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フィンランド、NATO加盟に難色を示すトルコから軍事ドローン購入を示唆

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:REX/アフロ)

「トルコにはフィンランドにとって魅力的な兵器開発の技術力があります」

ロシア軍が2022年2月にウクライナに侵攻。危機感を感じた北欧のフィンランドとスウェーデンが2022年5月に北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請。だがトルコのエルドアン大統領はフィンランドとスウェーデンの2ヶ国がトルコから分離独立を目指す非合法武装組織「クルディスタン労働者党(PKK)」の潜伏先になっていると主張して、両国のNATO加盟に反対。

そして2022年6月にはフィンランドの外務大臣ペッカ・ハーヴィスト氏がトルコから軍事ドローンを購入することを示唆した。ペッカ・ハーヴィスト外務大臣は「トルコにはフィンランドにとって魅力的な兵器開発の技術力があります。全ての国がトルコの軍事ドローンや兵器システムには関心を示しています。でも私たちは軍事ドローンの購入の前に、まずはNATO加盟の交渉から始めないといけません」と記者会見で語っていた。

今回のロシア軍のウクライナ侵攻でも、ウクライナ軍はトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を利用して侵攻してきたロシア軍に攻撃している。トルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍の装甲車を上空から破壊して侵攻を阻止することにも成功したり、黒海にいたロシア海軍の巡視船2隻をスネーク島付近で爆破したり、ロシア軍の弾薬貯蔵庫を爆破したり、ロシア軍のヘリコプター「Mi-8」を爆破したりとウクライナ軍の防衛に大きく貢献している。ウクライナ軍が上空からの攻撃に多く利用しているトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」はロシア軍侵攻阻止の代名詞のようになっており、歌にもなってウクライナ市民を鼓舞している。

トルコは世界的にも軍事ドローンの開発技術が進んでいるが、バイカル社はその中でも代表的な企業である。バイカル社のCTOのバイラクタル氏はトルコのエルドアン大統領の娘と結婚しておりトルコでも有名。軍事ドローン「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなく、ポーランド、ラトビア、アルバニア、アフリカ諸国なども購入。アゼルバイジャンやカタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。タジキスタンも購入を検討している。

そしてバイカル社以外にもトルコでは多くの軍事企業が軍事ドローンを開発している。国連の安全保障理事会の専門家パネルが2021年3月に発表した報告書で、2020年3月にリビアでの戦闘で、トルコの軍事企業STM社製の攻撃ドローンKargu-2などの攻撃ドローンが兵士を追跡して攻撃を行った可能性があると報告していた。これは攻撃に際して人間の判断が入らないでAI(人工知能)を搭載した兵器自身が標的を判断して攻撃を行う自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapon Systems:LAWS)が実際の紛争で初めて攻撃を行ったケースと言われている。

ロシアの隣国であるフィンランドにとってもウクライナ侵攻は他人事ではなく、いつフィンランドが同じようにロシア軍から侵攻されるかわからず、ロシアは大きな脅威である。そのためフィンランドの防衛と安全保障のためにも、軍事ドローンなど兵器の増強は必須の課題だ。トルコがフィンランドのNATO加盟に反対しているから「エルドアン大統領へのリップサービス」として軍事ドローンの購入を示唆しているだけでなく、ロシアからの防衛のためにもトルコの軍事ドローンは本当に欲しいし必要だろう。

▼バイカル社の攻撃ドローンの「バイラクタル TB2」

▼STM社が公開しているKargu-2の紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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