値上げ「鳥貴族“失敗”、リンガーハット“成功”」のワケ

筆者撮影

値上げで鳥貴族の業績悪化が今も続く

 焼き鳥チェーン店「鳥貴族」の既存店売上高が2018年12月まで丸1年、前年を下回った。17年10月に全品一律税別280円から298円に約6%値上げし、客離れを招いた。1年経てば客離れが一服して売上高がプラスに転じる可能性も予想されたが、そうはならなかった。値上げしてちょうど1年後の18年10月が前年同月比6.5%減、11月が7.5%減、12月が6.6%減といずれも大きく減っている。値上げから2年目に突入しても、業績悪化が止まらない。

 鳥貴族の18年8~10月期の単独決算は、営業利益が前年同期比65.0%減の1億3600万円だった。大幅減益で赤字一歩手前だ。出店攻勢で店舗数が増え全店売上高は増加したものの、既存店売上高が8.3%減と大幅に低下し、コスト増も相まって大幅減益となった。売上高営業利益率はわずか1.5%だ。

 業績悪化で株価も厳しい状況が続いている。値上げによる収益性改善期待で17年末から18年初めまでは高騰し1月9日に一時3910円(年初来高値)をつけたが、その後から現在まで下落が続き、12月25日に年初来安値で1650円をつけた。その間の下落率は58%にもなる。昨年1年間では53%だ。

 一方、長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」は昨年8月に主要商品21品のうち13品で平均約3%値上げしたものの、その後の既存店売上高の落ち込みは限定的だ。値上げした18年8月は前年同月比1.2%増、9月が3.5%増と伸び、10月は1.9%減、11月が1.3%減と落ち込んだものの、12月は0.5%増と持ち直している。3~12月の累計ではほぼ前年並みなので、値上げによる落ち込みはほぼなかったと言っていいだろう。客数がやや落ち込んだが、客単価の上昇でカバーできている。なお値上げは、主力の「長崎ちゃんぽん」を東日本で11円引き上げ税込み637円に、西日本では21円引き上げ604円にするなどしている。

 リンガーハットの18年3~11月期の連結決算は、営業利益が前年同期比21.4%減の15億6500万円だった。減益となってしまったのは、値上げ効果よりも人件費などのコスト増の影響が上回ったことが一因だ。そう考えると値上げ幅や対象品目数が不十分だったようにも思えるが、値上げ規模を大きくすることにより客離れが起きて既存店売上高が大幅に減ってしまえば、より大幅な減益になっていただろう。

 また、減益になったとはいえ、それでも営業利益率は4.5%と悪くはない。近年の中では低水準だが、外食産業の中では決して低くはない。財務省発表の法人企業統計によると、17年度の飲食サービス業の営業利益率の平均は2.1%に過ぎない。資本金10億円以上と大きな企業でも4.6%だ。リンガーハットは今後の戦いに向けて現状でも十分な収益性を持っているといえるだろう。

 株価もそれほど悪くはない。昨年1年間で10%下落したが、鳥貴族と比べればまだましといえる。減益となった18年3~11月期決算に対しても市場の反応は冷静だ。同決算が発表された1月11日の終値は2265円で2300円を割ったものの、この日の前後数日間は2300円台で横ばいで推移し、減益を嫌った大きな売りは見られない。想定内の決算だったためだろう。

鳥貴族とリンガーハットで明暗が分かれた訳

 こうして見てみると、値上げで鳥貴族は失敗し、リンガーハットは成功したように思える。何が明暗を分けたのか。

 まずは値上げの規模の違いが挙げられるだろう。リンガーハットは主要商品21品のうち13品を平均約3%値上げするにとどめたが、鳥貴族は全品一律で約6%も値上げしている。鳥貴族の方が圧倒的に値上げの規模が大きいといえるだろう。

 また、鳥貴族の値上げは消費者の反発を買いやすいやり方だった。リンガーハットの値上げは主要商品21品のうち13品に限り、値上げ幅は一律ではなかった一方、鳥貴族は“全品一律”で値上げしている。値上げにおいて対象が全品一律かそうでないかは大きな違いがある。全品一律ではない場合、どの商品がどれだけ値上がりしたかを消費者が把握するのは難しく、値上がり感はそれほど高くはならない。一方、全品一律の場合、値上げの程度が明確にわかるため値上がり感は高くなってしまう。そのため、鳥貴族の値上げは消費者の強い反発を招いてしまったといえる。

 リンガーハットはこれまでこまめに値上げしてきたことも功を奏している。実はリンガーハットは近年、毎年のように値上げしている。例えば、17年8月には西日本地域の店舗で「長崎ちゃんぽん」など大半の商品を値上げした。16年8月にも東日本の店舗で同様に値上げしている。他にも何度か値上げを実施しており、外食産業の中では値上げの頻度はトップクラスだ。一方、鳥貴族が17年10月に実施した値上げは28年ぶり。突然一気に値上げに踏み切ったかたちだ。

 値上げは一度に一気に行うよりも、長期にわたってこまめに実施した方が値上がり感を抑えることができる。経営学者のフィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーは著書で〈一般的に、突然の急な値上げより定期的な少額の値上げの方が消費者に好まれる。企業は不当に高い値段をつけているように見られることを避けなければならない〉(『マーケティング・マネジメント』第12版/丸善出版/p.571)と述べている。リンガーハットは定期的な少額の値上げを実施してきたため値上がり感を抑えることができたが、鳥貴族は突然の急な値上げにより、不当に高い値段をつけたと見られたといえそうだ。

 販売する商品の違いと商品の競争力の違いも影響を及ぼしただろう。リンガーハットは「長崎ちゃんぽん」という独特のカテゴリーの商品を販売し成長してきたが、同カテゴリー内では目立った競合は見当たらない。リンガーハット一人勝ちの状態だ。リンガーハットにはそこでなければ食べられない味があるので、多少の値上げであれば客離れを最小限に抑えることができる。

 一方、鳥貴族は「やきとり大吉」「三代目鳥メロ」など同業の強敵が多い。また、焼き鳥はラーメンなどと違いアレンジしづらい料理のため差別化が図りにくい問題もある。ラーメンであればスープや具で違いを打ち出せるが、焼き鳥はそうはいかない。そのため、どうしても「価格」が重要な意味を持つことになってしまう。そういった原理が働くなか、鳥貴族は値上げしてしまったため、競合に客が流出してしまったといえるだろう。

 こうして、値上げにおいて、鳥貴族とリンガーハットは明暗が分かれてしまった。筆者は、鳥貴族が業績を回復させるには、価格を元に戻すことが一番だと考える。あくまで現状の価格でいくのであれば、ヒット商品を生み出すことが必須だろう。だが、焼き鳥はアレンジしづらい料理のため、そのハードルは極めて高いといえる。サイドメニューでヒットを生み出すとしても、コスト面などを考えるとこちらもハードルは決して低くはない。いずれにせよ、思い切った施策が必要だろう。