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「ロシア軍のイラン製攻撃ドローンは枯渇か。11月17日からウクライナで見かけない」英国国防省が発表

佐藤仁学術研究員・著述家
2022年10月にイラン製ドローンでキーウを攻撃するロシア軍(写真:ロイター/アフロ)

英国国防省「ロシア軍はすぐにイラン以外の国外から攻撃ドローンを調達」

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。

2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃していた。国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義(軍事目標のみを軍事行動の対象としなければならない)を無視して文民たる住民、軍事施設ではない民間の建物に対して攻撃を行っていた。ウクライナの一般市民の犠牲者も出ていた。

11月に入ってからもロシア軍はイラン製攻撃ドローンで攻撃を行っていた。だが2022年11月23日に英国国防省はロシア軍が使用しているイラン製の軍事ドローンは枯渇したのではないかとの見解を示していた。英国国防省によると11月17日からイラン製軍事ドローンによる攻撃が報告されていないとのこと。

英国国防省はロシア軍はすぐに国外から攻撃ドローンを調達してくるだろうと報告している。ロシア軍は偵察ドローンはロシア製の「Orlan-10」を現在でも多く使用している。以前はロシア製の軍事ドローン「KUB-BLA」や「ZALA KYB」で攻撃を行っていた。だが最近ではもっぱらイラン製の攻撃ドローンを使用していた。イラン製軍事ドローンをロシアで生産すると米国メディアのワシントン・ポストは報じていたが、すぐに工場が建設されてドローンが製造されるわけではない。ロシアで開発して生産するよりも海外からすぐに使用できる精度の高い攻撃ドローンを調達した方が効率的である。そのためイラン製の軍事ドローンが枯渇したら、ロシアは別の国からの調達を検討するだろう。

▼英国国防省の見解

ウクライナ軍が撃破しているロシア軍のドローンもここ数日止まっている

ウクライナ軍では2022年2月24日にロシア軍に侵攻されてから殺害したロシア軍の兵士の数、破壊した戦車、戦闘機など兵器の数をほぼ毎日公表している。11月18日までに1536機のドローンを撃破してきた。毎日多い日には1日に10機以上のドローンを撃破してきたが、ここ最近では1機かゼロが続いており、11月23日までのロシア軍のドローン撃破は1537機である。ウクライナ軍は5日で1機しか撃破していない。ドローンが上空を飛んでいれば迎撃の対象になるが、確かにここ数日でパタリと止まっている。

▼ウクライナ軍が発表したロシア軍のドローン撃破数(11月18日時点で1536機)

▼ウクライナ軍が発表したロシア軍のドローン撃破数(11月23日時点で1537機と5日で1機しか撃破していない)

ロシア軍のイラン製軍事ドローンをめぐる動向

米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百機を提供する可能性があると語っていた。7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。つまり2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力していたと見られている。

ロシアのプーチン大統領は2022年7月19日にイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師、ライシ大統領と会談していた。ハメネイ師はイランとロシアの中長期的な協力関係をプーチン大統領に呼び掛けていた。

2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイラン製の軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領
2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2022年9月からイラン製のドローン「シャハド136(Shahed136)」と「マハジェル6(Mohajer6)」がウクライナでの攻撃に使用されるようになった。ロシア軍が以前に使っていたロシア製の軍事ドローンに代わって多くのイラン製ドローンで攻撃を行っており、ウクライナ軍によっても迎撃された写真や動画も公開されている。また2022年9月にウズベキスタンで開催されていた第22回上海協力機構首脳会談で、イランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領は会談し、NATOの脅威は欧州だけでなく世界共通の脅威であると語っていた。

2022年10月にウクライナ軍は「ロシアにはまだ約300機のドローンが残っています。さらにロシア軍は数千機のドローンを購入する予定があります」と公式SNSで伝えていた。また、ロシア軍はウクライナ攻撃と欧州からの軍事支援阻止のためにキーウに近いベラルーシにもイラン製軍事ドローンを配置すると報じられていた。

2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領
2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

そして2022年10月には首都キーウへの攻撃にイラン製の軍事ドローンが多く使用されていた。イラン製の軍事ドローンはロシア軍のウクライナ侵攻のために開発されたものではなく、イランにとっては敵国であるイスラエルを標的にして使用することを念頭に開発されたものだ。そのためロシア軍がウクライナで使用しているイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力についてはイスラエルのメディアも強い関心を示している。

2022年10月には米国国務省の報道官のネッド・プライス氏がイラン軍の兵士がウクライナのクリミアに入ってロシア軍に軍事ドローンのトレーニングをしていると記者会見で述べていた。だがイラン政府はロシア軍への軍事ドローンの提供は否定していると報じられていた。

キーウへのイラン製軍事ドローンでの攻撃
キーウへのイラン製軍事ドローンでの攻撃写真:ロイター/アフロ

2022年11月5日にはイランの外務大臣のアブドラヒアン氏が、ロシア軍がウクライナに侵攻する数か月前にイラン政府はロシア軍に軍事ドローンを提供していたことを初めて公式に認めたと国営イラン通信が報じていた。それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は「イラン政府がロシア軍に少数しか提供していないはずはない。キーウにも大量の軍事ドローンでの攻撃がある。イラン政府はまだ嘘をついている」と批判していた。

2022年11月に入ってからもロシア軍はイラン製軍事ドローンでウクライナ軍や民間施設や社会インフラに攻撃を行っていた。米国メディアのワシントン・ポストが2022年11月に、イランの軍事ドローンをロシアで生産していくことに両国が合意したと報じていた。さらに2022年11月17日からイラン製軍事ドローンの使用が報告されていないことからイラン製軍事ドローンは枯渇したのではないかという予測を英国国防省が発表した。

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しており、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

▼ロシア軍が使用しているイラン製軍事ドローン

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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