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開幕ダッシュを決めた武豊の勝利記録に思わぬ誤りが発見された。伝説の騎手ならでは、の誤りとは……

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
昨年JRA通算4000勝を達成した時の武豊

まさかの勝ち星消滅

 1月7日、武豊騎手からかかってきた一本の電話で全てが始まった。

 「僕の地方と海外の全勝利数って分かりますか?」

 電話の向こうでレジェンドジョッキーはそう聞いてきた。そこで自分の手元にある資料をひっくり返した上、JRAの広報と新聞社に連絡。考え得る手を尽くし、ダブルチェック、トリプルチェックで間違いのないように調べ上げた。

 その結果、現時点で地方競馬は194勝、海外競馬では118勝という数値が浮上。おそらくそれで合っているだろうと思われた。

 ところが1つだけ気になる点があった。

 2001年のフランスでの勝利数がJRA調べと主催者であるフランスギャロで食い違うのだ。JRAは35勝となっているが、フランスギャロの発表では34勝になっているのである。

 フランスでの競馬は必ずしもフランスギャロの主催とは限らない。そこで私は「2001年にはフランスにベースを置き、遠方のローカルレースにも乗っていた武豊騎手の事だから、きっとフランスギャロ以外の主催の勝ち鞍が(フランスギャロの記録から)抜けているのでは?」と推測した。

 しかし、JRA側で改めて検証してくれたところ、思わぬ事実が判明した。

 この年の5月13日、ロンシャン競馬場で行われたダルジャンテイユ賞でモシャグレンという馬に騎乗した天才騎手は、見事に先頭でゴール。とくに審議になる事も無く、1着で口取りを終えていた。

 ところが、後日、事態が急転していた。モシャグレンの検体から禁止薬物が検出された事で1着は取り消し。約3カ月過ぎた8月になってから正式に失格処分となっていたのだ。

昨年10月、フランス・コンピエーニュ競馬場で挙げた勝利は海外118勝目ではなかった(中央薄紫帽が武豊)
昨年10月、フランス・コンピエーニュ競馬場で挙げた勝利は海外118勝目ではなかった(中央薄紫帽が武豊)

200勝復活を望む声に、伝説の騎手から返された思わぬ答えとは……

 この事を乗っていた本人に問うと「記憶にありませんね」と語った。彼の競馬に於ける記憶力の良さはピカイチ。そんな彼が記憶にないというのだから、おそらく失格になった時点で本人には連絡が無かったのではないだろうか?

 いずれにしてもこれで正確な勝利数は118から117へと1つ減ってしまった。

 ちなみに2004年12月8日の香港、ハッピーヴァレー競馬場で海外通算100勝を達成したと思われたレースの後、彼に呼んでいただき現地でお祝いをしたのだが、実はそれはまだ99勝目だったという事。海の向こうでの勇み足だったという事だ。

 さて、こうして今回、海外での勝利数が1つ減ってしまった(?)日本のナンバー1ジョッキーだが、その数が118だろうが117だろうがそれは大した問題ではない。この逸話の一丁目一番地には”アンカウンタブルな勝利数を海外でも収めているJRAのジョッキーは、他に誰がいるだろう?”という事実がある。これだけの実績を残している彼だからこそのエピソードなのである。

昨年はジェニアル(右)を駆ってのメシドール賞制覇も
昨年はジェニアル(右)を駆ってのメシドール賞制覇も

 昨年、JRA通算4000勝を達成し、JRA賞特別賞にも選出された武豊。今年は開幕ダッシュを決め、開催最初の週に騎乗機会4連勝を含む6勝。リーディング争いでトップに立ってみせた。年が改まったからと言っていきなり往年の成績を取り戻せるほど競馬が簡単でない事は分かっている。しかし、それでも彼の通年での活躍を望む声は他のどのジョッキーよりも多く聞かれる。それはここ数年の彼の成績が技術面や年齢的な衰えではなく、“現在の競馬の流れ”が大きく影響していると思われるからだ。そこで私も「今年は200勝して復活してください!!」と伝えた。すると彼は「何を言っているんですか?!」と第一声で答えた。そして「まだ1週終えたばかりじゃないですか?!」と続くかと思った当方の心を見透かすように、笑いながら次のように続けた。

 「200勝じゃない。300勝ペースですよ」

 さすがである。その意気で最後までハイレベルなリーディング争いを繰り広げていただきたい。

開幕日の中山競馬場、モズスーパーフレアで今年最初の特別レース勝ちを決めた武豊
開幕日の中山競馬場、モズスーパーフレアで今年最初の特別レース勝ちを決めた武豊

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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