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ロシア軍 再びウクライナのホロコースト記念碑破壊:ドロビツキー・ヤールの記憶のデジタル化とアーカイブ

佐藤仁学術研究員・著述家
破壊されたドロビツキー・ヤール記念碑(バービ・ヤールセンター提供)

ウクライナ外相「どうしてロシア軍はホロコースト記念碑を攻撃するのでしょうか」

ロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍は3月1日に首都キーウ(キエフ)のテレビ塔を攻撃。このテレビ塔は1941年にナチスドイツが侵攻してきた時にウクライナのユダヤ人34000人が殺害されたバービ・ヤール事件の追悼記念碑と追悼施設のバービ・ヤール・ホロコースト・メモリアルセンターと隣接していた。

そして3月26日にはドロビツキー・ヤールというホロコースト時代の1941年から42年にかけてユダヤ人約15000人が殺害されたハリコフ近郊の渓谷の跡地にある記念碑がロシア軍によって攻撃されて破壊された。特に1941年12月には気温マイナス15度という極寒の中、ユダヤ人らは渓谷で裸にされて銃殺された。

ウクライナではバービ・ヤールに次ぐ悲惨なホロコースト時代の事件として追悼されてきた。ウクライナの外務大臣のドミトロ・クレーバ氏は自身のツイッターで「どうしてロシアはウクライナのホロコースト記念碑を破壊するのでしょうか。イスラエルがロシア軍の野蛮な攻撃に強く抗議してくれることを期待しています」と投稿していた。

ドロビツキー・ヤールで殺害されたユダヤ人の記憶のデジタル化とアーカイブ

戦後75年以上が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。

またホロコーストの犠牲者らの追跡は戦後、ずっと続けられており、イスラエルや欧米ではユダヤ人犠牲者の生年月日や生まれた日と殺害された日などの情報のほか写真、メモなど本人に関する遺品をデジタル化して、アーカイブ化して保管している機関も多い。このドロビツキー・ヤールで殺害されたユダヤ人犠牲者たちの情報やメモなどもデジタル化されてアーカイブになって世界中からアクセスが可能である。名前で検索も可能で、犠牲者の情報の他に写真やメモ、遺品などがデジタル化されて確認することができる。このような犠牲者の写真やメモ、遺品は本当に一部である。ユダヤ人犠牲者が所有していた時計や絵画などは殺害後に売られたりして残っているものもあるが、特に写真やメモは家族や親しい友人以外にとっては全く不要なもので、ほとんどが消失してしまった。だから現在まで残ってデジタル化されて、誰のものかが判明している写真やメモは非常に貴重である。

実際には家族全員やユダヤ人集落にいた全員が殺害されてしまい情報が全くない場合も多い。写真やメモなどが残っていても、確認できる人も殺害されて存在しないため、誰のものかもわからないものも多い。ドロビツキー・ヤールでも、そのような誰のものかわからないドキュメントなどが多い。そのような誰のものか不明なメモや写真などは「Unknown Document」としてデジタル化されて公開され、情報を募集しているが、戦争が終結してからあまりにも長い年月が経ってしまったこともあり、特定するのは困難なようだ。

▼ドロビツキー・ヤールで殺害されたユダヤ人の写真アーカイブ

ドロビツキー・ヤール提供
ドロビツキー・ヤール提供

▼ドロビツキー・ヤールで殺害されたユダヤ人のメモ

ドロビツキー・ヤール提供
ドロビツキー・ヤール提供

▼ウクライナ外務大臣がイスラエルにも抗議を呼びかける投稿

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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