私は2年前にオーストラリアで彼の事をインタビュー。雑誌で紹介していた。今回は彼の半生を振り返りつつ、この有馬記念についても記していこう。

レーン騎手が初来日する2年前、彼をインタビューし紹介した雑誌の誌面
レーン騎手が初来日する2年前、彼をインタビューし紹介した雑誌の誌面

 1994年2月6日、西オーストラリア・クーヨンガ生まれの25歳。父・マイケルは調教師で母・ヴィッキーも元調教師。2人の弟と3人の妹と共に育てられた。この血統だけあって「初めて馬に跨ったのがいくつの時か覚えていない」と語る。10歳の時、牧場での調教騎乗を開始。15歳では高校生でいながら見習い騎手となり、2009年、オーストラリアでは珍しいダート戦で初騎乗を果たした。

 「初勝利は約2週間後でした。道中はダートだけど、最後は芝というコースで、引っ掛かって持っていかれてしまったのですが、馬が強くて最後はハナ差で押し切ってくれました」

 その後、高校を中退し騎手に専念すると勝ち鞍が増加。13年10月にはセソーヴァーで初重賞勝利、翌14年9月にはトラストインナゲストに騎乗してクラークチャリティーCを優勝。自身初のG1制覇を果たした。

 「初めてのG1勝ちはレース後に異議申し立てをされ、審議になりました。結果、申し立てが却下されて優勝が決まったので、ホッとしたというのが正直な気持ちでした」

オーストラリアでのD・レーン
オーストラリアでのD・レーン

 それから約1カ月後の10月14日には元日本馬のトーセンスターダムに騎乗してトゥーラクSを優勝。またもG1勝利を記録したわけだが、これにはエピソードがあった。

 「同じ日にシドニーで行われたジエヴェレストにもう1頭のお手馬であるブレイブスマッシュが出走していました。調教師からはどちらに乗っても良いと言われたので自分でトーセンスターダムを選択して乗った結果、G1を勝つ事が出来ました」

 ブレイブスマッシュも元日本馬で、この時、出走したジエヴェレストは当時の芝の最高賞金レース。しかし、レーンはトーセンスターダムと挑むトゥーラクSを選択。優勝したのだ。ちなみに同馬とのコンビではその後、エミレーツS(G1)も優勝。ブレイブスマッシュでも準重賞を勝っている。

 16年以降はG1戦線での常連となった。フランページやヒューミドールで次々とG1を制覇。今年の3月にはカイアミチでゴールデンスリッパー(G1)を優勝してから短期免許での初来日を果たした。

 「日本馬が世界中で活躍している事はよく知っているし、自分自身、元日本馬にも乗せてもらい、日本の競馬にとても興味がありました。だからチャンスがあれば行ってみたいと考えていました」

 こうして4月末から日本で騎乗すると、2カ月の滞在で40近い勝ち星をマーク。その中には2つのG1を含む6つの重賞もあった。当時コンビを組んだメールドグラースではオーストラリアでコーフィールドC(G1)を、リスグラシューではコックスプレート(G1)をそれぞれ優勝してみせた。

今年、コックスプレートを優勝した際のリスグラシューとD・レーン。右から2人目が矢作調教師
今年、コックスプレートを優勝した際のリスグラシューとD・レーン。右から2人目が矢作調教師

お手馬リスグラシューで有馬記念を制覇

 レーンがリスグラシューとコンビを組むのはこの有馬記念が3度目だった。初めて騎乗したのは6月の宝塚記念(G1)。強力牡馬陣を相手に先行して3馬身抜け出してみせた。2度目がオーストラリアのコックスプレート。ここでは地元オーストラリア勢だけでなく、アイルランドのマジックワンドやニュージーランドからの遠征馬らもまとめて差し切ってG1連勝を成し遂げてみせた。

 そしてこの有馬記念。スタートを決めると中団の少し後ろ、インに控えた。

 「スタートしてすぐに流れが速くなったので、ポジション取りよりもリズムを重視させました。道中の手応えは終始良かったです」

 4コーナーではインから一気に外へ出した。それはこの日が初めての中山競馬場での騎乗とは信じられないほどの手綱捌きだった。

 「手応えが良過ぎたのでスペースが必要になって外へ持っていきました。後は彼女の走りに任せると、瞬時に伸びてくれました」

 伸び悩むアーモンドアイを尻目に一気に伸びると、2着のサートゥルナーリアに5馬身の差をつけて真っ先にゴール。リスグラシューの春秋グランプリレース制覇と有終の美を飾るサポートをしてみせた。

有馬記念、レース後のD・レーン
有馬記念、レース後のD・レーン

 「アーモンドアイら強いライバルが揃っていましたけど、リスグラシュー自身、また強くなっていると感じたので自信を持って乗りました。前走のコックスプレートの時も宝塚記念より成長していると感じたけど、今回はそのコックスプレートからまた更に成長していると思いました。これで引退というのがもったいないくらいです」

 今年の短期免許期間は満了していたが、2つのG1を制している馬とのコンビという事で、特例として有馬記念での騎乗が許された。矢作芳人らそのために奔走した人達へ感謝の言葉を述べたレーンは、2日ほど日本で休暇を過ごした後、水曜日にオーストラリアへ帰る予定だと言う。

 2年前、雑誌で彼の事を取り上げた際「いずれ来日することがありそうだ。皆さんもダミアン・レーンの名前は憶えておいた方が良いだろう。」という形で〆た。今では日本の競馬ファンにしっかりとその名を刻み込んだ事だろう。

2年前に雑誌で紹介した際はこのような文言で〆ていた。今ではファンの間に彼の名はしっかりと浸透している事だろう
2年前に雑誌で紹介した際はこのような文言で〆ていた。今ではファンの間に彼の名はしっかりと浸透している事だろう

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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