Yahoo!ニュース

8年ぶりの日本競馬参戦。伝説的ジョッキーの来日を、ファンだけでなくマスコミや関係者も喜んだ

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
8年ぶりの来日の初戦でいきなり優勝したL・デットーリ騎手

伝説のジョッキーが久しぶりにやってきた!

 ジャパンC(G1)を勝ったスワーヴリチャードの手綱を取ったのはオイシン・マーフィー騎手。現在、彼だけでなく、ライアン・ムーア騎手やクリストフ・スミヨン騎手、ウィリアム・ビュイック騎手ら世界の名手が短期免許で騎乗しているが、中でも大きな注目を浴びているのがランフランコ・デットーリ騎手だ。世界ナンバー1とも、現役でいながら伝説のジョッキーとも言われる彼の来日に先週末の競馬場は湧きに湧いた。

 「日本に来る事を楽しみにしていたよ。皆の歓迎ぶりが他のどこにも無いものでありがたいね」

イギリスでのL・デットーリ騎手
イギリスでのL・デットーリ騎手

 私はたまたまこの伝説のジョッキーが来日する直前、イギリス、フランス、アメリカ、オーストラリアと行く先々で彼に会った。それらの国での彼に対する反応と、日本との差を彼はひしと感じていた。ファンは勿論、マスコミも自分の立場を忘れ一ファンとしてこのナンバー1ジョッキーに接する。日本でのそんな反応に少し驚きの表情を見せた。

 23日の東京競馬場。第3レースの2歳未勝利戦が彼の8年ぶりの日本での騎乗となった。不良馬場の芝1800メートル。空からは雨が落ちていたが、パドックには多くのファンが集まり「フランキー!!」「デットーリ!!」と沢山の声援が飛んだ。パドックから本馬場へ向かう地下馬道では天才騎手の来日を待ち望んでいた日本の天才・横山典弘騎手との再会を果たした。

馬上から横山典弘騎手に握手の手を伸ばすデットーリ騎手
馬上から横山典弘騎手に握手の手を伸ばすデットーリ騎手

 「ノリ(横山典弘)とユタカ(武豊)が日本の素晴らしいジョッキーである事は昔からよく分っている。彼等と一緒に乗れる事は今回の来日の楽しみの一つでもあるよ」

 イギリスで話を聞いた時、彼はそう言っていた。横山も武もデットーリの来日を待ち望んでいたが、逆にデットーリも彼等と乗れる事を待っていた。レベルの高いところで分かり合えるモノが彼等にはあるのだろう。

武豊騎手とは海外でもたびたび顔を合わせる。写真は今年のロイヤルアスコットでのもの
武豊騎手とは海外でもたびたび顔を合わせる。写真は今年のロイヤルアスコットでのもの

多くの関係者から彼の名が挙げられた

 閑話休題。第3レースでヴィアメントに騎乗した彼は1番人気馬との雨中の競り合いを制し、久しぶりの東京での騎乗をいきなりの白星で飾ってみせた。

 「凄いね。やっぱり経験が違うからいきなりでもこうやって結果を残せるんだろうね」

 同馬を管理する調教師の鹿戸雄一は微笑みながらそう語った。

8年ぶりの来日で初戦をいきなり勝利。左が鹿戸雄一調教師
8年ぶりの来日で初戦をいきなり勝利。左が鹿戸雄一調教師

 事もなげに結果を出したように見えたデットーリだが、口取りに向かう道では胸を撫で下ろすような仕種を見せて、言った。

 「モノ凄いプレッシャーだったよ。何とか結果を出せて良かったよ」

 その後、ジョッキールームに姿を現したのは小島太元調教師だ。小島からは前日に連絡をいただき「久しぶりにフランキーに会いたいから間に入ってくれませんか?」と言われていた。小島とデットーリといえば2002年のジャパンCダート(G1、現チャンピオンズC)が思い出されるだろう。当時、調教師をしていた小島は、このG1レースに管理するイーグルカフェを送り込み、その鞍上をデットーリに託した。任されたジョッキーは述懐しつつ、言った。

 「あの年はナカヤマコースで行われたのでよく覚えています。フトシセンセイは僕にとって日本のお父さんのような存在。彼がすでに調教師を引退している事も知っているし、彼に会うのも楽しみです」

小島太元調教師もデットーリに会うために駆けつけた
小島太元調教師もデットーリに会うために駆けつけた

 実は小島が調教師を引退する際、デットーリに頼んでコメントを寄せていただいた。その際「フトシセンセイのためなら」と喜んで話してくれた。そんな仲だからこそ、再会を待ち望んでいたというのもリップサービスではないだろう。久しぶりに顔を合わせた2人はどちらからともなくハグをして旧交を温めた。

 デットーリは第9レースのカトレア賞をデュードヴァンで勝利。今回の来日での2勝目を挙げると小島は言った。

 「非の打ち所がないコース取り。ジョッキーは若ければ良いというものではない。瞬発力が求められる場面もあるけど、それ以上に経験がモノを言う世界。フランキーはますます上手になっていますね」

画像

 結局、翌日の日曜日も1勝を加え、1週目は11鞍に騎乗して3勝2着1回という成績を残した。冒頭で記したジャパンCを制したマーフィーはレース後に言った。

 「フランキー(デットーリ)は今年だけでG1を20近く勝っていて、それは僕の生涯のG1勝ち数より多いんです。ジャパンC勝ちは嬉しいけど、これに満足せずに彼みたいになれるよう努力を続けます」

 世界中のジョッキーから目標とされる彼は、今週末のチャンピオンズC(G1)ではオメガパフュームに騎乗を予定している。その後は日本を発ち、香港へ行くそうで、今回の短期免許での騎乗はこの2週だけで終わる見込みだ。

 「出来る事なら有馬記念も乗りたいけどね」

 そう言うと、デットーリは悪戯少年のように笑った。急遽予定を変更してのグランプリ参戦があるかは分からないが、ひとまず切り上げる予定となる今週末の騎乗に大いに注目したい。

今夏、エネイブルでキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)を制覇した時のデットーリ
今夏、エネイブルでキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)を制覇した時のデットーリ

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

平松さとしの最近の記事