武豊が騎乗し、凱旋門賞へ向けて海の向こうで始動したクリンチャーの現在と天才騎手の今後

クリンチャーのフォワ賞騎乗などのためフランス入りした武豊騎手

武豊を背にクリンチャーが最終追い切り

 現地時間9月11日早朝、武豊騎手がフランス入りした。

 当初の予定では12日の調教に間に合うよう、11日の夕方に着く予定だったが、その日の騎乗依頼が舞い込んだ事で急きょ、便を変更。早朝に着くと、その日に行われたフォンテーヌブロー競馬場で騎乗。見事にこれを勝利した。

 しかし、今回の渡航の本来の目的は当然、これではない。

 16日の日曜日、パリロンシャン競馬場で行われるフォワ賞(G2、芝2400メートル)に出走する日本のクリンチャー(牡4歳、栗東・宮本博厩舎)ら日本馬に騎乗するための遠征だ。

 凱旋門賞(G1)の前哨戦となるこのレースへ向け、12日の早朝には調教で騎乗。シャンティイにあるエーグル調教場の一角にあたる芝の直線コース・レゼルヴォワ調教場でクリンチャーの最終追い切りに跨った。

 帯同馬としてかの地に入ったゲネラルプローベ(牡6歳、栗東・宮本博厩舎)との併せ馬。帯同馬を先に行かせて1200メートルの追い切りを敢行。ラスト200メートルはそれなりに伸ばしたものの、最後は無理する事無く半馬身ほどの遅れで追い切りを終えた。

12日に行われた最終追い切り。右が武豊騎手が手綱をとったクリンチャーで左は帯同馬のゲネラルプローベ
12日に行われた最終追い切り。右が武豊騎手が手綱をとったクリンチャーで左は帯同馬のゲネラルプローベ

 その直後、武豊は次のように口を開いた。

 「芝は良い感じの柔らかさがあったけど、柔らか過ぎる事はなく、走り辛くはありませんでした。誘導した相手が思った以上に動いたので半馬身ほど遅れたけど、追えばいくらでも伸びてかわせる手応えでした」

 それでも無理に追わなかった理由を次のように続けた。

 「本番はあくまでもまだ先の凱旋門賞です。今回はオーバーワークだけは避けなければいけない状況です。そういう意味では前哨戦なりにベストと思える状態になったと思います」

 ちなみに同騎手が騎乗した阪神大賞典では多少掛かる素振りを見せたが、この日の調教ではそんな面は出さなかった。

 「阪神大賞典の時とは違って落ち着いて走ってくれました。レースもこの感じで行ければ良いと思います」

 また、この調教を見守った宮本は、明るい表情で次のように言った。

 「ジョッキーも良い反応で動いてくれたと言っていたし、実際に調教自体は良く見えました。何とか本番へ向け、良い競馬をして欲しいです」

広大な調教場のほんの一角。中央が追い切りを終えクーリングダウンするクリンチャー。右端が武豊で右から2人目が宮本師
広大な調教場のほんの一角。中央が追い切りを終えクーリングダウンするクリンチャー。右端が武豊で右から2人目が宮本師

今年のフォワ賞のメンバー構成は

 その後、発表された最終登録で、フォワ賞はクリンチャーを含め6頭立て。少頭数ではあるが、それなりの役者は揃った。

 昨年の凱旋門賞2着馬クロスオブスターズ(牡5歳、A・ファーブル厩舎)、同じ伯楽ファーブル厩舎で昨年のブリーダーズCターフの覇者タリスマニック(牡5歳)、これまたファーブル厩舎でG1・サンクルー大賞典など重賞を3連勝中のバルトガイシュト(牡4歳)、そしてアイルランドからの遠征馬カプリ(牡4歳、A・オブライエン厩舎)。

 とくにカプリは昨年の凱旋門賞こそ外枠で力を発揮出来ずに終わったが、昨春にはクラックスマン(後にG1・英チャンピオンSやG1・コロネーションCなどを優勝)を破ってアイルランドダービー(G1)を勝利、セントレジャー(G1)では2着が今夏のキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)でポエッツワードの2着に好走するクリスタルオーシャンで、3着ストラディバリウス(後にG1・アスコットゴールドC優勝や同じくG1・グッドウッドC連覇など)、4着リキンドリング(同G1・メルボルンC勝ち)、5着コロネット(同G1・キングジョージ6世&クイーンエリザベスS3着やG1・ヨークシャーオークスで凱旋門賞で1番人気を争いそうなシーオブクラスの2着)と錚々たる顔ぶれをくだして優勝してみせた。

昨年の凱旋門賞出走時のカプリ。外枠に泣いたが実力はあんなものではない。4月の復帰戦は勝利で飾っている
昨年の凱旋門賞出走時のカプリ。外枠に泣いたが実力はあんなものではない。4月の復帰戦は勝利で飾っている

 クリンチャーにとってはこのあたりの相手にどのくらいの競馬が出来るのか、本番へ向けては良いモノサシとなりそうだ。宮本は続ける。

 「例年より相手は揃っているようですが、馬場も合いそうだし、前哨戦としては100パーセントの仕上がりなので、良い競馬をしてくれる事を期待しています」

クリンチャー
クリンチャー

日本のトップジョッキーはフランスでも大忙し

 前述した通り、現地入り後、すぐに勝利した武豊は、翌12日、クリンチャーの追い切り後には新装なったパリロンシャン競馬場へ駆けつけた。

 ここで行われたトゥーレル賞(準重賞)に出走したラルク(牝5歳、栗東・松永幹夫厩舎)に騎乗したのだ。

 ラルクは英語読みすれば“アーチ”であり、“門”の事。これに凱旋を意味するTriompheが付けばアークデトリオンフ(凱旋門)となるわけだ。そんな壮大な名前を持つ同馬は、残念ながら逃げバテて最下位8着に沈んだものの、鞍上に話を伺うと次のように答えた。

 「競馬は残念だったけど、(新装なったパリロンシャン競馬場で)酷評されていた芝は、北海道の洋芝みたいなクッションで、意外にすごく綺麗な事が分かりました」

 前日の火曜日にフォンテーヌブロー競馬場で使うか?という話もあったラルクだが、パリロンシャン競馬場で使う意味があった事がこの一言で分かる。馬主は違うが、馬名通り凱旋門賞につながる虹の架け橋(ラルクにen-cielが付けばラルクアンシエルであり、虹の意味となる)となってくれるだろうか……。

 なお、日本のナンバー1ジョッキーは14日の金曜日にはサンクルー競馬場で1レース、15日の土曜日にはシャンティイ競馬場でゲネラルプローベに騎乗し、日曜日もフォワ賞の他にジェニアル(牡4歳、栗東・松永幹夫厩舎)でパン賞(G3)に騎乗。他に地元馬も1頭騎乗を依頼されている。果たして次週はどんな報告を日本の皆様にお届け出来るだろうか。JRAのレースではないため4000勝へのカウントダウンは進まないが、海の向こうでも天才ジョッキーから目を放す事は出来ない。

12日、パリロンシャン競馬場で騎乗したラルクは残念ながら敗れたが、武豊にとっては良い馬場の下見になった事だろう
12日、パリロンシャン競馬場で騎乗したラルクは残念ながら敗れたが、武豊にとっては良い馬場の下見になった事だろう

(文中敬称略、写真提供=平松さとし)